人々のマインドはなぜ変わってきたのか
「はじめに」で述べたように、近時、「所有から利用へ」と言われるように、人々はモノを所有するのではなく、使いたいときに使うという思考・行動様式に変化してきたといわれている(図表2-1-0-1)。
また、従業員として企業等の組織に属した上で仕事をするのではなく、フリーランスとして単発又は短期の仕事を受注するという働き方が生まれている。この背景の一つには、人々は時間や人間関係に縛られない生き方を望むようになってきたことがあるといわれている。
これらは、単に人々のマインドが変わったということを意味するのだろうか。仮にマインドが変わったということであるとしても、それではなぜそのように変わったのだろうか。
産業の構造はなぜ変わってきたのか
あらゆる産業のビジネスモデルやバリューチェーン構造にも変化が生じている。平成30年版情報通信白書においては、従来のB to BやB to Cに加え、C to CやC to Bといった取引関係が生まれていることや、業種内でのバリューチェーン構造が変化していること、業種の垣根を越えた連携・統合が進んでいることについて述べた(図表2-1-0-2)。
例えば民泊は、個人が宿泊というサービスの提供主体となるC to Cであり、従来の旅館やホテルと同様の機能を果たしている。また、自動車メーカーが自動車の製造からモビリティサービスの提供へのシフトを目指す動きを見せているほか、次世代モビリティサービスの推進のため、自動車メーカーやICT企業のほか、飲食・物流・小売・不動産・金融等の様々な業種が連携するといった動きが出てきている1。
これらについても、なぜそのような変化が生じているのだろうか。
ICTは従来の枠組みや概念に「ゆらぎ」をもたらし、世の中の仕組みを大きく変えている
これらに共通することは、従来の枠組みや概念に、「ゆらぎ」が生じているということである。例えば、「所有から利用へ」は、人がモノを自由に使うための方法という枠組みに、ゆらぎが生じていることを意味する。また、フリーランスの増加や、C to Cといったビジネスモデルの登場は、「企業」と「個人」の関係にゆらぎが生じていることの表れである。
そしてもう一つの共通点は、「ゆらぎ」の中で新たに登場してきた形がICTを利用して成り立っていることである。「所有から利用へ」の流れを体現しているシェアリングサービスは、通常インターネットの利用を前提としている。フリーランスは、クラウドソーシングに見られるように、インターネットを通じて仕事を行うことが可能になっている。また、民泊やフリマアプリ等のC to Cは、Webサービスとして提供されている。このことに照らせば、この「ゆらぎ」は、ICTの発展・普及に関係しているということである。
ICTは、従来の枠組みや概念に「ゆらぎ」をもたらすことで、世の中の仕組みを大きく変えている。それでは、なぜICTがこのような「ゆらぎ」をもたらしているのだろうか。別の言葉を使うと、ICTはなぜ世の中の仕組みを大きく変えているのだろうか。
この問に答えるためには、デジタル経済の特質は何かを理解しておくことが重要であり、本節ではこの点について説明する。まず、「デジタルデータ」「限界費用」「取引費用」というキーワードを押さえた上で、デジタル経済の具体的な特質として、「データが価値創造の源泉となる」「時間・場所・規模の制約を超えた活動が可能となる」「様々な主体間の関係再構築が必然となる」という点について説明する(図表2-1-0-3)。
1 「MONETコンソーシアム」の設立に関するプレスリリース
https://www.monet-technologies.com/news/press/2019/20190328_01/