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第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0
第1節 デジタル経済の特質は何か

(1)データはどのようにして価値を創出するのか

ビッグデータとAIが「未知の発見」を行うことにより、データが価値を創出する力が飛躍的に高まっている

伝統的に、モノやサービスの価値を生むものは、土地、人による労働、機械設備の稼働といったものであると考えられてきた。例えば、ジャガイモ・ニンジン・タマネギといった生の野菜や生の牛肉は、厨房・料理人・調理器具というリソースが活用されることで、カレーや肉じゃがとなり、人がおいしく食べることができるという形で新たな価値を生む。また、広い厨房、多数の料理人、多数の調理器具を用意すれば、より多くのカレーや肉じゃがを作ることが可能であり、価値を量的に増大させる。

もっとも、この例では、材料の適切な分量や作業手順を整理したレシピも必要である。レシピとは、まさにデータであり、従来からデータは価値の創出に必要なものであったといえる。デジタル経済において特徴的なことは、いわゆるビッグデータとAIが発展してきたために、このデータが価値を創出する力が飛躍的に高まってきている点である。

コンピューティング資源の高性能化・低廉化や、通信インフラ/サービスの発展・普及は、多種多様で膨大なデジタルデータを迅速に前述の生成から利用に至るプロセスに乗せることを可能とした。この結果注目されるようになったのが、いわゆるビッグデータ9である。同時に、このことが機械学習を中心とするAIの発展にもつながっている。

AIは、データにより「未知の発見」を可能としている。例えば、2017年12月、NASAは未知の惑星ケプラー90iを発見したことを公表した10。これは、ケプラー宇宙望遠鏡(探査機)が収集してきたデータを用いてAIで分析した結果、発見したものである。また、2018年3月、米国エネルギー省の研究者等から成るチームは、大量の遺伝子情報のデータをAIで分析することにより、約6000種類の新たなウィルスを発見したことを科学誌のネイチャーにおいて発表した11

このほか、AIの能力を広く世界に知らせることになったきっかけの一つである囲碁においては、AIが新たな定石を生み出し、トップ棋士もこの「AI定石」を学び、実戦で使用するようになってきている。囲碁のプロ棋士を破ったAIを開発したことで話題となったDeepMind社は、Googleのデータセンターの最適な冷却方法をAIにより開発し、従来に比べて平均30%の省エネルギー化を実現している12

このように、ビッグデータとAIは、従来人間が可能だったことを代わりに行うのみならず、これまで人間では思いもよらなかった「未知の発見」も行うことで、データを単に価値の創出に必要なものから、価値の創出の源泉といえるまでにしている。

データに価値をもたらす「4V」

いわゆるビッグデータを特徴付けるものとして、「4V」という概念がある13。すなわち、「volume(量)」、「variety(多様性)」、「velocity(速度)」、「veracity(正確性)」である。これらは、データが価値創出の源泉となる仕組みでもあるといえる(図表2-1-2-1)。

図表2-1-2-1 データに価値をもたらす4V
(出典)各種公表資料より総務省作成

「volume」については、購入履歴を例に取ると、ある1人があるモノを1回購入した際のデータから分かることは極めて少ないが、多数の人の多数の購入履歴を分析すれば、人々の購買行動の傾向を見いだすことができる。これにより、人の将来の購買行動を予測したり、更には広告等で働きかけることにより、購買行動を引き出したりすることが可能となる。

「variety」については、上記の例において、購入者の年齢や性別のみならず、住所や家族構成、更には交友関係、趣味、関心事項といったデータが入手できれば、より緻密な分析が可能となる。また、時間・場所・行動等に関するより細粒化されたデータは、この点の価値を更に高めることになる。

「velocity」については、「ナウキャスト」すなわち「同時的な予測」が挙げられる。例えば、Googleは、検索データを用い、ほぼリアルタイムかつ公式な発表の前にインフルエンザにかかった人の数を推計できるといわれている14

また、「veracity」について、例えば統計では調査対象全体(母集団)から一部を選んで標本とすることが行われるが、ビッグデータでは、この標本を母集団により近づけることにより、母集団すなわち調査対象全体の性質をより正確に推計できるようになる。

データが価値を創出するプロセスと仕組み

データは、具体的にはどのようなプロセスと仕組みで価値を創出するのだろうか。これを図で示したものが図表2-1-2-2である。

図表2-1-2-2 データが価値を創出するプロセスと仕組み
(出典)各種公表資料より総務省作成

人の状態や行動に関する様々なデータは、PCのほか、広く普及が進んだスマートフォンを通じて記録・収集されている。このようなデータには、どのようなWebサイトを閲覧し、SNSでどのような投稿を行い、どのようなインターネット上のサービスをどれだけ利用したのか、といったサイバー空間上でのデータが含まれる。また、スマートフォンを常に携帯していれば、今日一日のうち何時頃にどのような所へ行き、どれだけ歩いたのか、階段は何階分上がったのかといった現実世界でのデータも収集可能である。

このほか、IoTの導入が進むにつれて、人に関するデータに加え、モノの状態や動作に関するデータもセンサー等の機器を通じて記録・収集できるようになっている。このような機器には、家庭内の家電や住宅設備のほか、工場や建設現場における産業用機器が含まれる。

収集されたデータは、ネットワークを通じてコンピューターに送られ、分析される。近年、クラウドサービスの利用が進んでおり、分析を行うコンピューターは、家庭や職場といった目の届く所ではなく、クラウドサービスを提供する事業者のデータセンターにあるということも多くなってきている。また、コンピューターによる分析に当たっては、前述のAIが使われるようになってきている。

そして、分析されたデータは、再びネットワークを通じて実際に動作する機器(これを「アクチュエーター」という。)まで送られ、サイバー空間上や現実世界の中で、実際に活用されることになる。例えば、サイバー空間においては、その人個人の趣味や関心に沿ったおすすめの商品の提示といった形で活用される。また、現実空間においては、分析された気温等のデータがエアコンに伝えられ、自動的に温度を調整するといった形で活用される。

この一連のプロセスについて、自動運転を例にとると、次のとおりとなる。まず、人間の目や耳に代わり、車や道路、衛星等に取り付けられたセンサーが、走行経路上で起きていることをデジタルデータとして取り込み、瞬時に送信する。次に、車に搭載されたコンピューターが、AIを利用し、過去に学習したデータに基づき、周りで何が起きており、何をすれば良いかを瞬時に判断する。そして最後に、この判断を車の運転装置に伝達し、運転を制御するということになる。

5Gや準天頂衛星システムは、データによる価値創出の仕組みを更に進化させる

このようなデータが価値を創出するプロセスにとって、今後重要な役割を果たすと考えられるのが、我が国において2020年より本格的な開始が見込まれている第5世代移動通信システム(5G)と、準天頂衛星システムである。

5Gは、これまでの移動通信システムと比べた場合、①超高速、②多数同時接続、③超低遅延という特徴がある。①の「超高速」については、最高伝送速度は10Gbpsとなっており、現行LTEの100倍であることから、4K/8Kといった高精細映像の伝送が可能となる。このため、遠隔医療といった用途への活用が期待されている。ただし、データによる価値の創出という観点からより重要なのは、②と③である。②の「多数同時接続」については、例えば1km2当たり100万台と、現行LTEの100倍の機器と接続することができる。このため、膨大な数のセンサー等が同時に通信を行うことを可能とする。③の「超低遅延」については、遅延が1ミリ秒と現行LTEの1/10の水準となり、実質的にリアルタイムの通信が可能となる。前述の自動運転の場合、多数の自動車や各種センサーが同時に通信を行うこととなるとともに、特に事故の回避といった場面を考えると、通信によるデータのやり取りはリアルタイムで行われる必要がある。5Gは、まさにこのような通信を支える基盤となり、IoTの可能性を大きく高めることが期待されている。

準天頂衛星システムは、人工衛星からの信号を受信することにより、地上の位置や時刻を特定する衛星測位システムの一つである。我が国においては、これまで衛星測位システムとして、米国国防総省が運用するGPS(Global Positioning System)が広く活用されてきたが、我が国が構築した準天頂衛星システムでGPSを補完することにより、更に高精度な位置・時刻の特定が可能となっている(コラム2参照)。特に、2018年11月より準天頂衛星システムは4機体制となったため、精度は更に高まることとなった。このように、準天頂衛星システムは、我が国やアジア・オセアニア地域において、自動運転や様々なIoTでより精度の高いデータを活用するための基盤となることが期待されている。

APIの公開は、データの価値創出力を更に高める

データによる価値の創出に当たっての重要性の認識が広がっているのが、API(Application Programming Interface)の公開である。APIとは、あるアプリケーションの機能やデータ等を他のアプリケーションからでも利用できるようにするための仕組みをいう。APIの公開により、あらゆる人や企業の持つデータ/サービスと自社のデータ/サービスを連携させることで、自社のサービスの利用を他社の顧客にも拡大することや、他社のサービスを取り込んだ利便性の高いサービスの開発を効率的に行うといったことが可能となる。

例えば、ヤマト運輸株式会社は、APIを公開することにより、自社の配送データをネット販売事業者やその利用者が活用できる仕組みを設けている。これにより、ネット販売事業者の利用者にとっては、注文した商品をコンビニ等の指定した場所で指定した日時に受け取るといったことが可能となり、利便性が向上する。このことは、ネット販売事業者にとっても利用者を維持・拡大する手段となる。同時に、ヤマト運輸側にとっても、自社の物流サービスの利用拡大につなげることが可能となる。

また、金融分野においては、2017年5月に成立した「銀行法等の一部を改正する法律」15により、銀行等にはオープンAPIの導入に係る体制の整備を行う旨の努力義務が課せられることとなった。例えば、銀行と電子決済等代行業者(以下「電代業者」という。)のシステムがAPIを通じて接続されると、電代業者が提供するサービスの利用者は、IDやパスワードを電代業者に提供することなく、銀行等の預金口座残高や取引履歴などの情報を取得して家計簿アプリと連携させたり、スマートフォンを用いて手軽に決済や送金を行ったりすること等が可能となり、利便性が高まることになる。



9 「ビッグデータ」についての確立した定義はないが、平成29年版情報通信白書においては、「デジタル化の更なる進展やネットワークの高度化、また、スマートフォンやセンサー等IoT関連機器の小型化・低コスト化によるIoTの進展により、スマートフォン等を通じた位置情報や行動履歴、インターネットやテレビでの視聴・消費行動等に関する情報、また小型化したセンサー等から得られる膨大なデータ」としている。

10 https://www.nasa.gov/press-release/artificial-intelligence-nasa-data-used-to-discover-eighth-planet-circling-distant-star別ウィンドウで開きます

11 https://www.nature.com/articles/d41586-018-03358-3別ウィンドウで開きます

12 https://www.blog.google/inside-google/infrastructure/safety-first-ai-autonomous-data-center-cooling-and-industrial-control/別ウィンドウで開きます

13 Gartner社が用いた「3つのV」 (volume, variety, velocity)が広く知られているが、IBM社はこれらに加えてveracityを挙げ、「4つのV」としている。また、OECD(2013)は、valueを加えた「4つのV」としている。このように、「○つのV」については、様々な見方がある。

14 Stucke and Grunes(2016)“Big Data and Competition Policy”Oxford University Press

15 平成29年法律第49号

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