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第2部 基本データと政策動向
第4節 放送政策の展開

5 放送政策に関する諸課題

総務省は、近年の技術発展やブロードバンドの普及等、視聴者を取り巻く環境変化等を踏まえ、放送に関する諸課題について検討することを目的に、2015年(平成27年)11月から総務大臣の懇談会である「放送を巡る諸課題に関する検討会」(座長:多賀谷一照 千葉大学名誉教授、以下「検討会」という。)を開催している。

「検討会」では、2016年(平成28年)9月に公表した「第一次取りまとめ」を踏まえ、NHKによる放送番組のインターネット常時同時配信をはじめとする新たな時代の公共放送のあり方について、有識者等からの意見を聴取しつつ、法的論点の整理等も含めた検討を行った。また、「新しい経済政策パッケージ」(2017年(平成29年)12月閣議決定)において、放送事業の未来像を見据えて、放送用に割り当てられている周波数の有効活用等について検討を行うこととされたことから、2018年(平成30年)1月、「検討会」の下に「放送サービスの未来像を見据えた周波数有効活用に関する検討分科会」を開催した。特に衛星放送を巡る課題については、同分科会の下で、「衛星放送の未来像に関するワーキンググループ」を開催し、メディアの特性を踏まえた専門的な検討を行った。そして、新たな時代の公共放送及び放送サービスの未来像を見据えた周波数の有効活用の各課題について、同年9月に「第二次取りまとめ」を公表した。

「第二次取りまとめ」では、NHKが放送の補完として常時同時配信を実施することは、NHKに対する国民・視聴者からの信頼が今後も確保されることを前提に、一定の合理性、妥当性があるとされた。具体的には、総務省に対して、NHKのインターネット活用業務のあり方の見直し及びNHKのガバナンス改革に係る制度整備等の対応を求めるとともに、NHKにおいては、インターネット活用業務のあり方及びガバナンス改革に関し、具体的な内容・方策等を検討するとともに、関連団体への業務委託の透明性・適正性の向上、子会社のあり方等を見直す抜本的な改革を引き続き着実かつ徹底的に進め、既存業務を含む業務全体の見直し、受信料の体系・水準等の受信料のあり方の見直しを進めることが、常時同時配信の実施に当たって求められるとされた。また、衛星放送における周波数の有効活用については、新規参入に関する認定及び認定更新の際に帯域の有効活用を検証し、有効活用が見込まれない場合については、総務大臣が指定する帯域を有効活用が担保できる水準とする仕組みを法制度上明確に位置づけることが望ましいとされた。

この「第二次取りまとめ」を踏まえ、2019年(平成31年)3月、総務省は放送法の一部を改正する法律案を国会に提出し、同年(令和元年)5月、同法案は成立した(図表4-4-5-1)。

図表4-4-5-1 放送法の一部を改正する法律案の概要

また、規制改革実施計画(2018年(平成30年)6月閣議決定)や「第二次取りまとめ」の指摘を受け、放送コンテンツのインターネット配信の一層の進展により、ネットワーク運用に係る課題をはじめ、放送と通信にまたがる技術的課題等への対処が必要となることを踏まえ、2018年(平成30年)10月、放送事業者、通信事業者、関連団体等より構成される「放送コンテンツ配信連絡協議会」(会長:村井純 慶応義塾大学環境情報学部教授)が設立され、関係者間の定常的な情報共有及び課題検討が行われている。

加えて、同計画を踏まえ、「検討会」の下に「放送用周波数の活用方策に関する検討分科会」、「放送事業の基盤強化に関する検討分科会」及び「新たなCAS機能に関する検討分科会」を新たに開催している。

「放送用周波数の活用方策に関する検討分科会」では、放送用に割り当てられている周波数の有効活用等の観点から、放送大学の地上放送跡地及びV-High帯域の活用方策等について検討を行っており、2度にわたり実施したV-High帯域の利用に関する提案募集の結果を踏まえ、2019年(平成31年)4月に「V-High帯域の活用方策に関する取りまとめ」を公表した。これを受け、総務省では、当該帯域の有効活用の観点から、実証実験を通じてユースケースの早期具体化を図っていくため、同帯域を特定実験試験局用周波数として位置付けるなど、柔軟かつ容易に実証及び検証を行うことが可能な環境の整備を進めている。

「放送事業の基盤強化に関する検討分科会」では、ローカル局の経営基盤強化のあり方及び放送事業者の経営ガバナンスの確保の観点から、放送事業者の経営の現状分析、放送事業者の経営基盤強化のあり方、AMラジオのあり方、放送事業者の経営ガバナンスの確保等について検討を行っている。経営ガバナンスについては、同分科会における検討を踏まえ、2019年(平成31年)3月に、放送事業者に対しベストプラクティス等の共有が行われた。

「新たなCAS機能に関する検討分科会」では、故障時などにおける消費者負担の低減方策やコンテンツ保護機能と視聴者制御機能の分離などの観点から新たなCAS機能の在り方について検討を行っている。

政策フォーカス 放送ネットワークの強靭化

2018年(平成30年)7月に、西日本を中心に全国的に広い範囲で発生した記録的な大雨(以下「平成30年7月豪雨」という。)や同年9月に発生した北海道胆振地方中東部を震源とする地震(以下「平成30年北海道胆振東部地震)という。)に際して、被災した地方公共団体が住民に対して災害時の情報提供をするために臨時災害放送局を開設するに当たり、総務省から臨時災害放送局用設備を貸し出した。

1 臨時災害放送局設備の貸出

総務省では、災害時において、地方公共団体等が被災地にラジオ放送で情報を届けることができるよう、臨時災害放送局用設備を貸し出している。(図表1

図表1 臨時災害放送局設備の貸出

2018年度(平成30年度)においては、平成30年7月豪雨の際に、広島県熊野町及び坂町(2局開設)に対し、北海道胆振東部地震の際に、北海道厚真町及びむかわ町に対し、それぞれ当該設備を貸与し、臨時災害放送局の開設を支援した。(図表2

図表2 これまでの貸出実績(2019年(平成31年)3月末現在)

2 地上基幹放送設備に関する緊急対策事業

総務省では、地上基幹放送に関する緊急対策事業として、2018年度(平成30年度)から次の緊急対策を実施している(図表3)。

図表3 地上基幹放送設備に関する緊急対策事業
  • 災害時に地方公共団体等がラジオ放送で情報を届けることができるよう、臨時災害放送局設備が未整備の地方総合通信局5カ所に当該設備を整備。
  • 災害時における聴覚障害者の情報入手手段確保のため、放送番組の音声を自動で文字化し、スマートフォン等に表示させる技術の実用化等に対し経費を助成。
  • 各放送局が災害情報をネットで迅速かつ円滑に提供できる共通的配信基盤を整備。

3 地上基幹放送等に関する耐災害性強化支援事業

大規模な自然災害時において、放送局等(親局・中継局の送信所や中継回線等)が被災し、放送の継続が不可能となった場合、被災情報や避難情報等重要な情報の提供に支障を及ぼすおそれがある。

これを回避するためには、大規模な自然災害時においても、適切な周波数割当により置局された現用の放送局(親局・中継局の送信所)からの放送を継続させる必要がある。

このため、総務省では地上基幹放送等の放送局等の耐災害性強化に係る対策について、経費の一部の補助を行っている(図表4)。

図表4 地上基幹放送等に関する耐災害性強化支援事業

4 ケーブルテレビ事業者の光ケーブル化に関する緊急対策事業

総務省では平成30年7月豪雨等を踏まえ、ケーブルテレビ事業者を対象に、局舎所在地の災害発生危険度、伝送路の方式及び局舎の停電対策の確認の緊急点検を行い、停電及び局所的豪雨災害等に弱いなど課題があるケーブルテレビ事業者が判明したため、ケーブルテレビネットワークの耐災害性強化(ケーブルテレビネットワーク光化)のための緊急対策を実施している(図表5)。

図表5 ケーブルテレビ事業者の光ケーブル化に関する緊急対策事業

5 大規模災害等緊急時放送への字幕付与等の取組状況

NHKでは、2018年(平成30年)9月に発生した台風24号以降、大規模災害等の際に、訪日外国人に向けた災害情報の提供のため、国内テレビ放送において画面上に英字テロップとQRコードを表示し、NHKワールドJAPAN(国際放送)のウェブサイトへの誘導を実施している。



5 放送を巡る諸課題に関する検討会:http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/housou_kadai/index.html別ウィンドウで開きます

6 東経110度CS:BSと同一の東経110度の静止軌道上において、衛星基幹放送に使用されている通信衛星

7 東経110度CS左旋波:東経110度CSの左旋円偏波のトランスポンダ(送信機)より発射される電波(周波数)

8 出典:(一社)電子情報技術産業協会 統計

9 右旋円偏波・左旋円偏波:電波の進行方向に対して右回りに回転している電波を右旋円偏波、左回りに回転している電波を左旋円偏波という。

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