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第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0
第4節 人間とICTの新たな関係

(1)テレワークの導入やその効果に関する調査結果

ア テレワーク導入状況

テレワークとは、ICTを活用した時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方である。

在宅勤務、サテライトオフィス勤務、モバイルワークの3形態がある。働き方改革実現の切り札とも言われており、ワークライフバランスの実現 、人口減少時代における労働力人口の確保、地域の活性化などへの寄与、企業にとっては効率化や従業員のアウトプットへのプラスの効果も期待されている。

図表2-4-2-1 テレワークの3類型
(出典)総務省(2019)「平成30年通信利用動向調査」を基に作成

例えば、紙に依存しオフィスの自席が中心の仕事スタイルでは、自席にいなければ仕事ができず、移動時間や隙間時間を有効に活用できなかったが、ペーパーレス化とテレワークを組み合わせれば、隙間時間を活用するなどしてより短い時間で業務を終わらせることも可能になる。

また、育児や介護で一般的なオフィス勤務に制約がある者も、テレワークを活用することで就労が可能となる。

総務省(2019)11を基に、企業におけるテレワーク導入状況を概観すると、2018年は13.9%であったが、2019年は19.1%となっている(図表2-4-2-2)。企業規模別では、おおむね規模が大きいほど導入が進んでいる傾向にある。

図表2-4-2-2 企業のテレワーク導入率の推移
(出典)総務省「通信利用動向調査」各年版を基に作成
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図表2-4-2-3 企業のテレワーク導入率(規模別)
(出典)総務省(2019)「平成30年通信利用動向調査」
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イ テレワークのメリット・意義に関する定量的調査結果

テレワークは、具体的にどのような効果を生んでいるのだろうか。定量的かつ一定のサンプルサイズを有する調査結果を基に、テレワークのメリットや意義について概観する。ここでは、労働参画の促進、長時間通勤の緩和、主観的幸福度について取り上げる。

(ア)労働参画の促進

総務省「通信利用動向調査」を基に、企業のテレワーク導入目的の推移をみると、「勤務者の移動時間の短縮」が2番目に割合が高く、また「通勤弱者への対応」「優秀な人材の雇用確保」等の割合が近年上昇傾向にある。企業が従業員の働きやすさを向上させることや、人手不足が見込まれる中での雇用継続や人材確保といった目的のためにテレワークを活用しようとする動きがうかがえる。

図表2-4-2-4 企業のテレワーク導入目的の推移
(出典)総務省「通信利用動向調査」各年版を基に作成
「図表2-4-2-4 企業のテレワーク導入目的の推移」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら

長時間通勤の副作用については後述するが、テレワークにより通勤時間が短縮されることで、就労促進、育児での離職や介護離職の緩和につながる可能性も考えられる。

(イ)通勤時間の短縮・混雑緩和

経済のサービス化の進展の結果、人口集積地ほど生産性が高いという研究結果が存在する。このように、経済活動の大都市への集中は、サービス産業の生産性向上に寄与する可能性がある一方、通勤の長時間化や女性就労の抑制という副作用を持つことも指摘されている12。テレワークには、この副作用の緩和の効果も期待されている。

森川(2018)13では、調査結果から、勤務時間が長くなることよりも通勤時間が長くなることへの忌避感が強いこと、特にその傾向が女性・非正規雇用者で顕著であることを指摘し、「働き方改革の中で通勤時間の問題を看過すべきでないこと、通勤時間が女性の就労形態の選択に強く影響していることを示唆している」としている。

また、2012年ロンドンオリンピック・パラリンピック競技大会では、交通混雑によってロンドン市内での移動に支障が生じるとの事前の予測を基に、市内の企業の約8割がテレワークを導入し、混乱を回避できたとされている。我が国においても、政府が東京都及び関係団体と連携して2020年東京オリンピックの開会式にあたる7月24日を「テレワーク・デイ」と位置づけ、働き方改革の国民運動を展開している。

(ウ)主観的幸福度

海外では、テレワーク実施と幸福度との間に相関関係があるとの調査結果がある。鶴(2016)14では、イタリアのヴェローナ大学のエレフセリオス・ジオバニース氏の研究結果を引用している。これによると、イギリスのパネルデータ(1991〜2009年)を使い分析したところ、男女問わず、テレワーカーになればより家事・育児へ時間を割くようになり、男女を問わず、家事・育児が配偶者とシェアできれば、幸福度が増加することを示したとしている15

森川(2018)では、性別、年齢、就労形態、労働時間、通勤時間、賃金、テレワークが主観的な仕事満足度にどう影響するか分析した結果として、テレワーカーの仕事満足度は高く、少なくとも労働者の立場からは望ましい働き方だと言えるとしている。ただし、同調査結果からは、テレワークをしている人は観測可能な他の諸特性をコントロールした上で高賃金であり、もともと生産性の高い人がテレワークしている可能性、テレワークに向いた業務に携わっている人が現実にテレワークを行っている可能性が高いという仕事自体の異質性が関わっている可能性も排除はできないとしている。

ウ テレワークと生産性との関係の定量的分析結果

テレワークの導入と(経済分析で一般に使われる意味での)生産性16との関係に関連する定量的な分析結果(一定のサンプルサイズを有するもの)を概観する。

内閣府(2018)17では、逆の因果関係をコントロールした推計を行ったうえで、柔軟な働き方の促進は、生産性を向上させる可能性が高いとしている。具体的には、テレワーク等非導入企業と比べた場合、導入企業は2012〜16年の労働生産性の伸び率がさらに十数%ポイント、年平均で3〜4%ポイント高まるとしている18

ただし、逆向きの因果関係又は他の要因の影響を考慮したうえで、あるいは同一の対象者への追跡調査の結果として、テレワークの導入が労働生産性又は全要素生産性に統計的に有意にプラスであるとする調査結果は限られている状況にあるのも事実である。テレワーク等が組織のアウトプットにプラスの効果があるとする先行研究は国際的にも存在するが、アウトプットの計測をどう捉えるかや分析対象が限定的という課題も残されていると考えられる。

図表2-4-2-5 テレワークとアウトプットに関する定量分析結果の概要と留意点
(出典)鶴(2016)、森川(2018)を基に作成

森川(2018)19では、テレワークと生産性との関係に関する複数の研究結果について触れつつ、「まだ一般性のある結論を導ける状況にはない」とした上で、「ワークライフバランスの向上は、伝統的な表現では労働者の処遇改善であり、それ自体が労働者にとって望ましいことである。(略)ワークライフバランスの改善は、生産性への効果ではなくそれ自身に価値があるという観点から取り組むべきものと理解した方が素直である」と指摘している。

また、日経smart workプロジェクト(2018)20では、602社の企業データを使い、企業の特長や取組と企業パフォーマンスとの関係を分析している。高生産性企業のグループと低生産性企業とのグループに分けたところ、人材活用に関するテクノロジー(ICT、RPA、AIなど)やテレワークの導入と成果指標(ROA)との関係については、高生産性企業と低生産性企業との間で有意な差は見られなかったとし、新たなテクノロジーや施策は導入してから現実に企業のパフォーマンスに影響を与えるまでには時間がかかると見込まれるが、こうした企業の取組が企業のパフォーマンスに影響を与えるかどうかは今後の課題であるとしている。

テレワークよりもやや広い概念となるが、ワークライフバランスと生産性との関係に関する2015年以前の先行研究についても、例えば、山本・黒田(2014)21は、パネルデータを用いた分析結果としてワークライフバランスが高い企業は生産性が高いという相関関係はあるが、これは見せかけの相関に過ぎず、「経営の質」という両者の背後にある要因を考慮に入れると、ワークライフバランスと生産性の関係は消失することを指摘している。この点についても、やはり取組が効果を生むまでにはタイムラグがある可能性がある。

ただし、個別にはクラウドサービスを社内外で活用するなどして、好業績と社員のワークライフバランスを両立させている企業も存在している22ことから、今後ICTを活用した働き方が我が国でも浸透するとともに、研究が蓄積されていくことが期待される。



11 総務省(2019)「平成30年通信利用動向調査 (企業編)」

12 森川正之(2018)『生産性 誤解と真実』

13 森川正之(2018)「長時間通勤とテレワーク」経済産業研究所ディスカッションペーパー

14 鶴光太郎(2016)『人材覚醒経済』

15 テレワークと幸福度との調査は、他にはGimenez-Nadal, J. Ignacio, Jose Alberto Molina, and Jorge Velilla(2018)“Telework, the Timing ofWork, and Instantaneous Well-Being: Evidence from Time Use Data,” IZA Discussion Paper, No.11271.などがある。

16 宮川(2018)「生産性とは何か」では、「生産性」という言葉について、「経済学では当たり前のように使われているが、日ごろによく使われている言葉ではなかった。ところが、日本ではこの言葉がここ数年にわかに注目されるようになっている。(略)これまで使われてきた定義と異なる使い方が広がると、生産性に対する間違った理解が重なっていくため、大げさに言えば適切な生産性向上が阻害され、結果的には日本経済にとっても好ましくない結果をもたらす」との懸念を示している。

17 内閣府(2018)「平成30年度経済財政白書」

18 ただし、同分析では、パネルデータ分析ではなく傾向スコア法を用いており、テレワーク等の働く場所を柔軟に選べる取組を実施したグループとそうでないグループとをマッチングする際、マッチングに用いた変数以外の要因が影響している可能性は存在すると考えられる。

19 森川正之(2018)『生産性 誤解と真実』

20 日経Smart Workプロジェクト(2018)「働き方改革と生産性、両立の条件」

21 山本勲、黒田祥子(2014)『労働時間の経済分析』

22 例えば、2017年に「テレワーク先駆者百選 総務大臣賞」を受賞した日本マイクロソフト株式会社や、セールスフォース・ドットコム(コラム4参照)など。

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