総務省トップ > 政策 > 白書 > 令和元年版 > 平成30年7月豪雨における通信の状況
第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0
第4節 人間とICTの新たな関係

(2)平成30年7月豪雨における通信の状況

ア 豪雨災害の特徴と情報伝達

豪雨災害を大規模な地震と比較した場合、3つの点でICTの活用との関係性がより深いと考えられる。

第一に、豪雨災害の頻度が比較的高いため、データが蓄積されるという点である。図表2-4-4-1でみたとおり、平成の後半では、気象庁が名称を定めたものに限ってもほぼ毎年のように我が国のいずれかで豪雨災害が発生している。広島市や九州北部のように数年おきに豪雨災害が発生している地域もあれば、豪雨災害への対応は未経験又は十数年ぶり、場合によっては数十年ぶりというところもあるなど地域によって違いはあるものの、過去ある地域で起きた豪雨災害対応における知見やノウハウをデジタルデータの形で蓄積し、将来他の地域でも含め活用することの現実性や意義は大きいと考えられる42

第二に、地震を数日から数時間前に予知することと比較して、豪雨の発生や豪雨災害の予測は予見可能性が高いことが挙げられる。このため、警報や避難に関する情報が発信されてから災害が発生するまでの間、被害軽減等のために情報伝達が果たす役割も大きいと考えられる。

第三に、場所により状況が異なり、必要な情報を必要とする人に伝える観点からは、よりきめ細かな情報伝達が必要となると考えられる点である。このため、従来型メディア以上にインターネット等を活用したメディアの重要性が相対的に高まると考えられる。

イ 平成30年7月豪雨の概要

2018年に発生した平成30年7月豪雨(西日本豪雨)では、西日本を中心に多くの地域で河川の氾濫や浸水害、土砂災害が発生し、死者数が200人を超える平成で最大の水害となった。

2018年6月28日以降、前線と台風第7号の影響により日本付近に非常に温かく湿った空気が流れ込み、広い範囲で大雨となった。特に7月6日から8日にかけては、西日本を中心に広い範囲で記録的な豪雨となった。気象庁は、7月5日に臨時記者会見を開き、8日頃にかけて広い範囲での大雨が続く見込みであり、記録的な大雨となるおそれがあること、土砂災害や低い土地の浸水、河川の増水・氾濫に厳重な警戒が必要と呼びかけた。7月6日には、1府10府県に大雨特別警報43を発表した。

7月7日になると、西日本を中心に広域的に大規模な浸水や土砂災害が発生した状況が徐々に明らかになった。

これにより、死者237名、行方不明者8名、家屋の全半壊等2万2000棟以上、家屋の浸水2万8000棟以上の極めて甚大な被害44が広範囲で発生した。

ウ 平成30年7月豪雨における通信設備の被害状況

平成30年7月豪雨により、通信設備にも被害が発生した。一部では、土砂崩れによる電力ケーブル断等による停電や通信の伝送路断のほか、通信施設内への浸水による設備の水没が発生したことにより、迅速な復旧が困難な状況となった。また、道路寸断等により道路の通行や通信施設への立入りが困難になるなどにより、復旧までの時間が長期化した施設もあった。ただし、携帯電話に関しては、サービスに支障が生じたエリアは限定的であり、施設の復旧が長期化したエリアであっても、応急復旧により通信を復旧させたケースもあった。

(ア)固定電話・インターネット

まず、固定電話・インターネット回線の被災・復旧状況の推移を概観する。

7月7日に、高知県内全域においてNTT西日本のフレッツ光等約10万回線が不通になったことにより、影響回線数は最大の115,680となっている。影響回線数は、7月8日に2万1000程度となった後は漸減傾向となり、7月12日以降7月中は8000強で推移し、8月6日には0となっている(図表2-4-4-4)。復旧に時間を要した事例は、土砂崩れにより中継伝送路が絶たれたケース、局舎が水没した事例であり、前者は迂回ルートの仮設等の応急的措置もとりつつ復旧させた。

図表2-4-4-4 平成30年7月豪雨による固定電話・インターネットの影響回線数
(出典)総務省(2018)「平成30年7月豪雨に係る被害状況等について」を基に作成
(イ)携帯電話

次に、携帯電話に関する被災・復旧状況の推移を概観する。携帯電話基地局の停波原因の割合は、伝送路断が56%、停電が36%、水没が5%、設備故障が3%となっている。平成29年九州北部豪雨の際の停波原因の割合は、伝送路断が50%、停電が41%であり、似た傾向を示している(図表2-4-4-5)。熊本地震の際は、約75%が商用電源の停電であったことと比較すると、豪雨災害では土砂崩れによる伝送路断の影響が大きい。

図表2-4-4-5 平成30年7月豪雨による携帯電話基地局の停波数45
(出典)総務省(2018)「平成30年7月豪雨に係る被害状況等について」を基に作成

2011年の東日本大震災において、固定系では約190万回線が被災し、移動系では約2万9000局が停波した経験を基に、電気通信事業者では対策を講じるとともに、マニュアルの作成や訓練、その後の大規模災害での対応結果を基に見直しを進めてきた。

2016年の熊本地震においては、上記の対策の効果や局地的な地震であったこともあり、被害は比較的限定的であった。

平成30年7月豪雨においては、停波した基地局数が一時400程度に達した事業者もあったものの、応急復旧、また近隣の基地局からカバーするなどの対策も含めれば、講じられた対策がサービスの継続や早期復旧に大きく寄与したといえる(図表2-4-4-6)。

図表2-4-4-6 平成30年7月豪雨による携帯電話回線被災の影響市町村数
(出典)総務省(2018)「平成30年7月豪雨に係る被害状況等について」を基に作成

影響市町村数及びエリア状況からも、一部のエリアで被害及び通信に支障が生じたものの、早期に復旧が行われ、多くの場所ではサービスが継続されていたことがわかる46図表2-4-4-7)。

図表2-4-4-7 復旧段階における携帯電話各社のエリア状況
(出典)各社ホームページを基に総務省作成


42 内閣府(防災担当)が2018年6月に公表した、「市町村のための水害対応の手引き」のはじめににおいても、「中央防災会議防災対策実行会議「水害時の避難・応急対策検討ワーキンググループ」報告(平成28年3月)においては、先般の関東・東北豪雨災害から得られた課題や教訓を整理し、今後取り組むべき対策を取りまとめたところであるが、これらの課題の中には過去の水害においても繰り返されてきているものが多い。」とされている。

43 特別警報は、2013年8月に運用が開始され、警報の発表基準をはるかに超える大雨や大津波等が予想され、重大な災害の起こるおそれが著しく高まっている場合に発表される。特別警報が発表された地域では、数十年に一度の、これまでに経験したことのないような重大な危険が差し迫った異常な状況にあり、大雨の場合台風や集中豪雨により数十年に1度の降雨量となる大雨が予想される場合に発表される。

44 消防庁情報2019年1月9日16時現在 内閣府「平成30年7月豪雨による被害状況等について(平成31年1月9日17:00現在)」

45 携帯電話等事業者が設置している基地局数は各社で異なり、停波中の基地局数は、サービス影響の規模を直接表すものではない。

46 調査対象地域は限定的であるが、第3項で後述するアンケートの結果からも概ね携帯電話による通信が可能であったと考えられる。また、インタビュー結果でも、携帯電話による通信は倉敷市真備地区で水没により基地局が使用不能となったため一時的につながらない又はつながりにくかった旨のコメントがあったが、それ以外は概ね問題なく行えたとのコメントが大半であった。

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