昭和48年版 通信白書

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1 基幹メディアの整備と活用

 郵便,電話,ラジオ及びテレビジョン放送,新聞は,現在の我が国の情報メディアとして基幹的役割を担っている。これらの基幹メディアは,(i)日本全土をくまなくカバーし,(ii)メディアにのる情報が多種かつ多量であり,(iii)利用の料金が比較的安価で,(iv)すべての国民を対象とする汎用メディアである点で,その整備・普及・活用は,要請される情報化の基本的条件であるということができる。
 このような基幹メディアの重要性にかんがみ,これまで,整備・普及の基本目標として,郵便については,送達速度の安定を図ること,電話については,積滞解消,全国自動即時化を図ること,テレビジョン放送については,NHKの総合番組局,教育専門局の放送及び複数の民間放送局の放送が全国的に可能となるようにすること,をそれぞれ掲げてきている。
(1) 郵便
 創業間もなくネットワークとしての全国普及をなし遂げた郵便は,ネットワークの広さにおいて国民の依存度の高いメディアとなっている。このような郵便の整備の動向をみると,まず,郵便番号制の導入,局内作業の機械化,集中処理局の建設,通常郵便物の航空機とう載などの施策を実施するとともに,46年10月には,郵便物標準送達所要日数表を公表して,標準的な送達速度を約束することにより送達速度の安定を図ってきている。しかしながら,社会経済の発展に伴って業務用郵便を中心に増加を続ける郵便については,都市集中化による外的条件の悪化(人口の急激な増加と移動,交通混雑,地番の混乱,高層ビルの増加,若年労働力の確保難等)により安定した送達が困難となるとともに,人力依存の度合の大きい郵便事業の人件費の上昇は財政的困難を招来するなど,大きな問題をかかえている。
(2) 電話網
 昭和28年以来,数次の長期計画により拡充を図ってきた電電公社の加入電話については,47年度末で2,000万加人を超え,国民5人に1加入の割合にまで普及してきたが,シビルミニマムとなった電話に対する需要はなお根強く,「申し込めばすぐつく電話」は,いまなお実現できていない。このため,52年度末には,この積年の課題を解決することとし,経済社会基本計画においても,これを明確にしている。これにより,52年度末の電話加入数は,3,600万余に達し,国民3人に1加入の割合となり,市民生活の利便化が著しく進むこととなる。
 このような電話の需給関係の改善が見込まれるのに伴い,今後,社会・経済・国民生活各般にわたる広域化,社会福祉政策の拡充強化等のすう勢に応じ,遠距離通話料金の低廉化を含めた料金体系の合理化,心身障害者対策,「申し込みたくても申し込めない低所得者」対策等が重要な課題となってこよう。
 電話網の整備は,また多様な情報メディアを必要とする情報化社会の基盤整備として新たな意義をもっているが,更に,膨大な建設投資を行って整備しつつある電話網の多目的利用を図ることは,国家経済的見地からみても極めて重要なことである。そこで新しい端末機や新しいシステムを研究,開発し,このネットワークに接続させていく等この巨大なネットワークを有効に活用していくことは,今後に残されたもう一つの大きな課題であろう。
 電話網の活用についてみると,近年における国民生活の高度化・多様化の傾向,日常生活上での利便追求の傾向に伴い,電話網を利用した多彩な電話サービスへの期待が高まってきており,それらに対処するための技術開発及び制度化が積極的に進められている。
 電話の端末機の関係では,カラー電話機,騒音用電話機,プッシュホン,ホームテレホン,大形ピンク電話等が開発され登場してきている。特に短縮ダイヤルが可能なプッシュホンは電話計算サービスにも利用することができるとともに,将来各種の高度な付加的サービスが受けられる可能性をもっている。
 次に,電話の効率的ないし多様な利用を図るものとしては,通話中に第三者から電話のきたことを知らせる通話中着信サービス,タクシーの配車を請求することができるタクシー呼出電話,情報を自動的に伝えるトーキー案内装置サービス等が実用に供されており,このほか,伝言電話サービス,可聴式ないし可視式料金即知サービス等も開発されつつある。このうちトーキー案内サービスは,求人情報案内,道路交通情報案内,ニュースサービス,育児案内等多くの目的に利用されており,各種の個別生活情報が選択的に得られる点で時代の要請にマッチしたものとして,その任意性,簡便性,低廉性等と相まって利用層の着実な広がりを見せ,我々の日常生活をより豊かなものにしつつある。
 更に電電公社の加入電話網は,46年5月の公衆電気通信法の改正により,低・中速度のデータ通信,ファクシミリ通信などへと利用が拡大され,音声通信だけでなく,広く4kHz帯域内の各種通信サービスを行うための網として脱皮することになり,その網としての重要性はますます高まってきている。データ通信については,既に電電公社が加入電話網を利用して,販売在庫管理システム(DRESS),科学技術計算システム(DEMOS),電話計算システム(DIALS)等のサービスを行っており,また加入電話網を利用してサービスを提供する情報通信事業者も出現してきている。
 画像通信に対する需要も最近急速に高まってきている。画像通信は電話に比べ,費用が割高になることや,技術的にも困難な面があって,従来はごく一部の専用的なサービスの範囲内にとどまっていた。しかし,現在の音声通信を主体とした電気通信サービスをより高度化するものとして今後の発展が予想される。現在,加入電話網を使った画像通信サービスとしては,既に実用に供せられているファクシミリのほか,送信側の筆の動きが直ちに電気信号に変換されて受信側に電送される手書電送,心臓病患者の心電流を端末機を通して直接専門医のもとに伝送し,その判断を仰ぐことができる心電図伝送,同じく心臓病患者の心拍数をコントロールするベース・メーカーの運行機能を遠隔的にチェックするためのペース・メーカー・チェック等が開発され,実用に供せられようとしている。
(3) テレビジョン放送網
 テレビジョン放送網の整備は,NHK及び民間放送により,次のとおり行われている。
 NHKは,現在,総合番組局と教育専門局の放送の2系列の放送を実施しているが,放送法において「公共の福祉のために,あまねく日本全国において受信できるように放送を行うことを目的とする。」と定められているのを受けてテレビジョン放送の全国普及に努めている。
 NHKは,中継局の建設と共同受信施設の設置によって,放送の全国普及を促進しているが,原則的には比較的世帯のまとまりのよいところは中継局の建設により,200世帯に満たない小規模の地域については,共同受信施設の設置によって措置することとしている。共同受信施設を設置する場合の経費負担は,幹線部分はNHK負担,引込線部分は受信者負担としている。47年度末現在,NHKのテレビジョン放送局数は総合番組局1,680局,教育専門局1,658局に達し,共同受信施設数は3,472施設となっている。以上の中継局及び共同受信施設により,NHKのテレビジョンン放送は辺地の一部を除いて,おおむね全国的に普及し,47年度末現在の辺地における難視聴世帯は約117万世帯数となっている。
 なお,NHKにおいては,極めて狭い範囲の地域を対象とする放送施設として,簡易でかつ廉価な極微小電力テレビジョン放送設備(通称ミニサテライト局)の開発を進めており,47年度末現在全国10か所で実験を行っている。
 次に民間放送については,全国的に複数の放送が行われるよう措置している。47年度末現在の民間放送の数は,京浜広域圏においては5(ただし,群馬県,千葉県,神奈川県は6),中京広域圏,京阪神広域圏,北海道,福岡県においては,それぞれ4(ただし,京都府,奈良県,兵庫県,滋賀県は5),宮城県,広島県においてはそれぞれ3,その他の地域においては2(ただし,鳥取県及び島根県は,これらの地域を併せて3,徳島県及び佐賀県はそれぞれ1)であり,87社1,421局となっている。
 また,民間放送のテレビジョン放送の難視聴状況については,放送事業者によって差はあるが,47年度末現在において,1の民間放送のテレビジョン放送をも視聴することができない世帯は約250万世帯ある。
 NHK及び民間放送の放送網は以上のとおり整備されつつあるが,最近,都市においてテレビジョン放送の受信が妨げられる現象が目立って増加し,深刻な事態となっている。すなわち,最近都市においては,高層建築物,高架道路,高架鉄道,送電線,鉄塔等によるテレビジョン放送の受信障害が増加している。これらの受信障害のうち,建築物等の陰になって放送の受信が困難となるいわゆるビル陰障害を生じている世帯は,47年度末現在約37万世帯と推定され,また,最近高層建築物等が電波を反射することにより受信障害をおこすいわゆる反射障害がかなり広範囲にわたって発生している。高層建築物等による受信障害については,郵政省は従来原因者責任の建前から建築主等を指導し,共同受信施設の設置を促進する等しているが,今後,建築物の高層化に伴って,この種の受信障害は更に増加し,また,受信障害の態様も複雑化して,原因者を特定することが困難となる等,解決は一層難しくなると考えられる。テレビジョン放送が,国民の文化的日常生活に必要不可欠なものとなった今日,これらのテレビジョン放送の受信障害を解消することは,都市住民の生活環境保護の見地からも急を要する課題である。これらの事態を解決する抜本的方策を検討するため,郵政省は「テレビジョン放送難視聴対策調査会」を設け,多角的見地から調査検討を行うこととしている。

 

 

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