昭和48年版 通信白書

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2 民間企業等による利用

(1) 利用の概況
 我が国のデータ通信システムは,その対象業務別の内訳をみると,39年の出現以来,銀行の預金,為替業務を中心とする金融業務が主流を占めてきたが,次第に製造業を中心とした販売在庫管理業務のオンライン化が進行し,44年度末においては48システムとなり金融業務の46システムを上回り,47年度末においては全体のデータ通信システム(485システム)の30.1%(146システム)を占めるに至った。生産,販売,在庫管理業務システムの146システムのうち6システムは直営システムである。自営システムの構成パターンは第3-4-9図のとおりである。
 自営システムの140システムについてみると,約120システムが家庭電機,自動車製造,石油化学,繊維など製造業の生産,販売,在庫管理業務に利用されているほか,20システムが商事会社,自動車販売会社等商業の販売在庫管理業務に利用されている。なお,製造業のうち製薬業の販売在庫管理業務に9システムが導入されていることが注目される。
(2) 製造業
 家庭電機,自動車,繊維などの製造業においては,販売地域が全国的規模にわたり,かつ,商品の販売単位が多種多様で細分化されており,消費者の需要の動向が比較的短期間のうちに変化する傾向にある。このため,小売店別,品種別の販売状況を常時適切には握し,迅速な出荷体制を整備する,いわゆる注文から出荷まで一貫して処理するオーダー・エントリーシステムの確立が各企業の課題とされている。
 したがって,製造業において大宗をなす販売在庫管理業務のオンライン化の動向をみると,[1]特約店等からの受注処理と倉庫等への出荷指示業務がオンライン化の第1ステップとされている。受注出荷業務のオンライン化は,自社の営業所,販売店段階から特約店,販売代理店のレベルまでシステムに組み込んでいく傾向にある。[2]出荷業務の段階では,小売店への効率的な配送計画(運送管理),倉庫の入庫,出庫業務の自動無人化が進められている。[3]受注,出荷データをもとにした販売地域別,売上品種別等の消費動向に関するレポートにより生産指示,日程計画,進ちょく管理がオンライン化されている。[4]倉庫(工場)における原材料,部品の購買管理や品質管理システムあるいは営業倉庫におけるアフターサービス(補修)部品に過剰在庫や品切れが生じないようにするための在庫管理システムが導入されている。
 このような販売在庫管理システムの導入に併せて,特に重電機,造船などの重工業においては最適設計(強度,製造工程等)のための科学技術計算システムが導入されている(15システム)。システムの性格から回線使用数は少なく,1システム平均5回線程度であるが,ほとんどのシステムが2,400b/s規格回線を中心に構成されている。
(3) 金融業
ア.金融業では,特に銀行業務を中心として,近年における銀行業務の多様化,事務量の増大に対処し,事務の機械化,合理化を図るため,都市銀行では,39年度から預金,為替業務を主とした自営システムによるデータ通信システムの導入が始まり,43年10月には直営システムによる全国地方銀行協会の為替業務協同システムが導入された。更に48年4月からは日本銀行の内国為替決済制度加盟銀行相互間を結ぶ「全国銀行データ通信システム」(略称「全銀システム」)がスタートした。このシステムは都市銀行,地方銀行,信託銀行,長期信用銀行など87行(約7,300店)に端末装置を置き,東京にある中央処理装置と専用回線により直結し,為替通信等を迅速に処理するもので,世界的にも非常に注目されている。
イ.国産機・外国機別利用状況
 金融業の利用内訳をみると,124システムのうち,預金業務60システム,為替業務34システム,預金・為替併用システム26システム,信託業務4システムとなっている。このうち,預金業務では71.7%(43システム)が外国機を利用しているのに対し,為替業務では58.8%(20システム)が国産機を利用しており,為替業務システムにおいては国産機が優位を示している。
ウ.金融機関別利用状況
 金融機関別にみると,都市銀行(14行)については,45年度までに預金,為替業務のオンライン化がほぼ完了しており,46年度以降は預金業務のサブシステム,信用照会業務等のためのシステム導入が行われている状況にある。47年度末現在29システムであり,すべて自営システムである。
 地方銀行(63行)の金融業務のオンライン化は,46年度から急速に進ちょくし,47年度末では63行のうち68.3%の43行が導入(50システム)しており,更に48年度中には10数行の導入が予定されている(第3-4-11表参照)。
 普通銀行等のデータ通信システムの導入状況に対し.相互銀行,信用金庫は,経営規模(預金量)によるシステム設置経費の制約あるいは取扱業務量や店舗数からくるオンラインシステムの経済効率性から,これまで導入は著しく遅れていたが,金融機関の大衆預金者層へのくい込み,消費者金融への積極的進出に示される,いわゆる大衆化路線の進展に伴い,大手銀行との激しい競争関係に直面したため,これら中小規模の金融機関においても電子計算機の設置―データ通信システムの導入による情報処理システム化が進められている。
 相互銀行(72行)は,20.8%(15行)がデータ通信システムを導入しており,信用金庫(484金庫)は4.1%(20金庫)がデータ通信システムを導入している。このなかには,中小金融機関が個別にデータ通信システムを設置する非経済性を排除した共同使用システムとして,直営システムによる東京都信用金庫協会及び大阪府信用金庫協会の預金業務システムが含まれている。
エ.振込入金通知業務のオンライン化
 都市銀行では,公衆通信回線の利用開始に伴い,事務センター(自行本店)側の公衆通信回線(電信型)と全国各地の顧客の加入電信回線を接続し,これまで電話や郵便あるいはオフラインの加入電信により連絡していた振込内容,預金残高の通知業務をオンライン処理し,入金業務の合理化と顧客サービスの向上を図ることとしている。都市銀行のうち,既に数行が導入を終えており,48年度においては,そのほとんどがオンライン化を行う見通しである。これらのシステムの標準的パターンは第3-4-12図のとおり,既存の預金業務に使用している特定通信回線システムを中継電子計算機により公衆通信回線に接続し,センターの電子計算機で預金業務のうちから振込入金通知業務に必要な情報を抜き出して,中継電子計算機経由で顧客あて通知するものである。従来は,電子計算機からいったん紙テープに打ち出し,係員が改めて加入電信により顧客あて送信し直していたものである。
 このシステムの導入により,要員の節減に貢献するだけでなく電話連絡の行き違いが解消され,連絡内容が正確,迅速には握できるなどの導入効果が期待されている。
(4) 証券業
ア.利用の概況
 証券業においては,35,36年の高度経済成長を背景とした株式ブームの時期に各社とも電子計算機の導入,通信網の整備を手がけている。
 39年から,業務量の急速な増大と顧客サービスの向上のため,テレタイプからオンラインへの移行の必要が生じ,大手証券がデータ通信システムを導入しており,次いで中堅数社にもオンライン化が波及し,47年度末現在14システムが設置されている。
 証券会社のデータ通信システムにおける回線の使用状況をみると,200b/s規格回線を中心に本社・支店間が接続されており,大手証券では,全国をブロック化し,支店の端末機との間に集線装置を設置し,集線装置と本社の電子計算機との間は高速回線を使用するなど回線の効率的使用を図っている。自営システムにおける2,400b/s規格259回線のうち,22.0%(57回線)を株式取引業務(12システム)で使用しており,証券業システムが全体的に高速回線を中心として構成されていることを示している。
イ.適用業務
  証券業システムの適用業務は,次のようなパターンに分けられる。
(ア) 株式注文処理業務
 各支店は,顧客からの注文をその端末機から本社の電子計算機に送り,電子計算機は注文伝票を自動的に打ち出し,取引が成立すると各支店の端末機に売買報告書をプリントし,打ち出す方式をとっている。
(イ) 総合的な顧客口座管理
 顧客層の大幅な拡大に伴い,多数の顧客に対し個々のニーズに適したきめ細かい情報を提供するため銘柄別の株価情報など証券投資に関するデータをファイルしておき,顧客に対し最新の的確な情報を提供する。
(ウ) データバンク
 経済環境の時々刻々の変化に対応し,企業の財務データ,経済指標など証券業務に関係のある各種のデータをファイルしたデータバンクを整備する。
 大手証券では,目下(イ)から(ウ)の業務のオンライン化を目ざしている段階であるが,中小証券では中堅数社がデータ通信システムを導入したばかりの段階であり,多くの中小証券はEDPS化が遅れていることから業界内の格差は次第に大きくなってきている。更に49年4月に利用開始が予定されている証券取引所の相場情報システムがか動すると,広域にわたる支店網をもつ証券会社では,オンラインシステムの導入は顧客サービス上不可欠の条件となるものとみられ,自社だけでシステム導入が困難な中小証券会社によるシステムの共同利用などの方策の確立が,今後の証券業界のEDPS化の太き々課題となろう。
(5) データ通信システムの共同使用
 近年における産業の再編成の動きに伴い,企業合併をはじめ,投融資,商品流通等に伴う垂直的,横断的な結合関係が進行しているが,このような企業系列化の傾向は,異企業間における情報の共有,ひいては情報処理システムの共有,系列化を促進するものである。
 公衆電気通信法の一部改正に基づき,特定通信回線の共同使用の認められる範囲が,改正前の専用回線の場合よりも大幅に拡大されたこともあって,特定通信回線の共同使用は,公衆法改正時の5システムから急速に増加してきており,47年度末現在では34システムとなっている。
 この内訳をみると,生産,販売,在庫管理について業務提携した製造業・卸売(販売)業のシステムが8システム,預金の受入払渡について業務提携した普通銀行・相互銀行のシステムが6システムあり,これらがその中心となっている(第3-4-13表参照)。
 製造業・卸売(販売)業の共同使用の一般的な利用形態は,販売業を中心として製造業への発注,出荷指示に関する情報の流れをオンライン化したものである。小売業,販売代理店等から卸売業への注文は,電話又は加入電信により行われているのが通例であり,受注から販売までの流れを一貫して結びつけた,いわゆる物的流通システムのオンライン化までには至っていない。
 なお,公衆通信回線の利用開始を契機として,自動車製造業では既設の加入電信回線を利用し,全国数百の系列販売店(ディーラー)と本社の電子計算機とを電信型公衆通信回線で接続して,[1]ディーラーからのデータギャザリング(販売情報の収集),[2]出荷情報のディーラーへの送出,[3]ディーラーからの在庫車種,部品納期等に関するインクワイアリサービス業務の導入を計画している。また,家庭電機メーカー数社でも本社センターと全国に散在する配送センターあるいは販売特約店とを結んで販売在庫管理業務を行う計画があり,48年度中には,相当数のシステムが実働に入るものと見込まれる。

第3-4-9図 販売在庫管理業務のシステム構成図(自営システム)

第3-4-10図 全銀システムの構成図

第3-4-11表 金融機関別データ通信システム設置状況(47年度末現在)

第3-4-12図 銀行における振込入金通知業務システム構成図

第3-4-13表 自営システムにおける共同使用状況

 

 

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