昭和48年版 通信白書

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6 大都市交通と通信

 通信は,古くから交通の安全の確保と効率化のために利用されてきており,特に航空機や船舶の航行にとって,無線通信の利用が不可欠であることは広く知られている。また,鉄道についても,その発展とともに通信の利用形態が多様化し,高度化してきており,山陽新幹線の開通と同時にか動開始したコムトラック・システムは,データ通信によって運転監視,ダイヤの乱れ時の修正ダイヤの作成,進路制御を行うことにより安全で効率的な輸送を確保することを目的としており,更に,座席予約を行う「みどりの窓口」,貨物輸送の効率化を図る地域間急行貨物情報システムなど,鉄道における通信の活用例は枚挙にいとまがない。
 しかし,近時,交通問題のなかでも,大都市の交通混雑の解消は急務となっており,大都市の足の確保に対し通信の活用によって寄与できる部分が大きい。
(1)交通の流れの円滑化と安全の確保のための通信の活用
ア.交通情報の提供
 道路交通情報の提供は,道路交通の流れの円滑化の前提となるものであるが,この面で大きな寄与をしているのはラジオ放送である。カーラジオと交通情報の結びつきに着目し,トンネル内での放送の聴取難を救済し,更に,非常時にはトンネル内での車の誘導を行う目的で,トンネル緊急放送装置が設置されている。首都高速道路における主要トンネルのほか,御坂トンネル,関門トンネルに設置されている。道路交通情報は,このほか電話による案内サービスによっても行われ,また,高速道路における誘導式通信が試行されている。
イ.交通管制
 道路交通の流れを円滑化するためには,交通量,道路事情に対応して信号の合理的制御が行われなければならない。そのため,道路に沿って各信号を系統的に制御する「線制御」が広く行われているが,大都市における交通渋滞をより合理的に緩和するためには,1本の道路のみを系統化するのでは不十分であり,このため地域的に系統化する「面制御」(交通管制システム)が導入されはじめている。この交通管制システムは,各地点の交通量を自動的に検知し,センターの電子計算機により各交差点での最適信号時間,交差点の各方向の信号時間比率及び交差点間の時間のずれを求め,信号を自動的に制御するほか,道路の主要地点に設置された可変標識を制御するもので,データ通信を巧みに利用している。今後,このシステムの導入を促進するとともに,信号機,可変標識の制御から個別の自動車の誘導を強化する総合的な自動車管制システムの開発を行う必要があり,データ通信の活用など通信の分野からのアプローチが期待されている。
(2)交通量を減ずるための通信の活用
 大都市における交通渋滞の緩和を図っていくためには,発生した交通の円滑化と同時に,交通の発生自体を減ずる措置がとられる必要がある。このため,タクシーの実車率を向上して無駄な交通の発生を防止するためのタクシー無線が既に活用されており,タクシー無線の利用を更に促進するため,街頭,ホテル等とタクシー会社とを直接結んだタクシー呼出電話,自動配車装置を設置して空車中のタクシーの所在地とナンバーを自動的に確認し短時間で能率的な配車を行うことができるシステムなどの導入が行われはじめている。また,大阪府下で過疎対策の一環として試行されているデマンドバス・システムは,コントロールセンター(営業所)において,バスから送られる無線信号によりマイクロバスの進行方向,号車番号をは握しておき,乗客からコントロールセンターに公衆電話などによって乗車地,行き先,乗車人員の予約申込みがあった場合に,乗客のいる最寄りの地点を走行しているバスに無線で配車指令する方式により,バスの効率的走行を図っているものであるが,大都市においても,需要情報の正確なは握と適切な運行計画により交通の発生の減少をねらうデマンドバス・システムの構想は有効であり,このため新交通システムとして実用開発が急がれている。更に,トラックについても空車走行が問題となっており,このため倉庫を都心部から郊外に移し,データ通信を活用して商的流通と物的流通の分離を図ることにより都心部の交通の発生を減ずるほか,「帰り荷」のあっせんにより実車率の向上を図るためにデータ通信を活用することなどが考えられるが,今後に期待されているところが多い。
 このように,交通の発生を減少させるためには,需要に応じた配車を行うことによってこれを実現することが可能であるが,更に,人の移動を情報流に代替させ,交通の需要を減少させることを想定した通信の活用も必要であり,今後,人流の発生の原因,目的,性格などの調査を通じて通信により交通を代替する可能性,限界などを明らかにしていく必要がある。

 

 

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