昭和48年版 通信白書

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4 画像通信と大容量伝送

 目を通して得られる視覚情報は,聴覚にたよる情報に比べ,はるかに豊かな情報を含んでおり,ビデオテーブ,ビデオパッケージ,産業用テレビ,有線テレビジョン放送(CATV)などビデオ産業の発達とともに,画像情報の活用が産業,教育の分野を中心に積極的に取り入れられるようになってきている。
 これらの画像方式の利用は,一般に比較的狭い範囲の限られたシステムのなかで行われてきたが,情報化時代を迎え,遠隔地における画像情報の利用,すなわち,画像通信に対する要求が強くなってきており,諸外国においても,ファクシミリなどのサービスの提供が行われはじめている。
 画像情報サービスの種類を分類すると第3-7-4表のようになる。
 画像情報は一般に冗長度が大きく,これを高速度で伝送するには,第3-7-5図に示すように広い周波数帯域を必要とすること,電気信号と画像との相互変換のために端末機器が複雑になること,などから費用が高くなり,これが画像通信の普及の阻害になると考えられることから,狭い周波数帯域で有効に情報を送る帯域圧縮技術や端末機器の改良に技術開発の努力が向けられている。
 一方,テレビ電話,高速ファクシミリなどの画像通信,電子計算機相互を結ぶ超高速度のデータ伝送,電話の普及に伴う通話量の増大等情報化社会における膨大な通信量を疎通するためには,大容量伝送路として同軸ケーブル方式,マイクロウェーブ方式,ミリ波技術などの伝送に対する技術開発が不可欠である。
 以下,画像通信及び大容量通信方式の技術開発動向について述べる。
(1) 画像通信方式
ア.テレビ電話
 テレビ電話は,電話と映像機能とを組み合わせ,会話本来の形態を再現させようとするものであるが,また,品物や簡単な図面などを相手に見せ,言葉では表現しにくい内容を容易に理解させたり,データセンターからのデータ情報をも表示することなど多面的に利用できる。
 我が国では,電電公社が45年の日本万国博覧会会場に65台のテレビ電話(帯域1MHz方式)を設置し,実験公開を行ったが,その後も,47年まで数次にわたる社内試験を行った。
 テレビ電話方式に関する検討課題は,本方式が従来の音声通信の場合と異なり広い周波数帯域を使用する通信方式であることから,端末機器から交換方式,伝送方式までのすべての分野にわたっているが,特に重要な問題は,周波数帯域をいくらにするかである。
 伝送する画像品質の上からは,帯域を広くする程品質が向上するが,一方,伝送設備等の面からは,広い帯域の伝送には同軸ケーブルなどの高価な設備を要し,経済性を損なう。この調和点を見い出すため,諸外国においても研究が進められているが,我が国では,電電公社において,周波数帯域を1MHzとするものと,4MHzとするものの装置が試作されており,両方式について,効用,伝送品質,経済性,他種サービスとの関連などの面での検討を進めている。伝送方式の面では,加入者線路としてペアケーブルを用い,6線式で構成し,広帯域伝送を行うため,中継器がそう入される方式をとっている。伝送路設備はテレビ電話方式の経費を左右する大きな要因であるのでその経済化が重要であり,同軸ケーブルによる方式が高価なことから既設電話ケーブルの利用,広帯域ペアケーブルの開発などの技術開発が進められている。
 市外伝送路としては,既存のマイクロ波方式,同軸方式などのアナログ周波数分割多重方式が当面用いられ,そのためこれらを対象とした装置が試作されており,将来は準ミリ波やミリ波を用いた大容量無線方式や同軸PCM方式が用いられることになると考えられるが,特に全国網においては長距離伝送(多リンク中継)が必要になり,このような場合はPCM伝送のようなディジタル方式による伝送が有利と考えられる。このため画像信号をPCM伝送路にのせるためのPCM符号器などの実用化が進められている。
 端末装置は,1MHzテレビ電話機についてはほぼ検討を終了している。主な諸元は,水平走査8kHz,垂直走査60Hz,走査線数267本,フレーム数30/s,標準視距離80cm,書画撮像距離34〜37cmとなっている。
 4MHz方式については,47年12月から一部で試行的に提供されている。
 そのほか伝送路の経済化を目的とした静止画像信号の能率的な伝送方式について,磁気メモリあるいは蓄積管などを使用した実験装置などにより通信方式の検討が進められている。
 電電公社が47年に本社・武蔵野電気通信研究所間で実施した社内試験では,テレビ会議電話,画像情報表示などの実験も行った。
イ.CATV
 CATVは,約20年前に米国で誕生し,我が国でも当初はテレビ放送の受信困難な山間へき地における難視聴対策及びビル陰対策として利用されてきた。しかし,一般にCATVの方式は,同軸ケーブルなどの広帯域伝送路を使用して,各家庭に信号を分配するシステム構成となるため,単にテレビの再送信ばかりでなく,各種の自主番組のほか,ファクシミリやデータの伝送,更には双方向機能をもたせて多彩なサービスの提供が考えられるようになり,地域社会に密着した情報システムとして社会の大きな注目を浴びるようになった。このような同軸ケーブルを用いたシステムは,将来いろいろな発展形態が想定されるが,本質的には,広帯域伝送路を利用した情報メディアであるため,伝送路の経済化とネットワーク・システムとしての効率化が基本的な問題といえよう。
ウ.模写伝送(ファクシミリ)
 ファクシミリは送信原画を走査し,これを電気信号に変換し,受信画を得る通信方式をいう。
 現在,送信原画を走査する方式としては,一般的に回転円筒と光電管の組合せが用いられているが,平面走査のためオプティカル・ファイバを用いた方式が開発されている。高速な走査を必要とする場合は,電子的走査が必要となり,その実用化が進められている。
 受信記録方式としては各種のものが考えられており,従来は写真伝送には銀塩紙を用いた化学的写真方法が用いられ,白黒模写伝送は放電記録が主として用いられていたが,最近では光を利用する電子記録,直接帯電を利用する静電記録が用いられるようになり,更に直接電子ビームで記録する方法などの開発が進められている。
 このような技術の進歩の結果,従来A4判の原稿を電話線を用いて伝送するのに6分程度を要していたが,現在は3分程度で伝送可能なものが出てきている。これとともに,ファクシミリにおけるディジタル化,使用周波数帯域を狭くして経済的にファクシミリ伝送をするための圧縮方式についての研究が進められており,これらの技術により更に高速化が進むものと思われる。
 ファクシミリの性能向上の問題では高速化,高分解能力,記録品質改善が重要であり,また,特に光に関連する電子的部品,例えば,発光ダイオード,レーザ,ホログラフィーなどの研究が高性能のファクシミリの実用化に大きな影響を及ぼすものと考えられる。
 また,今後はデータ通信との結びつきとして,ファクシミリは,グラフィックな出力の受信記録用端末装置として有望な機器であり,また漢字を含むメッセージの記録用としてもプリンタより実用性が高いといわれている。
 広帯域を利用したファクシミリは,現在新聞電送などに使われているが,将来はCATVなど広帯域回線の普及によりビデオ帯域の高速度ファクシミリも実現の可能性がある。また,家庭用のファクシミリの可能性も考えられ,これらについて基礎的な研究が進められている。
(2) 伝送路の大容量化
 増大する通話の需要を賄うとともにテレビ電話,ファクシミリ,データ通信など広い帯域を使用するサービスや高速度の伝送を要するサービスの需要に対応するためには大容量の伝送路が必要となり,このため同軸ケーブル方式をはじめ,ミリ波方式,光通信方式などの方式の研究が進められている。以下これらの大容量伝送路方式について述べる。
ア.同軸ケーブル方式
 現在,電話回線に用いられている同軸ケーブルは,標準同軸ケーブル(内外径2.6/9.5mm)と細心同軸ケーブル(同1.2/4.4mm)に大別され,ケーブル特性はいずれもCCITT規格を満足している。伝送方式として代表的なものは12MHz方式であり,主な規格は第3-7-6表のとおりである。
 12MHz方式の次の方式として,60MHz方式があり43年からその開発研究が開始され,47年から商用試験が行われている。
 60MHz方式は標準同軸ケーブルを使用して,標準1.5kmの中継間隔で,伝送帯域4,287〜61,160kHz,電話換算で1万800chの伝送が可能であり,将来のテレビ電話の画像信号にも使用し得る(1MHzテレビ電話で36回線の伝送可能)。
 同軸ケーブル方式に関する現在の開発課題としては,60MHz方式の適用範囲を拡大するための関連機器の開発及び60MHz方式よりも更に大容量を有する方式についての研究がある。
 海底同軸ケーブル方式に関して述べると,市外電話回線の増大により安定した回線の確保のために,現在の陸上主要伝送路である12MHz同軸方式(2,700ch)を海峡や湾をへだてて伝送する海底同軸ケーブル方式の必要性が増してきている。このため電話2,700chを伝送し得る浅海用CS-36M方式が46年に実用化された。
 深海用同軸中継方式については,国内的には遠く離れた島々とを結ぶ長距離伝送路として,また,国際通信の需要に対処するため,電電公社と国際電電が協力体制のもとに深海用2,700ch方式 (4kHz/ch)及び1,600ch方式(3kHz/ch)の開発を推進しており,50年前後には実用化する予定としている。
 海底ケーブル方式は,最近の半導体技術の発達により高信頼度中継器の設計,製造が容易になり,経済化が期待できるようになってきたこと,トラフィックの増大及び通信システムの信頼度の面からマイクロ波方式あるいは衛星中継方式と並行的に海底ケーブルを設置することが望ましいことなどのため,今後,国際的にも海底同軸中継方式の開発が進められよう。
イ.パルス符号変調(PCM)方式
 多重化電話伝送方式としての経済性からみると,PCM方式はディジタル方式による伝送方式として従来の周波数分割多重(FDM)方式に比較し,ろ波器が不要であること,トランジスタがディジタルのものでよいことから変換装置の価格低減ができるので,短距離方式としても経済性を有する。
 現在我が国において実用化されているPCM方式として,PCM-24があり,この方式は,40年に実用化されて以来,全国で約9,000システムあり,特に電話網における端局及び集中局間 (距離として20km)程度でその威力を発揮している。
 PCM方式の将来の方向としては,電話信号以外に画像,データ,ファクシミリ等の多種多様な情報を伝送できる汎用伝送路が望まれる。電電公社ではこれにこたえるため,PCM-100M方式(電話1,440回線/システム,又はテレビ電話(帯域1MHz) 9〜15回線/システム,中距離伝送用)の実用化を図り,48年に商用試験を開始し,更に長距離基幹回線用超多重同軸方式(例えば,PCM-400M方式)の検討を行っている。
 また,既設FDM回線によるPCM伝送方式として,全国網として既に存在しているFDM伝送路により,データや画像信号のディジタル伝送を可能にすることを目的とするPCM-FDM方式の研究も進められている。
ウ.ミリ波通信方式
 ミリ波通信方式は,空間媒体における霧や雨による減衰が大きいが,導波管線路を使用した超大容量通信方式としてその適用領域がある。過去においては1システムで電話数万chに及ぶ容量を持つ伝送方式を必要とする程の通信の交流を考えることが難しかったが,テレビ電話をはじめとする画像通信の発展を考えるとき,その大容量性が注目され始め,ミリ波導波管方式の研究が世界各国で活発化している。CCITTでも将来の標準化を考慮して,45年4月,伝送方式とPCM両研究委員会の合同作業部会を設け,討議を開始した。
 我が国では,電電公社電気通信研究所において,現在,40〜80GHz帯を用いたPCM-PM方式(1システム当たり800Mb/s,26システム)のものを50年に商用試験を開始することを目標に実験しており,これは電話約30万回線,又は1MHzテレビ電話約2,500回線の伝送容量をもっている。
 また,準ミリ波の伝送方式のものとして,電話回線5,760ch,又は1MHzテレビ電話36chの容量をもつ,無線中継方式による20GHzPCM方式の実用化や,30MHz準ミリ波方式の基礎検討も進められている。
エ.光通信方式
 現在,通信に用い得る光としては,レーザが考えられ,超広帯域の通信搬送波として使う試みがなされている。用途としては,宇宙通信特に衛星間通信として伝搬上有望であり,地上通信においては空間伝送方式とパイプやビーム・ガイドのようないわゆる集束伝送方式が検討されている。
 空間伝送方式は,レーザ光が雨や霧,もやのようなものに妨げられやすいので,距離が1km程度であれば比較的安定であるが長距離伝搬には適当でない。集束伝送方式については,ガスレンズを用いた光ビーム導波管,ガラスなど透明な繊維を用いたファイバ・オプチクス,レンズ等を一定間隔に用いた光ビーム導波管が研究されている。
 レーザ・ビームは,コヒーレントな光であるため,伝送上の問題として拡散,損失,ひずみなどが少ないようにすることが難しく,例えばグラス・ファイバを用いた集束性光伝送体では,実験的に得たデータによれば,1km当たり20db程度の伝送損失をもっている。
 また,通信用のレーザは,通信系が必要とするS/Nを確保するために十分な発振出力をもたなければならないが,その発振源の材料によって,固体レーザ,ガスレーザ,半導体レーザに分けられる。
 レーザは通信用のほか多様な用途があるが,固体のジャイアント・パルス・レーザを使った測距用のレーザ・レーダがあり,人工衛星の追跡,空中にあるエアロゾルの測定などにも応用されている。レーザは,ホログラフィー,光メモリ,レーザ・ディスプレイなど情報処理技術としても応用される可能性があり,国立研究機関のほか,大学,メーカーなどで研究開発が行われている。

第3-7-4表 各種画像通信サービス

第3-7-5図 各種情報信号と周波数帯域

第3-7-6表 12MHz 同軸方式規格

 

 

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