昭和48年版 通信白書

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2 新しい汎用ネットワークの開発整備

 基幹メディアの整備及び活用と同時に,市民生活をより豊かにし,企業活動により寄与していくためには,更にきめの細かい通信網の整備への配慮が必要であり,このため,基幹ネットワークのエアポケットを埋める新しい汎用ネットワークの開発整備が検討されている。
(1) コミュニティ・ネットワーク
 経済の高度成長は社会構造に変化をもたらし,都市においては,人間関係の疎遠,生活環境の悪化,地域社会への無関心層の増大等の諸現象が生じ,また農村においては,若年層の流出,生活基盤の弱体化等により地域共同体としての機能の維持も困難になってきている。このような都市問題,農村問題については各方面においてその対処策が検討されているが,そのなかで特に社会生活の基本的な単位としてのコミュニティづくりが強調されてきている。このため,住民の連帯感を培養し,更にコミュニティの自律性を高める上においてコミュニティを基盤とする情報伝達手段の整備の必要性が指摘されている。
 一方,情報化社会の進展,市民生活の向上,快適な生活環境への欲求等からマスメディアでは満たされない新たな情報ニーズが生れてきている。すなわち,地域社会に即した情報,より具体的,個別的に生活利便をもたらす情報等に対するニーズが高まりつつあるとともに,更に情報システムについても受け手が必要とする情報を能動的に選択できるシステムの出現が期待されている。
 このようなコミュニティづくり,あるいは新たな情報ニーズに応ずるためには,特定地域を対象とするコミュニティ・ネットワークの形成整備が必要となるが,その基盤となるものにCATV及び有線放送電話がある。
ア.CCISネットワーク(CATVの利活用)
 CATV(Community Antenna Television 又は CabIe Television)は,テレビ放送局から遠く離れている山間辺地におけるテレビ放送の自然難視聴救済及び大都市における高層建築物等によるテレビ放送の受信障害救済のための施設として我が国においてもテレビ放送開始以来全国的に普及しており,現在約1万の施設がある。これらのCATVのなかにはテレビ放送の再送信のほかに地域的な番組を主とする自主放送を行っているものがわずかある。
 しかしながら,CATVに使用する同軸ケーブルは,現在の技術でもテレビ換算30ch近くの伝送が可能であり,電波のように周波数割当による制限がないため技術の進歩によって多様な情報を伝送し得る可能性がある。このことからCATVは,今後,コミュニティ・ネットワークとして最もふさわしい情報メディアであるCCIS(Coaxial cable Information System)に成長することが期待されている。CCISの利用形態としては,放送の再送信,自主番組の提供等放送型のサービスのほかに,システムに双方向伝送機能をもたせることにより加入者からの要求に基づき情報を提供する個別情報サービス,ガス,水道,電気等の自動検針を行ったり,防火,防犯のための警報を発するような集配信サービス等多種多彩なサービスがあげられている。
 しかしながら,現実にCCISが社会的に機能していくためには,CCISに対する需要,技術上の問題のほかに,放送事業及び公衆電気通信業務との関係等制度的にも検討を要する多くの問題がある。このため関係機関・団体によってさまざまな角度から調査研究が行われている。特に郵政省においては,CCIS調査会により調査検討が行われ,その調査結果等を受け実際に多摩ニュータウンにCCIS実験施設を設置して,近い将来実現可能な各種のサービスを提供し,CCISに関する需要,経済性及び技術上の問題を解明することを計画している。また通商産業省の計画では,奈良県東生駒にCATVと電子計算機を結合した双方向の実験システムを設置し,システム及び機器の開発実験に主眼をおいた調査を実施することにしている。
イ.有線放送電話ネットワーク
 有線放送電話は,定時又は臨時に告知放送等の自主放送やラジオ放送の再送信を行うほかに,あき時間に電話として利用を行うもので,主として電電公社の加入電話のあまり普及していない農山漁村に約1,700の施設が設置されている。この有線放送電話は,農協,市町村等がその運営にあたっているが,放送と電話の両機能をもつユニークな情報メディアとして地域社会に果たしている役割は大きい。
 しかしながら,近時社会経済の発展により,農林漁業地域においでも,有線放送電話の通信圏の拡大への要請をはじめ,有線放送電話設備の多目的利用についての要望がでてきている。電気通信技術のめざましい進歩を背景として,データ通信,ファクシミリ通信等のほか,地域の経済活動及び社会活動の利便の向上のため多くの利用形態が将来この有線放送電話ネットワークについて期待されるところであって,郵政省は48年6月,「地域通信調査会」を設置し,農林漁業地域における電気通信サービスの現状について総合的,専門的見地から調査検討を加え,将来のあり方について検討を行っている。
(2) 移動体系のネットワーク
 基幹ネットワークは,大量の情報を安価に,かつ全国的に運ぶことのできる汎用メディアとして基本的なものではあるが,それらはすべて固定地点相互間の情報流通のためのものである。しかしながら,情報化の進展及び社会活動の高度化,複雑化に伴い,移動体と固定地点,あるいは移動体相互間における通信需要も急速に増大している。
 このため,移動体と固定地点間の公衆電気通信サービスとして,船舶に設置する船舶電話,新幹線等に設置する列車公衆電話を実施し,また,公衆電気通信サービスに極めて近いサービスとして外出中の個人を呼び出すポケットベルの開設を図り,時代の要請にこたえてきている。
 移動体系の通信サービスに対する需要は,今後とも急速に増大してくるものと思われる。
(3) 広帯域ネットワーク
 4kHz帯域網としての加入電話網を利用しても、低・中速度のデータ通信,ファクシミリ通信が可能であるが,今後においては更に高速データ通信,高速ファクシミリのように数10ないし数100kHzの周波数帯域を必要とする通信及びテレビ電話,映像伝送のように数MHzの周波数帯域を必要とする通信に使用する網として,広帯域網の形成が必要となる。
 このため,電電公社の第5次5か年計画においては,比較的早期に需要が顕在化してくると考えられる48kb/sなどの高速データ伝送及び高速ファクシミリのための広帯域交換網の形成を促進し,政令指定都市及びその他の主要都市までサービスを拡大できるよう計画している。また画像通信のためのMHz帯域の網についても,今後の需要動向,電子交換機の導入状況を勘案しながら,その形成を推進することとし,テレビ電話についても需要の動向をみながら逐次計画を進めることとしている。
(4) 新データ・ネットワーク
 データ通信は先にも述べたように,4kHz帯域網としての電話網を利用しても可能であるが,その場合には,伝送速度,接続時間,誤り率などの性能に限界があり,また多彩なサービス機能の要求に対しても融通性に欠ける面がある。
 更に将来におけるデータ通信の発展を考慮すると,データ通信等に最適なネットワークが必要であり,現在,その研究が進められている。
 この新データ・ネットワークは,パケット交換方式等の新しい技術を採用することにより,電話網を利用した場合における欠点を改善するだけでなく,データ通信システム相互間の通信,複数の電子計算機センターに対するアクセス,あるいは,データ通信システムにおける情報処理装置のファイルの共用などを容易にするであろう。

 

 

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