第1部 特集 ICTの利活用による持続的な成長の実現
第1章 ICTによる地域の活性化と絆の再生

(3)テレワークがもたらす様々な効用


ア 企業がテレワークを導入する目的

●企業の導入目的は「多様な働き方」「ワークライフバランス」「経営目的」「事業継続」

 テレワーク導入企業の導入目的として、「勤務者の移動時間の短縮(51.5%)」「定型的業務の効率性(生産性)の向上(41.8%)」「非常時(地震、新型インフルエンザ等)の事業継続に備えて(39.6%)」「顧客満足度の向上(18.7%)」「勤務者にゆとりと健康的な生活の実現(13.3%)」「通勤弱者(身障者、高齢者、育児中の女性等)への対応(13.2%)」などが挙げられている(図表1-3-1-6)。

図表1-3-1-6 テレワーク導入目的
図表1-3-1-6 テレワーク導入目的
「勤務者の移動時間の短縮」「定型的業務の効率性(生産性)の向上」「非常時の事業継続に備えて」が上位
(出典)総務省「平成21年通信利用動向調査」
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/statistics05.html

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 これらの目的をグループ化すると、女性や要介護者のいる社員の勤務継続を確保する「多様な働き方」、社員の仕事と私生活の調和を図ることで生活にゆとりを持たせ、仕事への好影響にも期待する「ワークライフバランス」、業務効率や生産性向上のための「経営目的」、そして2009年から特に注目を浴びた新型インフルエンザの世界的流行に伴い、社員が出社できないという事態においても自宅から業務を行うことによって会社の枢要な業務を継続することを目指す「事業継続」の4つに分類できよう(図表1-3-1-7)。しかし、実際にはこれらの4つの目的は独立しているわけではなく、相互に深い関係があると考えられる。

図表1-3-1-7 テレワーク導入目的のグループ
図表1-3-1-7 テレワーク導入目的のグループ
「多様な働き方」「ワークライフバランス」「経営目的」「事業継続」が相互に密接に関係
(出典)総務省「テレワークの動向と生産性に関する調査研究」(平成22年)

イ 企業におけるテレワーク導入の効用

(ア)テレワークの導入による経営目的の実現

●テレワークによるワークライフバランスの実現・向上は、企業の業務効率・生産性向上と表裏一体をなし、企業と社員が相互に利益を得ることができる関係を構築

 テレワーク導入企業が経営目的をうたう場合、直接的には生産性や業務効率の向上を指すことが多い。テレワークでは、移動や通勤に伴う無駄な時間を節減できることに加えて、通常のオフィス業務に比べ、自宅などで業務を行う場合には、周囲との会話や社内外からの電話などに業務を妨げられることが少なく、1つの業務に集中できると言われている。たとえば図表1-3-1-8のように、在宅勤務の場合は、オフィスでの業務よりも集中力が持続する時間が長いという実証実験データもある。

図表1-3-1-8 集中力持続時間の差異
図表1-3-1-8 集中力持続時間の差異
在宅勤務の場合は、オフィスでの業務よりも集中力が持続する時間が長い
(出典)社団法人日本テレワーク協会「平成17年度在宅勤務推進のための実証実験モデル事業報告書」

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 しかしながら、通常の業務には、同僚との会話や上司・部下間の指示などが必要・有用な業務も多く、必ずしも単純にすべての業務をテレワークで行うことが業務効率の向上に役立つわけではない。社員としては自らの担当業務について、テレワークに適した業務と、テレワークに適さない業務に分類し、効率的な「段取り」を図りながら業務を遂行する必要が生じ、また管理者にはそのような観点からの業務のワークフローの見直しなどのマネジメントの改善などが求められる。例えば図表1-3-1-9のように、テレワークに適した業務(自律的業務)を特定の勤務日に集中させることによって業務効率を向上させ、オフィス勤務日の勤務時間を減らし、全体的な時間外勤務時間を減少させた企業もある。

図表1-3-1-9 A社における時間外勤務短縮の例
図表1-3-1-9 A社における時間外勤務短縮の例
在宅勤務可能な業務を集約することで時間外勤務を削減し、業務の効率化・生産性の向上に寄与
(出典)総務省「テレワークの動向と生産性に関する調査研究」(平成22年)

 また、別の企業(図表1-3-1-10)では、先述の例(図表1-3-1-9)のように業務の効率化による時間外勤務の削減といった考え方に加えて、業務の始業・終業時刻を柔軟に設定することにより、在宅勤務によって不要となる通勤時間の軽減も加え、余裕の生じた時間帯が「家族との団らん」「自己啓発」「地域活動への参加」といった社員個々人の私生活を豊かにするワークライフバランスのために使われることを目的としたテレワークを導入している。同社の場合は、英語学習などの自己啓発に余裕時間をあてる社員が多く、結果として、社員のスキルアップにつながり、企業の競争力強化に貢献しているといえよう。

図表1-3-1-10 B社における通勤負荷軽減の事例
図表1-3-1-10 B社における通勤負荷軽減の事例
在宅勤務日の通勤負荷の軽減により生じた時間帯をワークライフバランスのために使用
(出典)総務省「テレワークの動向と生産性に関する調査研究」(平成22年)

 このように、テレワークの導入は、社員・上司による業務内容・プロセスの抜本的な見直しの好機となるとともに、テレワークによるワークライフバランスの実現・向上は、企業の業務効率・生産性向上と表裏一体をなし、企業と社員が相互に利益を得ることが可能な関係を構築できることが大きな効用であると考えられる。

(イ)テレワーク導入による事業の再構築

●事業の再構築による新規事業分野の出現や新規雇用の創出も期待される

 テレワーク導入により、業務効率・生産性の向上を図るにとどまらず、組織再編や事業の再構築に乗り出す企業も少なくない。最近では、ブロードバンドの普及とともに、テレワークを活用した事業再構築を検討する企業も増えてきている。新しい事業として注目されているのが「在宅コールセンタービジネス」である。これは、従来型のコールセンターとは異なり、高度な知識や技能を持ったオペレーターが自宅で顧客対応をする新しい事業形態である。たとえば、テレビショッピングのオペレーターはコールセンターに勤務するのが一般的であるが、最近は24時間体制のテレビショッピングなどで、深い商品知識を習得したオペレーターが在宅で対応する勤務形態が生まれている。また最近では、保険分野で高度な相談業務を在宅で行う例や、パソコン利用者の支援を情報通信の知識が豊富な団塊世代の退職者が在宅で行う例などが出現している。
 このように、地方で適当な仕事が見つからない人や、家族の事情により会社等では勤務できない人が勤務可能な新しいビジネスモデルが出てきており、このようなテレワークによる新規事業分野の出現や新規雇用の創出が期待される。
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