第1部 特集 ICTの利活用による持続的な成長の実現
第1章 ICTによる地域の活性化と絆の再生

(2)テレワーク普及の課題


●残された最も大きな課題は、「テレワークの効用」の明確化と普及・啓発

 76.2%を占めるテレワークを「導入していないし、具体的導入予定もなし」と回答した企業(図表1-3-1-1)は、テレワークを導入しない理由として「テレワークに適した仕事がないから(72.6%)」「情報漏洩が心配だから(28.7%)」「業務の進行が難しいから(18.5%)」「導入するメリットがよくわからないから(18.3%)」「社内のコミュニケーションに支障があるから(16.4%)」「社員の評価が難しいから(12.0%)」「費用がかかりすぎるから(9.6%)」などを挙げている(図表1-3-1-4)。これらの理由のうち「導入するメリットがよくわからない」を除くと、「テレワークに適した業務がない」「情報セキュリティの問題」「社員の労務管理・業績管理の問題」「コミュニケーションの問題」「コスト負担」といった5つの課題があると考えられる。以下、それぞれの課題について検証する。

図表1-3-1-4 企業がテレワークを導入しない理由
図表1-3-1-4 企業がテレワークを導入しない理由
「テレワークに適した仕事がない」「情報漏洩が心配」「導入するメリットがよくわからない」が上位
(出典)総務省「平成21年通信利用動向調査」
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/statistics05.html

Excel形式のファイルはこちら
ア テレワークに適した業務が少ない
 近年のテレワークの導入企業では、導入目的の一端に「業務の棚卸し・業務の可視化」といったテーマを掲げることが多く、テレワーク導入を契機に業務プロセスやマネジメントプロセスの見直しを行っている。例えば、ある企業においては、業務をブレークダウンし、テレワークの可能性のある業務を「在宅勤務」「サテライトオフィス」「フリーアドレス」などに仕分けを行い、業務プロセスの見直しにつなげている(図表1-3-1-5)。観念的にテレワークに適した業務が少ないとする企業は、業務プロセスやマネジメントプロセスの改善の余地がある企業といえるだろう。

図表1-3-1-5 業務棚卸しのイメージ(某社での棚卸しシートのイメージ)
図表1-3-1-5 業務棚卸しのイメージ(某社での棚卸しシートのイメージ)
業務仕分けによりテレワークの可否を決定し、業務プロセスの見直しにつなげる
(出典)総務省「テレワークの動向と生産性に関する調査研究」(平成22年)

イ 情報セキュリティの問題
 情報セキュリティの問題については、テレワーク導入企業の多くで「一定水準の認証システム」「データをクライアント端末に保存したり、プリントアウトできない仕組み」「紙ベース資料持ち帰りの原則禁止」といった共通的なルールを制定し運用することによって情報漏洩の懸念を低減している。また、一連の情報漏洩事件の多発などを受け、多くの企業において情報セキュリティポリシーや情報セキュリティマネジメントシステムが確立・運用されるようになったことから、テレワークにおいて要求される情報セキュリティ水準と対策が明確になり3、現実的に解決可能なテーマとなりつつある。

ウ 社員の労務管理・業績管理の問題
 テレワーク導入企業の多くは、オフィスで勤務している際と同様の勤務形態を在宅勤務においてもそのまま適用し、始業時・就業時(場合によっては業務中断中)に電子メール又は電話により上司と連絡をとり、勤務の開始・終了の時点を明確にすることで、就業規則を大幅に改変することなくテレワークを導入している。また、テレワークを行う特定の一日の業績については、事前に上司・部下間で業務内容のすりあわせを行い、テレワーク終了後に簡単な報告を行うことが一般的な方法となっている。ただし、これは業績管理というよりは進捗管理の性格が強く、業績管理としては3か月、半年または1年といった期間で、設定目標に照らした業績の把握・評価がなされることが一般的であり、この方法は多くの企業で一般的に行われている業務管理・評価の方法といえよう。

エ コミュニケーションの問題
 テレワークを導入した企業の多くでは、在宅勤務者と本社との間のコミュニケーションツールとして電子メールや電話を利用しており、それ以外のツールとしてチャットなどを導入する企業も散見される。多くの企業では「部分テレワーク(週に数日程度のテレワーク)」「独立して進められる業務を実施」という現実的な対処を行っているが、日常的なコミュニケーションのあり方や業務プロセス・マネジメントプロセスの組み立て方などの業務改革などにより、ある程度解決されうる問題である。

オ コスト負担
 テレワーク未導入企業からはコスト負担の問題も強く指摘されるが、導入企業の多くはそれほど大きな投資を伴った在宅勤務制度を導入しているわけではない。近年の導入企業の多くは、安価なSaaS4を利用してテレワークを導入していることが多い。また、テレワークの導入とともに支店やオフィスのあり方も見直されるようになり、業務改革と連動したテレワークの導入は、むしろコスト負担を軽減する可能性もあると考えられる。

 以上のように、テレワーク導入の課題を整理してみると、テレワーク導入企業は上記課題を上手に解消しており、身の丈に合ったテレワークを行うことはどんな業種・職種においても可能と考えられる。そのような状況の下、残された課題は「導入するメリットがよくわからない」という生産性向上に代表される「テレワークの効用」の明確化と普及・啓発であるといえよう。


3 総務省では「テレワークセキュリティガイドライン」を公表し、テレワーク推進のための普及・啓発に努めているところである(http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/telework/18028_03.html
4 Software as a Serviceの略
テキスト形式のファイルはこちら