 第1部 総論
 第1節 昭和55年度の通信の動向
 第2節 情報化の動向
 第3節 諸外国における情報通信の動向
 第1節 災害対策の重要性と通信の役割
 第2節 災害時における通信の役割
 第3節 通信分野における災害対策
 第4節 新しい通信システムの開発と今後の課題
 第2部 各論
 第1章 郵便
 第2節 郵便事業の現状
 第2章 公衆電気通信
 第2節 国内公衆電気通信の現状
 第3節 国際公衆電気通信の現状
 第4節 事業経営状況
 第3章 自営電気通信
 第1節 概況
 第2節 分野別利用状況
 第4章 データ通信
 第2節 データ通信回線の利用状況
 第3節 データ通信システム
 第4節 情報通信事業
 第5章 放送及び有線放送
 第6章 周波数の監理及び無線従事者
 第1節 周波数の監理
 第2節 電波監視等
 第7章 技術及びシステムの研究開発
 第2節 基礎技術
 第3節 宇宙通信システム
 第4節 電磁波有効利用技術
 第6節 データ通信システム
 第8節 その他の技術
 第8章 国際機関及び国際協力
 第1節 国際機関
 第2節 国際協力
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9 漁 業 用
(1)漁業と通信
日本周辺の沿岸・沖合漁場,さらには遠く外国水域の漁場に出漁し,操業している我が国の漁船は,操業に必要な各種情報の入手いかんにより漁獲高に影響を大きく受けることがあり,また,今日の漁業にとって無線通信は,情報伝達のために不可欠の手段となっており,漁業経営の円滑な運営の推進に役立てられている。
漁業通信の種類には,漁場における気象・海況,漁場の位置・魚群状態からなる漁況,使用漁具の手配等の操業上の打合せ等を内容とする通信及び漁業監督官庁から漁船に対して行われる漁業の指導監督のための通信がある。
また,沿岸諸国が自国の沿岸から200海里以内に漁業水域を設定し,同水域内における外国漁船の操業を規制するという海洋新秩序が定着しつつある今日においては,同水域で操業する我が国の漁船が沿岸国の漁業当局に対して行う入・出域報告等の義務的通報の伝送が,新たに加わった。
これらの通信は,僚船相互間の情報交換については,漁船に開設されている無線局(船舶局)を介して行われ,また,船主等に対する報告及び船主等からの指示等については,陸上に開設されている無線局(漁業用海岸局)を介して行われる。
さらに,長期間漁業に従事する漁船乗組員と留守家族との間に取り交わされる安否・動静等の通信は,公衆通信を取り扱っている海岸局を介して公衆無線電報又は無線電話通話の形態で行われており,乗組員及び留守家族にとって,日常生活の安定した基盤維持のために欠くことのできないものである。
(2)通信施設等の概要
漁船の船舶局数は,55年度末において6万6,373局に達し,昨年度末より3,623局が増加した。沿岸漁業に従事する小型漁船の船舶局で26MHz帯,27MHz帯,60MHz帯又は150MHz帯の周波数を使用する無線設備のみを設置しているものは,5万5,447局に達しており,船舶局総数中に占める割合は,83.5%となっている。残る1万926局は,我が国の沖合漁場,外国沿岸等の遠洋漁場で操業する漁船の船舶局である。
近年,沿岸諸国による200海里水域内操業規制の影響を受けている遠洋漁業等,漁船の船舶局数の増加状況の低迷に比し,沿岸漁業の小型漁船の船舶局数は,増加の傾向が続いている。沿岸小型漁船の船舶局の増加は,電波法令違反の防止を図り,合法無線局の開設の行政指導並びに沿岸漁業改善事業による漁家の助成等の諸施策が誘因となっているが,普及率は約10%と低い。
漁業用海岸局は,漁船の船舶局を通信の相手方として無線電信又は無線電話により漁業通信を行う無線局であって,漁業協同組合,公益法人,任意組合等が免許人となり,国内の漁業根拠地に開設されており,55年度末で653局がある。
近年は,総トン数10トン未満の小型漁船の船舶局の増加に対応して,空中線電力1ワットのDSB(両側波帯通信方式)の漁業海岸局が増加しており,この種のものだけで418局がある。
漁業用海岸局の中には,国(水産庁)又は地方公共団体が開設する漁業指導用の海岸局を併せ開設しているものがある。中央漁業無線局はその一例であって,社団法人全国漁業無線協会を免許人とする漁業通信用及び公衆通信用の海岸局と水産庁を免許人とする漁業指導用の海岸局が併設されており,我が国の沖合,遠洋の漁場で操業する漁船との間で中短波帯,短波帯の周波数を使用して無線電信又は無線電話による漁業通信等のほか,漁船向けのファクシミリによる漁・海況通報の放送を実施している。また,母船式北洋漁業及び遠洋底びき網漁業等に従事する漁船との間では,狭帯域直接印刷電信(テレプリンタ)による通信を行っている。
漁業用に使用される周波数は,中短波帯からVHF帯の広い周波数帯の中で,現在,中短波帯で121波,短波帯で312波,26MHz帯及び27MHz帯で145波,30MHz帯以上のVHF帯で31波が指定されている。
漁業における無線利用の特殊設備として,遠隔制御魚群探知用無線設備(テレサウンダ),ラジオ・ブイ,レーダ・ブイが,省力化及び漁獲高の向上のために活用されている。遠隔制御魚群探知用無線設備は,40MHz帯の周波数を使用して網の中に入った魚群の情報を得る装置であり,定置網漁業及びまき網漁業に使用されている。ラジオ・ブイは2MHz帯又は27MHz帯の周波数を使用して,また,レーダ・ブイはレーダ用周波数と40MHz帯を使用して漁具等の位置確認のために利用される装置であって,はえなわ漁業,流し網漁業等に使用されている。
養殖漁業を行っている漁場の管理を行うために,北日本及び北海道の一部地区でレーダが使用されているが,これは,レーダ利用の新しい形態である。
操業海域・漁業種類別の通信施設等の概要は次のとおりである。
ア.沿岸漁業及び沖合漁業
沿岸漁業に従事する漁船は,そのほとんどが総トン数10トン未端のもので占められている。これらの小型漁船には,
26MHz帯及び27MHz帯の周波数を使用する空中線電力1ワットのDSB無線設備が主に設置されており,この26MHz帯及び27MHz帯1ワットDSBの船舶局数は,他の船舶局に比して顕著な増加を続け,55年度末で5万81局に達し漁船の船舶局総数に占める比率は75.5%である。
26MHz帯及び27MHz帯1ワットDSBの無線設備は,価格が低廉であり,小型で操作が容易であることなどのほか,無線局の免許取得の方法も簡易であるため,このように普及しているものである。
これらの小型漁船において行われる通信は,漁・海況の交換,投網,揚網等に関する相互連絡が主なものであるが,沿岸漁業では同一の比較的狭い漁場に多数の漁船が集まって操業する形熊がとられるため,通信は,特定の時間帯に集中して行われ,ふくそうすることが多い。
また,沿岸あるいは沖合の漁場で,,小型機船底びき網,まき網,さんま棒受け網,いかつり等の漁業に従事する漁船には,中短波帯,短波帯及び26MHz帯・27MHz帯の周波数を使用するSSB(単側波帯通信方式)の無線電話設備が装備されており,中短波帯及び短波帯の無線電信設備を装備するものは,近年少なくなった。
総トン数100トン未満のこれら漁船の船舶局は,55年度末において1万825局である。
イ.遠洋漁業
遠洋漁業の中・大型漁船は,かつお・まぐろ漁業,底びき網漁業,捕鯨業,まき網漁業等の世界の好漁場に出漁し,1回の出漁期間が1年前後と長く,近年は一層長期化の傾向にある。これらの漁船の船舶局に設置されている無線設備は,中波帯無線電信,中短波帯の無線電信,無線電話,短波帯の無線電信,無線電話,26MHz帯及び27MHz帯の無線電話,VHF帯の無線電話等の設備である。
これら漁船の船舶局が,漁業用海岸局との無線通信に使用する短波帯の周波数は,各国の船舶局によって世界的に共通に使用されているため混信を受け易いこと,遠距離通信のために時間的,場所的に電波伝搬条件が変化し,漁業用海岸局との連絡設定ができないことがあることなど,直接に国内の漁業用海岸局との通信を維持する上で困難性があるが,遠洋漁場と国内漁業基地との連絡を確保するための手段として重要である。
船舶安全法第4条により,無線電信設備の設置を義務付けられている漁船の船舶局は,55年度末で2,190局がある。
ウ.母船式漁業
母船式漁業には,母船式底びき網漁業,母船式捕鯨業,母船式さけ・ます漁業,母船式かに漁業があり,これらの漁業の主要漁場は,南氷洋及び北洋にあるが,国際的な漁業規制が年々強くなっている。
母船式漁業における無線通信は,母船と独航船又は捕鯨船との間,独航船又は捕鯨船相互間,母船と基地海岸局との間等で行われ,これら漁船の船舶局には,遠洋漁業の漁船の無線設備と同様のものが設置されている。
また,母船の船舶局において取り扱われる通信量が膨大であり,一方で,電波伝搬条件により基地海岸局との間の通信可能時間が短いため,短時間に大量の通信を疎通させなければならないことから,母船には,人手による無線電信の数倍の高速度伝送の可能な狭帯域直接印刷電信装置が設置されている。
(3)動 向
ア.中短波・短波帯漁業用海岸局の統合
漁業用海岸局の運営に必要な資金は,その海岸局を利用する漁船の船舶局の免許人である船主等の分担金等により調達され,運営が維持されているが,近年,外国漁船に対する沿岸諸国の200海里水域内における規制の強化及び燃油価格の高騰による操業コスト増等により,我が国漁業者の経営は困難な状況にあるなどの理由から,中・大型漁船は減少傾向にあり,中短波帯及び短波帯の周波数を使用する漁業用海岸局においては,所属船舶局が減少し,同海岸局の運営はますます困難になりつつある。
また,電波技術の進歩により,無線電話通信においては,装置が小型化し,操作が容易で安定した通信が可能となっているところから,漁船においては,無線電話の通信利用の需要が増大している。
これらのことから,漁業関係者においては,運営の合理化と通信需要への対応を図るための方策の検討が行われているが,これら施策の一環として,既設漁業用海岸局の統合が推進されている。
55年度においては,宮城県内の気仙沼,石巻,塩釜の3漁業用海岸局を統合し,宮城県漁業用海岸局を開設するための免許母体となる社団法人宮城県漁業無線公社が設立された。同統合海岸局は,56年7月1日に運用を開始した。
イ.沿岸漁業における無線通信の需要増
沿岸漁業に従事する総トン数10トン未満の小型漁船の船舶局は,55年度末で4万9,263局に達し,約10%の率で増加を続けており,この傾向は,今後も継続するものと考えられる。
一方,これらの船舶局の利用のために指定している26MHz帯及び27MHz帯の周波数は,ひっ迫しており,増波は困難な状況にある。
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