昭和56年版 通信白書

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1 ファクシミリ

 ファクシミリは,記録通信として任意の文字や図形をそのまま伝送できることから,漢字を使用する我が国の国民生活に適したニーズの高い通信手段として,画像通信の中では早くから実用に供されているメディアである。
 我が国においては,従来,主として専用線により特殊用途,官公庁及び大企業で用いられていたが,47年度のいわゆる回線開放を機に公衆電話網を利用したファクシミリが急速に普及しはじめた。最近では,中小企業や商店にまで事務合理化の手段として広範に利用されてきており,第2-7-14図のとおり電話網利用ファクシミリの設置台数は年平均50%を超える伸びを示している。
 機種別の設置台数についてみると,中・高速機のコスト低下と利用者の高速化に対する要望を反映し,近年,中・高速機の伸びが著しい。
 ファクシミリの国際標準化に関しては,CCITTにおいてG1機(6分機・低速機),G2機(3分機・中速機),G3機(1分機・高速機)及びG4機(公衆データ網用)に分類して審議されている。G1機及び02機については,それぞれ,1968年及び1976年のCCITT総会で勧告化された。G3機については,1次元符号化方式としてMH(Modified Huffman)符号化方式,2次元符号化方式としてMR(Modified READ)符号化方式を用いることを含めて1980年のCCITT総会で勧告化された。
 これを受けて,郵政省では国内標準化のための作業を通信システム研究会に付託し,成果を得た。
 なお,今会期(1981〜84年)ではG4機の勧告化が主要課題となっている。
 端末技術については,高速化の要望と半導体技術の急速な進歩によって,固体走査方式が主流となっている。送信走査系では,CCD(電荷結合素子)を用いた固体走査が主として用いられているが,近年,密着形イメージセンサと発光ダイオードアレイを用いた固体化光源とを組合せた方式の研究も実用化の域に達している。また,記録方式は各種の方式が実用に供されているが,中・低速機では放電記録,感熱記録及び通電感熱記録を,高速機では静電記録,感熱記録を用いる傾向がみられ,最近ではDOD(Dot on Demand)方式によるインクジェット記録の研究も進められている。
 一方,家庭で将来用いられる画像通信メディアのあり方に関する研究も行われている。家庭における画像端末としては,テレビジョン放送がほとんど唯一のものであるが,近い将来には,電話ファクシミリ,ファクシミリ放送,ビデオテックス,テレテックス等の多種多様なものが登場してくると予測されている。これらのメディアが普及する条件としては,安価で小型の家庭用装置が使用できることがあげられる。これを実現する方法の一つとして,複数のメディアで家庭用装置を共用することが考えられるが,そのためには複数のメディアの通信方式に整合性があることが必要である。
 郵政省ではこの考え方に従って,55年度に,通信システム研究会において電話ファクシミリとファクシミリ放送とで共用する将来の家庭用ファクシミリ装置の検討を行い,方式試案を取りまとめた。これによれば,家庭用ファクシミリの主要規格としては,[1]記録紙サイズでA4判,[2]高解像度(8画素/mm×7.7ライン/mm),[3]伝送速度は,A4判標準原稿で1〜2分程度,[4]放送系では中間調も表現する,となっている。また,この方式案に基づく装置も試作している。
 また,電電公社においてはファクシミリ通信の大衆化の見地から,操作が簡単で低廉な小型端末機と,回報通信,自動受信等ファクシミリ通信に適した多彩なサービス機能を有するネットワークとを一体化した新しいファクシミリ通信システムの開発が進められている。このシステムでは,現在の電話網にファクシミリ信号の冗長度抑圧及び蓄積・速度変換等の機能を有する蓄積変換装置を設置することにより多彩なサービス機能の実現が可能となっている。また,蓄積変換装置相互間は高速ディジタル伝送路を使用し,伝送路コストの低減化を図っている。
 国際電電では,高速ファクシミリ・サービスがパケット交換データ網で実現される場合を想定した実験システムを試作した。本システムは,パケット交換機,高速ディジタルファクシミリ装置,ファクシミリ通信処理装置(FCP),ファクシミリ変換接続装置(FAX-PAD)及び電話網ファクシミリ端末から構成されている。パケット網ファクシミリは勧告X25インターフェイスを採用し,再送方式による自動誤り訂正,多論理チャンネルを利用した同時送受信等,電話網ファクシミリにはない機能を備えている。FCPは同報通信,メールボックス等のファクシミリ蓄積サービスを提供するもので,対地間に大きな時差のある国際ファクシミリ通信に特に有効である。FAX-PADは,データ網用ファクシミリと電話網ファクシミリを相互に接続する装置であり,サービス領域の拡大が期待される。
 また,海事衛星回線を利用する船舶用高速ディジタルファクシミリ装置を開発し,現場実験を行い,船舶通信設備として十分な機能を有することを実証した。

第2-7-14図 電話網利用ファクシミリ設置台数の推移

 

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