昭和51年版 通信白書

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第1節 昭和50年度の通信の動向

1 通信の動向

(1) 概   況
ア.国内通信の動向
 最近の国内通信の動向は,第1-1-1図のとおりである。
 郵便サービスについてみれば,50年度の内国郵便物数は140億通(個)で,前年度に比べ0.4%増となり,ここ20年来最低の伸びとなった。年賀及び選挙郵便物を除いた平常信の動きをみると,低迷した経済の動向を反映して伸び悩み,特に51年2月,3月は同年1月25日から実施された料金改定の直後ということもあって,利用が落ち込み,年間を通して前年度比0.4%の減となっている。
 これを郵便サービスの生産額でみると,料金を改定したこともあり,対前年度比18.5%増の4,495億円となった。
 施設面では人口の集中に伴う大都市及びその周辺への郵便物の集中に対応するため,局舎建設及び局内作業の機械化を進め,50年度において562億円の設備投資が行われた。投資額のうち315億円が自己資金であり,247億円が財政投融資(簡保資金)からの借入金となっている。
 電信サービスについてみれば,電報の発信通数は38年度の9,461万通をピークに毎年減少を続けているが,50年度においても4,525万通と対前年度比2.2%の減少となった。電報の需要は加入電話の普及及び自動化の進展,加入電信の増加等他の通信手段の発展に伴い減少しており,国民1人当たり利用通数は年間0.4通と郵便の126.2通,電話の406.5回と比べても国民生活との結び付きは薄いものとなっている。利用内容をみると,慶弔電報が全体の64.2%を占め,その割合は年々高くなっていることから,電報の役割は,かつての緊急連絡手段としての性格から儀礼的なものに大きく変化していることがわかる。
 加入電信加入数は,50年度末7万4千加入となり,前年度に比べ5.7%の増加にとどまった。これはファクシミリ,データ通信等への移行や景気の停滞の影響によるものとみられる。加入電信は,従来のメッセージ通信を主体とした利用から伝票伝送やデータ通信を主体とした利用に比重が移行しつつあり,総加入数の約40%がメッセージ通信以外の利用を目的とした加入者となっている。
 50年度の電信サービスの生産額は,電報の減少と低利用加入者への加入電信の普及を反映して,398億円と対前年度比4.1%の増加にとどまった。
 加入電話加入数は,50年8月に3千万を突破し,50年度末3,170万に達した。50年度の日本電信電話公社(以下「電電公社」という。)の建設投資においては,一般加入電話の増設に最重点が置かれ,290万加入が増設された。その結果,積滞電話の数は48万に減少し,需給関係は大幅に改善された。
 電話普及の現状をみると,人口100人当たり加入電話普及率は,50年度末28.2加入となった。住宅用電話の100世帯当たり普及率は,45年度28.5加入から50年度62.8加入へと急増し,一般加入電話に占める住宅用電話の割合は63.5%に達した。このような住宅用電話の普及が進行しているなかで,電話に対する顧客のニーズは多様化し,高度化の傾向を強めている(第1-1-5図参照)。各種の附属装置等は,50年度においては景気の影響によりその伸びは鈍化したものの,全体的に着実な増加基調にある。
 電話サービスの生産額についてみると,その約70%を占める通話料収入が伸び悩んだため,電話サービスの生産額は,1兆8,712億円と対前年度比12.1%の増加となり,前年度に比べやや回復したものの,過去数年に比べ低い伸びにとどまった。
 なお,農林漁業地域の通信手段として利用されている有線放送電話の端末設備は,前年度に比べ8.7%減少し228万台となった。また,50年度の有線放送電話の生産額は,前年度に比べ2.9%減の209億円であった。
 特定の区間で大量の通信を行うために利用される専用サービスは,電話のほかデータ伝送,模写伝送等多様な用途に利用されている。その利用動向を回線数(A〜J規格)でみると,50年度末現在26万回線と前年度とほぼ同数にとどまった。50年度の専用サービスの生産額は,対前年度比11.6%増の497億円となった。
 ここ数年飛躍的な増加を続けてきたデータ通信システム数は,経済活動の低迷を反映し,50年度末システム数は,1,479システム(私設システムを除く。),対前年度比26.6%の増加にとどまった。50年度においては新たに54銀行を結ぶ共同利用システムである現金自動支払システム等がサービスを開始した。
 我が国は米国に次ぐ電子計算機を保有しているが(第1-1-6表参照),電子計算機のうちでデータ通信に使用されている割合を示すオンライン化率は,年々上昇し50年度末までに5.3%となっている。
 データ通信回線のうち,特定通信回線は4万6千回線と前年度に比べ35.8%増加しており,公衆通信回線も対前年度比99.7%増の5千回線と高い伸びを示している。
 このような状況の下で電電公社のデータ通信サービスの生産額は,590億円と前年度に比べ28.9%の増加となった。
 なお,50年度において電電公社は,1兆4,181億円の設備投資を行った。一般加入電話290万加入をはじめとして公衆電話4万1千個,データ通信システム8システム等が増設されるとともに,電話局575局,市外回線15万3千回線等の建設が行われた。その資金については,事業収支の大幅な悪化を反映して,資本勘定の70.6%を外部資金に依存せざるを得ない状況にあり,特に長期借入金は4,030億円に達している。
 テレビジョン放送は,国民の間に広く普及しており,日本放送協会(以下「NHK」という。)の受信契約総数は,50年度末において2,654万件,世帯普及率82.6%に達した。このうちカラー契約は2,226万件となったが,その契約数の伸びは年々低下しており,次第に頭打ちの傾向がみられる。
 一方,ラジオ放送は,カーラジオ及び個人用ラジオの普及,FM放送の進展等により地道な発達を続けている。
 放送サービスの生産額については,NHKではテレビジョン受信契約数の伸びの低下により対前年度比4.9%増の1,287億円にとどまった。また,民間放送では前年度に引き続き広告料収入が伸び悩み,7.9%増の5,481億円となっている。
イ.国際通信の動向
 最近の国際通信の動向は第1-1-7図のとおりである。
 外国郵便物(差立及び到着)は,近年ほぼ横ばいの状態にあり,50年度においても2億138万通(個)と対前年度比1.7%の増加であった。船便・航空便別の利用動向についてみると船便から航空便に移行する傾向にあり,航空便の占める割合は40年度の63.6%から50年度74.5%へと上昇した。このような傾向は,より迅速な国際通信サービスが求められていることなどから,今後も強まるものと思われる。
 地域別には,差立,到着とも北アメリカ州が最も多く,総物数の34.4%を占めている。
 国際電報は,国際加入電信の普及等によりその伸びは停滞しており,50年度における取扱数は,525万通で前年度に引き続き減少した。地域別にはアジア州が55.9%を占めている。
 国際加入電信は,国際電話とともに,従来経済の高度成長と国際通信網の拡充によって年平均30%以上の伸びを示してきたが,世界的不況の下で49年度におけるその伸びは大きく鈍化した。しかし,50年度においては回復の兆しを見せ,対前年度比25.0%増の1,623万度となった。
 利用動向を対地別にみれば,時差の関係もあり欧州・アメリカ州の割合が高く,それぞれ31.1%,30.4%を占めているが,近年アジア州の割合が次第に増加している。
 なお,国際電信サービスの生産額は,対前年度比12.1%増の331億円となった。
 国際電話サービスについてみれば,その通話度数は対前年度比16.1%増の857万度であり,これを生産額でみると,対前年度比15.1%増の319億円となっている。48年3月に開始された国際ダイヤル通話は,現在のところ全発信度数の2%にすぎないが,外国側対地の拡張,国内利用可能地域の拡大とともに徐々に増加しつつある。
 対地別ではアジア州とのものが40年度38.9%から50年度には60.1%と過半数を占めるに至っており,逆にアメリカ州との通話の比率が減少している。対アジア通話のうちほとんどが韓国,台湾及び香港との通話である。
 国際専用サービスにおける賃貸回線は,50年度末現在音声級回線107回線,電信回線455回線となり,前年度に比べ各々3.9%,6.1%の増加となった。サービス生産額でみると,対前年度比8.9%増の83億円となっている。利用者別では貿易商社,銀行で全体の41%を占めているが,銀行の割合が年々増加している。対地別ではアジア州が78.5%を占め,電話と同様その割合は増加の傾向をみせている。
 国際通信需要の増大に伴い,国際電信電話株式会社(以下「国際電電」という。)は,通信設備の拡充強化を推進している。50年度においては第二太平洋ケーブルの開通,日中間海底ケーブルの建設,衛星通信施設の整備等に174億円の設備投資を行った。
(2) 主な動き
ア.悪化した通信事業経営
 世界的不況の下で,通信事業は収入の伸びが鈍化する一方,人件費をはじめとする支出が増加し,収入,支出の両面から大きな圧迫を受けた。
 郵便事業においては49年度1,247億円の赤字が生じたが,51年1月25日郵便料金の改定が実施され,郵便事業の財政基盤を再建するための端緒が開かれた。しかしながら50年度においても1,319億円の赤字となった。
 電電公社は,前年度1,753億円の赤字を計上したが,物価政策の立場から電話料金等の改定が据え置かれたため,50年度の決算では総収入2兆1,103億円に対し総支出は2兆3,915億円で2,812億円の赤字となり,公社発足以来最大の財政危機に直面した。
 このような事業財政を抜本的に立て直すため,通話料の単位料金である度数料を7円から10円に,基本料を現行の2倍に(51年度中は暫定的に1.5倍),通常電報料を2倍にそれぞれ引き上げることを骨子とした「公衆電気通信法の一部を改正する法律案」が51年2月第七十七回国会に提出されたが,継続審査として取り扱われることとなった。
 NHKにおいても,受信料収入の伸び悩み等から49年度40億円,50年度189億円の赤字を計上した。このような状況の下で,NHKはその経営の基本問題について広く調査,検討するため「NHK基本問題調査会」を設置し,今後の事業運営の在り方について答申を求めた。NHKでは,同調査会から提出された報告書等を勘案し,受信料の値上げを盛り込んだ51年度収支予算,事業計画及び資金計画を51年2月国会に提出した。この51年度収支予算等は,51年5月国会で承認され,受信料の月額が51年6月分から普通契約については315円から420円に,カラー契約については465円から710円に改定された。
イ.郵便料金の改定
 48年12月郵政審議会から「郵便事業収支の改善を図るためには,この際,郵便料金を改正することが適当である。」との答申が出されて以来懸案となっていた郵便法改正案が,50年12月22日成立し,51年1月25日から実施された。
 近年の大幅なベースアップ等のために人力依存度の高い郵便事業の財政事情が極度に悪化したため,48年10月郵政大臣から郵政審議会に「郵便事業の健全な経営を維持する方策について」諮問がなされた。同審議会は郵便料金改定の答申を行ったが,物価安定を最大の課題とする政府の方針に基づき,郵便料金の改定は小包郵便料金を除き,49年度中は見送られた。
 その後49年度のベースアップが約30%にも及んだため,49年11月郵政省は,同審議会に再度諮問し,その答申を基に50年1月31日改正案を第七十五回通常国会に提出した。改正案は長期間の慎重な審議の結果,12月22日第七十六回臨時国会において成立し,51年1月25日から実施に移された。
 改定の内容は封書50円,はがき20円とするもので,同時に省令料金である書留,速達料等が改定され,併せて身体障害者等の郵便物に対する優遇措置等が採られた。
ウ.生活情報システムの実験開始
 郵政省は,51年1月29日東京都下多摩ニュータウンにおいてCATVの多目的利用の可能性を探る生活情報システムの実験を開始した。
 この実験は,一般家庭のテレビジョン受信機と実験センタとを同軸ケーブルで結び,住民のニーズの強い各種生活情報サービスを提供するもので,地域社会におけるCCIS(Coaxial Cable Informatiom System:同軸ケーブル情報システム)の可能性を検討し,CCISの需要,経済性,技術上の問題点等を解明することをそのねらいとしている。
 郵政省では,46年9月にCCIS調査会を設置し,CATVの多目的利用について調査研究を行ったが,更にCCISを利用した生活情報システムの開発実験を行うこととし,48年度から実験調査に必要な設備等の開発製作,番組の作成,実験センタの設置等の準備を進め,51年1月から実験を開始した。
 実験の対象となるのは多摩ニュータウン内の約250世帯で,次のような情報サービスが提供されている。[1]テレビジョン放送再送信サービス,[2]自主放送サービス,[3]自動反復サービス(ニュース,天気予報等を一定の時間ごとに静止した画像に音声をつけて送信する。),[4]放送応答サービス(センタから送信される番組に対し,質問や回答ができる。),[5]有料テレビサービス(特定のテレビジョン受信機に番組を送信する。),[6]静止画サービス(各家庭からのリクエストに応じ,各種の情報を静止画で送信する。),[7]ファクシミリ新聞サービス(新聞を各家庭に伝送する。)[8]フラッシュ・インフォメーション・サービス(ローカルニュース,スポーツニュース等5種類の情報をテレビジョンの画像に重畳して伝送する。)
エ.中波放送の再編成
 中波放送(ラジオ)における国際的な混信問題を解決するため,50年10月ジュネーブにおいて長・中波放送に関する地域主管庁会議(第二会期)が前年度に引き続き開催され,「第一地域及び第三地域における中波帯並びに第一地域における長波帯の放送業務の周波数使用に関する地域協定」が締結された。
 この結果,我が国に認められた周波数は109波,放送局数は509局となり,現行の放送体制を維持する見通しを得た。郵政省は同協定に基づき,51年4月16日空中線電力の増力,標準放送用周波数割当計画表の修正等を行い受信改善を図ったが,更に搬送周波数を9kHzの整数倍に統一するなどのため,同計画表の全面改正を行い,協定が発効する53年11月23日に備えることとしている。
オ.難視聴対策
 テレビジョン放送難視聴対策調査会は,テレビジョン放送が国民の文化的な日常生活にとって必要不可欠であるとし,辺地難視聴及び都市受信障害についてのそれぞれの関係者の責務を明らかにし,その制度的解消のための施策,技術的方策等を検討し,50年8月に報告書を郵政省に提出した。
 郵政省は,報告書の提出を受けた後,省内に「難視聴対策委員会」を設け,効果的方策について検討を進めているが,現在までに辺地難視聴対策としては,極微小電力テレビジョン放送局(ミニサテ)の実用化を図るとともに,郵政大臣から一般放送事業者及び民放連会長に対しミニサテの置局等により難視聴解消を更に促進するよう要望した。また,都市受信障害対策としては,NHKに対するSHF放送に関する実験局開設の免許及び高層建築物による受信障害解消についての指導要領の策定等の施策を実施した。
 郵政省では更に51年度において都市及び辺地における難視聴の実態調査を行う予定である。
カ.宇宙開発の推進
 国際通信用の衛星システムとしては,既にインテルサット及びインタースプートニクがあるが,最近では各国で国内通信用衛星の導入が相次いで計画され,一部の国では既にサービスが開始されている。
 我が国においても,宇宙開発事業団によって50年9月9日実利用の分野の衛星として我が国最初の技術試験衛星<1>型(ETS-<1>)が打ち上げられ,続いて51年2月29日電離層観測衛星(ISS)が軌道にのり,宇宙開発は本格的段階に入った。
 ISSは,電離層における臨界周波数,電波雑音等の定常的測定を行い,短波通信における予報と警報の精度向上に役立てることを主目的としている。その開発については予備設計までを郵政省電波研究所が担当し,それ以降の開発,打上げを宇宙開発事業団が担当した。また,衛星の運用,管制のための地上施設は,郵政省電波研究所鹿島支所を中心に整備が進められてきた。
 ISSは,打上げ後順調に作動していたが,4月2日衛星からの電波が途絶え,以後電波の送信は,全面的に停止した状態となっている。
 なお,宇宙開発事業団においては,更に技術試験衛星<2>型(ETS-<2>)等の打上げの準備,実験用通信衛星,放送衛星等の開発を進めている。
キ.国際海事衛星システムに関する国際会議の開催
 船舶が行う通信に衛星技術を利用する国際海事衛星システムの設立に関する第一回及び第二回政府間会議がロンドンで開催された。
 現在,遠洋における海上通信は,主に短波によって行われているが,混信が多く品質が不安定である。これを改善するため,政府間海事協議機構(IMCO)において,宇宙通信技術の導入が検討され,1973年11月のIMCO総会の決議に基づき,国際海事衛星システムの設立に関する政府間会議が開催されることとなった。
 ロンドンにおける1975年4月の第一回,1976年2月の第二回政府間会議の結果,国際海事衛星機構(インマルサット)設立に関する組織,制度上の諸原則について合意が得られたが,基本文書の一部条項につき調整を図ることかできず,条約案の採択は次回政府間会議に持ち越された。
ク.放送大学の実施調査
 広く国民に大学教育を受ける機会を提供するため,放送大学設立の具体化について,郵政省は文部省と緊密な連絡をとりながら検討を進めてきた。
 文部省は,49年3月発表された「放送大学(仮称)の基本構想」の具体化を図るため,49年度から「放送大学創設準備に関する調査研究会議」を設置し,検討した結果,50年12月「放送大学の基本計画に関する報告書」を発表した。この中で[1]全国世帯の約80%をカバーするためには,全国約2百の地点にテレビジョン放送及びラジオ放送の送信所を段階的に整備する必要があり,その経費として約420億円(敷地取得費を除く。)が必要であること,[2]大学創設の第一期事業の目標として,東京,名古屋及び大阪の3広域送信所並びに東北及び四国の第一次県別送信所を設置することなどが述べられている。
 郵政省としては,今後とも文部省における調査研究の推移をみながら対処することとしている。
ケ.東南アジア海底ケーブル計画
 国際電電は,50年9月15日フィリピンのETPI(Eastern Telecommunications Philippines Inc.)及び英国のC&W(Cable and WirelessLtd.)との間に沖縄―ルソン―香港ケーブルの建設保守協定を締結した。
 東南アジアケーブル計画は,かつて我が国が提唱し,各国の賛同を得たものであるが,衛星通信の登場等の事情により計画は長期にわたって進展がなかった。しかし,近年になって海底ケーブル技術の進歩による1回線当たりコストの低下等を反映して,関係国間で改めて東南アジアケーブル計画に対する関心が高まり,49年8月の東京における日本,フィリピン及び英国(香港)の3か国主管庁,通信事業体間の会合で計画実施の第一段階として沖縄―ルソン―香港ケーブルの建設について合意が得られた。
 郵政省は,このケーブルの建設保守協定締結について,50年9月13日国際電電に対し認可を行い,国際電電は同月15日フィリピンのETPI,英国のC&Wとの3当事者間協定に署名を行った。
 沖縄―ルソン―香港ケーブルは52年度中に完成の予定であるが,その長さは沖縄―ルソン間1,290km,ルソン―香港間860kmである。回線容量はそれぞれ電話級1,600回線,1,840回線となっている。建設費は約150億円と見込まれ,日本側の分担は約60億円である。
コ.新海底同軸ケーブルシステム開発会議の設置
 郵政省は,増大する国際通信需要に対応し,国際海底同軸ケーブル建設計画を一層強力に推進するため,50年6月郵政省,学識経験者,電電公社,国際電電,メーカ等からなる「新海底同軸ケーブルシステム開発会議」を設置した。
 同開発会議においては,50年度から4か年計画で,従来の銅に代えてアルミニウムを外部導体として使用し,銅資源の枯渇化に対処するとともに,ケーブルシステム全体の経済化を図る新海底同軸ケーブルシステムを開発することとしており,50年度と51年度には基礎的技術の開発,51年度末からは現場試験用のケーブル,中継器,等化器等の製造を実施することとしている。この新海底同軸ケーブルシステムの開発費としては,既に50年度国庫債務負担行為1億7,105万円,51年度国庫債務負担行為5億4,004万円が認められている。
 50年度の活動としては,一次試作ケーブルの製造及び評価,新ケーブルシステム用の中継器の設計検討,防食技術の研究等が行われ,開発は順調に進められている。
(3) 基幹メディア普及の国際比較
 通信における基幹的メディアである郵便,電報,電話,テレビジョン放送及びラジオ放送の各々の普及状況を欧米諸国と比較すれば,第1-1-9図のとおりである。
 郵便物数は,各国とも漸増又は停滞の傾向にある(第1-1-10図参照)。1965年を100とした場合,1973年において我が国は138,米国123,英国97,西独106,フランス123であり,我が国の郵便物数の伸びは各国に比べ比較的高い。
 総物数では我が国は世界でも有数の郵便利用の多い国となっているが,年間1人当たり利用通数は欧米諸国と比べて低い水準にある。
 郵便の交流状況をみれば(第1-1-11表参照),大半の郵便物が事業所から差し出されており,総郵便物に占める事業所差出しの割合は,我が国81%,米国78%,英国77%,西独81%とほぼ同様の値を示している。
 その反面,郵便の受取人は私人の受取が過半数を占め,総物数に占める私人受取の比率は,我が国57%,米国70%,英国50%,西独58%となっている。米国の比率が高いが,1968年当時の調査においに64%であったことから,私人の受取の割合が更に増加したことになる。
 あいさつ状等の私人間通信が総郵便物に占める割合は各国とも低く,我が国17%,米国11%,英国14%,西独11%となっている。
 一方,ダイレクトメール等の事業所から私人に差し出される郵便物が総物数に占める比率は,我が国39%,米国59%,英国36%,西独47%である。米国では1968年の50%から更に増加しており,その内容は広告関係及び領収書等の金銭関係が主要なものである。
 事業所から事業所に差し出される郵便物は,我が国41%,米国19%,英国41%,西独35%となっており,米国及び西独においては,事業所から私人あての郵便物よりも少ない。特に米国では全郵便物の2割弱であり,1968年当時の29%から更に減少している。
 電報の利用動向は,第1-1-12図に示すとおりである。各国とも最盛期に比べ大きく減少しており,我が国でも2分の1に減少している。我が国のピークは1963年であり,各国に比べ20数年遅れているが,これは加入電信サービスの開始や加入電話の普及の遅れ等によるものと思われる。
 電報は,緊急通信手段としてかつては広く利用されていたが,現在では電話,加入電信の普及,データ通信の出現によって各国とも減少している。米国では1970年から開始されたメールダラム(ウエスタン・ユニオン電信会社と米国郵政公社の提供している電子郵便サービス)の急成長(1974年において2千万通)が電報の利用に影響を与え,また,英国においては郵便サービスの向上(第一種は翌日配達)によるところの影響が大きい。
 我が国の年間1人当たり電報利用通数は0.4通と各国に比べ高い値を示しているが,これは慶弔電報の利用が多いこと(電報通数全体に占める慶弔電報通数の比率(1973年)は,日本57%,英国34%,西独14%である。),各国に比べ料金が低廉であることなどによるものと思われる。ちなみに各国の電報料金は我が国の4〜9倍であり,特に米国では人手配達の場合は15倍となる。
 一方,我が国の電話の普及には目覚ましいものがある(第1-1-13図参照)。1965年には人口100人当たり電話機数は13台であったものが,1967年に西独を,1973年に英国を抜き,1975年には38台と急ピッチで普及し,その普及率は,米国,スウェーデン,スイス,カナダ,ニュー・ジーランド,デンマークに次いで第七位に位置している。
 また,総電話機数は,1966年から1975年にかけて年平均13%の率で増加し,1975年には4,190万台となり,世界の電話機3億5,859万台のうち1割以上を占めており,米国に次ぐ電話機保有国となっている。
 各国の主要都市の電話機数を比較すると(第1-1-14表参照),東京は506万台でニューヨークに次いで第二位,大阪は175万台でモスクワに次いで第七位である。
 需給関係をみれば,米国,英国,西独はほとんど積滞が解消されているが,フランスは約100万の積滞を抱えている。我が国の積滞は1970年度末291万から1975年度末48万となり,需給関係は大幅に改善された。
 なお,電話の普及が最も進んでいる米国においては,既に1954年ころほぼ積滞を解消し,最近の電話機数の伸びは年々5%程度である。
 テレビジョンの普及も着実に進行している。西欧諸国のほとんどが人口100人当たり20〜30台であり,我が国においても24台に達した。世界全体で約3億5千万台のテレビジョン受信機が普及しているが,このうち3分の1を米国が占め,100人当たり55.6台で2人に1台強である。我が国においては2千6百万台に達し,世界全体のテレビジョン受信機の8%を占めている。
 現在世界で57か国がカラー放送実施国となっているが,我が国のカラー契約の比率は極めて高い(第1-1-15表参照)。
 我が国では余暇時間におけるテレビジョンの役割は大きく,1人当たり平日で3時間43分,日曜日で4時間32分見られており,家庭婦人,高年齢層の視聴時間が長く,更に増加する傾向にある(NHK「全国聴視率調査」1975年11月)。
 米国においても,我が国と同様テレビジョンの視聴時間は長く,1人当たり1日3時間,1世帯当たりでは6時間15分前後である。成人女性の視聴時間が長いが,最近高学歴層,高所得層の視聴時間の伸びが著しくなっている。
 第1-1-16図は西欧主要都市で視聴できる平日におけるチャンネル数と放送時間を示したものである。西欧各都市では開始時間が遅く,日中では教育放送が多く,一般視聴者向けの放送は午後ないし夕方からである。日中に休止時間が多いのもその特徴である。
 これは視聴時間に反映し,西欧諸国の視聴時間は一般に短くなっている。英国では1人当たり1週平均17時間であり,西独では1日当たり平均2時間弱,フランスでは1日平均2時間30分以上となっている。
 一方,我が国のラジオ受信機数は,5,965万台と推定されており(NHK調査),人口100人当たり54台である。
 聴取状況をみれば,我が国では1日のうちでラジオを少しでも聴いた者は平日で29%である。また,ラジオの平均聴取時間は平日1日で38分となっており,ラジオが最もよく聴かれている時間帯は朝6時半から8時までである(NHK「全国聴視率調査」1975年11月)。
 米国においては,3億8,339万台のラジオ受信機があり,人口100人当たり182台である。1日のうちでラジオを少しでも聴いた者は84%となっており,我が国に比べはるかに高い値を示している。時間帯別では午前6時から10時の聴取率が最も高く,自動車による通勤の時間中に利用されている。
 西欧諸国では,平日には朝食時にテレビジョン放送をしていないため,朝のニュースは新聞又はラジオに頼る以外に方法がなく,天気予報や交通情報等はラジオが独占しているといってよい。このため我が国に比べラジオとのつながりが深く,英国においては1週平均1人当たり聴取時間は8時間30分,西独では1日1人当たり平均聴取時間は2時間17分で,テレビジョン放送の視聴時間より長く,ラジオ全盛時代の1960年の水準に戻っている。

第1-1-1図 国内通信の動向

第1-1-2図 電報の利用状況

第1-1-3図 加入電信利用目的別加入数の推移

第1-1-4図 電話増設数及び積滞数の推移

第1-1-5図 加入電話等の推移

第1-1-6表 電子計算機設置台数及び金額

第1-1-7図 国際通信の動向

第1-1-8表 通信サービスの生産額

第1-1-9図 基幹メディアの国際比較(1)

第1-1-9図 基幹メディアの国際比較(2)

第1-1-10図 郵便物数の推移

第1-1-11表 各国における私人・事業所間の郵便物の交流状況

第1-1-12図 電報通数の推移

第1-1-13図 100人当たり電話機数の推移

第1-1-14表 主要都市電話普及率

第1-1-15表 テレビジョン受信機とカラー受信機の普及台数

第1-1-16図 西欧主要都市における視聴可能チャンネル数と放送時間
 

第1部第1章 通信及び情報化の現況 に戻る 2 通信関連産業の動向 に進む