昭和51年版 通信白書

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第1節 通信の諸形態と記録通信

1 多様化する通信メディア

 現在,先進諸国においては,高度工業化社会の完成に続くものとして情報化社会への移行が進んでいるといわれているが,その大きな推進母体となっているのは,社会の高度知識化,電子計算機の発達等とともに,通信メディアの急速な発展,普及と多様化である。
 我が国における通信メディア普及の推移を概観してみると,第二次世界大戦前の最高時で,全国108万加入と庶民には手の届かぬ高根の花であった電話が,昭和50年度末において3,214万加入,総電話機数4,323万個と米国に次ぐ世界第二位の電話保有国となったのをはじめ,昭和28年に開始されたテレビジョン放送が現在ではほぼ全世帯に普及し,今や個人用テレビの時代に入りつつあるという二つの事実が最も注目される。
 このほか,通信メディアの発達は,技術の進歩とともに多岐にわたっている。通信回線と電子計算機をつなぐデータ通信は,銀行のオンラインシステム,列車の座席予約システムをはじめ社会活動の重要な分野に普及しつつあり,また,宇宙通信の実現は国際通信の拡大を急速に進めている。更に,同軸ケーブル,光ファイバ・ケーブル等広帯域伝送メディアの開発は,今後,個人の通信に対してテレビ電話,ファクシミリ通信等多彩なサービスの提供を可能にしよう。
 このように多様化した通信メディアの社会的機能は,そのメディアの特性により様々であるが,[1]記録通信と音声通信,映像通信[2]パーソナル通信とマス通信の二つの観点から分類すれば次のとおりである(第1-3-1表参照)。
(1) 記録通信と音声通信,映像通信
 通信をその表現の形態に応じて考えると,郵便,電報等文字,記号による記録通信,ラジオ,電話等音声による音声通信及びテレビジョン等視覚情報的な映像通信に区別できる。
 記録通信は,通信の内容が文字,記号等に転化されて伝達されるものであり,当然のことながら文字の存在とそれを識別する社会層を必要とする。したがって,これはある程度以上に高度化した社会における間接的な通信形態である。
 音声通信は,言語による情報伝達という形において人間の最も基本的な通信形態であり,かつ最も古くからの通信形態としてあらゆる社会に存在してきたものである。しかし,記録通信が古くから文書伝送の形で遠距離通信に利用されたのに対し,音声通信は長らく対面しての会話の域を越えることができず,通信としての能力が限定的であったといえる。これを克服したのがラジオ,電話等電気通信による音声通信の出現であり,これにより音声通信は飛躍的な発展を遂げることとなる。
 映像通信は,比較的新しい通信形態である。映像通信を通信として大きな存在にしたのは,電気通信による映像の伝送すなわちテレビジョン放送の出現である。テレビジョン放送は,人間の5官のうち最も鋭敏といわれる視覚に訴える力の強さ及びその情報量の膨大さにより,社会に大きな変化と影響を及ぼしている。しかし,現在の映像通信は,テレビジョン放送に代表されるように,ほとんど一方向性のメディアに限られており,今後,テレビ電話等双方向性を有するメディアの発展が望まれる。
(2) パーソナル通信とマス通信
 通信はまた,大きく1対1の通信と1対多の通信に区別できる。一般に前者はパーソナル通信,後者はマス通信と呼ばれている。パーソナル通信を代表するものとしては郵便,電報,電話があり,マス通信を代表するものとしては,新聞,雑誌,放送がある。
 パーソナル通信は,一般に通信のパートナーの双方が送信者の役割も受信者の役割も果たすことのできるいわゆる双方向通信であることが多く,少人数間で送り手,受け手の立場を交換して閉鎖的に情報を伝え合うことが可能である。
 一方,マス通信は通信のパートナー間で送信者と受信者の役割が完全に分化し,情報が一方向にのみ伝達される片方向通信であることが多く,しかも単数の送り手から多数の受け手に同一の情報が送られる。
 通信の発達をみると,まず直接の会話にはじまり,その後文字の発明により文書の通信に進んでいったが,これらはまだほとんどパーソナル通信に限られ,かつ通信量も少ないものであった。しかし,近代における工業化社会の成立により,印刷技術の向上,電気通信の発展は巨大なマス通信を生み出すもととなり,現在においては,テレビジョン放送,各種の新聞,雑誌等のマス通信が,社会にとってかつてないほど大きな存在となっている。一方,制度的なパーソナル通信については,これを可能とするメディアの整備に巨額の費用を要することから,わずかに郵便が普遍化されていたにすぎなかった。最近に至ってようやく電話の普及がほぼ全国的に満足すべき状態になり,今後,国内的な電気通信網の増強により,データ通信,ファクシミリ通信,テレビ電話をはじめ様々なサービスがパーソナル通信として利用されるようになるであろう。

第1-3-1表 代表的な通信メディアの諸形態
 

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