2 国際協力の実績：昭和51年版通信白書

（1）　概　　　況
　50年度における通信分野の国際協力活動は，7月に郵政大臣官房に国際協力室が設置されたことにともなって，総合的，一元的な体制のもとに積極的に推進された。特に，50年度においては，サウディ・アラビア等の石油産出国における大規模プロジェクトが急速な進行を見せはじめ，これに伴って，その対策を早急に確立する必要性が急速に高まって来たことが特徴的であった。技術協力及び資金協力の概況は次のとおりである。
ア．技術協力
　技術協力の形態としては，研修員の受入れ，専門家の派遣，開発調査団の派遣並びに海外技術協力センタの設置及び運営等があり，政府ベースの技術協力は，国際協力事業団等を通じて実施されている。
　研修員の受入れは，開発途上国からの研修員を我が国に受け入れて訓練し，技術を習得させるもので，これには個別研修と集団研修がある。通信分野では50年度に個別，集団を合わせて288名受け入れており，政府全体の受入れの中でも極めて高い割合を占めている。
　専門家の派遣は，開発途上国へ専門家を派遣してその国の職員の訓練，通信施設の建設，保守及び運用面の指導，開発計画の企画，助言等を行うもので，最近では政策顧問的な任務も増えている。50年度においては，123名の専門家が派遣されているが，派遣数は増加の傾向にあり，専門家人材の確保及び養成の必要性が一段と強まってきている。
　開発調査は，開発途上国の通信開発計画について調査団を編成し，現地作業及び国内作業を行ってその計画の推進に寄与するもので，これはプロジェクト・ファインディング調査，予備調査，投資前調査，実施設計等がある。50年度において実施した開発調査は8件で，37名の専門家がこれに参加している。
　海外技術協力センタは，開発途上国の社会・経済開発に必要な技術者の養成，科学技術の研究開発等を行うために開発途上国に設置されるもので，通信分野においては，技術者の養成を行う訓練センタがタイ及びメキシコの両国に，また，通信技術の研究開発を行う研究センタがパキスタン及びイランの両国にそれぞれ設置されており，これらのセンタに対して，50年度に37名の専門家を派遣してその運営に協力した。
イ．資金協力
　開発途上国に対する資金協力の主要な形態には，贈与等の無償協力と円借款等の有償協力とがあるが，通信分野における資金協力は主として円借款により行われている。円借款は，我が国政府と相手国政府との間で締結された交換公文に基づき，海外経済協力基金又は日本輸出入銀行が，相手国政府又は関係機関と円貨建ての貸付協定を結んで実施される。
　50年度においては円借款供与がパラグァイ，タイ及びアルジェリアの3か国3件の通信関係プロジェクトに対して約束された。
（2）　技術協力
ア．研修員の受入れ
（ア）　郵便関係
　政府ベースによる郵便幹部セミナの開催と個別研修員の受入れは，38年度から実施しており，49年度までに114名を受け入れている。50年度にはアジア地域を対象とする郵政幹部セミナを開催し，郵便事業の経営に関する諸問題とその解決策をテーマとして，討議研究を行ったが，このセミナには10か国10名が参加した。
　ＡＯＰＵ職員交換計画では，49年度までに68名を受入れており，50年度には，6名の受入れを行った。
　国連開発計画に基づくＵＰＵの個別研修員は，49年度までに7名を受け入れているが，50年度には，1名の受入れを行った。
　ＵＰＵ基金によるセミナの開催に伴う受入れは，42年度にアジアの10か国から17名を受け入れたが，それ以後は実施されていない。
（イ）　電気通信関係
　電気通信分野における研修員の受入れは，29年から始まった。49年度までにコロンボ計画で714名，中近東アフリカ計画で357名，中南米計画で385名，ＩＴＵ等の国連計画で88名，その他38名，計1，582名を受け入れている。
　50年度においては，日本・メキシコ交流計画に基づく電気通信関係の特別コースの研修員の該当者がなかったが，昨年度開設したアラブ諸国特別コースは，今年度も引き続き実施し，8か国10名の研修員を受け入れた。
　電気通信関係の研修は，当初個別研修で行っていたが，37年度に国際テレックス通信，短波無線，電話交換，国際電信電話業務の四つの集団研修コースを創設し，その後，集団研修コースの拡大，強化に努めた結果，50年度までに，前記4コースのほかに，マイクロウエーブ第一，第二，搬送電話，電話線路，衛星通信第一，第二，市外網計画設計，電気通信幹部セミナ及び電気通信開発セミナの9コースを加えて計13コースとなり，現在では集団研修中心の研修体制となっている。
　50年度に実施した集団研修コースの内容，期間，受入れ人員等は次のとおりである。
[1]　国際テレックス通信コース
　国際テレックス通信に必要なパラメトロン，トランジスタ，集積回路，ＡＲＱ装置，テレックス交換設備等に関する講義，実習を行い，知識と技術を習得させることを目的とする約2か月半のコースで，13か国16名が参加した。
[2]　短波無線コース
　国際固定通信用短波送受信機，アンテナ機器等の運用と保守に関する知識と技術を習得させることを目的とする約2か月半のコースで，10か国11名が参加した。
[3]　電話交換コース
　クロスバ交換機を中心として電子交換機を含む最新の電話交換設備に係る広範な知識を習得させることを目的とする約3か月のコースで14か国18名が参加した。
[4]　国際電信電話業務コース
　国際電報，国際電話，テレックス等国際電気通信業務全般の運営及び管理に係る知識と技術の紹介を目的とする約3か月のコースで9か国9名が参加した。
[5]　マイクロウエーブコース（第一及び第二）
　マイクロウエーブ通信技術の導入，改善，開発に携わる技術者を対象とし，我が国のマイクロウエーブ通信に係る技術と知識を習得させることを目的とする約3か月のコースであるが，第一コースは中南米諸国以外を，第二コースは中南米諸国を対象としている。50年度の受入れ人員は，第一が14か国17名，第二が12か国18名であった。
[6]　搬送電話コース
　搬送電話の設計，据付け，保守等に関する最新の技術と知識を習得させることを目的とする約3か月のコースで，12か国16名が参加した。
[7]　電話線路コース
　最新の電話屋外施設について，その理論，設計，保守に関する知識と技術を習得させることを目的とする約3か月のコースで，11か国15名が参加した。
[8]　衛星通信コース（第一及び第二）
　衛星通信に係る基礎的知識を付与することを主眼とし，衛星通信機器の操作及び保守技術を詳細にわたり習得させることを目的とする約3か月のコースであるが，第一コースは中近東地域を対象とし，第二コースはその他の地域を対象としている。50年度の受入れ人員は，第一が8か国10名，第二が10か国13名であった。
[9]　電話網計画設計コース
　市外電話網の計画，設計に必要な知識と技術を習得させることを目的として48年度に新設されたコースであり，11か国12名が参加した。
[10]　アジア電気通信開発セミナ
　アジア地域の開発途上各国の電気通信主管庁又は電気通信企業体の局長級幹部を対象とし，我が国の電気通信の現状紹介と併せて，各国電気通信運営上の諸問題を提出討論し，各国の電気通信の開発に寄与することを目的とする2週間のセミナで，9か国9名が参加した。
[11]　電気通信幹部セミナ
　アジア地域以外の開発途上各国の電気通信主管庁又は電気通信企業体の局長級幹部を対象とし，我が国の電気通信の現状紹介と併せて，各国の事業運営上の諸問題を提出討論し，各国の電気通信の発展に寄与することを目的とする2週間のセミナであり，50年度は，中近東アフリカ諸国を対象として，これらの国から9か国9名が参加した。
　50年度の研修員受入れは，全体としてコロンボ計画で67名（タイ及びパキスタンのカウンタパート研修計画の10名を含む。），中近東アフリカ計画で60名，中南米計画で48名（50年度の日本・メキシコ交流計画による受入れはなかった。）国連計画で29名，合計204名（集団177名，個別27名）となっている。
（ウ）　電波・放送関係
　開発途上国の放送事業体における深刻なマンパワーの量的，質的不足を補うため，36年頃から相手国の個々の要請に応じて研修員を受け入れていたが，38年度以降，集団研修コースを設け，開発途上国に対し積極的に研修の場を用意することとした。
　その結果，50年度末現在，7コース（ラジオ放送技術コース，テレビジョン放送技術コース，教育テレビジョン番組コース，テレビジョン放送管理コース，電波監視コース，中近東放送管理コース，放送幹部セミナ）が設けられている。
　50年度末までにこれら集団研修コースにより計525名を受け入れた。
　これらのほか，集団研修コースに含まれない部門（海上無線，放送システム）については，個別研修を行っており50年度までに，計144名を受け入れた。
　50年度に実施した集団研修及び個別研修の概要は，次のとおりである。
[1]　ラジオ放送技術コース
　電波伝搬，高周波回路，中波放送機，その他中波を中心とするラジオ放送技術の基礎理論に関する講義及び実習等を通じ，ラジオ放送に必要な知識及び技術を習得させることを目的とする約1か月のコースであり，6か国6名が参加した。
[2]　テレビジョン放送技術コース
　テレビジョン放送技術の基礎知識及びテレビジョン放送機器の運用，保守に関する最新の技術を習得させることを目的とする約3か月のコースで，13か国14名が参加した。
[3]　教育テレビジョン番組コース
　教育テレビジョン番組に関する映像効果，アニメーション技術，番組編成等に関する講義，実習等を通じ，教育テレビジョン番組制作に必要な知識，技術を習得させることを目的とする約3か月のコースで，13か国14名が参加した。
[4]　テレビジョン放送管理コース
　放送体制，財政，世論調査，放送番組，テレビジョン放送技術の大要等テレビジョン放送の管理運営に当たる中堅幹部職員として必要な知識及び技術を習得させることを目的とする約1か月のコースで8か国8名が参加した。
[5]　中近東放送管理コース
　中近東地域の開発途上国を対象として，上記放送管理コースと期間及び内容は同じである。7か国7名が参加した。
[6]　電波監視コース
　日本の電波監理，電波監視の制度，電波監視業務の内容等の紹介を行うとともに，電波監視業務を行うに必要な知識を習得させることを目的とする約1か月のコースで，4か国5名が参加した。
[7]　放送幹部セミナ
　放送事業に携わる各国高級幹部職員に対し，我が国の放送の現状を紹介し，放送に関する諸問題についての討論を通じて，各国の放送事業の発展に寄与することを目的とする12日間のコースであり，6か国7名が参加した。
　上記の集団研修以外に個別研修として受入れを実施したものは6名であるが，その内容は，放送システム2名，電波監理1名，教育テレビ1名，放送機2名である。
イ．専門家の派遣
（ア）　郵便関係
　50年度においては，ＡＯＰＵ職員交換計画で6名（韓国，タイ，フィリピンへ各2名），また，ＵＮＤＰ／ＵＰＵ計画で継続のものを含めて専門家2名，準専門家1名が派遣されている。ＵＮＤＰ／ＵＰＵ計画による2名の専門家のうち1名は，バンコックに駐在して郵便訓練を担当し，他の1名はマニラに駐在し，郵便開発一般を担当している。ＵＰＵ基金によるものは，45年度にセミナ講師1名が派遣されたのみで，それ以後は派遣されていない。
　また，政府ベースによるものとしては，コロンボ計画で3名，中近東アフリカ計画で8名計11名の専門家が派遣されており，その内訳は第2-8-3表のとおりである。
（イ）　電気通信関係
　電気通信専門家の開発途上国への派遣は，30年代半ばから活発化したが，50年度末までにコロンボ計画で194名，中近東アフリカ計画で61名，中南米計画で90名国際機関計画で6名，ＵＮＤＰ／ＩＴＵ計画で176名，計527名（同一人が2年度にわたり派遣された場合には2名とした。）の専門家が派遣され，開発途上国の電気通信に大きく貢献している。
　50年度についてみると，49年度から継続のものを含めて，コロンボ計画で9名，中近東アフリカ計画で18名，中南米計画で20名，国際機関計画で4名，ＵＮＤＰ／ＩＴＵ計画で30名，合計81名の専門家が派遣されており，その内訳は第2-8-4表のとおりである。
（ウ）　電波・放送関係
　電波・放送関係の専門家派遣は，35年から始まり，既に15年を経ている。
　この間，開発途上国からこの分野における要請は強く，年平均18名を各国に派遣している。
　50年度末までに，コロンボ計画で198名，中近東アフリカ計画で34名，中南米計画で36名，国際機関計画で2名，ＵＮＤＰ／ＩＴＵ計画で1名，計271名（同一人が2年度にわたり派遣された場合は2名とした。）の専門家を派遣した。
　これらの派遣専門家は主として相手国政府の技術者不足を補うため，相手国放送事業体において，テレビジョン放送技術，テレビジョン放送番組製作，放送局の建設，運用及び保守についての指導，要員の訓練，市場調査等を行うものであるが，最近は政策顧問的な任務の要請も増加している。
　50年度についてみると，前年度から継続派遣のものを含めて，コロンボ計画で11名，中近東アフリカ計画で4名，中南米計画で5名，国際機関計画で2名，計22名の専門家が派遣されておりその内訳は第2-8-5表のとおりである。
ウ．開発調査
（ア）　電気通信関係
　電気通信分野の開発調査は，37年度にボリヴィアに対して実施した電気通信計画調査が最初であるが，以来50年度の5件を加え，同年度末までに34件となっている。
　これらの調査は，国内網開発計画，地域電気通信網開発計画，マイクロウエーブ回線網建設計画，同軸ケーブル計画，衛星通信地球局建設計画等その分野は多岐にわたっており，これらの計画に関して，それぞれ基礎調査，フィージビリティ調査，基本設計又は技術仕様書の作成等を行ったもので，その概要は第2-8-6表のとおりである。
（イ）　電波・放送関係
　41年度に始まった電波・放送関係の調査団の派遣は，50年度の3件を加え，50年度末までに16件となっている。
　これらの調査は，放送網の整備拡充計画，放送局建設計画，無線航行援助システム整備計画等に関して，それぞれ予備調査，フィージビリティ調査，実施設計等を行ったものである。
　これらの開発調査の概要は第2-8-7表のとおりである。
エ．海外技術協力センタ
　電気通信分野における海外技術協力センタとしては，35年に開設されたタイ電気通信訓練センタが最初であるが，以来，パキスタン電気通信研究センタ，メキシコ電気通信訓練センタ及びイラン電気通信研究センタの3センタを加え，計4センタあり，これらはいずれも良好に運営されており，その実績は，我が国の海外技術協力センタの中でも高く評価されている。現在協力中の各センタの概況は，第2-2-8表のとおりである。
（3）　資金協力
　通信分野における資金協力は，37年度にパキスタン電信電話拡張計画に対して日本輸出入銀行から供与された円借款に始まるが，その後漸次増加し，対象プロジェクトもマイクロウェーブ回線網建設，電話網拡充整備，衛星通信地球局建設，テレビジョン放送局建設等多岐にわたり，被供与国もアジア地域から，アフリカ，中南米地域に広がってきている。
　また，借款供与機関も当初は主として日本輸出入銀行であったものが，最近では日本輸出入銀行による借款よりも融資条件の緩い海外経済協力基金によるものが増加している。50年度末までの円借款供与プロジェクトは63件であり，その内容は第2-8-9表のとおりである。
　このほか，無償協力としてはシンガポール衛星通信地球局建設　タイ・ラオス間マイクロウェーブ回線建設及びタイ国モンクット王工科大学校舎等建設の三つのプロジェクトについての贈与並びにフィリピン電気通信施設拡張改善プロジェクトに対して賠償による援助が，50年度末までに行われている。

第2-8-3表 50年度の郵便専門家派遣実績(政府ベース)