昭和51年版 通信白書

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2 有線電気通信

 有線電気通信法の下では,有線電気通信設備の設置は原則として自由であり,郵政大臣への届出だけで設置できることになっている(特定の場合は届出の義務も免除されている。)。
 有線電気通信法における設置の自由の原則は,設置者が自己の通信の用に供するときに限られ,公衆電気通信事業を電電公社又は国際電電に行わせる建前の下に,一般の者が有線電気通信設備を[1]共同して設置し,[2]相互に接続し,[3]他人に使用させること,については公衆電気通信役務となるおそれがあるため,有線テレビジョン放送,有線ラジオ放送等を除いて,原則としてこれを禁止している。
 しかし,最近,情報ニーズの多様化に伴って有線電気通信設備の利用もまた多様化している。
 すなわち,CATVの多様な利用,有線放送電話の多目的利用,公社の専用線と自営電気通信設備とのシステム構成による利用等その利用が,システム的により複雑化,高度化してきている。
 このような有線電気通信設備の利用の態様に伴い,現行制度の考え方も新たな視点から見直すことが必要となってきている。
(1) 設置の状況
ア.単独設置
 50年度末における有線電気通信設備の届出件数は23,430件であり,前年度末に比べて1,457件増加している。
 その内訳は,有線テレビジョン放送施設14,799件(63.1%),有線ラジオ放送設備6,995件(29.9%)及び電話,ファクシミリ等の有線電気通信設備(以下「一般の有線電気通信設備」という。)1,636件(7.0%)である。
イ.共同設置
 50年度末における有線電気通信設備の共同設置の許可件数は8,560件であり,前年度末に比べて54件減少している。これを許可の内容別にみると次のとおりである。
 [1] 共同業務(有線法第4条第4号)    11件( 0.1%)
 [2] 緊密業務( 〃 第4条第5号) 8,506〃(99.4〃)
 [3] 特定地域( 〃 第4条第6号)    43〃( 0.5〃)
ウ.本邦外設置
 本邦外にわたる有線電気通信設備の設置は,原則として,電電公社又は国際電電以外の者は設置できないが,特別の事由がある場合には郵政大臣の許可を得て設置できることとなっている。
 これにより許可を行った件数は,50年度末現在で4件であり,その内容は次のとおりである。
 [1] 第一太平洋ケーブル
 日本(神奈川県・二宮町)―米国(ハワイ州・マカハ)  9,890km
 [2] 第二太平洋ケーブル
 日本(沖縄県・具志頭村)―米国( 〃    〃 )  9,390km
 [3] 日本海ケーブル
 日本(新潟県・上越市) ―ソ連(ナホトカ)        890km
 [4] 日中ケーブル
 日本(熊本県・苓北町) ―中国(上海市)         850km
(2) 使用の状況
 有線電気通信設備の設置の自由の原則は,設置者がその設備を自己の通信に使用することを前提としているものであるが,その設備を他人の設置した設備と接続して使用したり,他人に使用させたりすることは原則として禁止されており,特別の事由がある場合に,郵政大臣の許可を得て行うことができることとなっている。
ア.接続の許可
 昭和50年度末における許可件数は16件であり,前年度末に比べて増減はない。これを許可事由別にみると次のとおりである。
 [1] 共同業務(有線法第9条第5号)  0件(  0.0%)
 [2] 緊密業務( 〃 第9条第6号) 16〃(100.0〃)
 [3] 特定地域( 〃 第9条第7号)  0〃(  0.0〃)
イ.他人使用の許可
 50年度末における許可件数は254件であり,前年度末に比べて増減はない。これを許可事由別にみると次のとおりである。
 [1] 特定地域 (有線法第10条第 5号)  7件( 2.8%)
 [2] 公共の利益( 〃 第10条第16号)247〃(97.2〃)
(3)特定地域設備
 有線電気通信法上,都市からの距離が遠く,電電公社が公衆電気通信役務を提供することが困難であると認められる地域(一の市町村の区域内にあって,電話加入区域外の地域)は,特定地域として扱われその地域に設置された有線電気通信設備は特定地域設備として位置づけられている。
 この特定地域設備は,前記の(1)共同設置に係るもの43件と前記(2)の他人使用に係るもの7件の合計50件であるが,前年度末に比べて12件の減少となっている。これは,公社電話の普及に伴い特定地域設備の必要性がなくなり,廃止するためである。
(4)事業別の利用状況
ア.一般の有線電気通信設備
 有線電気通信法上届出ることとなっている設備のうち,有線放送設備を除いた設備を事業別にみると,農林漁業510件(31.2%)が最も多く,以下製造業256件(15.7%),サービス業89件(5.4%),運輸業74件(4.5%),建設業74件(4.5%),卸・小売業65件(4.0%),ガス・水道事業21件(1.3%),その他これらに区分できない事業547件(33.4%)となっており,広範囲に利用されている。
イ.有線放送設備
 有線放送設備(有線ラジオ放送設備及び有線テレビジョン放送施設をいう。)は,不特定多数の者(公衆)に一方的に同一番組を送信するための有線電気通信設備であり,一般の有線電気通信設備が両方向を前提としているのに比べ,特殊の用途に限られたものといえる。
 50年度末における有線ラジオ放送設備は7,552件であり,前年度に比べ98件減少している。この内訳は,共同聴取業務又は告知放送業務を行うもの6,052件,街頭放送業務を行うもの1,500件である。告知放送業務のうち,音楽放送を行うものは494件である。
 また,有線テレビジョン放送施設は14,969件であり,前年度に比べて1,320件増加している。このうち,引込端子数が501以上の施設(許可施設)は170件であり,前年度に比べ14件増加している。
ウ.共同設置の設備
 50年度末現在における共同設置の許可件数8,560件について,これを事業別に分けると電気事業4,616件(53.9%),鉄道事業3,399件(39.7%,このうち国鉄が93.1%),製造業284件(3.3%),運輸業60件(0.7%),その他201件(2.4%)となっており,電気事業と鉄道事業で全体の93.6%を占めている。
(5) 有線電気通信設備の最近における利用形態
 有線電気通信設備は,通信方式によってその使用目的が定まっているのが通例であるが,通信技術の進歩,通信需要の変化等に応じて本来の通信方式に別の通信方式を併用して使用するものが多く現われてきている。
 最近における新しい利用形態を示せば以下のとおりである。
ア.有線放送電話回線の多目的利用
 有線放送電話施設は,農林漁業地域を基盤として広く普及しているが,この施設の回線を利用してガス・水道メータの自動検針,農協役場本支所間のファクシミリ,静止画像の伝送,防犯・防災用の遠隔監視等を行う新しい利用形態が検討され,最近一部実用化に供されている。
 この有線放送電話設備を利用したシステムの概念図を示せば,第2-3-6図のとおりである。
イ.有線テレビジョン放送施設の多目的利用
 有線テレビジョン放送施設は,辺地におけるテレビジョン放送の難視聴解消を図るための再送信,都市における自主番組の放送等各種のものが設置されている。この施設は,伝送容量の大きい同軸ケーブルを使用しているところから,本来の有線テレビジョン放送に加えて,防犯・防災システム,教育システム等への利用が行われている。
(ア) ニュータウンにおける利用
 最近建設されるニュータウンの中には,有線テレビジョン放送施設を同時に設置し,一般の放送を行うとともに,そのケーブルを利用して団地内の防犯・防災を行う設備を設置する事例が出ている。
 その概念図を示せば,第2-3-7図のとおりである。
(イ) 教育への利用
 最近の視聴覚教育の多様化に伴い,有線テレビジョン放送施設を教育に利用する事例が出ている。たとえば,学校の授業風景を放送しながら視聴者の質問にも答えるシステムである。
 その概念図を示せば,第2-3-8図のとおりである。
ウ.極微小電力テレビジョン放送局への利用
 最近,辺地におけるテレビジョン放送の難視聴解消を図るものとして,有線テレビジョン放送施設等の有線電気通信設備に連接して極微小電力テレビジョン放送局(通称「ミニサテ」という。)を利用する方式が開発され,実用化されている。これは,辺地の地形的特性から散在している小集落を対象として難視聴解消を図ろうとするもので,一般のサテライトの建設にかえて遠く離れた地点にある有線テレビジョン放送施設の受信用アンテナで受信した放送波を同施設の幹線を利用してミニサテまで伝送し,ミニサテから再送信するものであり,安価にできるものとして,今後広く普及することが予想される。
 その概念図を示せば,第2-3-9図のとおりである。
エ.電力線利用の通信システム
 電力会社は,電力を送配電するためのぼう大な電力線を架設している。特に配電線はすべての家庭に入っているところから,それを通信線として利用することが相当以前から検討されており,家庭用電力量計を自動的に検針するテレメータシステムの実験もその一例である。
 その概念図を示せば,第2-3-10図のとおりである。
オ.多心ケーブル利用の水道検針システム
 最近におけるニュータウン建設は,建物と同時に各種の設備を設置する傾向が強まっている。たとえば,生活必需品である水道の使用量を自動的に検針する水道検針システム等もその一つであるが,八王子市の館ヶ丘団地の水道検針システムは,多心網ケーブルを利用しているところに特徴がある。
 その概念図を示せば,第2-3-11図のとおりである。
カ.ごみ空気輸送設備遠隔監視制御システム
 最近,住民生活に密接な関係のあるごみ処理設備に有線電気通信設備が用いられている例を示す。これは団地内において住宅棟とごみ処理施設との間に輸送管を設け,住宅棟のごみ投入口に棄てられたごみを空気流で自動的に処理施設に集めるものであるが,この設備の制御,監視に4線式の有線電気通信設備が用いられている。
 この概念図を示せば,第2-3-12図のとおりである。
キ.公衆電気通信設備と接続してシステムを構成する有線電気通信設備
 最近,電電公社の専用線や公衆通信回線に自己の設置する有線電気通信設備を接続することによって一つのシステムを構成するものが急速に増加している。たとえば,警備保障会社の警報システムや多摩ニュータウンにおける水道検針システムがそれである。
 その概念図を示せば,第2-3-13図及び第2-3-14図のとおりである。
ク.無線設備と一体として構成される有線電気通信設備
 この種の設備は,電波伝播条件の悪い地下街や構内において,有線電気通信設備である漏洩同軸ケーブルをアンテナの代わりとして用い,無線設備と組み合わせて通信を行うものであり,従前から地下鉄の移動通信や高速道路のトンネル内の放送に活用されてきたが,最近は地下街における防災連絡システム,競技場内や演舞場内における場内放送システム等が出ている。
 地下街における防災システムの概念図を示せば,第2-3-15図のとおりである。

第2-3-6図 有線放送電話設備の多目的利用

第2-3-7図 ニュータウンにおける防犯・防災システム

第2-3-8図 教育用映像システム

第2-3-9図 極微小電力テレビジョン放送局への利用

第2-3-10図 電力線利用のテレメータシステム

第2-3-11図 多心ケーブル利用の水道検針システム

第2-3-12図 ごみ空気輸送設備遠隔監視制御システム

第2-3-13図 専用線利用の防犯・防災システム

第2-3-14図 公衆通信回線利用の水道検針システム

第2-3-15図 地下街における防災用システム
 

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