昭和51年版 通信白書

本文へジャンプ メニューへジャンプ
トップページへ戻る
操作方法


目次の階層をすべて開く 目次の階層をすべて閉じる

2 記録通信の特質と動向

(1) 記録通信メディアの機能
 記録通信が文字,記号等による通信として,音声通信,映像通信と異なる性質,機能を有することは,前述したところから容易に推察されるが,現代のように多種の通信メディアが整備された状況においては,記録通信メディア自体も多様化し,かつ質的な変化を免れえない。
 現在,社会的に確立された記録通信メディアは,パーソナル通信として郵便,電報,加入電信,ファクシミリ通信,マス通信として新聞,雑誌が上げられる。
 郵便は,距離を隔てた2人の人間相互間のパーソナル通信メディアの原型である。歴史的に最も古く,かつ,現在においても電話と並び社会的に最も整備されたメディアである。しかし,現代の郵便の利用形態をみると,ダイレクトメールのように画一的な印刷物が受け手に送達されるなどマス通信化したものが増加している。
 電報は送り手の文字情報を符号化し,これを電気信号により送出し,再び文字に再現して受け手に伝達する。伝送において電気通信を利用することにより,郵便に比べ時間,距離の障害を克服したが,電話,データ通信等の発達により現在では慶弔用など儀礼的な利用が過半数を占めている。
 加入電信は,電話の即時性と電報の記録性を兼備するパーソナル通信である。任意の加入電信加入者との通信が可能であり,英字,カナ文字,数字及び記号を伝送することができる。
 ファクシミリ通信は,送り手の文字,記号等により情報のハードコピーが電気通信により直接受け手に送達される形態のパーソナル通信である。ハードコピーであるため郵便のもつ現物性を欠いているが,郵便における時間,距離の障害,電報における符号化,配達の障害を克服している。
 新聞,雑誌は,マス通信を目的とする記録通信であり,配達,店頭販売により多数の受け手に同一の大量情報を伝達する。新聞はテレビジョン放送,ラジオ放送等電気通信を使ったマス通信が出現する前は,最も迅速かつ普遍的な存在であったが,現在ではこれらと併存する形で,記録性,解説性により大きな特色を発揮している。
(2) 記録通信メディアの動向
 上記の記録通信メディアのうち,郵便,電報は明治初期において国家興隆の基盤形成の一環としてその制度化が図られ,創始後急速に全国ネットワークを確立し,現在に至るまで100年有余にわたり最も整備されたメディアとして機能してきた。また,新聞も明治時代以降本格的に普及し,唯一,最大のマスメディアとして大きな社会的役割を演じてきた。これら三つのメディアは,既に明治時代に全国普及を達成したものであり,言わば成熟した記録通信メディアといえよう。
 最近における郵便,電報,新聞の利用動向をみると,郵便,新聞は緩やかな上昇を続けており,電報は年々減少の傾向をたどっている(第1-3-2図参照)。すなわち,これらメディアは,若々しい青年期の成長の段階を過ぎて,壮年期の安定的な成長あるいはそれを過ぎた段階にあることが示されていると言えよう。
 これら伝統的メディアに対し,相対的に新しいメディアである加入電信,ファクシミリ通信の最近の伸びには目覚ましいものがある。加入電信は昭和31年度に実施され,当初はメッセージ通信としての利用が中心であったが,事務合理化の気運に乗って,伝票伝送やテレックス・オンライン・システムとしての利用分野が開拓され,急速な発展を遂げてきた。また,我が国におけるファクシミリ通信は,その始まりを昭和3年にさかのぼることができるが,普及面では長い間停滞状況にあった。最近,技術革新によるファクシミリ装置のコスト・ダウン,公衆電気通信法の改正による公衆通信網の開放等を契機として,その成長速度が一段と速くなっている。これらはまさに成長期にあるメディアと言えよう。
 更に,このような記録通信の分野に新しいメディアの胎動が感じられる。郵便と電気通信を結合した新しいサービスである電子郵便は,米国において急成長を遂げつつある。また電波によって各種の情報を送り,多数の受信者の端末に印刷物として出力するファクシミリ放送の構想も新たな記録通信マスメディアとして,その可能性が各方面で研究されている。
 記録通信メディアの動向は以上にみてきたとおりであるが,現在利用されているメディアのなかで,郵便と新聞がその情報量の絶対的な大きさ,国民生活との緊密さにおいて,依然として圧倒的な力を有していることはいうまでもない。しかし,長年にわたり郵便,電報,新聞等限られたメディアの占めてきた記録通信の分野に新たなメディアの台頭が目覚しいことは前述のとおりであり,更に,将米における技術進歩,社会的需要の多様化等を考えるとき,これら新たなメディアが今後の記録通信の発展に一層強い影響を及ぼすものと予想され,その特質あるいは可能性を有効に開花させて行くことが重要な課題であろう。

第1-3-2図 最近における記録通信メディアの推移
 

第1部第3章第1節1 多様化する通信メディア に戻る 第1部第3章第2節1 転換期を迎える加入電信 に進む