昭和51年版 通信白書

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4 衛星通信の研究

(1) 通信方式
 電波研究所鹿島支所においては,離島通信,移動通信あるいは災害通信等の小規模地球局を対象とする衛星通信に有効と考えられるSSRA(周波数拡散ランダム接続)通信方式を開発し,その早期実用化のための実験研究を進めてきた。50年度は前年に引き続き更に通信容量の増大を図るため,情報変調段のデジタル化,信号対雑音比の改善を行うとともに同期方式等について検討が進められた。
 SSRA通信方式は,附加装置(SSRR)を用いることにより,情報伝送と同時に衛星までの精密な距離測定ができる特徴を有しているので,このSSRR装置を時刻同期実験用に改造し,50年8月には,米国側(NASA,米海軍天文台)との密接な協力のもとに,ロスマン局との間で大陸間時刻同期を実施した。同システムによる同期方法では,約2×10-9秒の精度で比較を行うことが実証され,結果はCCIR中間会議にも報告された。
(2) ATS-1衛星の管制実験
 ATS-1衛星の管制実験は,52年度に打上げが予定されているCS,BS等についての静止衛星運用の基礎的技術修得を目的とし,49年6月に米国NASAとの間で取りかわした合意に基づき,電波研究所鹿島支所及び電電公社横須賀電気通信研究所衛星通信実験所で実施された。
 実験の内容は,軌道制御,搭載用トランスポンダの切換,ハウスキーピングデータの取得が主なものである。春分及び秋分の季節には,衛星が食に入る時期があり,この間には衛星内の電圧,電流の監視,トランポンダの運用・休止等の措置がとられた。また,衛星運用の基礎となる各種ソフトウェアは,NASAから供与を受け,電波研究所内の電子計算機に適合するよう修正作業が進められ,軌道要素,軌道修正の計算を実施している。
(3) 衛星の高精度姿勢検出・制御
 我が国の宇宙開発もようやく各種衛星の実用化時代に入りつつある。このような現状において,打上げられた衛星を通信,科学探査等の目的により効果的に利用するために姿勢・位置の精密測定並びに制御は重要な課題である。
 実用衛星,科学衛星とその数が多くなり,また通信需要の増大と通信形態の多様化に伴い,衛星通信においてもより高い周波数帯の開発が世界的すう勢となっている。ミリ波帯による高利得アンテナが用いられるようになると,送受信を効率よく行い,かつ混信を少くするために,従来以上に精度のよい姿勢制御と正確な位置の決定が必要となる。高精度の姿勢制御ができるようになれば,更に電波ビームを狭めることが可能になり,限られた周波数帯での電波の有効利用にもつながる。
 このため,電波研究所では,レーザを利用した衛星の三軸姿勢決定方式を提案し,検討してきた。剛体としての衛星は,三つの独立変数(回転角)を決めれば,完全にその姿勢が決まる。従って,三軸姿勢制御も可能となる。このシステムでは,衛星にレーザ受信装置を搭載し,地球局からレーザ光を送信し,これを受信して高精度の姿勢決定を行うものである。
 このシステムの特徴は,高精度のみならず,一方向からのレーザ光受信で姿勢の三要素を決定してしまうことであり,未だ諸外国でも行われていない新たなもので,我が国の独創的な姿勢決定システムとして開発を進め,早期実用化を推進するものである。
(4) ミリ波通信
 現在,国際通信の大半は,衛星通信によって賄われているが,飛躍的に増大する通信の需要に対処するためには,マイクロ波,準ミリ波に加え,ミリ波の利用が不可決である。しかし,このミリ波帯を衛星通信に利用するためには,気象条件と減衰との関係を明確にしなければ,要求される通信品質を満足し,かつ,経済性の高い通信回線を確保することはできない。このため,電波研究所では48年度から気象研究所と共同でミリ波の減衰と降雨構造との関連に関する総合研究を実施してきた。
 50年度は,この最終年度にあたり,富士山頂及び御殿場にそれぞれミリ波ラジオメータを設置し,約半年間にわたり高度ダイバーシティのための同時観測を,また,気象研究所では3.2cmのレーダにより,降雨の垂直構造の観測を同時に実施した。これらの実験結果から減衰10dBにおける減衰時間は,山麓に比べ山頂では約7分の1程度であり,相当の効果が期待されることがわかった。
 なお,53年度に打上げが予定されている実験用静止通信衛星(ECS)では,ミリ波による通信及び伝搬特性の調査等を行うこととなっている。
 

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