昭和51年版 通信白書

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第5節 電磁波有効利用技術

1 新周波数帯の開発

(1) レーザ通信
 近年の著しい電気通信需要の増大に対し,ミリ波帯より周波数の高い光領域のレーザ通信の応用について各種の研究開発が進められている。
ア.大気中のレーザ通信
 電電公社では,4MHzのカラーテレビジョン信号と音声信号を同時伝送できる大気中におけるレーザ通信装置を試作し,実験を行った。
 この装置は,半導体レーザの光源とアバランシュフォトダイオードの受光素子より構成されており,音声信号は時分割で4MHzのカラーテレビジョン信号に多重化され,この信号がパルス位置変調により伝送される。
 レーザ波は降雨や霧による減衰が大きいという性質を持っているが,運用時間の大部分は晴天であり,減衰が小さいことを考慮し,それぞれの天候の減衰に対応した出力を出すよう,また半導体レーザの寿命を延ばすため,この装置は自動出力制御がなされている。
 実験では病院と学会会場を3kmのレーザ光線と7kmの11GHz回線で結び,手術場面をカラー伝送したが,受信画像の劣化はほとんど認められず,47dBの規格値を十分満足する良好な信号対雑音比が得られた。
イ.海中のレーザ通信
 海洋開発の一環として,レーザを利用し海中での各種の情報を海上へ高速,広帯域に伝送するシステムが強く要望されてきた。
 電波研究所では現在の研究の動静,技術開発状況,実用の可能性等を検討した結果,大陸だなから海面上までのレーザ光による広帯域伝送システムの開発を行うこととした。
 49年度行ったアルゴンレーザの海中伝搬に続いて,50年度は水槽を使ったモデル実験を行い,両者の結果を比較検討した。また,水中における偏光保存性,偏光多重通信の可能性,散乱光の時間遅れ等の実験的あるいは理論的検討を行った。
 51年2月横須賀市久里浜港内で,海水レーザスコープの探知能力を調べる野外実験を行った。このレーザスコープは,YAGレーザの2倍高調波(5,320A)を使用し,レンジゲート方式を採用した。実験結果によると,一般に使用されている水中テレビの約4倍の探知能力をもつことがわかった。
(2) 800MHz帯の陸上移動通信
 近年における陸上移動業務用周波数需要の急激な増大に対処するため割当周波数帯域の縮小により割当可能周波数の倍増を図ってきたところであるが,なお今後も予想されるし烈な需要に対処するためには新たな周波数帯を開発することが是非とも必要である。
 このような背景から,47年電波技術審議会に800MHz帯を陸上移動業務に利用する場合の技術的条件について諮問し,同審議会では800MHz帯の電波伝搬特性,都市雑音,無線機器の技術的諸条件,有効な利用形態等について検討,審議を重ねた結果次のとおり結論を得て51年3月に答申を行った。
ア.800MHz帯は,150MHz帯や400MHz帯に比べて伝搬損失は増加するが,都市雑音による影響が小さいこと,フェージングの大きさに大差ないことなどによって電波伝搬上陸上移動業務に利用する場合特に不利な点はないこと。
イ.有効な利用形態としては,小ゾーン大容量方式,大ゾーンシングルチャンネル方式及び一方向通信方式が適当であること。
ウ.周波数の安定度は送受あわせて5×10-6程度とすることが望ましく,その他標準的な無線機器の規格値を示したこと。
エ.変調方式としては,他の周波数の移動通信方式と同様に周波数変調方式が適当であり,チャンネル間隔は,周波数有効利用の見地から無線機器の特性等を考慮し25kHzとすることが望ましいこと。
 この答申に基づき,郵政省としては今後陸上移動業務全般にわたる周波数の需給状況,経済性,効率的な置局条件等について調査検討を進め移動業務に適した最後の周波数帯といわれる800MHz帯の有効利用を図っていくこととしている。
(3) 準ミリ波帯大容量ディジタル無線中継方式
 我が国の公衆通信における長距離マイクロウェーブ回線としては4,5,6GHz帯方式があり,2,11,15GHz帯と併せて50年3月現在,市外電話回線6,200万回線キロメートル,テレビ中継回線6万システムキロメートルに達している。今後,データ通信及び画像通信等の新しい通信形態を含め,公衆通信全般の需要は大幅な増加が予想される。
 これらの需要増加を満たすには,現在の各方式の拡大強化のみでは対処しきれず,大容量長距離通信のための新しい周波数帯の開発が必要とされる。
 このため我が国では準ミリ波帯の利用開発を進めることとなり,1971年宇宙通信に関する世界主管庁会議において,20GHz帯の周波数帯を宇宙と地上とで共用することを提案し,我が国のみが,17.7〜21.2GHzの3.5GHz幅のすべての周波数帯を宇宙と地上で共用することが認められた(世界的には19.7〜21.2GHzは宇宙業務の専用)。
 また,技術的問題については,45年に電波技術審議会に対して「準ミリ波以上の周波数を使用する電波の利用開発に関するもののうち,固定地点間情報伝送の技術的諸問題」について諮問し,同審議会で3年にわたる審議の結果,49年3月準ミリ波帯の電波伝搬特性及びこの帯域における長距離大容量ディジタル伝送システムに必要な技術基準について答申が行われた。
 これを受けて郵政省では50年度に17.7〜21.2GHz帯の周波数割当方針,技術基準及び免許方針を策定した。この結果,世界に先がけて準ミリ波帯無線方式の実用化が図られることとなった。
 この方式の主な特徴は次のとおりである。
 20GHz帯は波長が短いので,小さな空中線で十分な利得を得ることができる。また伝送周波数帯域を広くとれることから,データ通信,画像通信等の大容量通信に適しているが,その反面,降雨による減衰が大きいので,一定以上の伝送品質を常時確保するために中継間隔なマイクロウェーブ方式の10分の1以下(標準3km)と小さくする必要がある。この中継間隔が短いことによる中継局数の増加に対しては,伝送容量を400Mb/s(1無線回線当たり電話換算5,760回線)と大きくして単位伝送容量当たりのコスト軽減を図るほか,ディジタル方式の採用により,伝送品質の劣化を抑え,また,近年発達のめざましい電子技術の利用によって十分経済性のあるシステムを構成することができる。
(4) 250MHz帯自動内航船舶電話方式
 船舶電話は沿岸を航行する船舶と陸上の一般電話加入者間,あるいは陸上局を介して加入船舶相互間の公衆通信サービスを行うものであり,使用周波数帯は150MHz帯のものと250MHz帯のものがある。通信方式は両者とも同時送受話のできる複信方式であり,交換方式は現在のところ,交換手を介しての手動交換方式で実施している。加入船舶数は50年度末で150MHz帯のもの7,058隻,250MHz帯のもの1,305隻となっているが年々増加の一途をたどっており,58年度末には約20,000隻が加入するものと見込まれている。この対策として自動内航船舶電話方式の実用化が検討されている。
 本方式は,従来の船舶交換台経由の手動接続方式から加入者ダイヤルによる自動接続方式とし,接続時間の短縮による周波数使用効率の向上とサービスの改善をねらいとしたものである。
 使用周波数帯は現在の150MHz帯では新規に割当ての余地がなく,激増する需要に対処できないと判断されるため,更に250MHz帯の追加割当てを予定している。この方式の移動機は24チャンネル切替えであって,従来の方式より更にマルチ・チャンネル・アクセスの効果を高め無線回線の使用効率を向上させている。
 自動化のために,新たに採用される技術としては,船舶位置の自動検出及び登録,船舶に対する在圏位置の自動探索等があり,精度の高いS/N検出,高信頼度の無線回線制御信号の授受等の無線技術に電子交換機による自動交換接続,位置登録,課金処理等の交換技術を有機的に組み合わせることによって,高度な移動無線システムが可能となる。
 本方式の実用化により,従来の手動方式にみられた船舶の在圏海域を想定しなおすといった手間を省き,サービス性が向上すると同時に,無線回線の無効保留も減少し,その有効利用度が向上することとなる。
(5) 都市内受信障害対策用SHF帯の放送
 都市内受信障害はテレビジョン放送が良好に受信できていた地域に高層建築物等の障害物が出現したため,電波がさえぎられたり,反射したりすることによって生ずるものであり,画面にスノー・ノイズと呼ばれる細かいはん点が現れたり,ゴーストと呼ばれる多重像が現れたりすることである。
 50年度末現在,高層建築物等によって生じているテレビジョン放送の受信障害世帯数は全国で約46万世帯と推定されており,今後この数はますます増加するものと思われる。
 テレビジョン放送難視聴対策調査会(50年8月)の報告によれば都市内受信障害解消の技術的方策としては,現在,主として有線による共同受信施設が用いられているが,このほか多地点送信,微小電力放送局の設置,送信アンテナの高さの変更,SHF帯放送・衛星放送の導入等についても検討することが望ましいと述べている。
 一方,電波技術審議会では,テレビジョン放送の技術的諸問題のうち,SHF帯(11.7〜12.2GHz)の放送に関して,その考えられる用途とそれに適する方式及び実現可能と考えられる時期について答申すべく,48年度から調査審議を行っている。
 これまでの審議経過をまとめると,SHF帯の放送は,既存のVHF及びUHF帯の放送に比較して指向性の鋭い受信用アンテナを用いることが可能であるため,高層建築物等に起因するゴースト障害等の解消方策の一つとして有効である。従って,都市内受信障害対策用SHF帯の放送の早期実現を目指して更に実際的な観点から検討を進める必要があるとされている。
 51年度は,都市内受信障害対策用SHF放送の早期実用化のために必要な技術基準等の確立を図ることとしており,このため,51年2月,NHKがNHK放送センター屋上に開設した実験局により,多チャンネル放送の場合における送受信設備の安定度及び送受信システム,SHF放送電波の所要電界強度等について,調査を開始した。
 この実験における放送方式の概要は,つぎのとおりである。
〔概要〕
 周波数の範囲   11.823〜11.901GHz(7CH)
 電波の型式    A5C(映像),F3(音声)
 空中線電力    300mW(Pm)/CH(映像),50mW/CH(音声)
 送信空中線    型式:パラボラ(30cm×40cm),利得:25.5(GiS)
 受 信 機    SUコンバータ(UHF帯)
 受信空中線    パラボラ(30cmφ)
 

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