平成15年版 情報通信白書

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第1章 特集「日本発の新IT社会を目指して」

(5)我が国企業の競争力強化に向けた取組方向

日本型経営システムの発展に向けて

1 日米における経営システムと情報化投資の推移

 1980年代は、長期雇用・年功序列制度等による従業員間の強い情報共有、従業員からのボトムアップによる業務改善運動、メインバンク制度による企業間・グループ間の強い連携等、企業内・企業間の協業型モデルを特徴とする日本型経営モデルが世界各国に輸出された。IMDレポートによると、当時、我が国の国際競争力は世界でトップであった。
 1990年代は、米国企業が我が国企業の強みを徹底的に研究し、特に情報システムを活用する視点から、日本企業の強みの源泉と言われたジャストインタイム、カンバン方式、改善運動等のシステムを吸収しつつ、情報化投資を積極的に行い、経営の効率化、高付加価値化を図った。この結果、1990年以降、米国の国際競争力はトップを維持している。他方、この間、我が国企業は、バブル崩壊以降の経済低迷の下、設備投資を抑制せざるを得なかったこと等により、米国に比べ情報化投資は進展せず、企業の経営効率化、高付加価値化等が十分進まなかった。国際競争力の低下の一因は、この点にもあると考えられる(図表1))。
 今後、我が国企業が再び国際競争力を向上させるためには、日本型経営システムのプラス面を大きく発展させるとともに、米国企業が情報化投資において実現してきた強みを日本型経営システムに融合させることが必要であると考えられる。

 
図表1) 日米企業における経営システムと情報化投資の動向

図表1) 日米企業における経営システムと情報化投資の動向
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2 我が国企業が行うべき取組の方向性

 我が国企業において情報化投資の効果発揮が限定的である要因は、情報化投資の目的意識、社内外での情報システムの連携及び情報化投資の効果発揮に向けた条件整備への取組が十分でないことにあり、今後我が国企業が情報化投資を行うに当たり、これらの克服が必要である。
 第1に、情報化投資の目的意識については、コスト削減・業務効率化ではむしろ我が国企業が米国企業より優っている面があり、この点は継続する必要がある。その上で、売上拡大・高付加価値化を情報化投資の目的として位置付け、企業の情報化投資がこれらの目的にも向かうことが必要である。
 第2に、社内外の連携は、むしろ日本企業の方が得意としていた分野である。ただし、従来は会議や根回しなどの密接な人間関係に依存していたため、そのことが逆に情報システムの連携を阻害していた可能性がある。今後は、従来からの人間関係だけでなく、情報システムも活用し、全体最適の観点から社内外の連携を図ることが必要であると考えられる。
 第3に、情報化投資の効果発揮に向けた条件整備については、経営トップのリーダーシップの下、企業経営全般と情報化投資の整合性を図り、計画(PLAN)・実行(DO)・確認(CHECK)・行動(ACTION)のPDCAサイクルを徹底することが必要である。特に、我が国企業が米国企業に比べて実施率の低い1)情報システム導入前後の投資対効果の検証、2)発現効果の企業経営への再活用、3)情報システム運用に合わせた業務・組織・制度の見直し、選択と集中(事業・業務及び情報システム)を改善することが必要である。これらの取組の中には、日本型経営システムの特徴である業務改善運動を応用することで、成果をあげることが可能なものもあり、今後、我が国企業は、従来なかった取組を日本型経営システムに取り込み、日本型経営システムのプラス面を大きく発展させることが必要であると考えられる(図表2))。

 
図表2) 情報化投資の効果発揮に必要な要素(日米の成功企業から抽出)

図表2) 情報化投資の効果発揮に必要な要素(日米の成功企業から抽出)

3 我が国企業による効果発揮のための取組実施事例

 我が国企業においても、情報化投資の効果発揮に向けた条件整備を進め、成果をあげている企業がある。ここで取り上げる3社は、経営トップのリーダーシップの下、企業経営全般と情報化投資の整合性を図り、PDCAサイクルを徹底することで、1)間接部門から直接部門への人員のシフト、2)業務品質の向上、3)業務の高度化・スピードアップ、4)電子情報の活用、ペーパーレスの推進(コスト削減、環境対策)等の高い効果を発揮している。そこで、3社が行っている特徴的な取組を中心に紹介する。

(1)「経営トップの強い関与」「業務の積極的な見直し」を行っている事例

 事務機器製造・販売会社のR社では、社長を中心とした経営トップの業務革新への強い意志の下、全体最適化された業務プロセスの達成を目指し、平成6年からITを活用した全社的な業務革新活動(IT/S活動:Information Technology & Solution)に取り組んでいる(図表3))。IT/S活動は、実際に情報化投資効果を発揮するためには業務プロセスの改善が不可欠という共通の認識の下、社員全員で行っている業務革新活動である点に特徴がある。R社では、IT/S活動を推進するに当たって、1)業務そのものの必要性の検討、2)情報通信を活用した業務プロセスの効率化・省力化、3)付加価値の創造の検討を行い、また、業務プロセスの改革においては、1)目的の明確化、2)事実の正確な把握、3)ゼロベースからの見直しを重視している。社員から提案された業務革新案は、経営戦略や部門間の連携を踏まえ取捨選択した上で実施されており、平成14年度までに約800件のテーマが完了している。

 
図表3) R社のIT/S活動の推進イメージ

図表3) R社のIT/S活動の推進イメージ

(2)「定量的な投資対効果の検証」「発現効果の企業経営への再活用」を行っている事例

 警備サービス業のS社では、情報システム導入時に、コスト削減・業務効率化の度合いを定量的かつ緻密に把握し、金額換算することによって投資回収期間の目安をつけている。これにより、経営トップに適切な投資判断材料を提供し、無駄な情報化投資を抑えることが可能となっている。
 また、S社では、定量的に把握される効果を企業経営に更に活用するために、情報システム導入と同時に、想定される効果を先取りする形で組織や業務の改革を行っている。情報システムの導入効果に人員削減効果が想定される場合には、情報システム稼動当日に想定される削減効果分の人員を高付加価値業務へ配置転換することで、新たな収益機会を増やす取組等を行っている(図表4))。

 
図表4) S社のシステム導入に合わせた発現効果の再活用及び業務・組織変革の取組イメージ

図表4) S社のシステム導入に合わせた発現効果の再活用及び業務・組織変革の取組イメージ

(3)「事業・業務の選択と集中」「導入、効果のサイクルの徹底」を行っている事例

 飲食店チェーンのY社では、事業の選択と集中の観点から得意分野の牛丼販売をコア事業とし、経営資源の集中を図っている。同様に、情報化投資においても選択と集中が明確に行われており、競争力に直接結びつく店舗や物流のシステムは独自に開発を行い、自社業務に最適化されたシステムを実現する一方、経理・会計等の他社との差別化が不要な分野では、パッケージソフトの活用等により投資額を削減している。
 また、Y社では、情報システムの導入前にその効果を仮説立案し、検証している。その仮説は、一部の店舗での試験導入などを通じて検証され、仮説立案と検証作業が繰り返されることで、現場に即した実効性のあるシステムの導入を実現している。さらに、全社に導入した後も、実際の効果を検証することにより、次の業務改革、情報化投資へと結び付けている(図表5))。

 
図表5) Y社の情報システム導入に対する取組イメージ

図表5) Y社の情報システム導入に対する取組イメージ

 
参考:「企業経営におけるIT活用調査」
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