平成15年版 情報通信白書

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第1章 特集「日本発の新IT社会を目指して」

はじめに

我が国の強みを生かし、経済・社会構造を改革〜フロントランナー(先導役)の段階に移行

 本白書の特集テーマは、「日本発の新IT社会を目指して」である。我が国の情報通信の現状をデータに基づき分析することにより、今後、我が国が目指すべき新IT社会の方向性を探ることをねらいとしている。新IT社会像は、我が国の目標であると同時に我が国が世界に対して発信していくIT社会像でもある。

1 日本発の新IT社会を目指す必要性

(1)我が国の抱える課題

 現在、我が国は、経済、社会のいずれの面においても、大きな課題に直面している。経済面では、経済低迷が長期化し、経済成長率は先進主要諸国の中で最低レベルである(1-2-1参照)。国際競争力もIMD(国際経営開発研究所:International Institute for Management Development)が発表しているランキングにおいて、我が国は1989年から5年間連続で第1位であったが、2003年には第11位に低下している(図表1))。社会面では、高齢化が急速に進展しており、平成17年(2005年)には世界一の高齢国になると予想されている(図表2))。

 
図表1) 世界競争力ランキングの推移

図表1) 世界競争力ランキングの推移
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図表2) 世界の高齢化率の推移と予測

図表2) 世界の高齢化率の推移と予測
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 他方、我が国は教育水準、技術力等に高い潜在力を維持し、優れた文化や芸術を持っている。OECDが行った生徒の学習到達度調査(PISA)によると、我が国の数学的リテラシー及び科学的リテラシーは、1位グループに属している。また、8割以上の国民が我が国は優れた文化や芸術を持っていると認識している(内閣府「平成12年社会意識に関する世論調査」)。
 我が国が、こうした潜在力を活かして抱えている課題を解決していくには、これまでの社会経済構造の改革が不可欠であり、情報通信はこうした構造改革の実現に大きな力となる。

(2)我が国の情報通信の状況

 これまでインターネットをはじめとする情報通信の世界は、米国がリードしてきたが、従来のIT産業やパソコン中心のITインフラは、ITバブルの崩壊やデジタル・ディバイド(情報格差)の問題等、一部で限界や問題を露呈している。
 他方、我が国は、平成13年1月に策定したe-Japan戦略において2005年までに「世界最先端のIT国家となることをめざす」という目標を掲げ、官民双方で戦略的な取組を行ってきた。その結果、ブロードバンド利用環境の整備等の点で我が国はIT先進国にキャッチアップするだけでなく、低廉なブロードバンド料金や光ファイバの提供、携帯インターネット等のモバイル通信の分野では世界をリードする実績を挙げている。我が国は、情報通信分野において、キャッチアップ(追いつく)の段階からフロントランナー(先導役)の段階に移行しつつある。
 これらの状況を踏まえると、今後、我が国はその強みを活かし「日本発の新IT社会」を官民一体で実現し、我が国が抱える経済社会的問題を克服していくことが必要であると考えられる。

2 分析の視点と分析結果の要約

 以下、本特集では、第1節はインフラ面、第2節は経済・企業面、第3節は生活・社会・行政面、第4節は文化・コンテンツ(インターネットを流通する情報内容)面、第5節は情報セキュリティ(インターネットの安全性)面から、それぞれ「日本発の新IT社会」の方向性について分析を行っている。特に、我が国の情報通信分野の特徴(優位性と課題)、我が国の経済・社会の発展に情報通信が果たしうる役割、情報通信インフラの整備が進む中で実利用を妨げる課題については、国際比較や定量的な分析を行い、重点的に分析を行っている。ここで、その分析結果について、要約すれば以下のとおりである。

(1)我が国の情報通信分野の特徴

 我が国は、情報通信インフラ面では世界をリードしつつある。例えば、ブロードバンド料金は世界で最も低廉であり、携帯電話のインターネット対応率は世界第1位、第3世代携帯電話の契約数は世界第2位である。また、我が国及び海外の情報通信研究者を対象に行った情報通信技術の国際比較調査等において、情報家電、モバイル端末、光通信等の技術力は欧米より優位にあると認められ、次世代インターネットプロトコル(IPv6)の実用化も我が国が先行している。これらの優位性を活かし、世界に先駆けて「いつでも、どこでも、誰でも利用可能なネットワーク」(ユビキタスネットワーク)社会を実現し、このモデルを世界に向けて発信すれば、我が国の国際競争力の確保や国際貢献に資すると考えられる。
 我が国企業のIT活用も進展しているが、米国企業と比較すると、我が国企業の情報化投資額の絶対額や伸び率は低い水準にある。情報化投資の効果も、売上拡大・高付加価値化の面では限定的である。この背景には、我が国企業では情報化を効率化の手段としてとらえ、成長・競争力強化の源泉としてとらえていないこと、情報システムの企業内、企業間での連携(全体最適化)が十分でないこと、情報化投資に併せた業務・組織改革等の取組が不十分であることがあり、これらの克服が今後の課題である。

(2)我が国の経済・社会の発展に、情報通信が果たしうる役割

 我が国情報通信産業は、今後大きく成長し、低迷する我が国経済の活性化に寄与する。例えば、ブロードバンド市場は今後5年間で5.1倍に成長し、平成19年(2007年)に約10兆円に達すると予想される。また、情報通信を活用した新たなシステムを実現することにより、人々が抱える社会的な不安や課題を解消、軽減することが可能となる。例えば、省エネモニタリングシステムは全国の家庭電力の消費量を約5%削減し、食品トレーサビリティ(履歴管理)システムには約1,000億円の潜在ニーズがあると推計される。
 今後、我が国経済を牽引する新たな成長産業の育成や社会システムの変革に向け、我が国が優位にあるIT基盤や技術力を活かしたビジネスの振興やアプリケーションの開発を推進していくことが必要である。

(3)情報通信インフラの整備が進む中で、実利用を妨げる課題

 インターネット利用格差の最大の要因は世代であり、インターネット利用者におけるブロードバンド利用格差の最大の要因は都市規模である。今後、高齢者等に優しいインターネット端末の開発・実現、利便性を実感できるアプリケーション・コンテンツの開発、ブロードバンドサービスの地理的格差の是正が必要である。
 平成13年におけるインターネットコンテンツ市場の市場規模(約2,000億円)は、コンテンツ市場全体(約11兆円)の2%にとどまっている。今後、インターネットコンテンツ市場を拡大していく上で、価格面とコンテンツの充実が課題となっている。
 情報セキュリティの被害額は、企業は約3,500億円、個人は約400億円に達すると推計される。今後、情報セキィリティ対策を充実するため、個人では情報セキュリティ知識の向上が、企業では対策の検証・見直しが必要である。

 

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