放送のデジタル化が完了し、高精細なハイビジョン放送や双方向サービスが利用可能な高度なインフラが整備され、今後はそれらを活用したデジタルならではの新たな放送サービスの普及を進めていく段階にある。一方、既に、現在のハイビジョン(2K)の画面画素数(約200万画素)の4倍、16倍に相当する「4K」、「8K」と呼ばれる、より高精細な映像技術を活用した次世代の放送の実現に向けた取組が、我が国の放送関連産業の競争力強化を図ることを目的に、官民一体となって進められている(図表1-2-3-33)。
4K/8Kの高精細技術は、テレビ、放送にとどまらず、デジタルシネマやデジタルサイネージ(電子看板)等への広がりも期待できる上、関連機器やコンテンツ制作等のノウハウの輸出にも繋がる可能性を秘めている。韓国88、欧米等諸外国の事業者においても積極的な取組が進んでいるところである。
高精細技術に強みを持つと言われる我が国において、具体的なサービスを早期に実用化し普及させることにより、放送関連産業の技術力及び国際競争力の確保を図り、技術や製品、ひいては日本文化等の輸出につなげていくことが期待されている。
総務省では、「ICT成長戦略会議 放送サービスの高度化に関する検討会」において、4K/8K、スマートテレビ等次世代の高度な放送サービスの早期普及に向けた方策について検討を進め、本年5月31日にとりまとめを行った89。その中で、4K放送については2014年(ブラジル・ワールドカップの開催年)に、8K放送については2016年(リオデジャネイロ・オリンピックの開催年)に、それぞれ試験的な放送を開始することを目指すロードマップが示された(図表1-2-3-34)。
高精細な映像サービスの普及状況としては、既に映画やゲームの分野では一部コンテンツが4K化しており、映画館向けの業務用プロジェクター・撮影カメラ・ディスプレイ等の機器についてはメーカー各社から対応製品が発売されつつある。また、民生用のディスプレイについては主要な端末製品(テレビ、パソコン、タブレット、携帯電話・スマートフォン)の画面解像度は、フルハイビジョン(HD)の2Kに移行しつつある。特に市販されている30インチ以上の液晶テレビは大半が2Kになっており、4K対応のパネルを搭載した製品も販売されている。またノートパソコン等の製品においては2Kを超える解像度のディスプレイを搭載した製品も販売され、画面の高精細化が加速している。
また、国内の通信事業者や映像配信サービス事業者は、薄型大画面テレビと手元のスマートフォンやタブレット等のモバイル端末を連動させるマルチスクリーンサービスの提供を開始している。FTTHやLTE等のインフラ整備により、高精細な映像コンテンツをいつでもどこでも自由に楽しめる視聴環境が整いつつあり、視聴者ニーズに応えたサービスの提供や端末の高付加価値化の観点からも、4K・8Kによる高画質化はスマートテレビなどの高機能化と一体となって更に進展するものと推察される。
4Kテレビの市場規模については、NPD DisplaySearchが次のような予測数値を元に急速に普及が進むことを示唆している。同社によると、2013年の4Kテレビの世界の売上高は約17億ドル程度であるが、2016年には約88億ドルまで成長し、年平均成長率74%の急速な拡大が期待されるという。また、台数ベースでも2013年の50万台から2016年の725万台まで年平均成長率143%での急速な拡大が見込まれている(図表1-2-3-35)。
我が国では、今般、4K放送開始の前倒しとその後の4K/8Kに向けた普及のロードマップが示され、関係業界において推進体制「次世代放送推進フォーラム」も発足しているところである(第5章第3節2(1)イ「放送サービスの高度化」参照)。端末の低廉化と放送コンテンツの充実に向けた取組が本格化することにより、4Kテレビの市場は急速に拡大していくことが予想される。
4K等の映像制作、配信等については、我が国のみならず海外においてもプロダクション(制作会社)、放送事業者、コンテンツ配信事業者、システム事業者、端末事業者等の取組が活発になりつつあり、本格的なビジネス化に向けたエコシステムの構築が始まっている。
また、このような高精細映像技術の応用は、前述した民生用途にとどまらず、産業用途にも広く波及していくことが予想される。4K/8Kの高精細ディスプレイや撮像カメラの技術は、放送用機器のみならず、X線やマンモグラフィ等の診断画像や電子カルテ等を一覧表示するタブレット端末や、外科手術等で使われる高精細内視鏡など医療分野での利用が期待されている。また、CAD等設計業務における高精細ディスプレイへの応用や、防災や社会インフラの保守・保全等を目的とした高精細監視カメラへの応用、デジタルサイネージ向けシステムへの応用なども想定される(図表1-2-3-36)。
このような4K/8Kの活用可能性が高い分野について、現在の市場規模又は2020年時点での推計市場規模の例を図表1-2-3-37に示す。
産業用途への普及が進むことにより、製品の低価格化が進み、幅広い導入が期待されるばかりでなく、民生用途の製品の低価格化、普及にも弾みがつくことも考えられ、端末メーカー各社は、民生用途と産業用途の双方を視野に入れた取組を始めているところである(図表1-2-3-38)。放送分野で先行する4K/8K関連の技術は、他の産業分野に波及する可能性を有しており、今後の幅広い裾野の広がりが期待される(図表1-2-3-39)。
A 関連技術の標準化の動向
4K/8Kの超高精細な放送においては、その情報量の多さから映像の圧縮方式・伝送路が重要なポイントとなっている。2013年1月にはITU-T91・ISO/IECにおいて、現行のH.264方式の2倍程度の圧縮性能を持つ新たな符号化方式(HEVC)が標準化されており(同年4月に勧告化)、これを受け各国で次世代放送に向けた取組が加速している。
B 韓国における次世代放送への取組
韓国においては、放送通信委員会(KCC)92が2009年5月に「電波振興基本計画」を策定し、超高画質放送(UHDTV)に1.5兆ウォンを投じており、翌年5月に発表した今後の有望放送通信サービスの中の一つにも4G放送(超高画質放送、3D放送、実感放送)を取り上げている。
また2012年7月にKCCは同国のKBS93局に対し地上波における4Kの実験放送局免許を認可し、同年10月から民放3社も交えた衛星を使った実証実験を開始しており、翌2013年に開かれたCESにおいては、韓国LG電子社のブースにてKBSと共同で4K放送のデモンストレーションを行っている。
今後、韓国では3D放送の促進と合わせて2014〜2015年に4K、2018年には8Kの商用サービスを開始する計画を立てており、既に4Kで制作されている韓国ドラマ「推奴 チュノ」や「王女の男(The Princess' Man)」が試験番組として放送予定とされているなど、日本を始めとした海外勢を意識した次世代放送の主権を握るための取組を加速させている(図表1-2-3-40)。
88 2012年10〜12月にかけて、KBS等放送事業者4社が、地上波における4Kの実験放送を実施。
また、2013年1月に米ラスベガスで開催された世界家電見本市CES(International Consumer Electronics Show)では、韓国メーカーが上記実験のデモンストレーションを展示。
89 http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/bcservice/01ryutsu12_02000044.htm
90 テレビ専用受像機のみを指す(テレビ機能付きパソコン・タブレット、サイネージ等は含まない)。
91 International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector。国際電気通信連合の部門の一つで、通信分野の標準策定を行っている。
92 韓国における放送・通信における研究・管理・制作を管轄する大統領直属の機関。
93 韓国放送公社、韓国の国営放送局。
94 UHDTV(超高画質放送):4K/8Kの高画質放送
バクサンホ氏(韓国放送協会)「世界第二の実験放送-周波数を確保、政策支援急務(UHDTVの現状と展望)」