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第1部 特集 「スマートICT」の戦略的活用でいかに日本に元気と成長をもたらすか
第3節 ビッグデータの活用が促す成長の可能性

(2)社会の様々な分野で利用が始まったビッグデータ

ア データ活用の裾野の広がり

ビッグデータが世間で注目を集めるようになったのは最近のことであるが、以前より様々なデータが生成・流通・蓄積され、可能な範囲でのデータ利活用は行われてきた。その後、ICTの進化に伴い、データ生成・流通・蓄積が増大するとともに、活用できるデータの量、範囲、速度についても増大してきたことから、ビッグデータが注目を集めるようになってきたことは、「1.ビッグデータがもたらす新たな成長」で述べてきたとおりである。これまでICTの進化とともに、データ活用がどのような広がりを見せてきたか、これまでのデータ活用の経緯について図表1-3-3-3にまとめている。

図表1-3-3-3 データ活用の裾野の広がり
(出典)総務省「ICT分野の革新が我が国社会経済システムに及ぼすインパクトに係る調査研究」(平成25年)

流通業においては、1980年代半ばにPOSレジが普及し、販売記録(いわゆるPOSデータ)を活用して、商品調達を決定することが進んだ。特に、1990年代以降に急速に拡大したコンビニエンスストアでは、小規模店舗を効率的に運営するためにPOSデータの活用は必須となった。2000年前後に企業別のポイントカードが導入され始めると、ポイントカードの番号にPOSデータを紐づけ(ID付きPOSデータ)、顧客一人一人の購買行動を把握することができるようになった。そのため、商品調達のみならず、販売促進の基礎情報としてもID付きPOSデータが活用され始めた。これは2010年前後に共通ポイントカード30あるいは電子マネーカードとして発展し、個別の企業だけではなく複数の企業での購買記録に基づく販売促進活動が行われるようになった。ここ数年では、ソーシャルメディアやO2O(Online to Offline)、携帯電話の位置情報などを活用した販売促進も普及してきており、流通業の取り扱う情報の種類と量は格段に増大した。

次に製造業においては、1990年代後半に製造事業者と販売事業者が販売データを共有することで過剰または過少在庫を避ける「サプライチェーンマネジメント」が取り組まれている。従来の出荷情報に比べ本来販売される量を生産・在庫しておくため、在庫量の圧縮が実現された。この取組は今も継続した努力が行われているが、ビッグデータの活用により精度の向上が期待される。また、納入した製品にセンサーを取り付け、遠隔監視を行うことが1990年代より機械製品を中心に行われるようになった。センサーによる製品の稼働状況を把握して、異常を発見したり、故障の前兆現象を検知したりすることで、保守業務の合理化が進められてきた。2000年前後より、遠隔監視データを用いて顧客にエネルギー利用最適化のアドバイスを行うなどの新たなサービス事業が始められている。このようにビッグデータの活用は製造業のサービス化にも貢献している。

2000年代に入ると、様々な業種においてもデータ活用が広がっている。例えば、交通・インフラ分野では走行中の自動車から取得したデータを用いた交通情報の提供や、自動車走行実績に基づいた道路改良地点の発見に役立てている。また、自動車走行実績に関するデータは金融分野における新商品の開発にも使用されている31。また、農業分野では作物の品質と栽培作業、環境条件、あるいは土壌の成分などを紐づけて分析することで、作物品質を向上させるのに最適な栽培作業条件が明らかになった。それを植物工場の制御や作業者への指示の最適化に用いることにより、コストの削減や収量の増加、品質の維持・向上などが実現されている。

このようにビッグデータの活用が拡大しており、今後もさらに利用業種や用途の拡大が期待されている。

イ ビッグデータを活用する業種・業務の広がり

実際のビッグデータの活用はどのような広がりを示しているであろうか。文献調査等を元に収集した事例について、まず、業種・分野という軸で分類を行った結果が図表1-3-3-4である。POSレジの活用に代表されるような流通業、クレジットカード履歴の分析といった金融業など、以前から構造化データを分析している事例がある一方、センサーから収集したデータを活用するインフラ分野の事例や、これまでICT化があまり進んでこなかったと言われている農業や医療分野においても、ビッグデータの活用事例があるなど、ビッグデータを活用する業種・分野が多岐にわたることが明らかになった。

図表1-3-3-4 情報収集したビッグデータの活用事例(業種・分野別)
(出典)総務省「ICT分野の革新が我が国社会経済システムに及ぼすインパクトに係る調査研究」(平成25年)
「図表1-3-3-4 情報収集したビッグデータの活用事例(業種・分野別)」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら

また、その活用目的を業務プロセス別に整理したのが図表1-3-3-5である。適用業務は商品開発、生産といった直接収益に関わる業務から、経営計画、さらには企業業務だけではなく行政事務やインフラ整備など多様であり、こちらにおいても「裾野の広がり」が生じていることがうかがえる。

図表1-3-3-5 情報収集したビッグデータ活用例における適用業務
(出典)総務省「ICT分野の革新が我が国社会経済システムに及ぼすインパクトに係る調査研究」(平成25年)
「図表1-3-3-5 情報収集したビッグデータ活用例における適用業務」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら

情報収集した事例の中から、ビッグデータ活用の裾野がどの程度広がりを見せているのか、その多様性がわかるような事例を以下にいくつか紹介する。

●事例1(農業での活用)

緑茶の栽培・製造から販売までを一貫して行っている、ある製茶会社では、栽培過程の土壌や茶葉の成分データ、生産状況のデータを管理することにより、品質の安定化を実現している。そのことによって、省力化を図るとともに、農薬散布量を最小限にすることでコスト削減が行われたほか、品質の安定化が新たな契約につながるといった効果も発現した。

●事例2(中小企業での活用)

中小規模の小売事業者を統括するチェーンでは、顧客が持つポイントカードのデータから個々の顧客の購買履歴を分析し、各顧客にパーソナライズされたチラシの作成を行っている。また、各顧客が頻繁に購入する商品を値引きするクーポンを発行することにより、各店舗への顧客の誘因を図っている。その結果、売上が1割以上向上する店舗も見られた。

●事例3(スポーツでの活用)

あるプロスポーツチームでは、各選手の個人成績、他チームとの対戦成績、他チームの戦力データ、試合の映像といったデータを収集・活用することにより、選手の育成、チームの編成、選手の補強、給与の査定といった計画の立案を客観的な指標に基づいて行うことが可能になっている。また、チームの経営部門と現場との間における情報共有の促進にも役立っている。

●事例4(行政での活用)

ある地方公共団体では、自動車会社と連携してカーナビゲーションデータの分析結果を道路行政に活用している。自動車会社では車の位置情報や速度情報を収集・分析し、急ブレーキが多発する箇所を特定する。抽出されたデータを受領した地方公共団体では、区画線の設置や街路樹の伐採といった対策を講ずることで事故件数の減少につなげている。また、児童・生徒の交通安全対策にもカーナビゲーションデータの分析結果を活用し、注意喚起等に役立てている。

ウ 活用企業の規模の広がり

続いて、ビッグデータの活用は企業規模によっても差異があるのだろうか。野村総合研究所の調査によると、企業におけるビッグデータの活用に関する関心の有無について、「ビッグデータの活用が組織的な検討課題に挙がっている」と回答した企業は、売上規模別に見た場合に規模が大きくなるほどその比率は上がるが、規模の小さい企業でも「検討課題に挙がっている」と回答した企業は半数程度存在している(図表1-3-3-6)。

図表1-3-3-6 ビッグデータの活用が検討課題に挙がっている企業(属性別)
(出典)野村総合研究所アンケート調査
エ 活用用途の広がり

既に活用している、または活用を検討している企業において、ビッグデータを活用する(または活用を検討している)業務は特定の領域に限られるのだろうか。野村総合研究所の調査によると、ビッグデータの活用を検討中、あるいは活用中の領域について尋ねたところ、マーケティングや経営管理が上位にきたものの、様々な業務領域でビッグデータを活用、または活用の検討を行っていることが判明した。また、今後ビッグデータの活用が有望と思われる領域についても同様に尋ねたところ、回答は多岐にわたる結果となり(図表1-3-3-7)、企業は様々な業務においてビッグデータの活用の可能性を考えていることが明らかとなった。

図表1-3-3-7 ビッグデータを活用する(活用を検討している、活用が有望である)領域
(出典)野村総合研究所アンケート調査


30 買い物等での支払金額に応じてポイントを蓄積し、そのポイントで後日、景品や値引きなどのサービスが受けられるポイントサービスを、複数の企業で共通に行えるようにしたカード。加盟企業においては原則的にどの企業でもポイントが蓄積でき、またポイントを利用したサービスを受けられる。代表的なものにカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社が運営するTポイントカード、株式会社 ロイヤリティ マーケティングが運営するPONTAなどがある。

31 P.52のProgressive社の事例参照。

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