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第1部 特集 「スマートICT」の戦略的活用でいかに日本に元気と成長をもたらすか
第3節 超高齢社会におけるICT活用の在り方

(3)ICT利活用の動向

超高齢社会におけるICT利活用については、様々な利活用シーンが想定される。前述したとおり、高齢者自身がICTを活用して学習し、コミュニケーションや社会参加を進めることに加え、医療・介護・健康、就労・社会参加・コミュニティ、アクセシビリティ・ユーザビリティ・ロボット等に関し、広く社会においてICT利活用が進むことで、超高齢社会の課題解決に役立つことが期待される。

本項では、超高齢社会におけるICTの利活用が期待される「医療・介護・健康」、「就労・社会参加・コミュニティ」及び「アクセシビリティ・ユーザビリティ・ロボット」の3分野における取組状況を示す。

ア 「医療・介護・健康」における取組の動向

「医療・介護・健康」分野においては、これまでも、遠隔医療や遠隔健康相談、地域医療連携など、ICTを活用した取組が先進的な地域において実施され、一定の成果をあげてきている。しかしながら、これまでの取組は「点」としての取組にとどまっており、今後はこれらの「点」の取組をより広い「面」としての本格的な取組に展開していくことが重要と考えられる。

とりわけ、健康寿命の延伸を図る観点からは、まずは生活習慣病等の慢性疾患の「予防」をしっかり行っていくことが重要となる。この点について、新潟県見附市は、健康まちづくりを目指す「Smart Wellness City 首長研究会」のメンバーとして、筑波大学等の指導の下、ICTシステムを活用した健康づくり事業を実施してきた。この結果、高齢者の体力年齢が平均4.5歳若返り、医療費についても健康づくり事業に参加しなかったグループと比べて年間10万円程度低くなることが明らかになっている(図表2-3-2-6)。また、運動プログラムの参加者が頭打ちになっている現状を打破し、いわゆる「無関心層」の気づきや行動変容を促すためのツールとしてのICTの有効性にも注目している。さらに、同研究会に参加する複数の自治体が主体となって、地域住民のレセプトデータや健診データをクラウドで一元化し、データに基づく健康づくり施策の推進等に役立てるといった取組も始まっているところである。

図表2-3-2-6 ICTを活用した健康づくり事業:地方自治体の例
(出典)総務省「ICT超高齢社会構想会議報告書」

また、一部の民間企業では、全社員を対象とした健康づくりを実施している。具体的には、通信機能を持つ歩数計の歩数データや体組成計での計測データをからだカルテサーバに蓄積し、パソコン等から運動量や健康状態を確認できるようにしている。これにより、社員の健康づくりの意識を高めた結果、半年で平均体重が3.6キロ減り、2008年から2010年の2年間で、加入健保全体の一人あたり医療費が9%増加したのに対し、同社は9%の削減に成功している(図表2-3-2-7)。

図表2-3-2-7 ICTを活用した健康づくり事業:民間企業の例
(出典)総務省「ICT超高齢社会構想会議報告書」

また、健康づくり事業そのものではないが、徳島県上勝町では、ICTを活用したいろどりProjectを実施している。生産者、情報センター、農協をネットワークで結び、受発注情報、全国の市況情報を迅速に共有することで、高齢者が生産する日本料理の演出用「つまもの」となる葉っぱをタイミング良く全国市場に供給している(図表2-3-2-8)。これにより、売上高が平成10年の1億5,000万円から平成18年に2億7,000万円に増加しただけでなく、高齢者の社会参加が進んだ結果、高齢者一人当たりの医療費が年間60万円強にまで減少(県内他市町村では100万円近くかかるところもある。)し、高齢化率が44.5%と高率ながら在宅の寝たきり高齢者がゼロになったとのことである(2013年4月時点)。

図表2-3-2-8 いろどりProject(徳島県上勝町)
(出典)総務省「ICT超高齢社会構想会議報告書」
イ 「就労・社会参加・コミュニティ」における取組の動向
(ア)「就労」における取組の動向

生産年齢人口が減少していくなか、働く意欲はあっても様々な制約により働くことのできない高齢者がいることから、ICTを用いて新しいワークスタイルの実現を可能にすることで、このような高齢者の社会参加を促すことが期待されている。

千葉県柏市では、高齢者が空いた時間や得意な能力を活かして就業参加できるように、ICTを用いて複数人の予定をマッチングすることで、切れ目のない業務マネージメントを行っている(図表2-3-2-9)。これにより、高齢者に限らず若者も含めたベストミックス就労が可能になり、高齢者のみならず働く人の生きがいのある就労を実現している。

図表2-3-2-9 ICTを活用したベストミックス就労モデル
(出典)総務省「ICT超高齢社会構想会議報告書」

また、クラウドソーシングというネットワークを活用した新しい働き方も存在する。一部民間企業では、クライアントから受けたデザイン、システム開発、コンテンツ作成等の業務を会員に発注し、会員は自宅等でパソコンを用いて業務遂行する取組を行っている。実際に50代の会員でもクライアントから高い評価を受けながら継続的に業務に取り組んでいる事例もあり、今後の有望なワークスタイルのひとつになり得ると考えられる。

徳島県神山町では、新たなワークスタイルとして、都市部のベンチャー企業のサテライトオフィスを誘致する取組が行われている。同町においては高速の通信ネットワークが整備されていることから、過疎地域にもかかわらず、ICTを活用して都市部と同様の業務を行うことができ、社員が自然とふれあいながら仕事と余暇、仕事と介護・子育てを両立させているとのことである。

さらに、子育て中の女性の活力を引き出すという観点のみならず、介護退職が今後増加する点を踏まえ、就労しながらの介護や介護が終わってからの就労を可能とする観点から、テレワーク(在宅勤務)の活用が課題となっているが、一部企業では在宅勤務やサテライトオフィス等を活用した新しい働き方が進んでいるものの、現状ではテレワークの活用が進まない理由として、テレワークそのものの認知度がまだ低い、あるいは、テレワークの導入方法が分からない企業が多いといった点のほか、テレワークでできる仕事は限られているという経営層の思い込みがあると指摘されている。場所と時間にとらわれない柔軟な働き方である「テレワーク」は、労働生産性の向上という観点からも有効なツールであり、その活用が求められよう。

(イ)社会参加・コミュニティ

「社会参加・コミュニティ」分野においては、コミュニティ意識の希薄化や独居の高齢者の増加等を受け、コミュニケーションの活性化を図ることが重要と考えられる。

宮城県栗原市の複数地区から選定した6地区を構成する全160行政区の65歳以上の住民に対して悉皆調査を行なったところ、行政区の社会的なつながり(ソーシャルキャピタル)が深いほど、健康度が高いとの結果が出た(図表2-3-2-10)。現在は、ソーシャルキャピタルと健康度が両方とも低い行政区において、社会的なつながりを深めるための交流活動が行なわれている。なお、2012年に東京都奥多摩町で行われた同様の調査においては、ソーシャルキャピタルの高い地区ほど、遠隔医療相談の効果が高いとの結果が出ている。

図表2-3-2-10 ソーシャル・キャピタル指数と住民健康度の関係(平成23年調査)
(出典)ICT超高齢社会構想会議報告書

このように、高齢者のコミュニケーションを活性化させ、地域コミュニティの絆を深めることは非常に重要であり、その際にはICTの利活用が有効と考えられる。この点、コミュニケーションツールとしてのソーシャルネットワークの有効性が指摘されているが、千葉県柏市における高齢者のICT利用傾向に関する調査結果(図表2-3-2-11)では、電子メールやウェブ検索等については、60%程度が「よく使っている」と回答し、利用が広がっていると考えられる。しかしながら、ソーシャルネットワークやネット電話等については、「よく使っている」と回答したのは10%以下にとどまる一方、70%弱が「使ったことがない」と回答しており、必ずしも高齢者の利用が広がっているとは言いがたい結果となっている。

図表2-3-2-11 高齢者のICT利用傾向
(出典)総務省「ICT超高齢社会構想会議報告書」

岩手県大船渡市では、いち早く高齢化が進む被災地において、地域コミュニティの復活を目指す取組として、被災住民が交流するためのインターネットサイトを開設し、ソーシャルネットワークとの連携を行うだけでなく、被災地域の公民館にインターネットを整備し、地域内外のボランティアがパソコンやインターネットの相談に乗っている。これにより、高齢者のICT利活用が進んでいるだけでなく、リアルなコミュニケーションが生まれている(図表2-3-2-12)。

図表2-3-2-12 岩手県大船渡市 デジタル公民館まっさき
(出典)総務省「ICT超高齢社会構想会議報告書」

東京都北区では、地域の主婦や若者が高齢者の生活をICTにより遠隔で見守り、生活支援を行う事業を実施。高齢者とのコミュニケーションには、使いやすいインターフェースを備えたタブレット端末を使用し、タブレットを一緒に触って学び教えあう場を設置するだけでなく、サポーターによる技術支援も行った。この結果、ICTを使いこなしたいという動機を起点に、年齢に関係なく互いに支えあうコミュニティが形成されている(図表2-3-2-13)。

図表2-3-2-13 きづなプロジェクト
(出典)総務省「ICT超高齢社会構想会議報告書」

 

ウ 「アクセシビリティ・ユーザビリティ・ロボット」における取組の動向

高齢者のICT利活用の進展に伴い、使い勝手のよいICTシステムの開発・実用化も進められている。高齢者の身体的機能の低下を補完しつつ、コミュニケーションを通じてその活力を引き出すICTシステムの開発・実用化の推進は、今後の超高齢社会の活動を支える有力なツールになるとともに、新たな市場や産業の創出という観点からも重要である。

有力な技術開発分野として期待されるのが、パーソナルデバイス技術、アクセシビリティ技術、音声対話によるインターフェース、センサーデータと解析技術やスキル推定技術といった分野である。これらの技術の開発・実用化を進め、高齢者が使いやすいサービスを実現することが期待される。

このような技術の一端として、文字の拡大表示機能や音声応答システムを持ったスマートフォンやタブレット端末、センサーから得たデータに基づいてナビゲーションや端末の操作方法を音声でささやいてくれるインターフェース等の機能が開発されている(図表2-3-2-14)。また、国民全体の平日のテレビ視聴時間が3時間程度となっているのに比べ、70歳以上の高齢者は5時間以上テレビを視聴している等7、テレビが高齢者にとって身近な存在であることを踏まえれば、その活用は重要と考えられる。

図表2-3-2-14 文字の拡大表示(左)、ささやきインターフェース(右)
(出典)総務省「ICT超高齢社会構想会議報告書」

また、高齢者の外出への意識は強いものの、身体機能の低下により外出が難しくなる点を踏まえ、高齢者の移動の容易性を確保することで、社会参加への障害を取り除くことが必要である。主な移動手段としては自動車が挙げられるが、知覚機能の低下による見落としや反応速度の遅延等により、高齢者ドライバーの交通事故は年々増加している。このような点を踏まえれば、歩行者衝突回避システムや次世代運転支援システム(図表2-3-2-15)等のITSの導入が有効である。また、高齢者の用途が少人数・近距離であることを踏まえ、小型で低燃費だが、アクセルとブレーキの踏み間違いを感知し自動で停止する等、事故防止機能や運転支援機能の備わった高齢者に使いやすい自動車を開発・普及することが有効である。

図表2-3-2-15 車やインフラの協調による次世代運転支援システム
(出典)総務省「ICT超高齢社会構想会議報告書」

シニア層にターゲットを絞り込み、ユニバーサルデザインの考え方をいち早く取り込んだスマートフォン等のモバイル端末の開発・実用化も進んでおり、ハードのみならず、ソフト・サービスまでのトータルパッケージが提供されている。また、今後、在宅や介護現場での導入が期待されるロボット分野についても、ロボットを認知症高齢者との対面ふれあい等に活用し、センサーにより感知した高齢者の状況に応じて、あたかも生きているかのような擬人的動作や豊かな感情表現を行うことで、高齢者を癒し活性化することが期待される。

また、ロボット分野については、単体ロボットの導入のみならず、単体ロボットとセンサーやスマートフォン等のモバイル端末がクラウド環境で統合的に連携するプラットフォームの構築により、高齢者の様々な生活シーンを支えることが期待されており、そのようなプラットフォームの開発・標準化が進められている。



7 NHK放送文化研究所「国民生活時間調査」(平成22年)

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