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第2部 情報通信の現況・政策の動向
第11節 海外の動向

(2)EU諸国の情報通信政策の動向

ア EU
(ア)クラウド・コンピューティング戦略

EUが2010年5月に公表した情報社会政策「欧州デジタル・アジェンダ」では、七つの優先課題の一つ「研究・開発」の中でクラウド関連のアクションが提示されている。欧州委員会は欧州クラウド・コンピューティング戦略の策定に向けて、2011年5月にクラウド・コンピューティングの最適な利活用方法を検討するコンサルテーションを開始した(同年8月末まで実施)。

2012年9月27日、欧州委員会は新たなクラウド戦略「欧州におけるクラウド・コンピューティングの潜在力の解放(Unleashing the Potential of Cloud Computing in Europe:欧州クラウド戦略)」を公表した。EUはクラウド戦略を軸として経済分野におけるクラウド・コンピューティングの利用を推進し、2020年までに250万の新たな雇用創出と年間1,600億ユーロの経済成長を図っていくという方針を表明した。

(イ)サイバーセキュリティ戦略

「欧州デジタル・アジェンダ」における、七つの優先課題の一つである「(インターネットの)信頼性と安全の向上」ではサイバーセキュリティ関連のアクションが提示されている。

欧州デジタル・アジェンダの公表以後、ENISA(欧州ネットワーク・情報セキュリティ機関)の行政イニシアティブ強化、加盟各国におけるCERT(コンピュータ緊急対応チーム)の創設、欧州サイバー犯罪センターの設置(European Cybercrime Centre: EC3)といったアクションが検討・実行されてきた。

2013年2月7日、欧州委員会は、欧州連合外務・安全保障政策上級代表と共同で、ネットワーク・情報セキュリティ(Network and Information Security:NIS)関連の指令提案を盛り込んだサイバーセキュリティ戦略を公表した。

サイバーセキュリティ戦略はサイバー攻撃への対応に関するEUの包括的なビジョンを示したものであり、自由とデモクラシーの深化、ならびにデジタル経済の安定した成長の促進も狙いとしている。同戦略には、情報システムのサイバーレジリエンス(復旧)向上、サイバー犯罪の減少、域内統一のサイバーセキュリティ政策の強化などに関連する特定アクションが盛り込まれている。

(ウ)携帯電話の国際ローミング料金の引き下げ

欧州委員会は、EU域内の携帯電話の国際ローミング料金は高額であるという問題意識のもと、規制による料金の上限設定を行ってきた。2007年に携帯ローミング料金に上限を設ける規制が発効し、2009年には規制の改正が行われた。しかし欧州委員会は依然として携帯ローミング料金は高額であり、さらなる引下げが必要であると主張してきた。また、2009年の規制は2012年6月末が有効期限であることから早急に新たな規制を設ける必要性が指摘されてきた。

2012年3月28日、理事会と欧州議会は、携帯ローミング料金のさらなる引下げを行う規制案の採択に向けて合意した。規制案は、欧州域内移動時のモバイル通信サービスの利用に際して、ユーザーに過剰な料金負担が発生しないことを目的としている。新しい規則は2012年6月30日に官報に掲載され、翌7月1日に発効した。有効期限は2022年6月30日までとなる。

(エ)ブロードバンド政策

「高速・超高速インターネット接続」は、「欧州デジタル・アジェンダ」における七つの優先課題の一つであり、ブロードバンド関連のアクションが提示されている。デジタル・アジェンダの目標を実現するための公的補助の促進や加盟国間の政策協調がブロードバンド戦略の中心的課題となっている。

2011年1月20日に欧州委員会は、2020年までの達成を目標としたEUのICT政策「デジタル・アジェンダ」に沿って、ブロードバンド普及への公的補助に関するEUのガイドラインに従い、18億ユーロの導入を承認した。

2012年4月27日には高速インターネット敷設費用を節減する方法に関するコンサルテーションを欧州委員会は開始した。そして6月1日、ブロードバンド網のドラフトガイドラインを発表し、ブロードバンド網整備への国費投入におけるEU国家援助ルール適用についての意見募集を開始した。

このように欧州委員会はブロードバンドの普及に積極的な姿勢を示してきたが、2013年2月8日に理事会は、EUの予算上の優先項目を決定する次期(2014〜2020年)の「複数年財政枠組(MFF)」でブロードバンド・アクセス拡大のための資金額を大幅に削減した。

欧州委員会は的を絞ったインフラ投資を欧州レベルで行うことにより成長と雇用を促進し、競争力を強化していく枠組「Connecting Europe Facility(CEF)」の一環として、超高速ブロードバンド網及び汎欧州デジタルサービスへの投資を刺激するために92億ユーロの提案を行っていた。しかし、理事会の修正により、この金額がデジタルサービスのみの約10億ユーロに削減されたため、欧州委員会において今年秋の最終合意に向けた修正予算案が提出された。

イ 英国

2010年5月の総選挙の結果成立したキャメロン政権下でのICT政策は、(1)行政サービスのオンライン化によるコスト削減、(2)政府資産である周波数の売却、(3)ユニバーサル・ブロードバンドの実現、(4)新たな地域密着型の放送局の創出等を推進することを明確にしている。

また、英国政府は、通信セクターによる長期的経済成長への道を確保し、デジタル時代に沿った通信規制の方向性を定めるため、新通信法の策定に向けて動き出している。

(ア)行政サービスのオンライン化によるコスト削減「政府デジタル戦略」

英国においては、内閣府が行政サービスのオンライン化を推進する担当官庁となっている。キャメロン政権発足に伴い、内閣府は、行政情報の公開、行政コストの可視化、行政サービスのオンライン化等により積極的に行政コストの削減を図ろうとしている。

行政サービスのオンライン化に関する具体的な政策として、内閣府は2012年11月6日、政府が提供する各種サービスのデジタル化に向け、その具体的な取組の指針となる文書「政府デジタル戦略(Government Digital Strategy)」を発表した。

同戦略では、自動車免許試験の予約、税の申告、免許付与などを含め、各種行政サービス分野のデジタル化を一層推進することで、さらなるのコスト削減ができるとされている。

(イ)政府資産である周波数の売却「4G(LTE)オークションの実施」

英国では、周波数割当等の周波数政策において経済的合理性を重視した手法が導入されており、電波の経済的価値に基づいた周波数割当ての公平化や、周波数行政管理の合理化等を進める中で、周波数オークションや周波数2次取引が実施されている。

通信庁(Ofcom)は2013年1月23日に、4G(LTE)サービス向け800MHz及び2.6GHz帯のオークションを開始した。その結果同年2月20日に、既存の移動体通信事業者4社(Everything Everywhere、Huchison 3G UK、Telefonica UK、Vodafone)とBTの子会社(Niche Spectrum Ventures Ltd)1社の合計5社が総額23億4,000万ポンドで落札した。この総額は、英国が2000年に実施した3G周波数のオークションの落札総額(225億ポンド)の10%程度にとどまる結果となった。

英国政府は、次世代ワイヤレス・モバイル・ブロードバンドの早期構築を目指しており、この4Gオークションにおいて800MHz帯の一部周波数帯を落札した移動体通信事業者1社に対しては、カバレッジ義務を課している。内容は、2017年12月までに、全英における人口カバー率98%(屋内受信)、英国を構成する4地域それぞれにおける人口カバー率95%(屋内受信)を達成することとされている。

(ウ)ユニバーサル・ブロードバンドの実現

キャメロン政権下において、2010年12月に「英国の超高速ブロードバンドの未来(Britain's Superfast Broadband Future)」が発表された。その目標は「2015年までに欧州最良の超高速ネットワークを構築し、国民の誰もがブロードバンドにアクセスできる体制を目指す」とされており、具体的には「90%の世帯・事業所に対し超高速ブロードバンドへのアクセスと、全世帯に対して最低2Mbpsのブロードバンド・サービスへのアクセスの提供」を目指しており、①ルーラル地域へのブロードバンド敷設、②「超接続都市(Super-connected Cities)」構築、③移動体通信サービスカバレッジの改善の3点がポイントとなっている。

ウ フランス
(ア)デジタル化に関する政府活動ロードマップ

フランスでは2011年まで、サルコジ前大統領の下、超高速ブロードバンド推進やデジタル・コンテンツ産業育成等、ICT関連技術の普及と発展が経済成長のキーファクターの一つであるという認識に基づき、デジタル経済計画「フランス・デジタル2012(2008〜2012)」、「フランス・デジタル2012〜2020」が策定された。また、2010年に開始された先端産業育成プログラム「未来への投資」では、「デジタル経済」分野に2017年までの国債収入から45億ユーロの助成予算を設定、国家超高速ブロードバンド計画のほか、デジタルコンテンツ・サービス開発、スマートグリッド等のR&Dプロジェクトへの助成を実施している。

2012年5月に就任したオランド大統領も、前政権が2025年と設定した全国土への超高速ブロードバンド展開の目標年を2022年に前倒しする等、デジタル技術活用に積極的な姿勢を見せ、2013年2月、今後数年間にわたる政策要綱である「デジタル分野における政府活動ロードマップ」(Feuille de Route du Gouvernement sur le Numérique)を発表した。ここには、①デジタル技術活用による若年層の教育・就業機会増大、②デジタル技術活用による国内企業の競争力強化、③デジタル社会・経済におけるフランスの価値の促進、の三つの目標の下で、18の具体的政策が提示されている。この要綱の特徴として、企業・政府のICT利活用推進が中心であった「フランス・デジタル」に比べ、デジタル教育や個人情報保護等、住民の生活に直接関係する事柄が重要視されていること、政策の実現目標年や実現手段が明確化されていることが挙げられる。

(イ)国家超高速ブロードバンド計画の進展

仏政府は2010年、光ファイバインフラの地域間ディバイド解消を目的に、「国家超高速ブロードバンド計画」を発表した。これは先端産業育成計画「未来への投資」の一環とされ、2017年までに国債収入を財源とする20億ユーロの助成予算を設定、通信事業者間の共同投資によるカバー地域拡大、地方自治体の光ファイバ網整備計画等を対象に、プロジェクトの公募、審査が実施されている。

オランド政権においても、上記「デジタル分野における政府活動ロードマップ」で提示された18の政策のうち、第9は「10年間で国土全体にブロードバンドを展開」と題されており、前政権の計画を継続発展させる内容となっている。

エ ドイツ

ドイツのICT戦略は、2010年10月に閣議決定された「デジタルドイツ2015」(Deutschland Digital 2015)に基づき実施されている。同戦略は、2015年までを期限とするICT分野におけるドイツ産業界のイノベーションと競争力を推進するための包括的な取組である。戦略的優先分野として、クラウド・コンピューティング、スマートグリッド、電気自動車、モノのインターネット、3D技術、教育、グリーンIT、Eヘルスなどを設定している。また、電子政府促進策やブロードバンド普及促進策、エネルギー政策、科学技術関連政策等の個別政策とも連携が取られている。

(ア)電子政府政策

ドイツの電子政府普及促進策は、2010年9月に連邦経済技術省内のIT計画協議会(IT Planning Council)が取りまとめた「全国電子政府戦略」(National E-Government Strategy)に基づき、着実に実行されている。2011年6月に同協議会がまとめた覚書では、2011〜2015年までに実施すべき優先課題を特定している。政府及び行政活動の透明性の向上、情報セキュリティの確保、電子IDカードの普及促進、連邦・州・地方自治体間のITシステム及びインフラ統合などが指摘されている。

(イ)ブロードバンド戦略

ブロードバンド戦略については2009年2月に策定された「連邦政府のブロードバンド戦略」に基づき実施されている。2014年までに全世帯の75%で、50Mbps以上の接続を可能とし、できるだけ早期にドイツ全域において可能とすることを目標としている。

2012年末現在の普及状況としては、50Mbps以上のブロードバンド・ネットワークに接続可能な世帯は54.8%に達した。このうち、LTE方式によるブロードバンド接続は51.69%である。

(ウ)クラウド・コンピューティング研究開発助成プログラム

「デジタルドイツ2015」に基づき、2010年9月から連邦経済技術省が主体となり「Trusted Cloud」研究開発プログラムが開始されている。同プログラムは、中規模企業及び公的機関のための安全・信頼性を確保したクラウド・コンピューティングの実現に向けた産学官連携の研究開発プログラムで、14のパイロットプロジェクトが採択され、2014年末まで実施される。

(エ)サイバーセキュリティ戦略

ドイツ連邦内務省は2011年2月に、「サイバーセキュリティ戦略」 を発表した。同戦略は、サイバー攻撃から重要インフラおよび情報システムを保護することを目的とし、官民パートナーシップに基づく情報共有体制の推進や、サイバー防護センター(Cyber-Abwehrzentrum)の設立などを柱に、10項目の戦略分野を定めたものである。

重要インフラの対象として、エネルギー、情報通信、輸送・交通、医療、水道、食品、金融・保険、政府・行政、メディア・文化を挙げている。

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