第1部 特集 ICTの利活用による持続的な成長の実現
第1章 ICTによる地域の活性化と絆の再生
みんなでつくる情報通信白書コンテスト2010 一般の部 優秀賞受賞コラム
チョコレートケーキにかかったパウダーシュガー
執筆 池上 正子(いけがみ まさこ)さん(千葉県佐倉市)

コメント:携帯電話によって、家族の絆が深まったうれしさを、伝えたかった。 |
息子の正は、「メールNUTi」だ。一日に6、7回、しかも画像付きで来る。私が6年前、心筋梗塞で救急車のお世話になったので、心配してケータイ電話をプレゼントしてくれた。
年寄り向けのごくシンプルなもので、文字も音も大きく、いちいち音声で指示が出る。
メールが届くと何度も「正さんからメールです」「正さんからメールです」と叫ぶので、「わかったよー」と返事をしながら慌てて開く。着信ミュージックも若い頃から大好きだったテネシーワルツを入れてもらい、結構いい気分だったのだが、「アイワズワルツイング ウイズマイダーリング」なんて流れてくるとみなギョッとして私の方を見る。目線の中心にいるのが白髪頭の私では、これまた恥ずかしいので、テネシーワルツはやめにした。
離れて住む私たちに孫の顔を見せたいと思ってか、やれ寝ぼけ顔の「おはよう」、女の子に囲まれた「モテモテ」、ただの笑顔の「ニコニコ」。「初めてトイレでおしっこをしました」というのまで、親バカとしか思えないのが次々来る。それをこちらでも喜んで見ているのだから、じじバカ、ばばバカもいいところ、バカバカ揃いである。
ところがある寒い日、コメントもなしで奇妙な画像が届いた。黒っぽい土台に白い粉が散っている。
チョコレートケーキにかかったパウダーシュガー!?

私:雪が降ったの?それともチョコレートケーキに粉砂糖?
正:ウン 2センチくらいかな (続けてすぐ)念のため雪じゃないからね
私:雪かと思ったよ 親をからかうんじゃない
正:分かってないようなので……7週目です
私:階段から落っこちそうになったよ あれは超音波の映像?
自分の経験がないので分からなかった 時代が違うねえ
嬉しくて嬉しくて 今夜2人とも寝られるかなあ
私:おめでとう おめでとう 男の子?女の子?
正:まだ分かりません
じっとしていられなくなって、私たちは急きょ栃木まで出かけることにした。
正:行きたいところ(やなii、温泉) 食べたいもの(あゆ、ステーキ、かにしゃぶ、そば、ぎょうざ) 希望があれば教えて
私:いろいろ考えてくれてありがとう まずはあゆかな ローストビーフ作ったよ ほかに何がいい もっと欲しいものあったら言ってください
正:美香さんはつわりで体調も悪く いつものようにはいきませんが ご理解よろしく
私:美香さんくれぐれも気をつけて 着いた晩にと思って大根とスペアリブの煮たのも持って行くね
いつもはちっとも動こうとしないじいじも、「じいじ、遊ぼ」と誘われれば、ニコニコと立ち上がり、孫とつきあって若返り、元気になって帰ってきた。
「正さんからメールです」「正さんからメールです」……
ほら!今日もまた来た。
i 「〜NUT」:夢中になっている、熱中している様子。「メールNUT」:メールに夢中になっている様子
ii やな:梁漁(やなりょう)を売りものにした食事処のこと。梁(やな:漁具)で捕まえた新鮮な鮎などを供する
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