第1部 特集 ICTの利活用による持続的な成長の実現
第2章 グリーンICTによる環境負荷軽減と地域活性化

(1)Cisco社(米国 通信機器メーカー)の事例


●社内のグリーンICTの取組を顧客に展開することにより、CO2削減と地域活性化に貢献

 Cisco社のグリーンICTへの取組に対する基本的な考え方は、グリーンICTで環境負荷削減と生産性向上の両方を達成することであり、自社ビジネスの発展に役立てようとする姿勢が際立っている。さらに自らが率先してグリーンICTの取組を進めることで、顧客企業を先導する役割を果たすことを狙っている。

ア Cisco社によるグリーンICTの取組の概要

(ア)Cisco Ecoboardによる全社的なグリーンICT推進
 Cisco Ecoboardと呼ばれる組織を設置し、その主導の下、全社的にグリーンICTを推進している。さらに、ISO14001認証を取得すると共に、社内のグリーンICTの取組をEMS(エネルギー管理システム)で徹底的に監視、分析し、改善点を取りこんでいる。

(イ)テレワーク(在宅勤務)や電話会議システムの積極的な推進
 ICTを活用したグリーン化(Green by ICT)の具体的な取組としては、Cisco Virtual Officeと呼ばれる自宅のパソコンからオフィスのサーバーに接続され、オフィスと同等の利用環境で通常の勤務が行えるテレワークのための仕組を従業員に提供しており、2010年時点で米国内に散在する約16,000名の従業員が利用している。既に、ミズーリ州カンザスシティに本社を置く大手投資管理会社のAmerican Century Investments等、シスコの顧客企業での運用も始まっており、米国内企業におけるグリーンICTへの広がりが期待されている。
 また、シスコでは、Webex やTelePresenceと呼ばれる複数の電話会議システムを提供しており、対面形式でのミーティングで発生する温室効果ガス(移動に伴い発生するCO2等)の削減に努めている。Cisco Vertual Officeと同様、自社の従業員の間で積極的に利用を進めている上、既に複数の顧客企業でも運用されている。

(ウ)その他、多面的に取組を推進
 また、ICT自体のグリーン化(Green of ICT)の取組としては、スマートグリッド等の実現を積極的に推進しているほか、環境負荷が少ない部品材料の採用、廃棄物量の削減、オフィスで利用する水量の削減、オフィスや工場で利用する土地の環境保全など、多面的に取組を進めることで大きな効果を創出している。

イ Cisco社によるグリーンICTの取組の効果
 Cisco Virtual Officeの利用により、従業員一人当たり1日23マイル分の通勤距離が削減され、全社で削減する温室効果ガス排出量に換算すると19,000メートルトンに上っている。また、2009年時点で、シスコグループ全体が利用する電力の37%は再生可能エネルギーから作られたものであり、環境負荷低減の効果を高めている。さらに、Webexについても2009年の1年間に約1,500万時間分利用されたことにより、約1,100万キロワット相当の電力の節約(同時に電力コストも120万ドル分削減)を実現した。
 Cisco社は2007年当初、2012年までに温室効果ガス排出量を2007年比25%削減するという目標を立てていたが、これらの取組が功を奏し、2010年時点で既に温室効果ガスの2007年比40%の削減を実現している。このような実績が評価され、「Carbon Disclosure Project」が実施した調査によると、情報通信関連企業の中で最も環境負荷削減に貢献している会社1位としてランキングされている。
 それだけにとどまらず、同社の生産性も順調に向上しており、従業員一人当たりの収益も2009年には60,000ドルにまで達しており、2004年時点と比較して、ほぼ倍増している。
 そして、これらの仕組を米国の自治体にも展開することにより、企業誘致を推進し、地域の活性化に貢献している。具体例として、米国ニューメキシコ州のアルバカーキ市では、Cisco社のネットワークソリューションを導入することにより行政サービスレベルを向上した結果、企業が生産拠点を構えるようになりアルバカーキ市における経済波及効果を生んでいるといった例が存在する。
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