第1部 特集 ICTの利活用による持続的な成長の実現
第3章 ICTによる経済成長と競争力の強化

(3)日本の強みを生かしたグローバル展開に向けて


●技術力、課題先進国としての経験、アジアへの立地などの「強み」を生かしたグローバル展開を

 台湾新幹線では、災害大国日本が蓄積してきた災害対策機能が、地震大国台湾のニーズに合致した。また、超高圧送電(UHV)の標準化においては、大量送電によるコスト削減、省エネルギーといった日本の技術が、経済発展の中で電力需要が急拡大し、省エネルギー対策が不可欠な中国のニーズに合致した。いずれも、課題先進国として、災害対策、環境・省エネルギー対策を行って来た27日本の経験やノウハウが、現地のニーズに合致し、グローバル展開に成功した良い事例と考えられ、同様に、日本の抱える課題解決の経験やノウハウを生かし、ICTを有効に活用し作られた社会インフラシステムを、日本発のプロジェクトとして組成しグローバル展開することは、グローバル展開の有望分野であると考えられる。
 また、耐久性、防水性、防塵性を備えたPCのように、日本が長年培ってきた技術を具体的な商品・サービスに展開することでグローバル展開にこぎつけたり、センサー、GPS等を用いた建設機械管理のように、技術の製品化の際に、その管理や顧客対応も含めたサービス面の付加価値をうまく付与している事例がみられる。このような基礎的技術の掘り起こしや、製品化に当たっての高付加価値化を通じたグローバル展開も有望であると考えられる。
 以上のように、我が国としては、「高い技術開発力や技術の蓄積」、「環境・省エネルギー対策、災害対策といった課題先進国としての経験」、「今後世界経済の中心となり、かつ日本のかつての課題対処の経験を現在求めているアジアに立地する地理的優位性」などの「強み」を生かしたグローバル展開で国際競争力強化を図ることが重要であろう。

●優れた技術、課題解決の経験に加え、人、資金面を含めトータルで展開をし、相手国と協働し共に課題解決を

 ただし、日本が有する優れた技術、システムを、各国の実情を踏まえ、いかに導入先の国、地域で利用しやすい形に変えるかがグローバル展開を進める上での課題である。社会インフラシステムの展開では、相手国と協働し、共に課題解決を図るために、システムのオペレーションやマネジメントなどに関して人材育成を含めた人的貢献を行なったり、システム導入に必要なファイナンス面の目配りを行なうことも必要であろう。また、オペレーションやマネジメントまで一括してパッケージとして展開するとの観点では、関連する日本企業や公的主体が、情報共有、連携、受注を目的としたコンソーシアムを組織することも考えられる28。さらに、企業のグローバル展開、特に公共的な性格を有する社会インフラシステムのグローバル展開に関して、各国政府がさまざまな支援策を講じている29中、日本政府として、これらの問題意識を踏まえ、どのような支援が可能か十分検討する必要があろう30

●日本の技術、経験をグローバル展開することにより、現地の課題解決に貢献するとともに、彼らと共に成長を

 平成21年12月に閣議決定された「新成長戦略(基本方針)」では、「今日のアジアの著しい成長を更に着実なものとしつつ、アジアの成長を日本の成長に確実に結実させるためには、日本がこれまでの経済発展の過程で学んだ多くの経験をアジア諸国と共有し、日本がアジアの成長の「架け橋」となるとともに、環境やインフラ分野等で固有の強みを集結し、総合的かつ戦略的にアジア地域でビジネスを展開する必要がある。」としている。
 世界的にプレゼンスを増している中国、インドをはじめとするアジア地域に位置するという地理的な優位性を改めて認識し、ICTを有効に活用し、日本の技術、経験をこれら地域に展開することを通じ、彼らと協働し、共に課題解決を図り、彼らの成長に貢献するとともに、日本自らも彼らと共に持続的な成長を実現していくことが重要ではないだろうか。


27 災害対策については、その監視、シミュレーションといったシステムの構築が進められているほか、鉄道、電力、通信、道路等各種社会インフラシステムや建築等社会の隅々で、災害発生を前提としたシステムが構築されている。環境・省エネルギー対策についても、送電効率の高さといった直接的な対策のみならず、国、企業、個人がいわば国全体として取り組んで来たといえる
28 原子力発電については、政府、電力会社等が、海外での原子力発電の受注を目指す新会社を今秋までに設立することで合意したことが報道されている
29 例えば、原子力発電のUAEへの売り込みに関して、韓国が60年間という長期間の原子力発電の運営保証を付け、日米連合などに競り勝った事例が報道されている
30 公的支援に関して、貿易保険、国際協力銀行(JBIC)の融資範囲の拡大などについての報道がある
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