第1部 特集 ICTの利活用による持続的な成長の実現
第3章 ICTによる経済成長と競争力の強化

(5)情報化投資の加速・ICT利活用促進の産業別の課題


 以下では、上記分析結果を踏まえて、我が国において情報通信資本の成長とICTの利活用が低迷している産業について、課題と対応策について検討する。

ア 情報通信資本の蓄積が低迷している産業について

●運輸、卸売・小売、製造の各産業、かつ資本金の小さい企業ほど端末配備が進んでいない

 我が国の情報通信資本全体の成長が10か国中最低であること(図表3-1-3-3参照)、また、我が国の情報通信資本の成長を産業別にみてみると、ほぼ全産業で他国と比べて低く、そのなかでも、「小売」「卸売」「運輸・倉庫」「対個人サービス」など第三次産業における情報通信資本の低成長が際立っていること(図表3-1-3-4参照)が課題であることがわかった。
 2005年までにおける以上の状況を踏まえて、近年の我が国の端末配備状況を産業別でみると、2008年末でも、企業通信網またはインターネットに接続された端末が1人1台ないし2人で1台を使用する環境にない企業が、全体で4割ほどある(図表3-1-3-12 左図)。とりわけ、運輸、卸売・小売、製造の各産業で、端末配備が進んでいない。また、資本金別でみると、資本金が小さい企業ほど、端末配備が進んでいないことがわかる(図表3-1-3-12 右図)。

図表3-1-3-12 端末配備の割合(産業別企業通信網又はインターネットの接続端末1台あたり使用人数)
図表3-1-3-12 端末配備の割合(産業別企業通信網又はインターネットの接続端末1台あたり使用人数)
運輸業、卸売・小売、製造業及び資本金1億円未満の企業については、ネット接続端末の1人1台体制をとっている企業数が3割に満たない
(出典)総務省「産業の成長における情報通信資本の寄与に関する国際比較分析に関する調査」(平成22年)
(総務省「平成20年通信利用動向調査」より作成)

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イ ICTの利活用が低迷している産業について

●運輸業、建設業、不動産業では、電子商取引の未実施率が5割

 中小企業白書2009年版では、電子商取引を活用している中小企業では、どの従業員規模で比較しても、電子商取引を活用していない中小企業と比較して、利益率が高い傾向にあるという。同白書は続けて、「電子商取引の活用は、新たな顧客の開拓を行い、業績を伸ばしていくための有効なツールの一つ」としている25。
 図表3-1-3-13は、「ネット調達の実施」「B to Bネット販売の実施」「B to C販売の実施」の各実施率を示している。これによると、いずれも実施していない割合が最も高い産業は運輸業であり、建設業、不動産業がそれに続く。この3産業では、電子商取引の未実施率が5割を超える状況にある。

図表3-1-3-13 電子商取引の実施率
図表3-1-3-13 電子商取引の実施率
運輸業、建設業、不動産業では、電子商取引の未実施率が5割
(出典)総務省「産業の成長における情報通信資本の寄与に関する国際比較分析に関する調査」(平成22年)
(総務省「平成20年通信利用動向調査」より作成)

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ウ 課題とその解消に向けて

 それでは、このような我が国の産業における情報通信資本とICTの利活用の低迷にはどのような背景があるのだろうか。以下その背景について整理するとともに、その解消に向けた方向性についてまとめる。

●セキュリティ関連の課題や組織、人材関連の課題と並んで、コストに関する課題も2割を超える

 企業レベルでの情報通信投資に対する意識を把握するために、「情報通信ネットワークを利用する上での問題点」と「電子商取引を利用する上での問題点」を参照する(図表3-1-3-14)。これらによると、セキュリティ関連の課題や組織、人材関連の課題と並んで、コストに関する課題も2割を超える企業で指摘されている26。

図表3-1-3-14 情報通信ネットワークや電子商取引を利用する上での問題点
図表3-1-3-14 情報通信ネットワークや電子商取引を利用する上での問題点
セキュリティ関連の課題や組織、人材関連の課題と並んで、コストに関する課題も2割を超える
(出典)総務省「産業の成長における情報通信資本の寄与に関する国際比較分析に関する調査」(平成22年)
(総務省「平成20年通信利用動向調査」により作成)

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 こうした要因が我が国において情報通信資本ないしICTの利活用が他国と比べて進んでいない一因になっている可能性がある。

●クラウドサービスの課題を克服し、推進していくことにより我が国の情報化投資および情報通信サービスの利活用を促進させ、ひいては各
産業の成長と我が国経済の成長を促進させる効果が期待される

 高コストを解消する手段として近年、国内外で注目されているのがクラウドコンピューティングである。このうちSaaSに関してみると、図表3-1-3-15(上図)が示すように、企業では確かにコスト低減への期待が持たれている。
 ただしクラウドサービスについては、まだ普及の途中にあり、クラウドサービスの普及を図る際には、あくまでもクラウドサービスの持つ多様性を確保しつつ、利用者の視点に立って推進していく必要がある。特に政府は、安全性・信頼性の確保、データ管理の在り方、個人情報保護等の国内法規との関係性の整理、国際的なルール整備等のなどの役割を果たすことが重要である。
 なお、図表3-1-3-15(下図)が示すように、ASP・SaaSを実際に導入した企業のうち約7割が、「非常に効果があった」もしくは「ある程度効果があった」と回答している。この状況を鑑みると、クラウドサービスに関する上記の課題を克服していくことこそが我が国の情報化投資および情報通信サービスの利活用を促進させ、ひいては各産業の成長と我が国経済の成長を促進させると期待される。

図表3-1-3-15 SaaS等導入・利用のメリット
図表3-1-3-15 SaaS等導入・利用のメリット
SaaSのコスト面でのメリットに注目する企業が多い上、全ての業種において約7割の企業が利用効果を実感
(出典)総務省「産業の成長における情報通信資本の寄与に関する国際比較分析に関する調査」(平成22年)
(経済産業省「平成20年情報処理実態調査」により作成)

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25 中小企業庁「中小企業白書2009年版」(p.87)
26 経済産業省「平成20年情報処理実態調査」でも、企業横断的ないし部署横断的な最適化を図るためのIT活用の阻害要因として、高コストが一番目に挙げられている
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