第2部 情報通信の現況と政策動向
第5章 情報通信政策の動向

(2)国際機関及び多国間関係(アジア・太平洋地域関係を除く)における国際政策の展開


ア 戦略的な国際標準化活動の強化
 情報通信分野において、実現が期待される新たな製品・サービスについては、オープンな規格の下に、内外の多様な事業者によって、ユーザーに様々な選択肢が提供されることが望ましい。そのためには、公的な機関が定める規格及び市場の多くの関係者によって受け入れられることにより事実上標準として取り扱われる規格の普及促進の在り方について検討していくことが重要である。
 このため、平成21年8月、情報通信審議会に対し、「通信・放送の融合・連携環境における標準化政策の在り方」について諮問がなされ、これを受けて、「通信・放送の融合・連携環境における標準化政策に関する検討委員会」において、標準化を推進するに際しての基本方針等について検討が行われている。

イ 国際電気通信連合(ITU)活動への参加
 電気通信に関する国連の専門機関である国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)は、
 [1] 無線通信部門(ITU-R:ITU Radiocommunication Sector)
 [2] 電気通信標準化部門(ITU-T:ITU Telecommunication Standardization Sector)
 [3] 電気通信開発部門(ITU-D:ITU Telecommunication Development Sector)
の3部門から成り、周波数の分配、電気通信技術の標準化及び開発途上国における電気通信分野の開発支援等の活動を行っている。我が国は、各部門へ研究委員会の議長・副議長及び研究課題の責任者を多数輩出し、勧告を提案するなど、積極的に貢献を行っている。

(ア)ITU-Rにおける取組
 ITU-Rでは、あらゆる無線通信業務による無線周波数の合理的、効率的、経済的かつ公正な利用を確保するため、周波数の使用に関する研究を行い、無線通信に関する標準を策定するなどの活動を行っている。近年では第4世代移動通信システム(IMT-Advanced)の標準化活動が活発に進められており、2009年(平成21年)10月に開催されたITU-R WP5D会合においては、IMT-Advancedの無線通信方式として、3.9世代携帯電話で使用されるLTE(Long Term Evolution)を高度化した「LTE-Advanced」と、WiMAXを高度化した「IEEE802.16m」の2つの方式が提案された。今後、両無線通信方式の技術的な評価が行われるとともに、2011年(平成23年)頃の標準化を目指して、勧告案の詳細内容について検討が進められる。これらの活動について、我が国からも寄与文書を提出するなど、積極的に貢献しているところである。
 その他、航法衛星システムに用いられる無線航行衛星業務(RNSS)システムの技術特性や他業務との共用検討等についても、積極的に取り組んでいる。

(イ)ITU-Tにおける取組
 ITU-Tでは、通信ネットワークの技術、運用方法に関する国際標準の策定や、これに必要な技術的な検討を行っている。
 2008年(平成20年)9月から、特定のトピックを短期集中的に研究するフォーカスグループ(FG:Focus Group)においてITU-T以外の専門家も取り込んだ形で検討を行ってきたICT利活用に関する気候変動対策の検討について、2009年(平成21年)3月に取りまとめが行われた。これを受けて、同年4月に具体的な標準化活動を行う研究委員会(SG:Study Group)で、ICT利用による環境影響評価手法を研究する課題等ICTと気候変動に関する5つの研究課題が新設され、本格的なITU-Tでの気候変動対策の検討が開始された。我が国は、担当するSGの作業グループの役職者の輩出や寄与文書を提出するなど、積極的に貢献している。
 その他の取組としては、我が国はサイバーセキュリティ、技術的手法によるスパム対策等のセキュリティ関連技術、次世代ネットワークの相互接続性確保の検討、自動音声翻訳サービス等の新たなマルチメディアサービス/アプリケーションに関する技術などの国際標準化へ向けて積極的に取り組んでいる。
 また、今後は、ITU-Tで検討が進められるクラウド・コンピューティングやスマートグリッドに関連した技術の標準化活動への貢献を予定している。

(ウ)ITU-Dにおける取組
 ITU-Dでは、開発途上国における電気通信分野の開発支援を行っている。2006年(平成18年)3月には、ITU-Dの総会である世界電気通信開発会議(WTDC-06)が開催され、今後の活動指針となるドーハ宣言及び行動計画が採択された。同行動計画には、インフラ整備、技術開発、人材育成、災害時の支援等に関するプログラムが盛り込まれ、これらのプログラムに基づき、様々なプロジェクトの実施や各種ワークショップの開催といった活動が積極的に進められている。
 我が国も、アジア・太平洋諸国及びアラブ諸国等において標準化活動に従事する政府職員等を対象とした標準化格差是正に関する研修を、平成19年度及び20年度に実施した。また、平成21年度においては、ワイヤレスブロードバンドネットワーク会議をITUと共催で東京で開催するなど、積極的に貢献を行っている。

ウ インターネットガバナンスフォーラム
 インターネットガバナンスフォーラム(IGF)は、世界情報社会サミット(WSIS)チュニス会合の結果に基づき、国際連合が事務局を設置し、インターネットに関する様々な公共政策課題について議論するフォーラムである。我が国は、政府・ビジネス部門・市民社会などのマルチステークホルダーによる「対話の場」としてのIGFの役割を積極的に支持している。
 2006年(平成18年)11月の第1回会合(於:アテネ(ギリシャ))以降、これまで4回の会合が行われており、2009年(平成21年)11月に開催された第4回会合(於:シャルムエルシェイク(エジプト))では、「インターネットガバナンス〜すべての人のための機会の創造〜」をテーマに、重要なインターネット資源管理、セキュリティ、開放性及びプライバシー、アクセス及び多様性等について、活発な意見交換が行われた。また、2011年(平成23年)以降のIGFの継続について、参加者の多くから支持する発言があり、これを踏まえ、2010年(平成22年)に国連事務総長から国連加盟国に対して、IGFの継続に関する勧告が行われる予定である。

エ 世界貿易機関(WTO)におけるドーハ・ラウンド交渉
 2001年(平成13年)11月から開始された世界貿易機関(WTO:World Trade Organization)ドーハ・ラウンド交渉では、サービス貿易分野において最も重要な分野の一つとされている電気通信分野について、電気通信市場の一層の自由化に向けた積極的な交渉が展開されている。我が国は、WTO加盟国の中で最も電気通信分野の自由化が進展している国の一つであることから、諸外国に対して課せられている外資規制等の措置について、撤廃・緩和の要求を行っている。同ラウンド交渉は、2006年(平成18年)夏や2008年夏に各国の意見対立により中断、再開を繰り返していたが、2009年初頭より2010年中の妥結に向けた機運が高まりつつあり、2010年3月には、交渉状況の進捗評価のための現状評価会合(ストック・テーキング)が開催された。同会合においては、今後もジュネーブにおいて実務レベルを中心に各交渉議長の下で協議を継続することとされた。

オ 経済協力開発機構(OECD)
 経済協力開発機構(OECD:Organization for Economic Co-operation and Development)では、情報・コンピュータ・通信政策委員会(ICCP:Committee for Information, Computer and Communication Policy)における加盟国間の意見交換を通じ、情報通信に関する政策課題及び経済・社会への影響について調査検討を行っている。OECDの特徴は、他の国際機関に比べ、最新の政策課題につき経済的な観点からより客観的・学術的な議論を行う点にある。ICCPは、通信規制政策、情報セキュリティ、プライバシー等の分野において特に先導的な役割を果たしている。
 2008年(平成20年)11月に開催されたICCPの配下の作業部会において、我が国よりインターネット上の違法・有害情報からの青少年保護に関するプロジェクト提案を行い、承認された。同プロジェクトにおいて、2009年(平成21年)4月にAPEC TELとの合同シンポジウムが開催され、今後上記課題に対して更なる国際協力の促進を実現するため、適切な政策枠組の策定に向け議論が進められる予定である。
 また、2010年(平成22年)3月に開催されたICCPにおいて、クラウド・コンピューティング等インターネット経済の未来、ICTのイノベーションとグリーン成長、制定30周年を契機として改めて議論がなされるOECDプライバシーガイドライン等が今後の検討課題として候補に挙がった。さらに、「ICTと環境についての政策枠組」として、ICT政策と気候変動、環境政策との調和等の10原則が提案され、同4月に開催されたOECD理事会において承認された。
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