第1部 特集 ICTの利活用による持続的な成長の実現
第3章 ICTによる経済成長と競争力の強化

(2)日本の強みを生かしたグローバル展開の具体的な事例


 日本の強みと考えられる課題対処の経験・ノウハウを生かしたグローバル展開として、以下「ICTを組み込んだ高速鉄道システム」と「スマートグリッドに活用できる110万ボルト超高圧送電(UHV) 技術」の2事例を取り上げるとともに、その他事例を含め、図表3-2-4-1に整理して示す。

図表3-2-4-1 日本の強みを生かしたグローバル展開の事例
図表3-2-4-1 日本の強みを生かしたグローバル展開の事例
日本の強みを生かして既にグローバル展開を実現している事例、今後グローバル展開が期待される事例
各社・機関・NHKWebサイトなどにより作成

ア 既にグローバル展開を実現している事例(ICTを組み込んだ高速鉄道システム(台湾新幹線))

●地震大国としての経験を生かし高速鉄道システムを受注

 2000年、日本連合7社コンソーシアムが、史上初の新幹線技術の輸出となる台湾新幹線プロジェクトを受注した。台湾新幹線は、台湾の二大都市である台北−高雄間345キロを最速90分で結ぶものであり、2007年に開業したプロジェクトであるが、日本連合は、入札の結果、コアシステム(車両、信号システム、電化システム、通信システム、運行管理システム、運行シミュレーター等)の設計、供給、据付等を受注し、担当することとなった。
 このプロジェクトの受注の要因として、日本連合が地震大国ならではの機能を有していた点等が挙げられる。当初は、車両についてドイツ方式が有力とみられていたが、98年、ドイツの高速鉄道で脱線事故があり、約100人が死亡し、その翌年、2,400人を超える死者を出す台湾大地震が発生した。このような事態を受け、欧州方式は地震に対する防御策が十分ではなかったと評価された一方、日本方式は、新幹線開業以来、乗客の死傷事故がゼロであること、ダイヤ編成、運行上のノウハウ(信号システム、運行管理システム、運行シミュレーターなど)等技術的優位性を有していた点が評価されたことに加え、地震対策技術等も受注への一助となった。なお、配電・制御は欧州、土木工事は国際入札という結果になった。

イ 今後グローバル展開が期待される事例(スマートグリッドに活用できる110万ボルト超高圧送電(UHV)技術)

●送電効率の高さという技術的優位性に加え、省エネルギーが不可欠な中国を味方につけ標準化に成功

 電力会社、メーカー等が参画し、日本が長年取り組んできた110万ボルト超高圧送電(UHV)技術が、2009年5月、国際電気標準会議(IEC)で国際標準として認められ、110万ボルトが標準電圧値の一つとして国際標準に盛り込まれた。
 110万ボルトUHVは日本で現在運用している55万ボルト送電線に比べ約3〜4倍の大量送電が可能で、送電ルート(回線)削減や送電ロスの低減でコスト削減と省エネルギーが図れるといわれている。また、「超高圧送電」(UHV)の技術はスマートグリッドに活用可能と考えられているが、スマートグリッドへの活用、中国、インド等電力需要の旺盛な市場への展開により、標準化を梃子に、今後20年間で1,000兆円とも言われる市場への参入が期待されている。
 110万ボルト超高圧送電(UHV)技術は、日本が30年かけて開発してきたものであり、現在の送電線の3、4倍の大量送電によるコスト削減、省エネルギーが可能という技術的優位性を有していた。それに加え、日本の電力会社は、電力需要が急拡大し、省エネルギーが不可欠な中国に技術協力を行ってきたことを踏まえ、標準化プロセスで、電力の「大市場」中国を通じた働きかけを行った。その働きかけにより、日本の110万ボルト超高圧送電(UHV)技術に反対すると見られたドイツ、スウェーデンが、最終的に支持をしたとされている。
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