第1部 特集 ICTの利活用による持続的な成長の実現
第3章 ICTによる経済成長と競争力の強化

1 イノベーションの必要性と我が国のイノベーション環境の検証


(1) イノベーションの必要性


●成熟社会の我が国では、イノベーションによる高付加価値な財・サービスの創出が成長に不可欠

 不良債権処理等以降の平成14(2002)年2月から平成19(2007)年10月までの69か月間は過去最高の景気拡大期(いわゆる「いざなぎ越え」)であったとされる。この間の年平均成長率は実質で約2.1%、名目で約1.0%と確かに近年においては比較的高い成長を示していた。しかし、国民の雇用面に目を向けると、全体の雇用者数は微増傾向にあるものの、非正規雇用者が占める割合は継続的に増加してきた(図表3-2-1-1)。

図表3-2-1-1 正規雇用者数と非正規雇用者数の推移
図表3-2-1-1 正規雇用者数と非正規雇用者数の推移
「いざなぎ越え」の期間、非正規雇用者が占める割合は増加の一途
総務省「労働力調査」により作成
http://www.stat.go.jp/data/roudou/index.htm

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 また、このような状況を背景として、年収300万〜700万の中間所得層が減少する一方で、300万以下の低所得者層は増加するといった事象も見受けられる(図表3-2-1-2)。

図表3-2-1-2 給与階級別給与所得者数の推移(平成14年=100とした指数)
図表3-2-1-2 給与階級別給与所得者数の推移(平成14年=100とした指数)
「いざなぎ越え」の期間、低所得者層の増加と中間所得層の減少が同時に発生
国税庁「民間給与実態統計調査」により作成
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/minkan/top.htm

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 このように、我が国では経済成長の恩恵が雇用や賃金の面では国民の一人ひとりまで行き渡っていないといった現実がある。その理由には多くの要因が考えられるが、平成21年版通商白書では、世界的規模での「一物一価の法則」「要素価格均等化定理」が働くことにより、賃金が安価な中国等で提供できる低付加価値な財・サービスを国内で提供する生産者の賃金が、それらの国の生産者の賃金に次第に近づいていくといった要因が示されている。従って、今後我が国の経済成長を考える上で、我が国ならではの高付加価値な財・サービスをイノベーションにより創出し、その結果としての生産性向上及び経済成長を実現するといった道筋にこそ光明を見いだす必要があるが1、その新たな道筋にICTがいかに貢献できるかについて検証する。


1 イノベーションによる高付加価値創出の必要性については、多くの研究・文献において触れられているが、平成21年版通商白書では、「内需を刺激するには魅力的な製品・サービスが新たに提供されることも効果的である。その意味でもイノベーションの追求、結果として生産性向上を図ることは重要である(P.168)」「日本の将来は他国には真似のできない世界最高品質の商品やサービス(ナンバーワン)、独創的で個性的な商品やサービス(オンリーワン)を常に生み出せるかどうかにかかっている(P.250)」とある。また、中小企業白書2009年版では、「研究開発費が売上高に占める割合が高い企業(中小製造業)ほど、営業利益率も高い傾向にある(P.44)」「イノベーションを実現し、売上高に占める新製品の比率が一定程度高い中小企業ほど、売上高が増収傾向にある(P.45)」とある
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