第1部 特集 ICTの利活用による持続的な成長の実現
第3章 ICTによる経済成長と競争力の強化

(2)情報通信産業におけるパラダイムシフト〜クラウドサービスの潮流〜


ア クラウドサービスとは
 クラウドコンピューティングは、ネットワーク上に存在するコンピュータ資源(リソース)を活用するための利用技術の発展成果である。クラウドコンピューティング技術を活用したサービス(クラウドサービス)は、利用者が必要なコンピュータ資源を「必要な時に、必要な量だけ」サービスとして利用できる、従来とは全く異なる情報通信システムの利活用策であり、情報通信分野におけるパラダイムシフトがおきつつある。

イ クラウドサービスの市場規模

●クラウドサービス市場は2015年時点で約2兆3,700億円の規模(推計)

 総務省「スマート・クラウド研究会報告書」(2010年)10によると、クラウドサービスの市場規模は、2009年時点で約3,900億円と見込まれる。そのうち、SaaS市場の規模が大きく、市場全体の61.3%を占めている。
 企業等のクラウドサービスの導入意向に関するアンケート調査に基づき、今後のクラウドサービス市場の規模を推計すると、2015年時点で4倍強の約1兆8,100億円になることが見込まれる(図表3-1-2-7)。

図表3-1-2-7 クラウドサービスの市場規模(推計)
図表3-1-2-7 クラウドサービスの市場規模(推計)
クラウドサービス市場は2015年には、約2兆3700億円の規模に拡大
(出典)総務省「スマート・クラウド研究会報告書」(2010)
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/02ryutsu02_000034.html

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 また、行政、医療、教育、農林水産業等におけるクラウドサービスの普及、スマート・クラウド基盤の構築等を政策的に支援することにより、クラウドサービス市場は2015年時点で5,600億円程度の新市場の創出が見込まれるところであり、クラウドサービス市場は約2兆3,700億円の規模に達する。

ウ クラウドサービスの進展による産業連関構造の変化

●クラウドサービスの進展は、他部門産業のけん引を担い、さらに他部門産業成長のフィードバックが情報通信産業に享受されうる可能性

 図表3-1-2-8は、「2008年産業連関表」と「RAS11による延長推計(2020年)にクラウドの上記市場規模予測を加味したもの」で2008年と2020年(予測)を比較して、2020年において情報通信産業が産業連関構造の中でどのように位置づけられるかを「影響力係数」と「感応度係数」で見たものである12

図表3-1-2-8 2008年と2020年(予測)の影響力係数と感応度係数の比較
図表3-1-2-8 2008年と2020年(予測)の影響力係数と感応度係数の比較
2020年に付加価値ベース、生産ベースのどちらでも第1象限にあり、上昇傾向にあるのは、情報通信産業のみ
(出典)総務省「ICTの経済分析に関する調査」(平成22年)
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/link/link03.html

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 「影響力係数」とは当該部門に1単位の需要が発生したときに、当該部門の生産活動によりすべての部門に誘発される生産量(あるいは付加価値量)を相対的に表したもので13、「感応度係数」とはすべての部門に1単位の需要が発生したときに、すべての部門の生産活動により当該部門に誘発される生産量(あるいは付加価値量)を相対的に表したものである14。したがって、「第1象限(影響力係数、感応度係数がともに産業平均1以上)にある産業部門は、連関構造の中で重要な役割を担う産業であることがわかる。当該比較において、付加価値ベース、生産ベースのどちらで見ても第1象限にあり、かつ上昇傾向にあるのは情報通信産業だけであり、将来的にもそのプレゼンスは際立ったものとなることが予測される。クラウドサービスの進展により、他部門産業の牽引を担うとともに、他部門産業成長のフィードバックも享受する情報通信産業は、日本の持続的な経済成長に不可欠であると考えられる。


10 http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/02ryutsu02_000034.htmlからダウンロード可能
11 産業連関表の投入係数を推計する手法の一つで、2時点間の産業連関表の中間投入額(需要額)の変化から、代替変化対角行列(R)、加工度変化対角行列(S)を求め、R×A×S(A:基準年の投入係数行列)という行列演算により計算する手法
12 RAS法で延長推計した投入係数をもとに2020年の中間投入表(取引額)を作成し、2020年のクラウドの市場規模(推計)を中間投入に追加した
13 当該部門が生産活動で財・サービスを多く投入していれば(中間投入比率が大きければ)大きな値が計測されやすい
14 当該部門の他の部門で利用が大きくなれば(他の部門の投入係数が大きくなれば)大きな値が計測されやすい
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