第2部 情報通信の現況と政策動向
第5章 情報通信政策の動向

(2)電波利用の高度化・多様化に向けた取組


ア 移動通信システム・無線アクセスシステムの高度化

(ア)第3世代移動通信システムの高度化に向けた取組
 我が国の携帯電話及びPHSの加入数は1億1,629万加入(平成22年3月末現在)に達し、このうち携帯電話に占める第3世代移動通信システム(IMT-2000)の割合は95.4%であり、第2世代移動通信システムから第3世代への移行が着実に進行している。他方、社会や経済の高度化・多様化を背景に、インターネット接続や動画像伝送等の携帯電話によるデータ通信利用が拡大傾向にあり、より高速・大容量で利便性の高い移動通信システムに期待が寄せられている。さらに、第3世代移動通信システムを高度化した3.9世代移動通信システムの標準化の進展を踏まえ、世界各国において2010年以降の実用化に向けた事業者等の取組が進められているところである。
 CDMA高速データ携帯無線移動通信システムは、携帯電話によるインターネット接続サービスの開始に伴い、データ通信量の急速な増大やより高速なデータ通信の実現への期待を背景に導入され、現在、下り最大3.1Mbps、上り最大1.8Mbpsの伝送速度を実現するシステムとして運用されている。平成21年7月から情報通信審議会において、CDMA高速データ携帯無線通信システムの高度化のための技術的条件について審議が開始され、同年12月に一部答申されたところである。
 一方、各携帯電話事業者は、平成22年から順次3.9世代移動通信システムとしてLTE(Long Term Evolution)システムの導入を計画しており、LTEシステムの利用エリア整備に向けて取組を具体化させている。その中で、LTEシステムの利用エリアの圏外となる地域の解消を促進する小電力レピータの導入も検討されており、第3世代移動通信システムと同じくLTEシステム用の小電力レピータの制度整備が期待されている。
 これらの状況を踏まえ、CDMA高速データ携帯無線通信システムの高度化及びLTEシステム用小電力レピータの導入に向けた制度整備を行うため、平成22年4月に、無線設備規則及び特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則並びに関係する告示の各一部が改正された。総務省では今後も、必要な取組を進めていくこととしている。

(イ)第4世代移動通信システムの研究開発及び国際標準化の推進
 高速移動時で100Mbps、低速移動時で1Gbpsを実現する第4代移動通信システム(IMT-Advanced)は、2011年(平成23年)頃を目指して国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)において標準化作業が続けられている。2007年(平成19年)10月から開催されたITUの世界無線通信会議(WRC-07)において、IMTに使用する新たな周波数として、[1]3.4-3.6GHz、[2]2.3-2.4GHz、[3]698-806MHz、[4]450-470MHzの計428MHzが確保された。
 総務省では、第4世代移動通信システムについて、平成23年頃の実現を目指して、産学官の連携の下、研究開発及び国際標準化に向けた取組を積極的に推進している。

(ウ)広帯域移動無線アクセスシステム(BWA)の推進
 広帯域移動無線アクセスシステム(BWA:Broadband Wireless Access)については、現在、UQコミュニケーションズ株式会社が、モバイルWiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access)を用いて平成21年2月26日から東京23区、横浜市及び川崎市においてサービスを開始しており、同年7月には東名阪地域にサービスエリアを拡大している。また、株式会社ウィルコムは、XGP(eXented Global Platform。いわゆる次世代PHS)を用いて平成21年4月からエリア限定サービスを開始し、同年10月から本格サービスを提供している。
 一方、地域活性化等を目的として市町村等のエリアで事業を行う地域WiMAXについては、総務省は、平成20年3月から免許申請の受付を開始し、同22年3月現在、CATV事業者等を中心に約40社に対して無線局免許を付与しており、うち約4分の1がすでに商用サービスを開始している。

(エ)準ミリ波を用いたUWBレーダシステムの導入
 UWB(Ultra Wide Band:超広帯域)無線システムは、非常に広い帯域にわたって電力を拡散させて通信等を行う無線システムであり、特に通信用途のUWB無線システムについては、最大数百Mbpsの伝送が可能である。準ミリ波帯を用いたUWBレーダシステムは、高精度な測位等を可能とするもので、例えば、その特性を自動車の安全技術に利用することで、交通事故死亡者数の減少等が期待されている。
 このような背景を踏まえ、平成18年12月から、情報通信審議会において、準ミリ波帯を用いたUWBレーダシステムの導入に向け、既存の無線システムとの共用条件等について検討を行い、平成21年11月に、一部答申を受けたところである。
 総務省では、本一部答申を踏まえ、UWBレーダシステムの導入に関する技術基準を定めるため、平成22年4月、電波法施行規則、無線設備規則及び特定無線設備の技術適合証明等に関する規則の各一部を改正する省令並びに周波数割当計画の一部を変更する告示等を改正した。

(オ)5GHz帯無線アクセスシステムの普及に向けた取組
 総務省では、5GHz帯を使用する高出力の無線アクセスシステムについて、段階的に登録制度を導入し、平成19年12月には、登録可能区域が全国(一部地域を除く。)に拡大された。平成22年3月現在、約4,000局が登録されている。

(カ)デジタルコードレス電話の新方式に関する取組
 コードレス電話は、家庭やオフィス内において使用する電話として、1987年(昭和62年)にアナログコードレス電話(250/380MHz帯)が制度化され、また、1993年(平成5年)には、周波数利用効率等に優れたデジタルコードレス電話(1.9GHz帯)が制度化され、広く利用されている。しかしながら、高速データ通信等に対応するための機能の高度化は困難な状況にある。
 そこで、情報通信審議会では、平成21年11月から、キャリアセンス等により現行方式のデジタルコードレス電話と共存することによって周波数の有効利用を図りつつ、高速データ通信等の高度化への対応等、新たなアプリケーションを利用可能とする新方式のデジタルコードレス電話の導入に向けての必要な技術的条件について審議を行い、同22年4月に、答申を受けたところである。
 総務省では、本答申を受けて、デジタルコードレス電話の新方式に関する技術的条件を定めるため、電波法施行規則、無線設備規則及び特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則の一部を改正、並びに周波数割当計画の一部を変更するとともに、関係する告示の改正等の手続を進めている。

(キ)中出力型950MHz帯パッシブタグシステムの導入等
 950MHz帯パッシブタグシステムは、工場等での利用を想定した比較的長距離での通信が可能な高出力型、また、小売店舗の倉庫等での利用を想定した持ち運び可能な低出力型について、すでに制度化され、広く利用されている。近年、トラックの荷物の積み下ろし等の場面において、低出力型よりも通信距離が長く、かつ持ち運び可能な電子タグシステムのニーズが高まっている。
 こうした背景を踏まえ、平成21年6月から、情報通信審議会において[1]「中出力型950MHz帯パッシブタグシステムの技術条件」、[2]意見陳述の結果要望があげられた、956MHzから958MHzまでの周波数の拡張等を含む既存の「950MHz帯電子タグシステムの高度化に関する技術的条件」についての審議が行われ、同21年12月にこれらの技術的条件について一部答申が出された。
 総務省では、本一部答申を踏まえ、中出力型950MHz帯パッシブタグシステムの導入、及び950MHz帯電子タグシステムの高度化に関する技術基準を定めるため、平成22年5月、電波法施行規則、無線設備規則及び特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則の一部を改正、並びに周波数割当計画の一部を変更するとともに、関係する告示を改正した。

イ ITSの推進
(ア)安全運転支援通信システムの導入
 総務省では、ITS(高度道路交通システム:Intelligent Transport Systems)において使用される無線システムの更なる高度化を図るとともに、「車車間通信」等の無線システムに求められる要求条件等を明確化すること等を目的に、平成20年10月から「ITS無線システムの高度化に関する研究会」14を開催し、同21年6月に報告書を取りまとめた。研究会の報告書では、見通しの悪い交差点等における交通事故を防止するITS無線システムの導入に向けて、利用イメージや通信要件等について取りまとめられている。それを受け、平成21年7月に700MHz帯安全運転支援通信システムの技術的条件について、情報通信審議会に諮問した。技術基準の策定に向けて、車車間通信と路車間通信の共用を可能とする通信方式に関する検討及び隣接する他システム(放送、電気通信)との共存条件に関する技術的条件の検討が進められている。
 VICS(道路交通情報通信システム)やETC(自動料金収受システム)に代表されるように、ITSは、我が国の様々な分野における課題解決の手段として社会基盤のひとつとなっており、現在、高度化を図るための取組が進められている(図表5-2-3-3)。

図表5-2-3-3 安全運転支援システム(イメージ)
図表5-2-3-3 安全運転支援システム(イメージ)

(イ)高分解能レーダの導入
 現在、自動車同士の衝突事故を回避する車載レーダシステムとして、76GHz帯レーダの利用が進んでいる。76GHz帯レーダは、200m程度先までの自動車等の大きな対象物の検知は可能であるが、占有周波数帯域幅が500MHz以下のため、数十m以内の人や自転車等の小さな対象物の検知については困難である。
 一方、平成22年4月に制度化が完了したUWBレーダは、占有帯域幅が4GHz以上と広帯域であり、歩行者等の検知が可能なシステムであるが、他の無線システムとの共存を図るため短距離の検知に限られていたり、利用期限に制約が課されている。そのため、安全な道路交通社会の実現に向けて、継続的に使用可能であり、広く普及可能な広帯域の高分解能レーダの実現が必要となっている。このような状況を踏まえ、平成21年11月から、情報通信審議会において、79GHz帯高分解能レーダの導入に向けて必要な技術的条件の検討を行っている。他システムとの共存条件の検討等を行い、平成22年8月頃の答申が予定されている。

(ウ)グリーンITSの推進
 総務省では、低炭素社会の実現に向けて、自動車の速度・位置情報等を収集・配信するITS情報通信システムのデータ内容・通信方法を共通化・高度化するため、交通渋滞の削減に資する効率的な交通情報収集・配信を可能とするITS情報通信システムの実証を平成22年度より実施している。


14 参考:ITS無線システムの高度化に関する研究会:http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/chousa/its/index.html
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