第1部 特集 ICTの利活用による持続的な成長の実現
第3章 ICTによる経済成長と競争力の強化

(1)UGDの分類


●日本の消費者の洗練度はグローバル企業も高く評価、世界展開に活用  

 日本の消費者の洗練度は、世界経済フォーラム(WEF)が公表する「ICT競争力ランキング」で国際的に高い評価を受けている21ほか、一部の大手海外企業によっても高く評価されている。例えば、LGは、「日本の消費者の要求水準は、世界のどの国よりも高い。日本で鍛えられれば、世界での競争力強化につながる」と考え、携帯電話を日本向けに開発し、販売を開始するなどしており、日本をテストベッドとしてとらえている22。また、P&Gは、「日本の消費者は世界トップクラスの厳しい目を持っており、その要求に応えられる製品は他の先進国に展開しても大抵通用する」と日本の消費者を評価している23
 また、本節1で、「イノベーション総合力」に影響を与える因子として、日本の「製品・サービスの洗練度」が高いとの分析結果を紹介したが、こうした日本の「洗練された消費者」を背景にした企業の顧客志向度などが反映されているものと考えられる。

●多くの企業がUGDにより製品・サービスを開発、販売、また、UGDで製品・サービスを提供する企業とユーザーとの関係が多様化

 日本の消費者の洗練度が高いとしても、企業がグローバル展開をする上では、日本の製品・サービスの品質や販売方法をそのまま展開するのでなく、展開先市場の実情や消費者のニーズに応じた展開をすることが重要である24
 先述の通り、グローバル市場において「現地のユーザーにとり高付加価値」となる製品・サービスを開発・提供する上で、ユーザーとのコミュニケーション強化が有効と考えられるが、ICTはその有力なツールとなりえる。近年、ブロードバンド環境や携帯電話端末の普及等により、ユーザーが企業に対してこれまでよりも深くその製品・サービスの企画、開発、改善に関与する事例が増加しているが、ICTを活用したUGDのタイプとして、ユーザーと企業との関係性の別により、「企業主導タイプ」、「ユーザー主導タイプ」、「ユーザー情報収集タイプ」、「ユーザー評価タイプ」に分類することができよう(図表3-2-3-1)。

図表3-2-3-1 UGDにおける、ユーザーと企業の関係性及びICTの活用箇所
図表3-2-3-1 UGDにおける、ユーザーと企業の関係性及びICTの活用箇所
日本の強みを生かして既にグローバル展開を実現している事例、今後グローバル展開が期待される事例
日経コンピュータ(2008年8月15日号)、各社Webサイト、upnext”User input development case studies”により作成

 「企業主導タイプ」は、企業が開発した製品をユーザーが評価する場をICTで提供し、改善要望等を商品開発に活用するというもので、ユーザーと企業との関係性は従来のマーケティングの延長ともいえる。
 「ユーザー主導タイプ」は、アイデア自体をユーザーからICTを用いて収集の上、商品開発に活用するものである。
 「ユーザー情報収集タイプ」は、複数のユーザーからの情報を企業が収集し、整理・分析を行うことで、新たな価値を付加したICTサービスとして提供するものである。
 「ユーザー評価タイプ」は、ユーザーが開発した商品を、別のユーザーが評価する場をICTにより提供し、ICTサービスとして提供するもの(プロが開発した商品を、ユーザーが評価する場をICTにより提供し、ICTサービスとして提供するもの)であり、ユーザーの評価が、企業の製品開発に生かされる点では「企業主導タイプ」と共通するものの、商品開発に企業外部の力がより取り入れられた進化形であるといえる。「Vodafone Betavine」はこの具体例であるが、これは、英国ボーダフォンが、コミュニティサイトを用い、独立系開発者(プロフェッショナル)の開発したテスト版アプリケーションを、最新のトレンドを求めるユーザーに評価、コメントしてもらい、その中で最も人気の高いアプリケーションを、ボーダフォンの一般顧客を対象に有料アプリケーションとして製品化するという試みであり、2007年2月より開始された(図表3-2-3-2)。

図表3-2-3-2 Vodafone Betavineのイメージ図
図表3-2-3-2 Vodafone Betavineのイメージ図
Vodafoneはコミュニティサイトを用い、プロの開発したアプリケーションをユーザーに評価、コメントしてもらい、それらを反映させた魅力的な新製品をタイムリーに販売
Upnext”User input development case studies”により作成

 このように、UGDには様々なタイプがみられ、製品・サービスを提供する企業とユーザーとの関係性は、一方向から双方向、多方向と多様化し、その相互作用もスピードアップしていること、その媒介役としてICTが活用されていることが見て取れる。


21 2008−2009年版で2位、2009−2010年版で1位の評価を受けた
22 日経ビジネス(2009年10月12号)
23 日経情報ストラテジー(2009年11月号)
24 BOP層(Base of the Economic Pyramid層)を対象とするビジネスの展開について、総務省「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」国際競争力強化検討部会の「中間取りまとめ」(平成22年5月)(http://www.soumu.go.jp/main_content/000066361.pdf)においても同様の指摘がされている
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