昭和58年版 通信白書

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第3節 諸外国における情報通信の動向

 1 通信政策及び事業運営をめぐる動向

(1)米国における電気通信政策をめぐる動向
 米国では,1960年代以降,技術の進歩及び電気通信需要の高度化・多様化を背景に新しい電気通信サービスが登場するとともに,電気通信分野における規制が大幅に緩和されてきた。
 コンピュータ・電気通信技術の進歩と融合傾向により,「通信」と「データ処理」の境界が不明確になったため,連邦通信委員会(FCC)は,第1次コンピュータ調査に続き,1976年に第2次コンピュータ調査を開始し,1980年,この調査の最終決定により,ネットワークサービスを「基本サービス」と「高度サービス」に区分し,高度サービスを通信法の規制の対象外とした。
 AT&Tは,この決定により完全分離の子会社を通じ高度サービスを提供できるようになり,1982年7月,非規制サービスを提供するための分離子会社アメリカン・ベルを設立した。アメリカン・ベルは,1983年7月にAIS/NET1000(Advanced Information Systems/Net1000)と呼ばれる高度サービスを開始した。高度サービスAIS/NET1000は,AT&Tの公衆データ網と分散処理センタを接続し,ローカル・サービス・ポイントを介して情報伝送と情報処理機能を提供するものであり,IBMのインフォメーション・ネットワーク・サービス等と競合するものである。
 電気通信分野の中でも現在の市場規模は比較的小さいが,将来の発展が期待されているデータ通信の分野に,米国の巨大企業IBMに次いでAT&Tも参入することとなり,この分野における競争は一段と激しいものになると予想される。
 また,規制緩和と競争促進を目指す米国の通信政策は,国際通信分野にまで広げられており,1981年12月,記録通信分野において国内と国際を区別していた通信法を修正する記録通信事業者競争法が成立し,国内記録通信事業者が国際へ,国際記録通信事業者が国内へ各々参入することが認められた。
 さらに,1982年8月,FCCは,第2次コンピュータ調査の決定は国際分野にも適用されることを認めるとともに,1962年の通信衛星法により設立された政府の監督下にある通信衛星会社コムサットに対する規制を次のように緩和した。
[1] AT&T等の国際通信サービスを提供する会社以外に,顧客に国際衛星通信回線を販売することを認める。
[2] コムサットは完全分離の子会社を通じて,通信サービスを直接エンド・ユーザに提供することができる。
 その後,1982年12月には,国際通信サービスを音声通信と記録通信に区別していた1964年のTAT-4決定を撤廃し,通信事業者が国際音声と国際記録の両分野に自由に参入することが認められるようになった。
(2)英国における電気通信事業の自由化の動向
 英国では,1981年7月,英国電気通信公社法が成立し,1982年2月には英国電気通信公社(BT)と競合して電気通信サービスを提供するマーキュリー計画の認可,さらに付加価値通信サービスの自由化及び端末機器の自由化が行われ,電気通信分野において積極的な自由化政策が押し進められている。
 英国における電気通信自由化の第2弾として,BTの民営化と電気通信サービスへの競争の導入を目的とする電気通信法案が,1982年11月議会へ提出された。この法案の主な内容は次のとおりである。[1] BTを単一の企業体として維持しながら会社法上の会社にする。[2] BTの電気通信事業運営の排他的特権に終止符を打ち,他の通信事業者と同様の免許を取得させる。
 同法案は,下院において,[1]農村地域での電話サービス,公衆電話サービス,緊急電話サービス等の確保,[2]民営化後のBTに対して付与する免許の内容,等について長時間に及ぶ審議が行われ,1983年3月,農村地域での電話サービス,公衆電話サービス,緊急電話サービス等公共の福祉の観点から必要なサービスの提供については,BTに提供の義務を明確化した上,ほぼ政府の意向どおり承認された。
 しかし,1983年5月,議会が解散されたのに伴い,上院で審議中であった同法案は,審議未了のまま廃案となった。
 6月に実施された総選挙後,政府は,廃案となった法案とほぼ同内容の電気通信法案を再度議会へ上程した。
(3)米国及び英国におけるCATV政策に関する動向
 米国2では,1965年以来,FCCによりテレビ放送事業者の保護を主眼とするケーブル規制が行われていたが,1980年までに地元局信号の再送信を義務づけた「マスト・キャリー・ルール」等若干を残して大幅に規制が緩和された。
 1983年6月,上院本会議において,ケーブル規制のより一層の緩和を目的とした「ケーブル・テレコミュニケーションズ法案」が可決された。この法案の主な内容は,次のとおりである。
[1] CATV業者は,原則として,現行料金の5%以内あるいは,消費者物価指数の上昇範囲内のどちらか大きい方によって,毎年料金を値上げできる。
[2] CATV業者に対するフランチャイズの更新は,CATV業者が法律違反,フラ:ンチャイ.ズの条件違反等の場合を除き行われる。
[3] CATV業者が支払うフランチャイズ料金は,総収入の5%以内とする。
[4] CATVシステムに対し,基本的な電話サービスを行う以外は,コモンキャリアとしての規制は課さない。しかしながら,法案が成立するためには,下院において法案が可決されなければならない。
 一方,英国では,1982年3月,内閣の情報技術諮問パネルが,CATVに関する報告書を発表した。この報告書では,CATV網の整備拡充が経済的に多大の利益をもたらすこともあり,CATV網を早急に建設することを勧告し,そのためにCATVに対する空中波番組の再送信の義務づけ,広告放送の禁止等の規制を緩和することを.勧告した。
 さらにその後,内務大臣の諮問機関であるハント委員会は,CATVの導入が現在のテレビ放送にどのような影響を.与えるかを調査し,1982年10月,CATV網の早期建設を進めるためには規制を最小限にとどめるべきだが,英国放送協傘(BBC)と独立放送協会(IBA)が提供.しているテレビ放送サービスを維持するために若干の保障措置も必要であると勧告した。
 これらの勧告を受けとめるかたちで,政府はCATVに関する白書を,1983年4月発表した。白書は,[1]CAT<5>の事業免許の付与とサービスの監督を行う機関として,「ケーブルオーソリティ」を新設する,[2]ケーブルシステム間の接続はBTとマーキュリーが行う,[3]CATV事業者は,BBCとIBAが当該地区に向けて放送するすべてを再送信しなければならない,[4]公序良俗に関してはBBC及びIBAと同規準で行うなどを骨子としている。

 

 

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