昭和58年版 通信白書

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2 実験用通信衛星の運用

 実験用中容量静止通信衛星(CS「さくら」)は,社会経済活動の進展に伴う国内通信需要の増大と利用形態の多様化に対処するため,実用通信衛星システムの導入に必要な技術を開発し,技術基準の確立を図ることなどを目的として開発された。
 CSを用いた実験は,53年5月15日に開始されて以来4年以上の期間にわたり,電波研究所と電電公社の緊密な連携により,宇宙開発事業団の協力を得て,円滑に実施され多大な成果が収められた。
 CSは,53年7月から6か月ごとに実施された搭載機器定期チェックアウト,運用管制実験等により性能が確認されており,現在もなお良好に動作している。
 CSを用いた実験を更に長期にわたって継続するため,57年1月をもって衛星の南北軌道制御を停止し,衛星の燃料消費の低減を図っている。このため,衛星の軌道傾斜角は年間約0.8度の割合で増大しており,57年度後半からは,このような条件における衛星の運用管制実験,搭載通信機器の特性測定実験,小形地球局用の簡易なアンテナ追尾技術に関する実験等を中心に実施している。
 宇宙通信連絡会議開発実験部会は57年8月までのCS実験の成果を取りまとめ「CS実験総合報告書」を作成した。報告書の概要は以下のとおりである。
 [1] 衛星搭載通信機器の特性測定実験
 6か月ごとに定期点検を実施し,搭載アンテナの放射特性や中継器の送信電力,周波数特性等の経年変化を測定した。その結果,これらが長期間にわたり安定に動作することが実証された。
 [2] 衛星回線の基本特性の測定実験
 雑音やスピン変調(衛星のスピン軸がアンテナの回転軸からずれることにより生じる。)が衛星回線に与える影響を測定し,回線設計のための基本データを得た。
 [3] 衛星通信実験
 準ミリ波帯及びマイクロ波帯を利用して固定局通信実験,小容量通信実験及び車載局通信実験を実施し,ネットワーク構造や伝送情報の種類と量に適合した回線設定技術,変復調技術,多元接続技術等を確立した。
 [4] 電波伝搬実験
 準ミリ波帯電波の降雨強度に対する降雨減衰特性及び交差偏波識別度劣化特性を4年間にわたって測定し,全国各地の降雨強度分布から降雨減衰量の確率分布を推定するための統計データを取得した。
 [5] 衛星の運用管制実験
 この実験において,一つの地球局を用いて測角と測距を同時に行うことにより衛星を追尾する技術並びにスピン安定型の静止衛星の軌道及び姿勢を高精度で決定し制御する技術を取得するとともに,これを支援する運用管制ソフトウェアの小形化に成功した。
 [6] 応用実験
 災害対策用衛星通信システム,紙面電送システム等衛星通信の各種利用形態に即した実験を実施し,これらのシステムの技術的条件及び運用条件を把握した。
 以上の実験を通じて,我が国は,世界に先駆けて30/20GHz帯の周波数を用いた衛星通信技術を取得し,実用の国内衛星通信システムを実現するための技術的基礎を確立した。
 CS計画は,将来の増大かつ多様化する通信需要にこたえる通信衛星の早期実用化を目的とした国家プロジェクトであり,CS実験の成果を十分に反映して開発されたCS-2の実現によって,CS計画の目的は達成されたといえよう。
 一方,宇宙通信は,今後とも飛躍的に進展していくものと予想される。これに伴い,宇宙通信技術も高度化し,多様化していくものと考えられ,我が国においても,これらの研究開発を積極的に推進していく必要がある。CS計画の成果は,これらの研究開発の遂行のための貴重な礎石となって引き継がれ,ひいては,宇宙通信の発展に大きく貢献することとなろう。

 

 

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