昭和58年版 通信白書

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2 新しい通信システムの開発計画の動向

(1)国内及び地域衛星通信
 衛星通信システムは,国際通信において高品質な通信を可能とする通信衛星技術が確立されるにつれ,新たに国内通信に利用されるようになり,欧米諸国を始め,多くの国々で国内あるいは地域の衛星通信システムが相次いで実施または計画されている。
 国内衛星通信システムのうち,独自の実用通信衛星を打ち上げている国は,57年度末現在,米国,ソ連,カナダ,.インドネシア及び日本であり,計画中の国は,インド,英国,フランス,スウェーデン,.オーストラリア,ブラジル等がある。一方,トランスポンダ賃借によるものは,インテルサットから賃借している国が,チリ,デンマーク,サウディ・アラビア等があり,さらに,インドネンアのパラパ衛星のトランスポンダをフィリピン,タイ,マレイシアが賃借している。
 米国では,国内衛星通信市場に通信事業者の自由参入を認めるというオープン・スカイ政策が導入された1972年以降,1974年のウェスター・システムを始めとして,サトコム,コムスターモしてSBSの国内衛星通信システムが運用されており,さらに,Gスター,テルスター等のシステムが計画されている。
 カナダでは,広大な国土を有し地域により開発の程度,人口密度に大きな差があることから,早くから国内衛星通信システムの導入に積極的であり,1969年,運営事業体としてテレサット・カナダを設立し,1972年世界最初の国内通信衛星アニクAを打ち上げ,テレビ伝送と電話サービスへの利用を開始した。その後,1978年アニクBを打ち上げ,さらに1982年よりアニクC及びDの衛星計画を推進している。
 ヨーロッパでは,欧州宇宙機関(ESA)が欧州地域衛星通信システムを計画しており,1978年に軌道試験衛星(OTS)が打ち上げられ,さらに,1980年代の欧州諸国の通信需要の増大に対処するため,長距離電話とテレビ伝送を目的とした実用衛星ECS-1が1983年6月に打ち上げられた。
 このほか,ヨーロツパの各国では,それぞれの国で国内衛星通信計画が進められており,フランスでは,テレコム1が1984年に打ち上げられる予定である。英国では,1986年にUNISAT,イタリアでは1987年にITALSATを打ち上げる計画があり,スウェーデン,ノールウエー及びフィンランドは共同出資により,TELE-Xを1986年に打ち上げる予定である。
 一方,アジアにおいては,インドネシアが広範囲に散在している多数の島々からなる国土に対し,経済の発展を促進する最も効率的な方法として国内衛星通信システムを採用しており,1976年パラパA衛星を打ち上げ,電信,電話,テレビ中継サービスを行っている。このパラパA衛星を使いフィリピン,タイ,マレイシアの3か国は,国内の電話及びテレビ中継に利用している。
 アラブ地域においては,1976年にアラブ衛星通信機構(アラブサット)が設立され,加盟諸国に対し電信,電話,テレビ伝送,データ伝送等のサービスを提供するため,アラブサットの打上げが計画されている。
(2)放送衛星
 衛星の利用範囲は通信分野にとどまらず放送の分野にまで拡大し,広帯域でしかも高品質の音声や画像の放送の可能性がある衛星放送が各国において計画されている(第1-1-21図参照)。
 1977年,12GHzにおける放送衛星業務の計画に関する世界無線通信主管庁会議(WARC-BS)が開かれ,第2地域(南北アメリカ)を除く地域での周波数割当計画が作成された。
 フランスと西独は,放送衛星の共同開発を行っており,それぞれ3系統の実験用チャンネルを持つ衛星を西独用(TV-SAT)及びフランス用(TDF-1)が1985年に打ち上げられる予定である。一方,英国では,多目的通信衛星UNISATを1986年打ち上げ,2チャンネルの衛星放送を計画している。
 この他,1986年に打ち上げられる欧州宇宙機関(ESA)の通信衛星L-SATでも,2チャンネルの衛星放送が計画され,1チャンネルはイタリアが国内での実用化実験に使い,残りの1チャンネルはヨーロツパ放送連合(EBU)に預けられ,その調整の下にイタリア以外の参加国が交代で自国の実験に使う予定になっている。また,ノールウエー,フィンランド,スウェーデンの北欧3か国は,共同開発による通信衛星TELE-Xを使い衛星放送の実験を行う予定にしている。
 広大な国土をもつカナダでは,衛星を利用した通信や放送に早くから着目しており,1979年,アニクBを利用して,オンタリオ州各地の一般家庭やCATV施設等に小型の受信施設を設置し,衛星放送の実験が行われた。
 米国では,1977年の世界無線主管庁会議(WARC-BS)において,第2地域における周波数及び軌道上の位置が決まらなかったため,ヨーロツパに比べ衛星放送計画は遅れていたが,1983年の第2地域無線主管庁会議(RARC-83)の結果を待ってからでは衛星放送の実用化が遅れるという配慮から,1982年6月,FCCは,放送衛星を制度化するための政策と規制を決め,その後,サテライト・テレビジョン等8社に対し放送衛星系の建設に許可を与えたところであるが,1983年7月,RARC-83が終了し,米国に対する周波数及び軌道位置の割当てが決定しているところから,今後,正式な免許が与えられることになると思われる。(3)光通信
 1960年における位相のそろった(コヒーレントな)光を放出するレーザの発明以来,光通信技術は急速な進歩をとげ,特に光ファイバ伝送方式は,本格的な研究開始後,わずか10年余で実用化されるに至った。光ファイバ伝送方式は,低損失,広帯域,軽量・細径等め特徴を持ち経済性及び伝送品質で優れていることから,今後,大容量長距離通信をはじめとする公衆通信網に大幅に取り入れられようとしている。また,多彩なサービスを提供可能なサービス総合ディジタル網の構築の一環として,光ファイバを加入者系にまで導入しようとする計画もあり,光ファイバ伝送方式の通信網への導入は,今後ますます拡大していくものと予想される。
 米国では,AT&Tが2っの大規模な大容量長距離光ファイバ伝送プロジェクトを実施している。それは北東回廊プロジェクト(マサチューセッツ州のケンブリッジからバージニア州のモズレーまで)と太平洋岸プロジェクト(カリフォルニア海岸515マイル)である。すでに,1983年2月には,北東回廊のうちワシントンD.C.とニューヨーク間372マイルが完成し,近くカリフォルニア州を縦断するサクラメントからサンディエゴまでのうち163マイルの区間が開通する予定であり,1984年末には,総延長2,300マイルになるものと予想されている。また,光ファイバ海底ケーブルの開発もベル研究所等で進められている。
 英国では,すでに1982年7月,BTがロンドンとバーミンガム間204kmで光ファイバ伝送路が完成しており,1988年までに総延長1,054kmに及ぶ全国にまたがる24のリンクが完成する予定である。また,マーキュリー社は,マーキュリー通信網の建設を計画しており,当初はマイクロウェーブを使用するが,将来は英国鉄道沿いにロンドン,バーミンガム,マンチェスター等主要都市を光ファイバで結ぶ予定である。
 西独では,郵電省(DBP)が1977年から西ベルリンにおいて光ファイバ伝送方式の実験を行い,光ファイバの電気通信網への導入に積極的であり,1981年広帯域統合光ファイバ電気通信市内網(BIGFON)の試行計画を発表した。この計画は,1982から83年にかけて,西ベルリン,ミュンヘン,ハンブルグ等7都市で光ファイバケーブルを利用して,電話,データ伝送,CATV等各種サービスを試行的に行うものであり,技術開発及び運営上の問題点等について調べることとしている。
 フランスでは,南西フランスにある人口3万人の都市ビアリッッにおいて,実験用の光ファイバ通信網の建設が進められている。このネットワークにより光ファイバの実地伝送試験を行うとともに,テレビ電話,CATV,FMによるハイ・ファイ放送等の新サービスに対する加入者の適応性を調査する予定であり,1983年から第1段階の実験が開始された。

第1-1-21表 諸外国の放送衛星計画

 

 

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