昭和48年版 通信白書

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3 行政機関等による利用

(1) 利用の現状
 我が国の行政機関は,行政事務能率の向上を図り,行政サービスを充実させるためデータ通信の導入をはじめとする行政情報処理のEDPS化を進めてきた。
 特に,社会,経済活動の急速な拡大,変化は,都市問題,公害問題,交通問題などの新しい問題をひきおこしたが,今やデータ通信は,行政が直面する今日的な課題に対処するための必要不可欠の手段となっている。大都市における交通制御システムや環境保全のための大気汚染観測システムなど時々刻々に変化する状況に即応して有効な対策を打ち出す制御用データ通信システムの設置が具体的なシステム導入例としてあげられよう。
 一方,国の行政機関として,各省庁が個別にデータ通信システムを導入していく現状にかんがみ,政府機関が共用の通信ネットワークを形成し,これらシステムの効率的利用を図る必要があるところから行政管理庁及び郵政省が協力して行政情報通信ネットワークシステムに関する調査研究を進めている。
(2) 国の行政機関
 国の行政機関の代表的なデータ通信システムである労働省の求人・失業保険システムの概要は,次のとおりである。
ア.業務の流れ
 システムの構成は第3-4-14図のとおりであり業務処理の流れは,おおむね次のとおりである。
[1] 公共職業安定所及び都道府県は,受理した求人票,求職票,失業保険の各種届などの原票に基づき,さん孔タイプライタによって労働市場センターあての各種データを紙テープとして作成する。
[2] 作成した紙テープは,データ伝送装置にかけることによって自動的に電気信号に変えられ,50b/s規格の速度で特定通信回線によって集配信装置の置かれている道府県に伝送される。
[3] 道府県の集配信装置は,伝送されたデータを自動的に集約して中継局に伝送する。
[4] 中継装置は,送られてきたデータを更に集約し,1,200b/s規格の高速回線で労働市場センターに伝送する。
[5] センターでは,伝送されてきたデータを中央交換装置により区分し,必要な処理をして電子計算機へ回す。電子計算機では送られてきたデータ(求人連絡,求人,求職の照会など)の大部分を即時処理し,結果を折り返し中央交換装置に送る。
[6] 中央交換装置では,このデータを磁気テープに編集した上で各端末あて伝送する。あて先の安定所等においてはデータ伝送装置によって紙テープにさん孔され,さん孔タイブライタにかけて判読できる文字として打ち出される。
イ.システム導入の効果
 労働省労働市場センターでは,本システムの導入の効果として,全国の職業安定機関がネットワークで網らされたことにより全国的見地に立った一体的な職業安定行政の運営の基盤が整備されたとしている。
[1] 広域職業紹介業務
  従来の書類の郵送による処理方式のもとでは,求人申込から求人連絡まで1週間近くを要していたが,システム導入により求人連絡は即時に連絡先の安定所に通知され,その日のうちに(遅くとも翌日中)あっ旋,紹介の過程に入り得ることになった。また,大都市通勤圏(関東,中部,近畿地方等)ではオンラインで職業紹介が行われている。
  求人,求職に対する指導等については,従来は全国の労働市場の状況に関する客観的な資料が乏しかったが,現在は,労働市場センターから提供される豊富で客観的な労働市場情報の活用により的確な指導,相談が可能となり,安定所の窓口におけるサービスの質的向上が図られることとなった。
[2] 失業保険業務
 失業保険期間通算業務は,単なる予算,人員の増加によっては解決し得ないものであって,本システムの導入による大量事務の集中処理によってはじめて実施が可能となったものである。
 失業保険徴収業務は,従来,都道府県において手作業で行っていた台帳記録,保険料計算等の業務をセンターが行うこととなったため,都道府県における事務が大幅に簡素化された。
(3) 地方公共団体
ア.利用の概況
 地方公共団体における電子計算機利用状況は,都道府県47団体(うち,民間等に委託しているもの14団体),市町村1,594団体(うち,民間等に委託しているもの1,314団体)である(48.1.1.現在,自治省調べ)。
 47年度末におけるデータ通信システム数は61であり,うち都道府県によるもの41,市によるもの20である。
イ.システムの概況
 地方公共団体におけるデータ通信システム導入の歴史は新しく,まず42年度に東京都の農産物流通管理システムが導入されたが,近年における増加状況は著しく,45年度の13システムから47年度末の61システムへと急増している。
 これは,[1]最近における公害の深刻化に伴い大気汚染防止法による指定地域を中心に,各都道府県,市によって大気汚染観測システムが導入されたこと及び[2]交通ラッシュ緩和対策の一環として,警察庁の「特定交通安全施設等整備事業五か年計画」に基づく国庫補助を受けて人口30万人以上の都市や県庁所在地を中心に各都道府県警察本部による交通制御システム(交通管制センター)が導入されたことによるものである。
 この結果,地方公共団体のデータ通信システムのうち,大気汚染観測システム(28システム)及び交通制御システム(25システム)が全体のシステムの86.9%を占めている。
ウ.川崎市の大気汚染監視システム
 川崎市は,近年における大気汚染の進み方が著しいことから,大気汚染監視の強化を図るため公害部を局に昇格させるとともに,47年8月に公害監視システムを導入した。
 このシステムは,環境大気汚染自動監視システムと発生源亜硫酸ガス自動監視システムが主体となって構成されており,我が国でも最大規模の公害監視システムである。
(ア) 環境大気汚染監視システム
 環境大気汚染監視システムは第3-4-16図に示すとおり,基準測定点(観測所)7か所において測定した主要汚染物質及びこれらに関係のある風向,風速などのデータを,特定通信回線(D-5規格)で結ばれた公害監視センター(監視所)にアナログ方式のテレメータによって常時伝送し,ここで集中監視するものである。
 伝送されてきた各種測定データはデータ処理装置によって処理され,その結果はグラフィックパネル盤,データ表示盤及び市役所前の電光表示盤にそれぞれ表示される。更にその結果は,時報・日報の作成用タイプライタ装置によって記録されるとともに,日報その他の統計処理を行うために紙テープにも記録される。
 また,警報や注意報が発令されたときは,その情報を各基準測定点に個別又はいっせいに通報することができる。
(イ) 発生源亜硫酸ガス自動監視システム
 発生源亜硫酸ガス自動監視システムは,第3-4-17図に示すとおり川崎市の亜硫酸ガス排出量の90%以上を占める大手42工場(観測所)を対象に,各工場の燃料使用量,主要煙道中の亜硫酸ガス濃度,重油中の硫黄含有率などの測定データをディジタル方式のテレメータにより特定通信回線(D-1規格)を使用して公害監視センター(監視所)に15分ごとに伝送し亜硫酸ガスの総排出量を監視するものである。
 その結果は中央監視室等に設置してあるパネル表示盤にそれぞれランプ表示される。更にラインプリンタにより測定結果が記録されるとともに,磁気テープにも記憶され,月報作成その他の統計処理が行われる。また,緊急時及び亜硫酸ガス排出量が平常値を超過したときは,燃料切換えなどの指令及び確認が各工場に対しいっせい指令装置によって行われる。
 川崎市の大気汚染監視システムは,D-1規格回線45回線を使用する大規模な公害監視システムであり,更に48年度には,自動車の排出ガスを測定し,テレメータにより公害監視センターへ伝送するシステムがか働することとなっている。
エ.交通制御システム
 交通制御(管制)システムの典型的なシステムは,[1]交通情報収集システム,[2]交通信号制御システム,[3]交通規制システム,[4]緊急時交通制御システム,[5]交通誘導・広報システムにより構成されている。各交差点に設置された車両感知器やパトカー等からの交通情報(通過自動車の台数,速度等)は,データ通信回線でセンターの電子計算機に集中される。電子計算機では,各道路の交通量の動向を総合的に判断し,データ通信回線を通して信号制御機,う回誘導板制御機,標識制御機に対し制御情報を送出して広域的な交通制御を行い,特に信号制御は,センター管内の全信号機が有機的に連動するようにシステムが構成されている(第3-4-18図参照)。
オ.行政・財務管理システム
 地方公共団体のデータ通信システムのうち,今後の地方自治行政の総合的な情報処理システムの体系化を目ざすものとして,44年度に導入された北海道庁の財務会計システムと45年度に導入された岩手県の行政管理システムがある。
 北海道庁のシステムは,本庁と12の支庁との間を50b/s規格回線で結び,[1]財務会計業務を中心とし,[2]民生福祉事務,[3]土木工事管理(災害復旧工事見積業務)についてオンライン化したものであるが,現行システムがデータ・ギャザリングを主としたバッチ処理が中心であり,また,回線規格が50b/sであることから通信量がオーバー・フローしつつある傾向にあるため,目下,システムのレベルアップが検討されている。
 岩手県庁のシステムは,本庁と14の出納事務所との間を200b/s規格回線(2回線),50b/s規格回線(13回線)で結び,[1]財務会計業務,[2]土木事業進行管理,[3]業務統計報告,[4]メッセージ通信等の業務をオンラインで行っているが,電子計算機が小型であり,通信回線が低速であるため緊急を要しない情報については,リモート・バッチ方式,あるいは他の電子計算機に切り換えて処理するなどの方式がとられている。
 (4) 国立大学
 国立大学におけるデータ通信システムは,東京大学をはじめ7大学に設置されている大型計算機センターの大型電子計算機と,各大学に設置されている中小型電子計算機を通信回線で接続する構成となっている。
 大型計算機センターは,国立学校設置法施行規則に基づき,全国の国公私立大学の教員その他の者に研究のために共用させる施設として,昭和41年に東京大学に設置されたのを初めとし,現在,北海道大学,東北大学,京都大学,大阪大学,九州大学等に設置されており,大学におけるデータ通信システムの中心的な役割を果たしている。
 また,各国立大学には,従来から学内共同利用の電子計算機を独立したシステムとして設置してきたが,これを大型計算機センターと通信回線で接続し,オンライン・データステーションとして利用する方が有利であるとの判断にたち,46年度に室蘭工業大学と山形大学に設置する電子計算機を,それぞれ北海道大学又は東北大学のオンライン・データステーションとして設置したのを初めとし,48年度までに8大学に設置し,49年度にも新たに6大学に設置する予定である。
 文部省では,現在大型計算機センター相互を通信回線で接続し.大学における科学技術計算をはじめとする各種の情報処理及び学術データを中心とした各種情報利用のためのネットワークを構成することにつき検討を始めたが,各大学に設置されるデータステーションは,その第1段階ともなるので.今後も国立大学に設置する学内共同利用の電子計算機は,原則として大型計算機センターのオンライン・データステーション(リモート・バッチ方式)とする予定である。
 大型計算機センターのシステムによるTSS方式によるオンライン処理については,43年に大阪大学(当時は学内計算センター),東北大学で行われたのを初めとし,現在では,各大型計算機センターと大学の研究室等に設置されている端末機との間で行われている。

第3-4-14図 求人・失業保険システム構成図

第3-4-15表 地方公共団体等データ通信システム設置状況(1)

第3-4-15表 地方公共団体等データ通信システム設置状況(2)

第3-4-15表 地方公共団体等データ通信システム設置状況(3)

第3-4-16図 川崎市における環境大気汚染自動監視システム系統図

第3-4-17図 川崎市における発生源亜硫酸ガス自動監視システム系統図

第3-4-18図 交通制御システムの標準的な構成図

 

 

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