昭和48年版 通信白書

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2 海洋開発と通信

 海洋開発本来の目的は,海洋を探査して水産資源,鉱物資源,海洋エネルギーなど海洋のもつ無尽蔵な資源及び海洋のスペースを有効に利用することであるが,そのためには極めて広範囲な分野にわたる科学や技術を必要とする。周囲を海に囲まれた我が国においては,世界的な海洋開発推進の気運とも呼応し,海洋開発のための科学技術に関する各種プロジェクトを取り上げ,政府民間あげてこれに取り組んでいる。
 郵政省としても,海洋開発における電気通信の利用の分野,なかんずく海洋情報の伝送技術の研究開発の重要性にかんがみ,また,開発の進展に伴う電波の周波数需要の増加が予測されるので,当面推進すべき次の二つのプロジェクトに参画して,積極的に関連する調査研究に当たっている。
 [1] 海洋環境の調査研究及び海洋情報の管理
 [2] 海洋開発に必要な先行的共通的技術の研究開発
この分担課題としては「海洋情報の伝送」及び「海洋電子技術」に関する研究であって,電波研究所において目下,「レーザによる海中情報伝送システム」及び「ヘリウム音声改善装置」の研究が進められている。一方,海洋スペースの利用について,通信の分野で考えられていることは,我が国の政治経済社会の中枢である大都市が太平洋ベルト地帯と呼ばれる沿岸に位置しており,今後これらの地域における情報量は更に増大するものと考えられるが,これに対応する陸上の通信網の建設はますます困難になることが予想される。そこで海域を利用しその自然環境に適合した海洋中継所の構想が電電公社により打ち出され,大容量海底同軸ケーブル技術とマイクロウェーブ伝送技術を活用した開発計画のもとに実験が進められようとしている。
 以上について次にその状況を述べる。
(1) 海中通信及びヘリウム音声処理
ア.レーザによる海中情報伝送システム
 海中における情報伝送には,超音波,ケーブル,長波電波等が利用されてきたが,経済性と移動性,伝送帯域その他それぞれ問題がある。また,超音波レーダは解像力,疑似エコーの点で問題がある。そこで海中における各種情報を高速広帯域に伝送するシステムとしてレーザ光の有効性が着目され,現在のレーザ技術,動向,実用時期等を検討した結果,とりあげられた研究課題は
 [1] 大陸棚海底から海面までのレーザ光による広帯域情報伝送システムの開発
 [2] レーザ光による海中物体探査システム(レーザレーダ)の開発
 [3] 以上の二つのシステム完成に必要な海中レーザ光伝搬特性の研究
であって,レーザ光の散乱特性,偏光特性,伝送可能帯域幅等未開拓の問題と取り組んでいる。水中におけるレーザ光の伝搬は,直進光と多重散乱光からなり,減衰距離の10倍ないし20倍の距離では多重散乱光の方が強くなる。現在室内水そうにより距離と散乱物質の量や性質をパラメータとする減衰特性と偏光特性の測定を完了し,更に海中における測定及び散乱通信における回線設計上問題となる伝送可能帯域幅及び位相特性などについて定量的資料を集積中である。
イ.ヘリウム音声改善装置
 海中居住基地や潜水に際して,水圧に対応する高圧にさらされるため,必要以上濃厚な酸素や窒素にすると生理的な障害が生ずるので,ヘリウムを主成分とした混合ガスが使用されている。このような環境では,音声は大きくひずみ(ヘリウム音声),深度の増加とともに了解度は低下する。したがってアクアノートとの意志の疎通を確保するため,ヘリウム音声の了解性を改善する問題が重要となってきた。そこで深度によって低下した音節明瞭度の資料を分析し,これに対する改善装置を開発中であり,簡易型装置を試作して良好な結果を得ている。これはヘリウム音声波形を一定の区間に区切り,その一部を捨てて残りをもとの区間に伸張する方式のものであって,現在なお改良すべく検討中である。このほかに,ヘリウム音声を音源波形と声道の伝達特性に分離し,それぞれ正常な音声のものに変換した後合成する精巧な方法を研究中であり,電子計算機シミュレーションによってその有効性の確認を行っている。
(2) 海洋マイクロ波中継
 この基本構想は,周囲を海で囲まれている我が国の地理的条件を生かして日本全体を海底同軸ケーブルで取り囲み,沖合(大陸棚の端)に係留した海洋中継所(ブイ構造)を利用して陸地との間をマイクロ波で結ぶというものである。この方式によれば,[1]海底同軸ケーブルの分岐陸上局として利用できるだけでなく,[2]陸上におけるマイクロ波ルートのひっ迫時に岬,半島,海洋中継所をわたる海岸ルートをとることができ,更に[3]島及び海洋中継所ぞいに離島又は外国への通信回線の建設まで発展させる等の可能性をもち,浅海で損傷を受け易い海底ケーブルの弱点を補い,また,海洋標識や観測ブイ等の多目的な利用を図ることも考えられる。
 現在進められている海洋中継所の計画は,チェーンで海底に係留された大きな直立円筒形のブイ構造のもの(全長135m,海面上部分30m)の上部にアンテナ,通信機器等を収容し,4GHz及び6GHz帯で2万3,400ch伝送を行おうとするものであって,波浪等による動揺や回遊を極力防止するよう考慮が払われているほか,アンテナ制御やテレメータも可能な設備をもたせている。
 この未経験な構造物である海洋中継所を沖合に設置し,次の諸点について海上実験を行う準備が進められている。
 [1] マイクロ波のビームオフを避けるためのアンテナ制御技術
 [2] 海面反射波によるフェージング防止のためのダイバーシチ方式
 [3] ブイ本体の係留技術,動揺特性及び耐字蝕性
 以上は海洋における通信技術開発の動向であるが,今後の海洋開発により,人類が海洋をいかに利用でき,そこでどのような生活が期待できるかが明らかになるが,その進展と密接不可分な関係に留意し,未解決又は未着手の諸問題に対する研究開発を推進するとともに,海洋開発推進の基本的構想と方策についての海洋開発審議会の答申に基づく関連諸施策の遂行に努力することとしている。

 

 

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