平成19年版 情報通信白書

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第3章 情報通信政策の動向

第2節 情報通信政策の展開

1 電気通信事業政策の展開

(1)公正競争ルールの整備等

ア 新競争促進プログラム2010
 総務省では、IP化への動きが本格化していると想定される2010年代初頭を念頭に置いてそれに対応した競争ルールの在り方について基本的な考え方を整理するとともに、接続・料金政策に係る検討の方向性を明確にするために、平成17年10月から「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方に関する懇談会」を開催し、同懇談会は、平成18年9月に報告書を取りまとめた。
 この報告書を受けて、総務省は、同月、ブロードバンド化の進展、公衆交換電話網(PSTN:Public Switched Telephone Network)からIP網への移行、ビジネスモデルの多様化等、IP化の進展による市場環境の変化を踏まえ、電気通信市場において一層の競争の促進を図り、利用者利益の保護を図るため、2010年代初頭までに公正競争ルールの整備等の観点から実施する施策について取りまとめた「新競争促進プログラム2010」を策定した。「新競争促進プログラム2010」は、公正競争ルールの整備等のためのロードマップであり、「通信・放送分野の改革に関する工程プログラム」(平成18年9月)の電気通信事業分野における具体的実施計画として位置付けられるものである。
 「新競争促進プログラム2010」には、具体的施策として、
[1] 設備競争の促進
[2] 指定電気通信設備制度(ドミナント規制)の見直し
[3] 東・西NTTの接続料の算定方法の見直し
[4] 移動通信市場における競争促進
[5] 料金政策の見直し
[6] ユニバーサル・サービス制度の見直し
[7] ネットワークの中立性の在り方に関する検討
[8] 紛争処理機能の強化
[9] 市場退出ルールの見直し
等多岐にわたる施策が掲げられており、総務省としては、これらを着実に実施していくとともに、毎年、進ちょく状況を取りまとめて情報通信審議会に報告するとともに公表し、必要に応じプログラムの見直しなどのフォローアップを実施することとしている。

イ 電気通信事業分野における競争評価
 総務省では、複雑化する電気通信事業分野における競争状況を正確に把握し、政策に反映していくため、平成15年度から毎年度、「電気通信事業分野における競争状況の評価」(以下「競争評価」という。)を実施している。平成17年度までに、「インターネット接続」領域、「法人向けネットワークサービス」領域、「移動体通信」領域及び「固定電話」領域について、順次、分析・評価を実施した。また、分析に当たっては、サービスの融合やFTTHへの移行が進んでいることから、隣接市場間の相互関係やマイグレーション(ADSLからFTTHへの移行)の動向にも注目した。
 各領域における競争状況の主な分析結果は図表3-2-1のとおりである。
 
図表3-2-1 通信サービス各市場の市場集中度1
図表3-2-1 通信サービス各市場の市場集中度等

 平成18年度からは、競争評価についての中期的な方針として、「電気通信事業分野の競争状況の評価に関する基本方針2006〜2008」を平成18年10月に定め、また、年度計画として「電気通信事業分野における競争状況の評価に関する実施細目2006」を同年11月に公表した。そして、基本方針において、上記4領域の定点的評価に加えて、競争政策との機動的な連動性を高めるため、特定のテーマに焦点を当てた戦略的評価を併せて実施することとし、実施細目において、「事業者間取引が競争状況に及ぼす影響に関する分析」、「隣接市場間の相互関係に関する分析」及び「携帯電話番号ポータビリティ制度導入による競争状況の変化に関する分析」を戦略的評価のテーマとして選定した。総務省では、基本方針及び実施細目を受けて、需要側及び供給側から情報収集を行い、平成19年4月に、評価対象を具体的に定めた「電気通信事業分野における市場画定2006」を公表したところであり、同年7月を目途に評価結果を公表する予定である。

ウ 移動通信市場における競争促進
(ア)携帯電話の番号ポータビリティの導入
 携帯電話の利用者が、加入事業者を変更する際にこれまでと同じ番号を引き続き使用できるようにする「番号ポータビリティ」は、利用者の利便性の向上及び事業者間の競争促進等のメリットが期待されるものである。他方、その導入に当たっては事業者側の網改造等に相当の費用が必要なこと等から、利用者の利用意向や導入の効果を十分に検討する必要があったため、総務省では、平成15年11月から有識者及び関係事業者等からなる「携帯電話の番号ポータビリティの在り方に関する研究会」において検討を行った。その結果、平成16年4月、導入に当たって留意すべき事項等と併せ、平成18年度のなるべく早い時期を目途に導入すべきとの報告書が取りまとめられた。
 同報告書を受け、平成18年5月、総務省として携帯電話の番号ポータビリティの円滑かつ確実な導入を図るため、携帯電話事業者及びその他の電気通信事業者が導入に向けて具体的な検討を行うに当たり留意すべき事項として、導入の在り方、導入時期、実現方式、費用負担方法、利用手続等について、「携帯電話の番号ポータビリティの導入に関するガイドライン」として作成、公表した。
 さらに、同ガイドラインに基づく事業者間の検討状況等を踏まえ、携帯電話の番号ポータビリティの実施を確実なものとするため、携帯電話事業者に対し、双方向の番号ポータビリティを可能とするための措置を平成18年11月から講じなければならないこと等を定める省令改正を同年2月に行った。これを受け、携帯電話事業者において、同年10月24日に携帯電話の番号ポータビリティが開始されたところである。
(イ)MVNO(仮想移動通信事業者)への政策対応
 MVNO(Mobile Virtual Network Operator:仮想移動通信事業者)とは、携帯電話等の無線通信インフラを既存の移動通信事業者であるMNO(Mobile Network Operator:移動通信事業者)から借り受けて、移動通信サービスを提供する事業者である。
 総務省は、移動通信分野における更なる競争を促進し、一層多様かつ低廉なサービスの提供による利用者利益の実現を図るため、MVNOの参入を促進する観点から、平成14年6月に、MVNOの事業開始に必要な手続、既存移動通信事業者や利用者との契約関係、電話番号管理等の事項について、電気通信事業法及び電波法の適用関係を示した「MVNOに係る電気通信事業法及び電波法の適用に関するガイドライン」を制定した。
 しかし、その後も、MVNOによる積極的な事業展開はごく一部にとどまっていたことから、平成19年2月に同ガイドラインを改正し、MNOとMVNO間の関係として、MNOからMVNOに対する卸電気通信役務の提供に加え、MNOとMVNOとの間の事業者間接続という形態を採ることも可能であることを明確化するとともに、MNOが接続の請求を受けた場合、原則としてこれに応じなければならないという接続義務や協議が調わなかった場合の紛争処理手続等について明確化したところである。
(ウ)「モバイルビジネス研究会」の開催
 昨今、移動通信市場においては、急速な技術革新やブロードバンド化・IP化により、固定・移動通信市場の統合(FMCサービス:Fixed-Mobile Convergence。固定通信と移動通信の融合)、垂直統合型ビジネスモデルの普及等が進展し、従来の市場の枠を越えた事業展開へと移行しつつある。そのため、総務省では、今後ユビキタスネットワーク化が進展する中で、様々な事業領域のプレーヤーが新しいビジネスモデルを構築していくための方策を検討し、新たなモバイルビジネスの成長を通じた経済活性化や利用者利益の向上を図ることを目的として、平成19年1月から「モバイルビジネス研究会」を開催している。
 同研究会は、市場環境(ネットワーク・市場構造)の変化を促す要素の検証、モバイルビジネスの活性化を通じた新市場創出策の検討、市場環境の変化やモバイルビジネスの活性化を通じた新市場創出効果の検証等を行い、平成19年夏を目途に報告書を取りまとめる予定である。

エ ユニバーサル・サービスの確保
(ア)ユニバーサル・サービス制度
 電気通信事業分野におけるユニバーサル・サービス制度とは、国民生活に不可欠な「基礎的電気通信役務」(ユニバーサル・サービス:加入電話、公衆電話、緊急通報)のあまねく日本全国における提供を確保するために必要な費用の一部を、関係する電気通信事業者が応分に負担する制度である。すなわち、電気通信市場における競争の進展により、東・西NTTによる費用負担だけではユニバーサル・サービスの提供の確保が困難となるおそれがあることから、両社以外の電気通信事業者にも応分の費用負担を求めることにより、地域間格差のないユニバーサル・サービスの提供を確保しようというものであり、平成14年6月の改正電気通信事業法の施行により導入された。
(イ)ユニバーサル・サービス制度の運用開始
 平成18年8月末に東・西NTTから平成17年度のユニバーサル・サービス収支が公表され、東・西NTT合計で約518億円の赤字となった。これを受けて、平成18年11月にユニバーサル・サービス制度の交付金の額及び交付方法の認可並びに負担金の額及び徴収方法の認可を行い、制度が初めて運用されることとなった。
 東・西NTTの補てん対象額は約152億円で、これに支援業務費を加えた約153億円を関係する電気通信事業者(東・西NTTを含む)が平成19年1月以降の毎月末の電気通信番号の稼働数に応じて負担金を拠出することとなった。なお、社団法人電気通信事業者協会より、この場合の1電気通信番号当たりの負担額が公表され、月額で7円となっている。
(ウ)「ユニバーサル・サービス制度の将来像に関する研究会」の開催
 総務省では、「新競争促進プログラム2010」において、ユニバーサル・サービス制度について、PSTNからIP網への移行の進展及びブロードバンドサービスの普及等、市場実態が大きく変化していることから、見直しを図る必要があるとされたことを受けて、平成19年1月から「ユニバーサル・サービス制度の将来像に関する研究会」を開催している。
 同研究会では、[1]ユニバーサル・サービスの対象範囲、[2]ユニバーサル・サービスの提供主体の在り方、[3]ユニバーサル・サービスに係るコスト算定・コスト負担方法の在り方、[4]PSTNからIP網への移行過程における制度運用の在り方、等について検討を行い、平成19年中に報告書を取りまとめる予定である。

オ ネットワークの中立性の在り方に関する検討
 「ネットワークの中立性」とは、
[1] ネットワークの利用の公平性(通信レイヤの他のレイヤに対する中立性)
[2] ネットワークのコスト負担の公平性(通信網増強のためのコストシェアリングモデルの中立性)
をいうものであるが、総務省では、「新競争促進プログラム2010」において、ネットワークの中立性の在り方に関する検討を行うとされたことを受けて、平成18年11月から「ネットワークの中立性に関する懇談会」を開催している。
 同懇談会は、ネットワークの中立性の在り方について、多様な観点から次世代のIPベースのネットワークに関連する中期的な検討課題を抽出・整理し、今後の対応の方向性等について検討することを目的として、
[1] 次世代のIPベースのネットワークが目指すべき基本的アーキテクチャ
[2] ネットワークの利用の公平性確保の在り方
[3] ネットワークのコスト負担の公平性の確保の在り方
[4] ネットワーク構造の変化に対応した競争モデルの在り方
等について検討し、平成19年夏を目途に報告書を取りまとめる予定である。

カ 電気通信事業者の適正かつ合理的な事業運営の確保
 電気通信事業分野においては、累次にわたる規制緩和が行われ、事前規制型行政から事後チェック型行政への転換が図られている。このような転換の中、必ずしもその事業運営が適正と言えない事業者も現れており、電気通信事業に対する信頼回復が喫緊の課題となっている。このような事態に対応するため、政府は、平成19年4月に、電気通信事業法(昭和59年法律第86号)の改正を盛り込んだ「放送法等の一部を改正する法律案」を第166回国会に提出したところである。
 具体的な内容は、電気通信事業者に対する業務改善命令の要件を拡大し、命令を行い得る場合として、従来の「利用者の利益を阻害しているとき」に加え、「電気通信の健全な発達」への支障を規定した。この改正によって、電気通信事業者の事業の運営が適正かつ合理的でないため、電気通信の健全な発達等に支障が生ずるおそれがあるときには、総務大臣が電気通信事業者に対し、利用者の利益又は公共の利益を確保するために必要な限度において、業務の方法の改善その他の措置をとるべきことを命ずることが可能となる。


1 ここで用いる市場集中度は、HHI(Herfindahl-Hischman Index:ハーフィンダール・ハーシュマン指数)。市場の独占度合いを測る指標の一つで、0〜10,000の値をとり、独占状態に近づくほど10,000に近づく

 第2節 情報通信政策の展開

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