平成16年版 情報通信白書

本文へジャンプ メニューへジャンプ
目次の階層をすべて開く目次の階層をすべて閉じる

第1章 特集 「世界に拡がるユビキタスネットワーク社会の構築」

2 ユビキタスネットワーク社会に向けた課題

(1)ユビキタスネットワーク社会に向けた課題

安心・安全の確保が最大の課題

 ユビキタスネットワーク社会は、業務の効率化や新たなビジネスの創出により、我が国の産業全体に更なる活力を生み出す。また、少子化・高齢化が進む我が国において、地域再生がもたらされ、便利で安全・安心な暮らしを実現するなど国民生活にも豊かさをもたらす。他方、大量の情報が流通することとなるため、現在以上に情報セキュリティやプライバシーの確保が求められるなど社会全体で取り組むべき課題も多く存在する。

1 情報通信ネットワーク利用における課題

 携帯電話、インターネット等の情報通信手段の多様化、ブロードバンド化や電子商取引の発達等の情報通信の高度化により、情報セキュリティのリスクが増大しており、情報通信ネットワークを安心して安全に利用するための情報セキュリティの確保が課題となっている。
 平成15年の個人のインターネット利用における不安・不満は、「個人情報の保護」が最も高く55.4%、続いて「ウイルス(注)感染」の43.1%、「電子的決済の信頼」の28.4%である(図表[1])。また、企業の情報通信ネットワーク利用における問題点は、「情報セキュリティ対策」が最も高く66.3%、続いて「ウイルス感染」の62.9%である。個人、企業を問わず、個人情報の保護等の情報セキュリティの確保が平成14年に引き続き最大の課題である。また、「従業員の意識」を問題点とした企業は43.4%、「人材不足」は40.2%であり、情報通信ネットワークの利用において人的資源の確保も課題となっている(図表[2])。

 
図表[1] 個人のインターネット利用における不安・不満(複数回答)

図表[1] 個人のインターネット利用における不安・不満(複数回答)
Excel形式のファイルはこちら


 
図表[2] 企業の情報通信ネットワーク利用における問題点(複数回答)

図表[2] 企業の情報通信ネットワーク利用における問題点(複数回答)
Excel形式のファイルはこちら


 他方、平成15年に個人のインターネット利用における不安・不満で「通信料金が高い」を挙げた人は20.0%と平成14年に比べ5.8ポイント減少している。また、「接続速度が遅い」を挙げた人も減少している。さらに、企業の情報通信ネットワーク利用における問題点でも、「通信料金が高い」、「通信速度が遅い」を挙げた企業が減少している。我が国の情報通信ネットワークは、急速に高速化及び料金の低廉化が進展しているが、このことを利用者も実感していることが分かる。

2 ユビキタスネットワーク社会に向けた個人の課題

 これまでにないユビキタスネットワーク社会が実現する過程では、産業構造や社会構造に変革が起こるとともに、国民に新たな不安が発生する可能性もある。利用者がユビキタスネットワークサービスを利用する際の不安は、「詐欺・悪質商法等に遭うこと」が最も高く62.7%である。続いて、「企業が保有している個人情報が流出又は不正に利用されること」(59.7%)、「不正アクセスにより個人情報が悪用されること」(58.2%)が不安として挙げられており、情報セキュリティの確保や個人情報の保護への関心が高い。その他、「サービスの利用や機器の使い方が複雑化すること」(49.2%)を不安として挙げる人も多く、情報通信社会が進展する一方で、デジタル・ディバイドに対する不安も依然として存在する(図表[3])。

 
図表[3] 個人がユビキタスネットワークサービスを利用する上での不安(複数回答)

図表[3] 個人がユビキタスネットワークサービスを利用する上での不安(複数回答)
Excel形式のファイルはこちら


3 ユビキタスネットワーク社会に向けた企業の課題

 企業に対して、将来、ユビキタスネットワーク社会のメリットを自社の事業が享受するために、解決するべき課題について尋ねたところ、消費者向け企業の57.1%が「個人情報保護に関する問題」を挙げ、次いで48.6%の企業が「ネットワークセキュリティのリスク」を挙げている。ユビキタスネットワークの実現によって企業の事業における利便性が上がると同時に、情報セキュリティや個人情報保護の問題が更に一層の懸案となりうることが浮かび上がる。また、事業者向け企業においても、「ネットワークセキュリティのリスク」について懸念している企業が55.0%に達している。個人情報保護や情報セキュリティの問題を除くと、消費者向け企業、事業者向け企業ともに、電子タグ等のユビキタスネットワークに関連した機器・端末・ツール・ネットワーク費用の低下を求めている企業が多い(図表[4])。

 
図表[4] 企業がユビキタスネットワーク社会のメリットを享受する上で解決すべき課題(複数回答)

図表[4] 企業がユビキタスネットワーク社会のメリットを享受する上で解決すべき課題(複数回答)
Excel形式のファイルはこちら


4 ニューメディア・マルチメディアの検証

 1980年代中頃から「ニューメディア」、1990年代中頃から「マルチメディア」という言葉により、情報通信の将来像が示され、生活の豊かさの向上や経済の活性化、社会上の問題の軽減等の利便性を享受できることが期待されていた。
 昭和62年版通信白書(現情報通信白書)において、「ニューメディアの利用意向」や「利用してみたい新情報通信システムの種類」に関する調査が記載されており、テレビ電話等のシステムが挙げられている。また、平成6年版通信白書においては、「将来のマルチメディア・アプリケーションの有望度」や「社会へのインパクトについての考え」に関する調査が記載されており、在宅医療健康管理システム等が挙げられている(図表[5]、[6])。

 
図表[5] ニューメディア

図表[5] ニューメディア

 
図表[6] マルチメディア

図表[6] マルチメディア

 ニューメディア、マルチメディアについて振り返った現状での評価等を、当時から携わったメーカーや電気通信事業者等の有識者に尋ねたところ、ニューメディア、マルチメディアが注目を集めた当時、各種施策に対し取り組んだ結果、実現できると思っていた社会のイメージに対し、おおむね「効果が上がった」とする回答の方が多かった。ニューメディア、マルチメディアともに一定の効果があったと認識されている(図表[7])。

 
図表[7] ニューメディア・マルチメディアの取組の検証(複数回答)

図表[7] ニューメディア・マルチメディアの取組の検証(複数回答)
Excel形式のファイルはこちら


 ニューメディア、マルチメディアの施策への取組について効果が上がった理由としては、ニューメディア、マルチメディアに共通して「利用者が気軽に使えた」、「実際にコンテンツやサービスを提供する企業等が参加した」ことが挙げられている。他方、効果が上げられなかった理由としては、ニューメディア、マルチメディアに共通して「実際のアプリケーションやサービスが利用者のニーズにマッチしていなかった」、「利用者が気軽に使えなかった」、「誰でも簡単に使える端末やヒューマンインターフェースがなかった」ことが挙げられている(図表[8]、[9])。

 
図表[8] ニューメディア・マルチメディアの効果が上がった理由(複数回答)

図表[8] ニューメディア・マルチメディアの効果が上がった理由(複数回答)
Excel形式のファイルはこちら


 
図表[9] ニューメディア・マルチメディアの効果が上げられなかった理由(複数回答)

図表[9] ニューメディア・マルチメディアの効果が上げられなかった理由(複数回答)
Excel形式のファイルはこちら


 また、今後のユビキタスネットワーク社会を実現する上での我が国の「伸ばすべき強み」と「克服すべき課題」について同様の有識者に尋ねたところ、「伸ばすべき強み」、「克服すべき課題」双方とも「わかりやすさ・使いやすさ」(誰でも気軽に使えるヒューマンインターフェースであること等)、「安心さ・安全さ」(個人情報やお金などを盗まれたり不正利用されたりしない仕組みがあること等)を挙げる回答が多かった(図表[10])。

 
図表[10] ユビキタスネットワーク社会に向けた強みと課題(複数回答)

図表[10] ユビキタスネットワーク社会に向けた強みと課題(複数回答)
Excel形式のファイルはこちら


 過去の検証、今後の課題双方に共通する点として「わかりやすさ・使いやすさ」、「安心さ・安全さ」が挙げられている。国民生活・全産業の広範囲にわたって影響を与える情報通信分野においては、進展する情報通信の恩恵を誰もが手軽に安心して享受できるよう、利用者本位の観点で、その将来像に向けた施策・実証実験等が展開されることが重要であると考えられる。


(注)ここでのウイルスとは、ネットワーク等を介して次々と他のコンピュータに自己複製プログラムを潜伏させていき、その中のデータやソフトウェアを破壊するなどの害を及ぼす、いわゆるコンピュータウイルスを指す

 

テキスト形式のファイルはこちら

1 ユビキタスネットワーク社会の姿 に戻る (2)個人情報・プライバシーの保護 に進む