 第1部 総論
 第1節 昭和49年度の通信の動向
 第2章 今後における基幹メディアの普及
 第1節 基幹メディア普及の現状と将来
 第2節 電話の完全普及
 第3節 ラジオ放送の国際的混信の解消
 第4節 テレビジョン放送の難視聴解消
 第2部 各論
 第1章 郵便
 第2節 郵便の利用状況
 第3節 郵便事業の現状
 第5節 外国郵便
 第2章 公衆電気通信
 第2節 国内公衆電気通信の現状
 第3節 国際公衆電気通信の現状
 第4節 事業経営状況
 第3章 自営電気通信
 第1節 概況
 第2節 分野別利用状況
 第4章 データ通信
 第3節 データ通信回線の利用状況
 第4節 データ通信システム
 第5節 情報通信事業
 第5章 放送及び有線放送
 第6章 周波数の監理及び無線従事者
 第1節 周波数の監理
 第2節 電波監視等
 第7章 技術及びシステムの研究開発
 第2節 研究開発課題とその状況
 第8章 国際機関及び国際協力
 第1節 国際機関
 第2節 国際協力
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3 都市における受信障害
都市の近代化に伴って,建築物の高層化,高架交通施設の整備等が急速に進展しているが,このような都市構造の高層化によってテレビジョン放送の受信に障害が多発しており,今後,この傾向はますます強まるものと思われる。
従来,郵政省は原因者責任の建前に基づいて,建築主の責任と費用負担において受信障害を解消するよう指導してきた。一方,都市の高層化等は土地利用の効率化等を促進するための社会的要請であり,国もこれを促進しているところである。そのため,都市におけるテレビジョン放送の受信障害を誰の責任によって解消すべきかなどの論議を呼んでおり,社会問題化している。
(1) 共同受信施設の設置
都市受信障害の解消は,大部分がビル陰共聴と呼ばれる共同受信施設を設置することによって行われている。都市受信障害はテレビジョン放送の良好な受信が可能な地域において高層建築物等の障害物が出現したため,電波がさえぎられたり,反射したりすることによって生ずるものであり,建物の屋上等良質な電波を受信できるところにアンテナを立て,そこから有線を通じて各家庭に放送波を分配すれば良好な受信が可能となる。
都市受信障害は,それまで良好に行うことができたテレビジョン放送の受信が,高層建築物等の人為的原因によって障害を受けるものであり,従来から主として原因者たる建築主と障害を受けた住民とが協議して,共同受信施設を設置することにより解決が図られてきている。しかしながら,両者の間で,テレビジョン放送の受信障害に対する責任,解消に要する費用負担等の問題をめぐって紛争が絶えないところである。
(2) 技術指導,受信相談
NHKは,都市受信障害の被害を最小限にとどめ,また,その早期解消に資するため,テレビジョン放送の受信障害についての技術指導と受信相談を行っている。すなわち,受信者等の要望に応じて,建築主と受信者の間を仲介し,共同受信施設の設置に協力するほか,軽微な受信障害に対しては受信アンテナの調整,改善等の技術指導を行って障害の円滑な解消に努めている。
また,新幹線等鉄道による受信障害については,国鉄と協力して,技術調査,共同受信施設の設計・施工業者の指導等を積極的に実施しており,東海道新幹線,山陽新幹線等による受信障害に対しては,アンテナの調整,共同受信施設の設置等の改善を行っている。
また,郵政省が中心となり,通商産業省,建設省,NHK等の協力を得て,29年に設立された電波障害防止中央協議会は,最近では高層建築物等による受信障害の解消にも努めており,その一環として,全国電波障害一掃運動,受信相談,各種PR活動等を行っている。
(3) 技術的解消方策
都市受信障害解消の技術的方策としては,現在,主として有線による共同受信施設が用いられている。また,前述のテレビジョン放送難視聴調査会では,多送信点方式,微小電力放送局の設置,送信アンテナの高さの変更,SHF帯放送及び衛星放送の導入等の諸施策が検討された。
多送信点方式は,現在,一つの地域においては1箇所のアンテナからテレビジョン放送の送信を行っているのに対し,幾つかの周波数を用いて数箇所のアンテナから同一番組を送信しようとするものである。これによれば,現在の東京都内の受信障害の80%程度が解消されると見込まれている。また,微小電力放送局方式は,高層ビルの屋上等に微小な電力による放送局を設置して,受信障害となっている一定の地域をカバーしようとするものである。
送信アンテナの地上高を更に高くする方策によれば,高層建築物等による受信障害をかなり減少させることができる。
更に,将来的方策としてSHF帯放送及び衛星放送の導入による都市受信障害解消の可能性が検討されている。
これらの方策については,周波数事情のひっ迫,都市構造の流動性,建設コストの問題等制約条件が多いが,将来の送信体制,都市構造の変化等を考慮すれば,今後なお研究開発が推進されるべきである。
(4) 施策の動向
テレビジョン放送の都市受信障害の解消については,従来,主として建築主と地域住民とが協議して,共同受信施設を設置するなどの方法によって解決してきた。郵政省も原因者責任の建前に立って,建築主等関係者に対する指導を行い,このような当事者間の協議による解決を促進してきた。また,地方公共団体の中には,環境保全のための条例,建築指導要綱等で建築主に対して当事者間の協議による解決を義務付けるなど受信障害の防止に関する規定を設けているところも少なくない。更に,電波障害防止協議会及びNHKも都市受信障害の解決に対し,当事者の間に立って,指導,あっせん等を行っている。
しかしながら,最近,大都市地域においては,高層建築物の林立等に上って,受信障害はますます増大,複雑化しており,原因となっている建築物を特定することが困難となってきている。また,超高層建築物の出現によって,受信障害が著しく広範囲に及ぶようになっている。
このため,大都市地域における都市受信障害の解消については,従来の当事者間協議の方法だけでは対処できない情勢となっている。
そこで,郵政省では,前述のテレビジョン放送難視聴対策調査会を設置して,辺地難視聴の問題と併せて都市における高層建築物等によるテレビジョン放送の受信障害を解消する効果的方策を多角的に検討してきた。
調査会が提出した報告書は,テレビジョン放送の受信は,今日では,国民の日常生活に必要不可欠となっているので,受信障害の被害利益は行政上,立法政策上保護に値すること,受信障害に関しては,これを解消する有効な技術的方策が存在するため,原因行為に対する規制(建築規制)を行うことなく障害の解消を図ることができることなどにかんがみ,都市受信障害については,建築主を中心とする前記の受信障害関係者がそれぞれの責務と受益に応じて,解消に要する費用を負担し,その解消を図ることが必要かつ効果的であるとしている。
そして,その具体的方策としては,将来の放送体制及び都市構造を的確に想定することが困難であるので,差し向き10年先程度までの展望を念頭において,次のような方策を提言している。[1]建築主その他の受信障害関係者から,それぞれの責務と受益に応じて金員の拠出を求め,受信障害の解消に責任を負う公的主体である受信障害解消基金を設立し,受信障害解消施設の設置,維持管理等に要する経費はこの受信障害解消基金から充当する。[2]受信障害解消施設を設置し,又は同施設の維持管理を行う主体としては,特に限定しないが,受信障害解消基金自ら又は別の公的主体も考えられる。[3]技術的解消方策としては,差し向き,主として共同受信施設(ケーブル網を含む。)の設置による方策を対象とする。[4]効率的に受信障害の解消を行うため,このような解消方策の対象地域は,差し向き,受信障害が多発し,かつ,その障害が広範囲に及んでいる地域から出発することとする。その他の地域の都市受信障害については,当面,基本的には建築主,住民相互の当事者間解決によることとする。
テレビジョン放送難視聴対策調査会の提言している方策を具体化し,都市受信障害の解消を図るためには,なお時間を要するものと考えられる。しかしながら,受信障害の解消に対する国民の強い要望と期待にかんがみれば,新しい制度が確立するまでの間,受信障害の問題を放置することは妥当でなく,国は受信障害の行政的措置について真剣に検討を続けていくべきであろう。
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