昭和50年版 通信白書

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2 データ通信システム

 知識,情報を中心とする情報化社会への移行に伴い,遠隔地から電子計算機にアクセスし,また,より大型の電子計算機を共同利用して複雑高度な情報処理を経済的に行いたいという要望が高まってきている。
 このような動向に対応して,データ通信システムはより高度化し,複雑性が増大する傾向にある。これを支える技術及びシステムの開発に関しては,データを処理するための情報処理技術,データを伝送し制御するための伝送技術,遠隔地においてデータを入出力するための端末技術の研究実用化が進められると同時にデータ通信システムとして効果的なネットワークの研究開発が推進されている。
(1) 情報処理技術
ア.データ通信用情報処理装置
 最近の大型電子計算機は,論理回路及び記憶装置に集積回路(IC)を採用して,ますます高速化,大型化,高信頼化を目指している。また,システム構成は,デュプレックス方式やデュアル方式のほかマルチプロセッサ方式を採用して処理能力の向上とともに信頼性の確保を図っている。特に,システムの高信頼性を維持発展させる技術としてRAS(Reliability,Availability,Serviceability)の概念が導入され,ハ-ドウェアに高度の障害検出・防止機構を持たせるとともに,ソフトウェアとして高度なエラー情報処理プログラムを準備し,オンライン状態での保守診断を可能とするようになりつつある。
イ.データ通信のためのハードウェア及びソフトウェア
(ア) ハードウェア
 処理速度については,論理素子の高速化や新しい制御技術による処理時間の短縮によりこの10年間に平均命令実行時間は30〜40倍も向上し数百ナノ秒(1ナノ秒=10-9秒)となっている。
 記憶装置は,一般に論理装置内にロ-カルメモリとして小容量・高速記憶装置を,主記憶装置として大容量・低速記憶装置を置く階層構成をとって,システムの経済性と性能の確保を図っている。
 周辺装置には,補助記憶装置と入出力装置がある。補助記憶装置は,本体系装置との機能のバランスの面から,高速・大容量化が要求され,その方向に開発努力が向けられている。入出力装置は,高速動作が要求されるとともに電子計算機と利用者との接触点であるので漢字入出力装置等利用面からの要求に対応する機器の開発が進んでいる。
(イ) ソフトウェア
 ソフトウェアのコストは,情報処理システム全体のコストの中で既に7割に達しているともいわれており,システムの大型化に伴い作成能率の向上及びソフトウェア資産の有効利用が大きな問題となっている。
 プログラミングを容易にする手法として大型の情報処理システムでは,主記憶装置容量をプログラマが意識しないでプログラミングができる仮想記憶方式が用いられている。また,特にひんぱんに利用されるルーチンをハードウェアとして組み込んだファームウェア技術が利用されている。また,システムソフトウェアの作成を容易にするため,処理能率の高い高級言語の実用化が進んでいる。
 ソフトウェア資産を有効に利用するために言語の異なったプログラムでも処理が実行できるエミュレータ等の多言語処理の技術の開発が進められ,一部では実用に供されるようになった。
ウ.通信制御技術
 通信制御とは,情報処理装置とデータ伝送回線を経由してこれに接続される端末あるいは他の情報処理装置との間のデータの授受に必要な制御全般をいう。
 通信制御装置の基本機能としては,回線との電気的インタフェース,回線の接続制御,文字の分解・組立,データの蓄積,誤り制御,伝送制御,符号変換,メッセージ処理がある。
 通信制御装置は,その扱うデータの大きさによって,ビットバッファ方式,キャラクタバッファ方式,ブロックバッファ方式及びメッセージバッファ方式に分けられる。
 従来,情報処理装置の処理能力,通信制御装置のコストパフォーマンスからみて,キャラクタバッファ方式が最もよく用いられてきたが,近年TSSの大規模化,端末に対する融通性,電子計算機間通信に対する適用性,本体系の負荷軽減等の問題からメッセージバッファ方式が採用され始めている。
(2) データ伝送技術
 遠隔地のデータ端末装置と電子計算機間,あるいは電子計算機相互間でデータの送受信をいかに能率的に行うかは,データ通信システム構成上重要である。
 データ伝送方式は,ディジタルデータ信号を原形に近い形で伝えるベースバンド伝送方式,信号をモデム(変復調装置)によりアナログの交流信号に変換して伝える帯域伝送方式及びPCM(パルス符号変調)伝送路を利用する方式に大別される。現在,電電公社でサービスを提供しているデータ伝送の種類は第2-7-1表のとおりである。
 データ伝送速度は,データ入出力装置によって最適速度がまちまちであり,50b/s〜数+Mb/sという極めて広範囲な速度が要求されている。電電公社では,高速化の技術として8レベルAM-VSB方式,自動等化器を採用した音声帯域専用回線用9,600b/sモデムについて実用化が終了し,交換回線用4,800b/sモデムの実用化検討も進められている。また,広帯域回線を利用する高速度データ伝送方式については,48kb/s(48kHz帯域を使用)が既に実用化され,64kb/sは目下検討が進められている。
 国際電電では,音声級回線による高速データ伝送用の9,600b/s変復調方式について,QASK(直交振幅変調)方式による自動位相等化器付モデムの開発を行っている。これはVSB方式等に比べて位相ジッタ等時間変動成分に強いという国際回線に適した性質をもっている。また,広帯域回線用変復調装置の開発に関しては群帯域用72kb/sモデムの具体的な方式検討を行っている。一方,音声級回線用電信・データ時分割多重端局装置(TDM)については,国際的にも標準化の作業が進められており,国際電電でもビット単位多重化に基づく試作装置による国内伝送路での現場試験を行った。また位相変調多重搬送電信端局(レクチプレックス)の変復調方式を基礎として,種々の改良を図り変復調動作をディジタル化したディジプレックス(音声級回線に使用して50b/s電信208回線の伝送容量をもつ)の開発が進み,日米間で試験を行った結果,良好な成績が得られたので,51年度半ばごろ日米間で実用に供される予定となっている。
(3) データ端末技術
 データ端末機器は用途の多様化及び機能の複雑高度化の傾向をたどりつつ,反面,経済性の追求のため低廉簡素な機器の開発も活発に行われており,ノンインパクトプリンタ,パネルディスプレイ,磁気記録読取装置,光学文字読取装置等の採用が積極的に行われている。日本固有の漢字を扱うデータ端末機器についても社会のニーズと呼応して研究開発が進められている。
 ノンインパクトプリンタは高速,低騒音,高信頼性を特長として着実な伸びを示しており,主として感熱印字方式及びインクジェット方式を採用したプリンタが従来のインパクトプリンタの適用領域に徐々に進出しつつある。
 パネルディスプレイは,プラズマディスプレイパネルを用いた装置が中心であり,従来のCRT(ブラウン管)が立体構造であるのに比べ平板構造が可能である点が歓迎されていることに加えて,将来量産化によるコスト低減の可能性が強いこともあり今後への期待も大きい。発光ダイオードは数字等で表示することを対象とした分野に適しており,既にPOS(ポイント・オブ・セールス)端末,テラーズマシン(銀行用窓口会計機),データコレクタ端末等に採用されている。
 磁気記録読取媒体としてカセット磁気テープ及び磁気カードがそれぞれデータエントリー端末,カード預金用端末等で実用化されている。最近薄いプラスチック製の円盤に磁気材料を塗布したもので,比較的低いコストで利用できるフロッピーディスクが端末機器に導入されている。
 半導体受光素子を用いた紙テープリーダ,カードリーダ等が既に使われている。またOCR(光学文字読取装置),OMR(光学マーク読取装置)等の入力手段がマンマシン・インタフェースに優れているので,その開発が進められている。レーザ光を利用するホログラムも漢字コードメモリ等の各種パターンメモリへの適用が研究されている。
 漢字データ端末では漢字入力装置,漢字ディスプレイ,漢字プリンタ等の研究開発が急速に進められている。従来の英数字,カナ文字等の少数に限定された対象から一挙に数千字を扱うこととなるため入力手段,漢字パターン発生方式等の問題が今後の研究開発の中心テーマとなろう。
 端末機器に共通する論理回路の技術についてはIC化の過程を経てLSI(大規模集積回路)化へと進んでいる。LSI利用の一つとしてマイクロプロセッサが急速に開発されてきたが,これを端末機器に適用することにより,プログラム制御によるはん用性,あるいはインテリジェント化が行われつつある。
(4) データ通信網
 公衆電気通信法の改正により,電話網によって電話帯域を用いた各種のサービスに応ずるみちが開かれたが,より広い周波数帯域を利用するサービスは,現在のところ専用線を利用するほかにはない。
 しかし,電子計算機相互間のデータ伝送,高速ファクシミリ等の需要の増加に伴って,回線の短時間利用,従量料金制の要望がより強まるものと予想される。この要望にこたえる一つのサービスとして高速データ伝送を主とし,高速ファクシミリをも対象とした48kb/s交換網が考えられ,現在電電公社により,その実用化について検討が進められている。
 一方,データ通信を指向した高品質,多機能のデータ交換網については,現在電電公社において実用化が進められており,既にデータ交換機としては1号機(DDX-1)が開発され,これを基礎として更に改良した2号機(DDX-2)が完成している。今後は,これらのデータ交換機とディジタル伝送路の導入とが相まって本格的なデータ通信網が形成されていくものと予想される。
 また,国際電電においても異方式PCM間の相互乗入れ,6単位及び8単位符号伝送の共存方式,64kb/s新ディジタル共通線信号方式,ディジタル衛星通信方式等について,データ網の国際的進展に寄与することのできるよう研究が進められている。これらのデータ通信技術に関しては,諸外国においても活発な研究が行われており,特にコンピュータ利用技術の高度化・多様化から生じたハードウェア,ソフトウェア,データ等の資源の共用を主目的とするいわゆるコンピュータネットワークの形成もこれらの新しい通信網を基盤として実現されて行こう。

第2-7-1表 電電公社提供のデータ伝送回線(専用線)
 

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