昭和50年版 通信白書

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5 電磁波有効利用技術

(1) 新周波数帯の開発
ア.レーザ通信
 大気中におけるレーザ波の地上伝搬研究については昨年以降余り進展をみていないが,海洋開発に関連し,レーザを利用して海中での各種の情報を海上へ高速,広帯域に伝送するシステムが強く要望されてきた。電波研究所では現在の研究の動静,技術開発状況,実用の可能性等を検討した結果,大陸だな海底から海面上までのレーザ光による広帯域伝送システムの開発を行うこととした。
 しかしながら,レーザ光の海中における伝搬特性の研究は余り行われておらず,散乱特性,偏光特性等未開拓の問題が山積している。このためアルゴンレーザを用い,レーザ光の距離減衰特性及び偏光面保存特性について49年3月及び8月に静岡県田子港において実験を行うとともに,散乱物質としてカオリンを用いたモデル実験を水槽で行った。その結果,現在のレーザ技術では,多重散乱光を利用した遠距離情報伝送は難しいが,20dB程度のレーザ発振出力の増大が行われれば十分可能であることが判明するとともに,偏光ダイバーシティ通信も可能であることが明らかとなった。
 また海面下における上下方向通信の可能性を検討した結果,太陽光に対するSN比の点から透明度の高い沖合いでは200m海底との間に出力10W程度のレーザ光による通信回線が可能であることも分かった。
イ.800MHz帯の陸上移動通信
 近年における陸上移動業務用周波数需要の急激な増大に対処するため,無線周波数スペクトルの有効利用の観点から,割当周波数帯域の縮小による割当可能周波数の倍増を図ってきたところであるが,なお今後も予想されるし烈な需要に対処するためには新たな周波数帯を開発することが是非とも必要である。
 このような背景から,電波技術審議会において,800MHz帯を陸上移動業務に利用する場合の技術的条件について47年度から審議が行われている。800MHz帯の電波は,従来から陸上移動業務に割り当てられている150MHz帯や400MHz帯の電波に比較し伝搬特性を異にするので,その内容を十分には握する必要があることから47年度と48年度の両年度において,主として800MHz帯の電波伝搬特性に関する事項についての審議が行われた。
 特に,48年度には,郵政省と電電公社が合同で,東京,名古屋,静岡及び福岡の各都市において実地調査を行い,800MHz帯の伝搬特性及び減衰特性,伝送品質特性,都市雑音等についてのデータを取得し,その結果を電波技術審議会に報告した。
 また,800MHz帯用無線機器の開発研究については,電電公社をはじめ,無線機器製造事業者が積極的に行っているため,著しい進歩をみせている。
 その結果,49年度に800MHz帯の無線機器の標準的な規格値は,チャンネル間隔を25kHzとするなど現在400MHz帯用機器に適用されている値とほぼ同程度のものが実現可能である旨電波技術審議会から中間報告された。
 50年度は800MHz帯を陸上移動業務に利用する場合の標準的な伝送方式,周波数割当上の技術的諸条件等を究明するため,郵政省と電電公社が共同で実地調査を実施する予定である。
 なお,今後における800MHz帯の電波の利用形態としては,従来の一般陸上移動業務のほか,新しい分野として大容量広域公衆自動車電話業務等が考えられる。
ウ.準ミリ波無線中継方式
 現代社会において,情報及び通信に対する需要は極めて大きく,しかもそれが年を追って増加の一途をたどっている。
 このようなすう勢に対し,公衆通信回線の状況をみると,10年後あるいは15年後の総通信需要を満たすには,現在国内無線回線の根幹をなしている長距離大容量無線方式としての4,5,6GHz帯マイクロウェーブ,あるいは短距離市内外回線用等としての役割を果たしている2,11,15GHz帯伝送網等の拡充強化をもってしても不十分である。
 こうした情勢にかんがみ,将来の長距離大容量無線通信方式の主役として,準ミリ波帯ディジタル伝送方式が注目を浴び,研究が進められてきている。
 45年郵政大臣から「準ミリ波以上の周波数を使用する電波の利用開発に関するもののうち,固定地点間情報伝送の技術的諸問題」について諮問を受けた電波技術審議会は,検討審議を重ねた結果,準ミリ波帯の電波は,伝搬上降雨等による減衰が大きいため,中継間隔は従来のマイクロウェーブの場合の15分の1以下となるので中継局数は著しく多くなるが,伝送容量を大きくすることによって経済性の確保が可能であること,また,ディジタル方式をとることによって伝送品質の劣化を極力抑え得ること,そしてそれに対応する部品や装置の技術と信頼性が実用に供し得ると判断されることなどの結論を得て,49年3月答申を行った。
 この答申に基づき,郵政省としては,準ミリ波帯無線方式に関するチャンネルプラン及び技術基準を検討しており,基本的諸元はおおむね次のとおりである。
 〔諸元〕
 ・周波数の範囲  17.7〜21.2GHz
 ・方    式  PCM4相位相変調 同期検波方式
 ・伝送容量    400Mb/s(電話換算5,760回線)
 ・中継距離    標準3km
 ・無線チャンネ  同一偏波 320MHz
  ル周波数間隔  異偏波  160MHz
エ.250MHz帯自動内航船舶方式
 VHF帯を使用した沿岸無線電話は,28年横浜,神戸の港湾サービスとして150MHz帯で開始された。その後,33年には瀬戸内海で沿岸無線電話として実施され,更に,39年内航船舶電話として,我が国初の全国規模の移動電話方式に発展した。
 本方式は手動交換接続であり,多チャンネル切替え,狭帯域リード・セレクタによる選択呼出等既に今日主流となっている移動無線技術が採用されている。当初は50kHz間隔で32無線チャンネルを使用し,移動機は8チャンネル切替えで発足したが,需要の急増に対処するため,41年無線チャンネル間隔を25kHzとし,使用可能無線チャンネル数を倍増する狭帯域化技術の開発に成功し,同時に,移動機も16チャンネル切替えとし,周波数の有効利用が図られた。
 その後も年々加入船舶隻数は増加の一途をたどっており,この対策として接続時間を短縮し,周波数の有効利用を図るための自動内航船舶電話方式の実用化が検討されている。
 本方式は,従来の船舶交換台経由の手動接続方式から,加入者ダイヤルによる自動接続方式とし,接続時間の短縮による周波数使用効率の向上とサービスの改善をねらいとしたものである。
 使用周波数帯は現在の150MHz帯では新規に割当ての余地がなく,激増する需要に対処できないと判断されるため,新たに250MHz帯の割当てを予定している。この方式の移動機は24チャンネル切替えであって,従来の方式より更にマルチ・チャンネル・アクセスの効果を高め無線回線の使用効率を向上させている。
 自動化のために,新たに採用される技術としては,船舶位置の自動検出及び登録,船舶に対する在圏位置の自動探索等があり,精度の高いS/N検定,高信頼度の無線回線制御信号の授受等の無線技術に電子交換機による自動交換接続,位置登録,課金処理等の交換技術を有機的に組み合わせることによって,高度な移動無線システムが可能となる。
 本方式の実用化により,従来の手動方式にみられた船舶の在圏海域を想定しなおすといった手間を省き,サービス性が向上すると同時に,無線回線の無効保留も減少し,その有効利用度が向上することとなる。
(2) 既利用周波帯の再開発
ア.CNL-SSB(リンコンペックス)通信方式
 リンコンペックス方式の陸上移動無線への応用については,計算機シミュレーションにより通信系の最適構成の検討を48年度に行ったが,この結果に基づき150MHz帯リンコンペックス送受信装置を試作した。本実験装置はアタック,リカバリタイムを短く,制御チャンネルの変調感度を高く,動作範囲を広くするなどしてフラッタ性フェージングとドプラーシフトの防止に重点を置いている。
 本装置を使用して都区内で延べ400km近くの走行伝搬実験を行った。その結果同方式は現行FM方式と比較して同等か若干良く,SSB方式よりかなり良いことが判明した。今回の実験を通し,陸上移動用としてのリンコンペックス方式は現行FM方式と比較して約5分の1の帯域幅でも同等の性能が確保でき周波数スペクトルの有効利用に対し将来かなり有望な方式になり得る見通しがついた。
 しかし実用的見地から見れば,フェージング抑圧器で再生できない深さを持つ信号変動に応ずるAGCの開発,干渉妨害の受けにくさの解明,周波数の高安定化,装置の小型化と簡略化による低コスト化等の解決すべき多くの問題点が残っている。現在これらについて検討中であり,周波数安定化については新回路技術の応用で解決できる見通しである。
イ.テレビジョン・FM放送波を利用した多重方式
 現在,我々が視聴しているテレビジョン放送や超短波放送(FM放送)の電波には別の情報を重畳して同時に放送することができる。このような放送を多重放送と呼んでおり,放送電波の節約,放送施設・設備の効率的使用,受信者への多様なサービスの提供等が期待できる。多重放送の方式は本来の放送番組との間の相互妨害がなく,良好な品質が得られ,しかも普及性のあるものであることが開発の目標となっている。
(ア) テレビジョン多重放送
 多重信号は,現在放送しているテレビジョン電波の「すき間」やブラウン管に写らない信号伝送期間に重畳することとなるが,具体的には,第2-7-2図のような方式が考えられる。
 また,多重される信号としては,音声,静止面(ソフトコピー),ファクシミリ(ハードコピー),データ等があるが,ほかに試験信号,監視信号,制御信号等業務用の信号も多重できる。
 音声多重放送は,テレビジョン放送の音声のほかに第二の音声を付加するものであり,2か国語放送,ステレオ放送等に使用できるが,これに関する研究は諸外国では特に複数言語を使用する国において早くから進んでいた。現在両立性,音質,普及性等を考慮して放送方式として最も可能性の高いと考えられている方式は,FM-FM方式(副音声でFM変調された副搬送波で音声搬送波をFM変調する方式)と2キャリヤ方式(既存の音声搬送波のほかに第二の音声搬送波を設ける方式)である。FM-FM方式については,NHKが中心となって45年1月から48年12月まで東京,大阪の総合テレビジョンで実験放送を実施したが,その結果,技術的にも普及性の上でも十分実用化が可能であるとの結論を得ている。電波技術審議会においても,46年度にこの方式の諸規格及び送受信機に必要な技術的条件に関して答申がなされている。また,CCIRにおいても,我が国提案のFM-FM方式と西ドイツ提案の2キャリャ方式が有力な方式として認められている。
 短い文字だけの情報や静止画を多重して送り,受信側ではアダプタを付加した場合に限り情報がテレビ画面に写し出される文字放送や静止画放送に関する研究は,比較的新しい。
 これらの放送は,テレビ画面に写し出される関係上,多重方法としては垂直帰線消去期間に重畳する方式が多い。
 垂直帰線消去期間の利用については,電波技術審議会から,市販受像機を対象とした室内試験の結果では,信号波形等に留意すれば,17番目から21番目の水平走査期間に付加信号を重畳することが可能であることが報告されている。使用できる期間を更に広げるためには,受像機の帰線消去回路の改修等の対策が必要とされている。
 なお,静止画放送は,通常音声を付加して送ることとなるが,この場合の音声チャンネルの多重方式については,必要な音質,所要チャンネル数,普及性等が考慮される必要があろう。
 ファクシミリについては,垂直帰線消去期間に重畳することも可能である。しかし,高解像度が要求される場合には適当ではなく,音声チャンネルにサブキャリヤにより多重する方式,あるいは付加搬送波を用いる方式によらざるを得ないと考えられている。
 特殊な多重信号として,標準周波数,標準時の放送を行う研究が郵政省電波研究所で行われている。これは,周波数標準として同期信号やカラーバーストを使用するものであり,現在の短波帯の電波を使用するものに比べ102程度の精度の向上が可能である。
(イ) FM多重放送
 現在の超短波放送(FM放送)はステレオ放送ができるように二つの音声チャンネルを備えているが,FM多重放送は更に第三,第四のチャンネルを追加するものである。このような付加チャンネルは音声サービス用ばかりではなく,ファクシミリ,静止画等の放送にも使用の可能性がある。また,4チャンネルステレオの放送方式に関する研究も進んでいるが,モノ及び2チャネルステレオ受信に対し,音響的な情報の欠如の生じない方式で,かつ,超短波放送(FM放送)用の許容周波数帯域幅を逸脱しない方式であることが主要な開発目標となっている。
 付加チャンネルの多重方式については,我が国においては音声を重畳する場合における多重方式及び主チャンネルとの相互妨害の排除のために必要な技術的条件について,過去電波技術審議会において検討されているが,同審議会においては,更に,音声以外の信号も含めて幅広く多重できる信号についての技術的条件に関する審議が50年度から始まる予定である。
ウ.船舶用選択呼出方式
 海上移動業務に使用する選択呼出方式は,長期間にわたり,世界的に研究がなされてきた。CCIR(1976年)は選択呼出の海上移動業務への早急な使用を満足すべく,暫定的にSSFC(Sequential Single Frequency Code)方式を勧告し,また,将来の選択呼出方式の開発を要請した。その後,CCIR,IMCO等の研究の成果として,将来の選択呼出としてはディジタル信号を用いた選択呼出(ディジタル選択呼出)方式が有効であるとの結論を得た。
 一方,WMARC-1974年(世界海上無線通信主管庁会議)は,このディジタル選択呼出方式に使用する専用の周波数の分配を行い,1977年から使用できることとした。
 ディジタル選択呼出方式は,海岸局→船舶局,船舶局→海岸局,船舶局→船舶局方向へメッセージを伝送し,被呼局に呼の存在を知らせ,このメッセージに含まれる情報により,すべての海上移動業務の回線設定を行う方式で,海上移動業務の回線設定を容易にするものである。
 このメッセージは個別呼出,グループ呼出,全局呼出,遭難呼出等の分類信号,相手局識別信号,自局識別信号,無線装置の制御信号,継続して行う通信の回線設定に使用する周波数情報等で構成されている。また,本方式は中波帯,短波帯及びVHF帯で使用するため,時間ダイバーシティ,重み付けパリティチェック方式等の技術を採用しており,かつ,1回の呼出しも5〜6秒で完了するものである。
 本方式については,CCIRがその有効性を認めて勧告し,船舶通信に広く使用された場合,限られた海上移動業務用周波数の有効利用ができるだけでなく,通信士を常時聴守から解放するなど将来の船舶通信の近代化に大きく貢献するものと期待される。

第2-7-2図 テレビジョン多重放送の方式
 

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