昭和50年版 通信白書

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3 国際電気通信連合(ITU)

(1) 概   要
 国際電気通信連合(加盟国144)は,国際連合の専門機関の一つで電気通信の分野において広い国際的責任を有する政府間国際機関である。
 我が国は,1879年(明治12年)に万国電信条約に加入して以来,引き続いて累次の条約の当事国となり,電気通信の分野における国際協力の実を上げてきており,1959年(昭和34年)以降は,連合の管理理事会の理事国及び国際周波数登録委員会の委員の選出国として連合の活動に積極的に参加している。また,連合の本部職員として我が国から現在7名が派遣されている。
(2) 管理理事会
 管理理事会は,条約,業務規則,全権委員会議の決定並びに連合の他の会議及び会合の決定の実施を容易にするための措置をとり,また,全権委員会議から付託された案件を処理することを任務としている。
 第二十九回会期管理理事会は,1974年6月から7月にかけての3週間スイスのジュネーブにおいて開催され,連合の会議・会合計画,1975年度予算,人事関係,技術協力関係等について検討を行った。
(3) アジア・大洋州プラン委員会の東京開催
 アジア・大洋州プラン委員会は,1974年10月23日から30日まで,また,アジア・大洋州地域料金作業班は,1974年10月28日と29日の両日,それぞれ東京において開催された。
 前者はアジア・大洋州地域における国際電気通信業務の秩序ある発展を容易にするため国際電気通信網一般計画を作成することを任務とし,後者はアジア・大洋州地域における電話及びテレックス業務の基本料金要素決定のためのコスト研究を行うことを任務としている。
 これらの会合には26か国の主管庁,19の私企業,3の国際機関から166名が参加した。
 今次会合においては,各国から提出するデータのフォーマットを作成したこと,プラン委員会の調整委員会の機能を強化したことなどが主たる成果として上げられるが,これらはいずれも我が国が提出したペーパが活発な討議のベースとなったためと思われる。
(4) 世界海上無線通信主管庁会議
ア.会議の概要
 世界主管庁会議は,国際電気通信条約を補充する業務規則を改正し,また,世界的な電気通信の問題を討議することを任務として,通常,海上移動通信,航空移動通信,宇宙通信等特定の分野における電気通信の問題を処理するため開催されるものである。今回開催された会議は,海上移動通信の問題を取り扱う主管庁会議であって,その目的は,前回の会議(1967年)以来の海上移動通信における無線通信技術の進歩を取り入れるとともに各種の運用方法等を改善し合理化するため,国際電気通信条約に附属する無線通信規則及び追加無線通信規則の関連する諸規定を改正整備することにあった。会議は1974年4月22日から6月8日までジュネーブにおいて連合員90か国の参加のもとに開催された。
イ.主要改正点
 この会議で決定された主な改正点は次のとおりである。
[1] 単側波帯無線電話方式の発達普及に対応して,従来両側波帯方式を基礎として分配していた無線電話海岸局用短波周波数の国別の分配計画を単側波帯方式を基礎としたものに改めたこと。
[2] 電信,電話,印刷電信等通信方式別の通信需要の変遷に伴い,海上移動業務専用に分配されている短波周波数帯のうちモールス電信用の周波数帯を縮小して,この分を最近需要増の著しい複信電話及び今後需要増が予想される印刷電信等の周波数帯の増加に振り当てたこと。
[3] 海上通信の自動化,高能率化の動向に沿って,選択呼出方式,狭帯域直接印刷電信方式,リンコンペックス方式等の新技術に関する規定を整備拡充したこと。すなわち,選択呼出方式については,従来認められていた連続単一周波数コード方式に加えて,我が国や米国が開発したデジタル方式も,CCIRの勧告に合致するものは使用できることとなり,短波帯にその専用周波数が設けられた。また,狭帯域直接印刷電信については,国際無線通信諮問委員会の勧告による特性が規定化されたほか細部にわたる運用規定が定められた。
 なお,スペクトラムの一層の有効利用を図るため,印刷電信,単側波帯無線電話,モールス電信の機器の周波数許容偏差を厳しくする改正も同時に行われた。
[4] 海上におけるVHF帯の使用の増大及び多様化に伴い,海上移動VHFチャンネルを電話以外に高速データ伝送,ファクシミリ及び狭帯域印刷電信にも使用できるようにするとともに,新設の船舶通航業務(船舶の移動に関する通信で港務通信以外の海上移動安全業務)にも使用できることとしたこと。
[5] 短波帯のA1モールス電信による船舶局と海岸局との間の通信連絡の設定の効率化を図るため,その呼出周波数,聴守の方法等に関する規定を大幅に改めたこと。
[6] 船舶局の執務の改善を図るため,1日16時間の執務をする船舶局(第2種船舶局)及び同8時間の執務をする船舶局(第3種船舶局)について,個々の船舶の通信事情に応じ柔軟性をもって合理的に執務を行うことを可能にするため,従来それぞれ固定していた執務時間を,固定した執務時間と固定しない執務時間とに分けることとするとともに従来のGMTによる地帯別執務時間によることをやめて,船舶時又は15度ごとの子午線により区分するゾーンタイムを採用することとしたこと。
[7] 海上通信における無線電話の普及発達にかんがみ,無線電話の国際遭難周波数を中心として遭難通信制度の強化を図ることをねらいとして規定の改正を行ったこと。国際遭難周波数2,182kHzによる遭難・安全通信の一層の疎通の確保を図るため,この周波数による沈黙時間制度の世界的実施,試験発射の禁止,呼出しの制限等について規定したほか,沿岸地域等近距離における遭難の通信の円滑な実施に資するため,156.8MHzを新たに国際遭難周波数として定めた。
[8] 船舶が使用する無線設備は,自動通信技術,電子装置の導入等に伴い技術的にますます高度化し,かつ,多様化する傾向にあり,これらの最新の設備の操作,保守,修理等の技術を有する無線通信士の資格が必要となってきたため,現在の資格に加えて,新たに海上移動業務のみに従事する「無線通信士一般証明書」の資格を設けたこと。
 今回の会議で採択された改正規則は1976年1月1日から発効することとなっており,この実施により当面の海上移動通信における技術的発展,各種需要の多様化に対応できる体制が整備されたこととなる。
 なお,今次会議においては,将来その導入が確実であり,海上通信に革命をもたらすであろうと考えられる衛星通信については,その経験がほとんどないことから大きな改正がなされていない。次回の会議が開かれるころは海上通信も衛星通信時代に入っていると予想されるので,世界有数の海運国及び漁業国として海上通信の円滑な疎通が最も必要とされる我が国としては,新時代に対応できる対策を進めていく必要があろう。
ウ.国際周波数登録委員会(IFRB)委員の選挙
 1973年マラガ・トレモリノス全権委員会議の決定に基づき,この主管庁会議においてIFRB委員の選挙が行われた。
 IFRB委員の数は5名であり,全世界をA地域(南・北アメリカ),B地域(西欧),C地域(東欧),D地域(アフリカ),E地域(アジア・大洋州)の5地域に分けて,各地域から1名ずつ選出されることとなっている。
 我が国は今回の選挙により,1959年以来引き続きIFRB委員を送ることとなり,世界の無線通信の発展に貢献することとなった。
(5) 長・中波放送に関する地域主管庁会議(第一会期)
 地域主管庁会議は,世界主管庁会議のように業務規則を改正する権限はないが,業務規則の規定の範囲内で,地域的性質を有する特定の問題について審議し,決定することを任務としているものである。今回の会議は,第一地域(ヨーロッパ・アフリカ)及び第三地域(アジア・大洋州)における長・中波放送用の周波数割当計画作成のための地域主管庁会議の第一会期として,この会議の第二会期(1975年10月)における周波数割当計画作成の基礎とする技術上,運用上の基準等を定めることを目的とし,1974年10月7日から25日までジュネーブにおいて連合員86か国等の参加の下に開催された。
 会議の最重要課題は,現在第一地域では9kHz,第三地域では10kHzとなっている中波放送用の使用周波数の間隔を統一することであり,これについては各地域の利害が大きく対立したが,最終的には各国間の調整がなり9kHzに統一することとなった。また,これに関連して使用周波数を531kHz,540kHz,549kHz....のように9kHzの整数倍とすることも決まった。この結果,現在周波数間隔の不統一,使用周波数の不統一に起因しているビート混信を排除できる見通しが得られるに至ったことは今次会議の最大の成果と言える。このほか会議は,周波数計画を作成するために必要な技術基準として変調方式,音声帯域幅,同一チャンネル混信保護比,隣接チャンネル混信保護基準,電界強度の最小値,電波伝搬の測定方法,周波数割当計画の作成方法等を決定した。
 また,周波数要求の様式を定め,各国はこれに基づいて周波数要求書を1975年5月1日までに国際周波数登録委員会に提出することになった。第二会期では,各国から提出された周波数要求を基に今次会議で決定された技術基準を適用して,国別の具体的な周波数割当計画を作成することとなるが,各国の周波数要求は膨大なものとなることが予想され,一方,使用できるチャンネルには限りがあるので,すべての要求を満たすことは至難であり,各国の要求をいかに調整し,妥協点を見いだすかが最大の焦点となる。
 我が国は,現在100波の中波放送用周波数を使用し486局の放送局を運用しているが,この会議の成り行きいかんによっては,今後における我が国の音声放送全体の実施体制に影響をもたらすことも予想されるので,妥当な国際協調を図りつつ,我が国の電波権益を確保するために慎重に対処する必要がある。
(6) 国際無線通信諮面委員会(CCIR)第十三回総会
 CCIR第十三回総会は,1974年7月15日から26日までスイスのジュネーブにおいて開催された。
 CCIR総会は,各研究委員会の中間会議,最終会議を経て通常3年の周期で開催され,13の各研究委員会から提案される文書の採択のほか,CCIRにおける組織,技術協力及び財政に関する問題を審議し,最終決定を行うことを主たる任務としている。今回の総会では,約70か国,300名近い代表が参加したが,我が国からは19名の代表が出席した。
 ここで取り上げられた問題のうち,中波放送に関する技術基準に関するものは,1974年10月及び1975年10月に開催される長・中波放送に関する地域主管庁会議における審議の基礎としようとするものであったが,混信保護比の値が決定されたのみで,周波数間隔,カバレージ(ラジオなどの有効聴取範囲)等その他の問題については,各国の合意が得られず,その決定が1974年10月の長・中波放送に関する地域主管庁会議(第一会期)に持ち越された。
 また,同会議では電波天文業務と我が国が打上げを予定している気象衛星(GMS)との混信問題が審議されたが,これについては我が国の立場を十分説明することにより,1974年2月のCCIR最終会議の勧告案を一部修正することができ,混信問題解決の糸口を見付けることができた。
 なお,この総会において研究問題,報告,勧告等のテキスト1,092件が採択されたが,このうち約390件の問題について今後継続して調査,研究を進めることとなった。
(7) 国際電信電話諮問委員会(CCITT)
 CCITTは,電信及び電話に関する技術,運用及び料金の問題について研究し,意見を表明することを任務としている。
 1974年度においては,各研究委員会の会合日数は292日,各主管庁から提出された寄与文書は1,662の多くを数えたが,特に活発な討議が行われたのは,新データ通信網に必要な技術,電子交換技術,データ伝送技術及びPCM(パルス符号変調)技術等新しい技術の分野を取り扱う研究委員会においてである。
 我が国は,ほとんどすべての会合に参加するとともに多数の寄与文書を提出し,CCITTの活動に積極的に貢献している。
 

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