昭和50年版 通信白書

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7 基礎技術及び研究

(1) 交換技術及び通信網制御技術
ア.電子交換機の開発状況
 電電公社では46年から東京,大阪,名古屋等の大都市の一部で電子交換機の商用試験を行い所期の目的どおりの極めて良好な試験結果を得ている。その後,広域時分制機能の確認,システムの拡張方法に関する調査・試験を行って加入者線交換機の実用化を終了した。また,中継線交換機についても48年5月から東京,大阪の一部で商用試験を実施し,各種機能及びその安定性の確認を得,実用化を終了した。
 49年度は,これらの試験結果を基に標準化したD10形自動交換機の本格的導入を開始し,現在,大都市から県庁所在地級の地方都市まで全国30余局で運用中である。
 優れた利点を持つ電子交換機を大都市のみならず中小都市にまで拡張し,新サービスの普及及び省力化を図るため,中小局用電子交換機についても開発を進めている。これは,約1万6千端子の容量を持つDEX-A11方式で,48年度から一部の加入者を収容して試験を行った。運転状況は極めて安定しており,これを基本に改良を加えたD20形自動交換機の実用化を進め,商用試験を計画している。
 都市部等における端子増設の経済化等を目的としたDEX-Rl方式(D10形交換機の制御系で複数局のD10形通話路系を遠隔制御する方式)については,DEX-A11方式と並行して試験を実施し,所期の成果を得た。この間,加入者を収容した状態での独立局移行実験を行い,技術的確認を得た。これを基本にD10形自動交換機Rl方式として実用化の準備を進めている。
 また,中小規模用事業所集団電話交換機としてのD10形自動交換機R3方式についても実用化を進めている。
 一方,急増するデータ通信需要に対し公衆網が開放されたが,データ通信の要求する品質,機能の面から既存公衆網では必ずしも最適とはいい難い。このため,時分割電子交換機及びディジタル伝送方式の研究開発の成果を基盤として,本格的なディジタルデータ交換網の研究開発が進められている。ディジタルデータ交換機は,時分割回線交換及びパケット交換(情報をいったん蓄積して,一定の長さに区切り,これを転送の単位として送り出す交換方式)の機能を持つ交換機で,50b/s〜48kb/sの広範囲な端末速度回線を交換しようとするものである。ディジタルデータ交換機は,今後のデータ通信の発展に大いに寄与するものとして期待されており,世界各国で研究実用化が盛んである。
 国際電電では,国際電話用電子交換機XE-1及び国際加入電信(テレックス)用時分割電子交換機CT-10について,共に51年度商用化を目途に準備が進められている。
イ.通信網制御技術
 最近の電話利用形態の多様化や災害等による電話の異常ふくそうで発生するトラフィックの変動に対応して,通信網の疎通能力を最大限に発揮させるため,適正でしかも迅速な措置をとることが必要となってきた。その対策の一環として,電電公社では,電子計算機を用いて管理区域内の電話局のトラフィックデータを収集し,異常を検出した場合にう回拡大や呼の規制等適切な網制御を行う自動即時網管理方式(部分集中制御方式)を実用化すべく試験を行っている。
 また,プッシュホンを利用した国鉄の「座席予約システム」が49年度にサービス開始されたが,このような不特定多数の利用者を対象とするサービスに用いるセンタ接続交換機には,そのサービスの利用による通常の電話とは特性の異なるトラフィックが集中し,一般電話の疎通に大きな影響を与えるおそれがある。そこで一般電話への影響を防止するため, トラフィック監視・制御機能を持つセンタ接続交換機が実用化され,使用されている。
(2) 電話サービスの多様化技術
 近年の生活水準の向上と福祉社会指向に伴い,電話サービスに対する要望は量的な拡大とともに質的にも高度化,多様化し,より便利で快適なものが強く求められるようになってきている。このような要請に応ずるため,電電公社では新しい電話サービスの開発を積極的に推進することとし,効用が高く需要が多く期待できるもの,公共性があり社会福祉に役立つもの,地域社会の発展に寄与し得るものなどについて技術的検討を行い,実用化を進めている。
 まず,生活の多様化,高度化により,小形軽量で使いやすく,魅力的なデザインの電話機が強く要望されているため,従来のプッシュホンに比べ約3分の1に小形軽量化した,ざん新で操作性の良いミニプッシュホン(700P形電話機)の開発を進めた。ミニプッシュホンは,通話回路をすべてIC化するとともに,世界に先駆けて小形電磁形送受話器を採用したため大幅に小形化された。また,ハンドセットには,人間工学的配慮から再発呼用フックスイッチを組み込み,重量も200gと望ましい重さに設定するなどの配慮を施した。機能的には,ベルに代えてトーンリンガ方式を採用し,スピーカ受話等新しい機能を備えたほか,卓上,壁掛兼用の形状として生活の多様化に対応できるよう工夫している。
 また,公衆電話サービスの向上を図るため,押しボタンダイヤル式公衆電話機の実用化が進められている。
 電話宅内装置の福祉対策としては,盲人用ダイヤル盤,盲人用局線中継台の実用化に引き続き,難聴者用電話機(シルバーホン(めいりよう))及び老人福祉対策用電話装置(シルバーホン(あんしん))の検討が終了している。
 シルバーホン(めいりよう)は,聴覚障害等級区分4〜6級の人でも容易に通話できるように配慮したもので,受話増幅機能を電話機のハンドセットに内蔵したものである。この電話機は,通常の人との共用を考慮して,音量調節ダイヤル及び操作ボタンがハンドセット上部に取り付けられている。
 シルバーホン(あんしん)は,一人暮らしの老人が日常はもちろん緊急時にも,容易にかつ間違いなく利用できるように配慮した電話装置であり,通常の電話機能のほか,ワンタッチ式自動ダイヤル機能,受話音量増幅機能,カセットテープによる緊急メッセージ自動送出機能等が付加されている。
 一方,電話局から遠く離れた比較的需要数の少ない過疎的地域に対して経済的に電話の充足を可能とするため,ディジタル加入者線多重化方式及び加入者線搬送方式について実用化のための試験が行われており,更にマルチアクセス加入者線無線方式及び過疎地域用加入者交換方式についても検討が進められている。
(3) 大規模集積回路技術及び磁気バブル技術
ア.大規模集積回路技術
 集積回路(IC)は,一つの半導体結晶片あるいは,セラミック基板上に多数のトランジスタ,抵抗,コンデンサ等を集積したものであり,機器の軽量化,小形経済化,動作の高速化,高信頼度化が可能であり,電子工業の諸分野に広く使用されている。現在,家庭にまで普及している小形計算機は,わずか一個のICでその機能を満足している。
 最近では,ICより更に集積度の大きな大規模集積回路(LSI)の研究開発が進められており,例えば記憶LSIについて,従来の数ミリ角当たり最大4kb程度のものを64kb以上のものに大容量化することを目標に研究されている。
 大規模集積回路の研究は,電気通信分野のみならず電子技術全般について,飛躍的な発展の基礎となるものと期待されている。
イ.磁気バブル技術
 電子計算機,電子交換機等の大容量記憶装置用記憶素子として,磁気バブル素子の研究が進められている。磁気バブルは,不揮発性(電源が切れても情報が消滅しない),高記憶密度,低消費電力のほか機械的可動部分がないなど従来の記憶素子にない特徴を持っているため,磁気ドラム,磁気ディスク等に代わる新しいファイル記憶として期待されているものである。
 磁気バブルは,磁性材料の薄膜中に特殊な条件で発生させた磁区であり,磁性材料の製作技術の確立が磁気バブル技術における一つの大きなかぎといえる。最近では,電電公社でウェーハ(希土類ガーネットなど磁性材料の単結晶薄膜)の再現性の良い製作技術が確立されているほか,国際電電では,ガドリニウム・鉄合金の非晶質膜を磁気バブル材料として使用する新しい技術が開発されている。
(4) パターン情報処理技術
 電子計算機の入出力や交換機への信号送出は,タイプライタや電話機ダイヤル等を用いて,電気的・機械的に作られた信号で行われているが,これを,自然言語で可能とするためのパターン情報処理の基礎的研究が推進されている。
 これは,人間の自然なコミュニケーション手段である音声や文字を,マンマシン・インタフェースに応用しようとするもので,音声入力のための音声認識方式,出力のための音声合成方式,文字読取方式等の実用化を目指しているものである。
 音声認識については,音声入力の周波数スペクトルパターンを標準パターンと比較して分析し,情報として認識する方式が研究されている。また,音声合成では,音声素片録音編集方式が主に研究されており,合成された音声の品質評価を電子計算機でシミュレートするなどの検討が行われている。文字識別には,活字文字識別,手書き文字識別があり,現在は識別の比較的容易な活字文字識別方式の開発が進められている。
(5) 国際通信技術
ア.国際間テレビジョン標準方式変換技術
 国際間のディジタルテレビジョン伝送に関して,伝送効率の向上を考慮した符号化及びテレビジョン標準方式の変換技術の研究が進められている。
 現在の国際間テレビジョン信号伝送はアナログ信号で衛星回線経由で行われており,標準方式の変換は,超音波遅延線を用いた大規模な装置で行われている。国際電電では,この方式変換にMOS・ICを用いた記憶装置の採用とディジタル処理を施すことによって,安定性・保守性に優れ,極めて高品質の変換画が得られるディジタル形テレビジョン標準方式変換装置を開発し,試作機による試験の準備が進められている。
イ.衛星回線におけるエコー対策技術
 4線―2線の変換点を含む国際電話回線で生じるエコー妨害を除去するため,エコーの打消しを目的とするエコーキャンセラの方式検討,エコーをしゃ断するために現在使用されているエコーサプレッサの改善等のエコー対策技術の検討が進められている。
 エコーキャンセラについては,新しい処理方式を適用して,経済性,将来性の上から,多重化・PCM回線への適用を考慮した方式の研究が進められている。
 また,49年にインテルサットの主催によるエコーキャンセラの現場試験が,日本・ハワイ間商用衛星電話回線を使って実施された。
(6) 省資源関連技術
 近年,新技術の開発やその応用に当たっては,従来のコスト,性能という要因とは別に,資源の保護を重視する必要性が生じてきている。このような情勢の中で,電電公社では,ケーブルくずや電話機きょう体等の廃プラスチックの利活用を図るため,これらを地下管路布設用枕木として再利用する技術を確立した。
 また,枯渇化傾向にある銅資源の代替として,アルミ導体通信ケーブルの実用化が進められており,市内中継多対アルミケーブルの試験が実施されている。このほかに,市外ケーブルへの適用等についても検討が進められている。
 通信用電力は,商用電源及び内燃機関による自家発電を使用しているが,自然界に無尽蔵にある太陽エネルギーや風力エネルギーを通信用電源に使用する研究が進められている。現在,離島,山間辺地等の商用電源の得られない地域で,消費電力がわずかな孤立無線サテライト局へ適用するための太陽電池式電源装置の試験が行われているほか,風力発電については,装置の耐候性,風況等について検討が行われる予定になっている。
(7) 電離層観測
 現在世界中に約180箇所の電離層観測所があるが,47年から太陽地球環境観視計画(MONSEE)が実施され,電離層,地磁気,宇宙線,オーロラその他の諸現象に関する国際共同観測が継続されている。郵政省電波研究所においては国分寺を含む5電離層観測所での電離層垂直打上げ観測,平磯支所での太陽バーストスペクトル観測等が実施されている。
 我が国における電離層観測機についても小型高性能化が図られ,各地方観測所にも新装置が逐次配備されつつある。また,国際電離層規格委員会(INAG)から観測されたデータの読取整理基準が勧告されたが,これを実際の電離層観測にあてはめると,いくつかの問題点があり,実情に合った様式を提案するための検討を行っている。
(8) 原子周波数標準
 最近我が国でもカラーテレビジョンの多元同期,ロケットの追跡ステーションの時刻同期等諸科学分野において確度の高い原子周波数標準器を必要とする範囲が多くなりつつある。このような情勢の下で電波研究所の原子周波数標準の高確度化はもちろんのこと時間及び周波数の精密計測あるいは校正法,標準の更に高精度な供給法等の開発がますます重要となってきている。
 我が国の時間及び周波数の原器として開発され,運用されてきた2台の水素メーザのその後のデータが更に解析され,その結果に基づき改良された新設計の装置が新たに電波研究所に設置され,現在調整作業を続行中で高確度化が期待される。
(9) 大気汚染の測定
 電波研究所では従来行われてきたレーザの研究に関連し,その応用技術としてレーザを利用した大気複合汚染測定用レーザレーダの開発研究を行っている。特に各国に先駆けて光化学スモッグの原因となるオキシダントの主成分であるオゾンの濃度測定を試みた。これはオゾンが波長9ミクロン帯のレーザ光線を強く吸収する性質を利用して,この9ミクロン帯と吸収作用のない10ミクロン帯のレーザを交互に発振し,両レーザ光線の受信感度の強度比からオゾン濃度を知るシステムを開発し,49年にはオゾン濃度の測定に成功した。この成果は光化学スモッグの監視体制に大きな威力を発揮し,その原因究明にも新たな活路を開くものと期待される。
 

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