昭和50年版 通信白書

本文へジャンプ メニューへジャンプ
トップページへ戻る
操作方法


目次の階層をすべて開く 目次の階層をすべて閉じる

第2節 研究開発課題とその状況

1 宇宙通信システム

 我が国の宇宙開発は,50年9月,宇宙開発事業団によって我が国初の実利用分野の衛星である技術試験衛星<1>型(ETS-<1>)の打上げが成功し,新たな展開を遂げたが,宇宙通信の分野においても51年2月に電離層観測衛星(ISS)が,52年度に実験用中容量静止通信衛星(CS)及び実験用中型放送衛星(BS)が,53年度には実験用静止通信衛星(ECS)がそれぞれ打ち上げられることとなっており,これらの衛星の開発の成果により,今後の通信・放送分野における宇宙通信の役割は更に増大していくものと思われる。
(1) 通信衛星及び放送衛星の開発
ア.国際的動向
 国際通信用の衛星通信システムとしては,インテルサット及び東欧圏を中心とするインタースプートニクがある。
 前者の衛星としては,現在電話換算約7,000回線の容量の<4>号系衛星が大西洋上に3個,太平洋上に2個,インド洋上に2個それぞれ打ち上げられ,運用に供されているが,50年中ごろには大西洋沿岸諸国間の通信量の増大に対処するため,大西洋上にIV号系の2倍の容量を有するIV-A衛星の打上げが予定されており,更に将来の通信需要を考慮して準ミリ波帯を使用する大容量のV号系衛星の検討が進められている。
 インタースプートニクには,従来周期が約12時間の周回型のモルニア衛星を使用していたが,49年7月,インド洋上にインタースプートニクとしては初めての静止通信衛星モルニアISを打ち上げ,運用に加えている。
 このように国際通信への衛星の利用に加えて,最近においては,国内通信用として衛星の開発あるいは導入を計画している国が多い。
 カナダは1972年アニク1号を打ち上げたのを皮切りに,既に3個の衛星を運用に供している。
 米国においては,長く論争が続けられてきた国内通信衛星の利用政策についての結論が出たことにより,1974年4月ウェスター1号が,同年10月ウェスター2号が打ち上げられたのをはじめ,ここ数年内に十数個の衛星の打上げが計画されている。また,米国は海上通信用の衛星であるマリサットを1976年1月大西洋上に打ち上げ,世界で最初に実用に供することとしているほか,引き続き太平洋上にも打ち上げる予定である。
 欧州においても通信衛星の開発が活発に行われている。西独・フランスが共同開発した実験通信衛星シンフォニーの1号機が1974年12月打ち上げられ,引き続き1975年8月に2号機が打ち上げられているほか,欧州宇宙研究機構(ESRO)を発展的に改組することにより発足した欧州宇宙機関(ESA)は,1977年に通信実験用の軌道試験衛星(OTS)及び海上通信用の軌道試験衛星(MAROTS)を打ち上げるべく開発を推進している。
 最近においては開発途上国においても国内通信衛星の導入計画が活発化してきていることが注目される。インドネシアは1976年後半にも国内通信システムを導入する予定であり,フィリピン,マレーシアはこの衛星の中継器をリースすることを計画しているほか,ブラジルも1978年に独自の衛星の導入を予定している。アラブ諸国等においても衛星導入の計画がある。
 放送衛星の分野では,実用に供されている衛星はいまだ存在しないが,実用に向けての開発,実験等の動きが活発である。
 米国は,1974年5月に打ち上げられた応用技術衛星6号(ATS-6)により保健,教育放送実験を行い,多大の成果を収めたが,この衛星は1975年5月末からアフリカ上空に移動され,同年8月より教育テレビ実験(SITE計画)に使用されている。カナダは1976年早々にも米国,ESROと共同開発したテレビジョン及び音声の放送実験を目的とした通信技術衛星(CTS)を打ち上げることとしている。
 このほか,ソ連が1975年又は1976年に実用を目的とした放送衛星の打上げを予定しており,西独においても放送衛星の開発が進められている。
 また,開発途上国においても前記のようにインドが計画しているほか,イランにおいても研究が進められている。
イ.我が国における通信・放送衛星の開発
 我が国の通信需要の増大及び多様化に対処し,かつ,災害時における通信系の確保を図るためには,地上通信システムに衛星通信システムを加えて対処していく必要があると考えられる。また放送の面でも,教育・難視聴対策等のために衛星放送システムの導入が必要と考えられる。
 郵政省としては,このような情勢を踏まえ,48年度から実験用中容量静止通信衛星(CS)及び実験用中型放送衛星(BS)の開発研究を開始した。これら開発研究の成果は,48年度,宇宙開発事業団に引き継がれ,同事業団により本格的な衛星の開発が開始された。また,ミッション機器については,電電公社にCSのエンジニヤリングモデルの設計及び製作を,NHKにBSのエンジニヤリングモデルの設計及び製作を委託し,開発を進めた。
 49年度においては,衛星本体の開発費として約234億円の予算が成立し,これにより宇宙開発事業団が両衛星の製作・試験を51年度末までに完了すべく,現在作業を進めているところである。
 ミッション機器については,48年度に引き続きCSの中継器エンジニアリングモデルの試験,改良及びBSの中継器エンジニアリングモデルの製作,試験をそれぞれ電電公社及びNHKに依頼し,完了させた。これら中継器エンジニアリングモデルは49年度に宇宙開発事業団に引き渡された。宇宙開発事業団はこれらミッション機器を衛星本体と組み合わせて総合的試験を行い,プロトフライトモデル及びフライトモデルの製作を行うべく作業を進めている。
 また,打上げ後の実験に必要な地上施設については,49年度予算で45億5,600万円が成立し,CSの主固定局兼運用管制局及びBSの主送受信局兼運用管制局を電波研究所鹿島支所に設置すべく建設作業を進めているほか,CS及びBSの管制ソフトウェアの開発を行うべく電波研究所で作業を進めている。更に,50年度予算において,CSの主固定局兼運用管制局の追加整備費として約4億2,700万円が認められた。
 両衛星の打上げは,51年度に米国航空宇宙局(NASA)に依頼して行われることとなっていたが,宇宙開発事業団とNASAとの間の打上げ依頼のための契約締結交渉の過程で打上げ経費の支払方法についての調整がつかず,51年度における打上げが不可能となったため,宇宙開発委員会は49年12月宇宙開発関係経費の見積り決定において,両衛星の打上げ時期を52年度に変更した。
 なお,ミリ波等の周波数における通信実験,電波伝搬特性の調査等を行うことを目的とする実験用静止通信衛星(ECS)の開発については,宇宙開発事業団において基本設計が50年中ごろ終了し,その後エンジニアリングモデル以降の開発が進められる予定である。
 また,この実験に必要な地上設備の整備についても,50年度から電波研究所において作業が開始されることとなっている。
 実験用中容量静止通信衛星(CS),実験用中型放送衛星(BS)及び実験用静止通信衛星(ECS)の諸元は次のとおりである。
(ア) 実験用中容量静止通信衛星(CS)
 [1] 衛星軌道及び位置  東経135°の静止軌道
 [2] 通信対象区域
    準ミリ波帯    北海道,四国及び九州を含む本土周辺
    マイクロ波帯   小笠原,沖縄等の離島を含む日本全土
 [3] 伝送内容      電話及びカラーテレビジョン等
 [4] 変調方式      PCM-PSK
 [5] 伝送容量      100Mb/s
 [6] 使用周波数
   準ミリ波帯
    上り回線     27.5〜31GHz帯域内に6波
    下り回線     17.7〜21.2GHz帯域内に6波
  マイクロ波帯
    上り回線     5.925〜6.425GHz帯域内に2波
    下り回線     3.7〜4.2GHz帯域内に2波
 [7] 衛星寿命      約3年
 [8] 実験の目的
 衛星システムを用いた準ミリ波等の周波数における通信実験を行うこと,衛星通信システムの運用技術の確立を図ること,その他
(イ) 実験用中型放送衛星(BS)
 [1] 衛星軌道及び位置  東経 110°の静止軌道
 [2] 受信対象区域    小笠原,沖縄等の離島を含む日本全土
 [3] 伝送内容      カラーテレビジョン2ch
 [4] 変調方式      映像 FM
             音声 FM-FM
 [5] 使用周波数
    上り回線     14.0〜14.5GHz帯域内に2波
    下り回線     11.7〜12.2GHz帯域内に2波
 [6] 衛星の出力     100W/ch
 [7] 衛星寿命      約3年
 [8] 実験の目的
 衛星システムを用いた画像及び音声の伝送試験を行うこと,衛星放送システムの運用技術の確立を図ること,その他
(ウ) 実験用静止通信衛星(ECS)
 [1] 衛星軌道及び位置  東経145°の静止軌道
 [2] 業務区域      関東地方一円
 [3] 伝送内容      電話及びテレビジョン等
 [4] 変調方式      PCM-PSK
 [5] 伝送容量      100Mb/s
 [6] 使用周波数
    上り回線     6GHz帯及び35GHz帯各1波
    下り回線     4GHz帯及び30GHz帯各1波
             ミリ波帯,マイクロ波帯の上り,下り周波数
             はクロスストラップ可能
 [7] 衛星寿命      約1年
 [8] 実験の目的
 ミリ波等における通信実験,電波伝搬の実験を行うこと,衛星通信システムの管制及び運用技術の確立を図ること,その他
(2) 電離層観測衛星の開発
 電離層の状態や電離層の上部の環境及び空電に伴う電波雑音についての世界分布を知ることは,無線通信回線の効率的な運用を図る上に極めて重要なことである。従来の地上観測のみでは海域,辺地等の電離層の観測や電波雑音の観測が不可能であったが,人工衛星を利用することにより,これらの観測が可能となった。
 電離層観測衛星(ISS)は我が国の技術試験衛星<1>型に引き続き打ち上げられる実用衛星として開発されたもので,50年度末に高度約1,000km,傾斜角約70°の円軌道に打ち上げられる予定であり,現在宇宙開発事業団において計画どおり製作が進められている。電波研究所では電離層観測衛星の打上げに備えて44年度から衛星管制施設の整備を行ってきたが,電波研究所鹿島支所では,既に第一期及び第二期工事が47年度までに終了し,一部運用管制ができるようになり,現在までカナダの電離層観測衛星ISIS-1号,2号等を対象としてコマンド送信及びテレメトリ受信を行っている。
 49年度は,これらの工事に引き続き第三期工事が行われ,同施設整備が終了した。この工事では,衛星の1日当たり数回にわたる多数パスの運用管制が可能となるようプロセス計算機及び同関連装置が設置された。これによって各サブシステムが制御されるのであるが,このため送信機系統では送信装置の一部改造,トーンコマンドエンコーダの設置が行われた。受信機系統では追尾及びテレメータ受信機の受信周波数設定のためのデシマル変換装置が整備された。信号処理系統では,制御信号やテレメータ信号等を各サブシステムに分配制御する信号分配制御接続装置の設置及び衛星の多数のパスのデータ取得に対応できるように磁気録音装置の1台追加がなされ合計2台となった。また衛星内部のハウスキーピングデータ取得用のPCM符号解読装置が設置された。このほかコマンド送信装置コンソールによって送信装置のリモートコントロール,状態表示等が,また,送信アンテナコンソールによって送信アンテナのリモートコントロ-ル,指向表示等ができるようになった。
 なお,CRTディスプレイの備付けによって衛星のパススケジュールやシステムの制御状態等もチェックできるようになり,衛星管制のプログラム(Computer System for Satellite Control:略称CSSC)の完成により,1週間単位の通常の運用管制がほとんど自動化された。
 一方,管制監理所(電波研究所内)側においては,宇宙開発事業団からの軌道データと電波研究所鹿島支所管制センタで受信された衛星データを基としてISS衛星の運用計画を立案し,長期及び短期の観測スケジュールを作成し,管制センタに指令するとともに,受信データに基づき,観測値の校正,データ品質のチェックを行い,校正された観測値を用いて,臨界周波数の世界分布図の作成,電子密度の高さに対する分布図等の作成を行うが,これらの解読解析処理業務はすべてあらかじめ作成されたプログラムに従い,電子計算機によって処理される。この目的に使用するためには大型の電子計算機が必要であり,このため従来の計算機に代えて,その数倍の能力を持つ大型計算機の導入を計画し,49年度末にその設置を完了した。
 これに伴い管制監理所に施設する設備のうち,電子密度高度分布図(N(h)プロファイル)作成に必要なイオノグラムオンライン処理システムはその製作調整を終了したが,更に衛星観測運用計画作成システム,ミッションデータ監視システム,テレメータデータ処理システム等研究所本所側における全システムのハード及びソフト両面にわたる整備を現在続行中である。
(3) 衛星通信の研究
ア.通信方式
 衛星通信における周波数の有効利用を図るため,各種の新しい通信方式の研究が行われており,その一つとして時分割多元接続(PCM-TDMA)方式がある。本方式については郵政省電波研究所と電電公社電気通信研究所とが共同でSMAX(Synchronized Multiple Access System:同期多元接続方式)を開発し,ATS-1及びATS-3衛星を利用した通信実験に成功しており,電電公社横須賀電気通信研究所では更に高速のPCM-TDMA方式実験装置を試作し,性能試験を開始している。
 一方,インテルサットではTDMA方式を重視し,本方式の国際間接続試験を行う計画を進めている。
 国際電電研究所においてはTTT方式を更に一歩実用に近づけたTDMA装置を開発し,上記の国際間試験に参加する場合に備えて検討を進めている。また,近い将来の国際間衛星通信の課題として国際電電研究所ではディジタル衛星通信の採用に適した時分割―空間分割多元接続(TDMA-SDMA)方式,直交偏波を利用した衛星通信方式等の基礎的検討を継続するとともに,海事衛星通信システムの方式設計及び装置の試作を行った。
 電波研究所鹿島支所においては,離島通信,移動通信あるいは災害通信等の小規模地球局を対象とする衛星通信に有効と考えられる通信方式としてSSRA(周波数拡散ランダム接続)通信方式を開発し,その早期実用化のための実験研究を進めてきているが,49年度においては各地球局の周波数変動に関する制限を軽減するため,周波数同調を必要としない新しい同期方式を開発するとともに,同システムにおける同時通話路の飛躍的増大を図る新しいディジタル化SSRA通信方式の基礎的検討を進めた。
イ.ATS-1衛星の管制実験
 電波研究所はATS-1衛星の打上げ時における追尾測距の支援を行って以来今日に至るまで衛星の測距等をNASAの地上局と共同して定期的に実施する一方,この衛星を利用して衛星通信についての各種実験を行ってきたが,1974年6月電波研究所とNASA両者の間でこれらの衛星管制技術の習得及び運用に関し合意が得られ,実施の運びとなった。すなわちNASA側は必要なソフトウェアの供給及びコマンドエンコーダとシンクロナスコントロ-ラの貸与を行い,電波研究所側は[1]ATS-1運用の分担ととう載機器のon/off[2]軌道決定とマヌーバ計画の作成及び静止位置保持マヌーバ[3]衛星ハウスキーピングデータ取得と衛星内部状態監視をそれぞれ分担することとなり,電波研究所ではこれらを実行するため電離層衛星管制施設及び計算機を利用することとなった。
ウ.ミリ波通信
 衛星通信により将来増大する通信需要を賄うためにはマイクロ波,準ミリ波に加えてミリ波の利用が不可欠と考えられる。このミリ波を利用した宇宙通信を行う際要求される通信品質を満足するとともに最も経済性の高い無線回線を構成するためには,ミリ波の減衰を明確にしておく必要がある。このため,電波研究所は,ミリ波の減衰と降雨構造との関連に関する総合研究を気象研究所と共同して48年度から開始している。
 本研究は,天空ふく射温度測定装置(ラジオメータ)を高地及び平地に設置し,天空ふく射温度を観測し,ミリ波の減衰量を明らかにするとともに,波長3.2cmのレーダにより降雨の垂直構造を観測し,降雨の垂直構造とミリ波の減衰との相関関係を明らかにするものである。電波研究所では40GHz帯ミリ波の大気雑音電圧受信用ラジオメータの心臓部である周波数変換部の製作調整を行うとともにデータ処理装置を含む周辺測定器を整備する一方,文部省国立青年の家を利用して富士山麓に観測小屋を設置し,共同観測の開始に備えている。
 

第2部第7章第1節 概況 に戻る 2 データ通信システム に進む